老人の身体の特徴
 
−目−
 目に現れる老化の1つに老人性白内障がある。これは,水晶体が濁って不透明になり,また茶色味を帯びるため,視力が低下し,色の区別が困難になり,著しい場合には失明に至るものである。水晶体はおもにクリスタリンという他の臓器にはないタンパク質からできており,分子が規則正しく配列していて透明である。歳をとるにつれて,透過していく光,とくに紫外線などの作用によってこのタンパク質が化学変化を起こし,徐々に変性する。水晶体には血管が通っていないため,この変性タンパク質の分解・排除・補充が行われずにたまり,分子の配列異常,高分子化が起こる。こうなると光は乱反射し,透過する量も減少するため,目がかすむようになる。
 また,水晶体が茶色味を帯びることによって,緑・青は黒っぽく見え,ピンクと赤の区別が困難になる。白内障は50歳代で60%,70歳代で90%,90歳代でほとんど100%の人にみられるといわれるが,水晶体のどの部位の濁りが強いかによって自覚症状が出ることと出ないことがあり,また,症状も違う。治療は手術によって濁った水晶体を取り除き,代わりに人工のプラスチックレンズを挿入する(東京都老人総合研究所編「中高年の健康8 老化と白内障」東京化学同人)。
 いわゆる老眼も,加齢によって起こる特徴的な現象の1つである。新聞や書物を読むのに距離を離さなければならなくなり,老眼鏡が必要となるため,その始まりが自覚され,また,他人にもわかる。はっきり見ることのできる最も近い距離(近点)は,歳とともに長くなるが,この変化は子どものころから徐々に進行するもので,とくに高齢になって加速するものではない。カメラのピント合わせはレンズとフィルム間の距離を変えて行われるが,人間の目では水晶体の屈折力(厚み)を変えることで網膜上にシャープな像を結ぶ。調節力が働いていない場合,水晶体は脈絡膜の弾力によって遠心方向に引っ張られており,最も扁平となっている。このとき,正常若年者では無限距離にピントが合っている。近くを見るときは毛様体筋が弱くなり,水晶体の弾性が低下するために膨らまず,近くにピントが合わなくなるのである。調節できる距離の範囲が狭まるので,眼鏡がいくつも必要になるが,白内障などの疾患がなければ,適切な眼鏡の使用によって1.0の視力は80歳代でも保たれる。
 
−耳−
 高齢になると,一般に耳が遠くなるが(老人性難聴),とくに高温が聞こえにくくなる。聴力の低下は20歳代からすでに始まっており,女性に比べて男性のほうが低下の程度が大きい。日常会話で使用される言語の音域はほぼ250〜8,000Hzであり,この領域(通常500,1,000,2,000Hzで検査)で30dB以上の低下があると日常生活に支障が出るといわれる。聴力低下もやはり個人差が大きく,補聴器が必要になる場合もある。日常生活に支障を来すほどの聴力低下は,60歳以上で出現し始め,80歳代で約半数に達するとの報告がある。この聴力低下は,おもに内耳の感覚器と脳の神経に起こってくる変化による。注意しなければならないのは,聴力が低下したと思っている高齢者のなかには,耳垢がたまって外耳道がふさがれている人がいることである。また,日常生活では,単に音が聞こえるか聞こえないかということのほかに,言葉を正しく聞き取れるかどうかの語音弁別能力も必要である。語音弁別能力の低下は50歳代から始まる。
 
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