◆どのような病気か?◆
ヘルニアとは、腹壁の一部が弱くなり、先天的または後天的に発生した異常な孔から嚢状に脱出しそこへ内臓の一部が皮膚の下に脱出した状態をいいます。内臓が脱出した孔をヘルニア門といいます。
ヘルニアには、さまざまな種類がありますが、老人の場合、食道裂孔ヘルニア、鼠径ヘルニア、術後腹壁瘢痕ヘルニアの3つが問題となります。
−食道裂孔ヘルニア−
◆症状と特徴◆
食道は、胸郭から横隔膜を貫いて腹腔内に入り胃につながっています。食道裂孔とは、食道が横隔膜を貫いている孔のことです。この食道裂孔が拡張し、胃が食堂裂孔をとおり、胸腔内に入り込んでしまうことがあります。これが食道裂孔ヘルニアで、横隔膜ヘルニアの1つです。老人に多く、なかでも肥満者に多くみられます。女性が男性の2倍の発生率です。
その原因として、高齢になるに従い、裂孔を支持する靭帯が弱くなったり、緩んだりすることが考えられます。また、逆流性食道炎に基づいた瘢痕性収縮も大きな原因です。
胸骨の裏面が痛む重苦しい症状が、寝ると憎悪し、起立すると軽快することが特徴です。吐きけ、嘔吐などの症状も現れます。
緊急時の応急処置
保存的療法(手術以外の方法による治療)が原則で、腹部の緊張を避け、制酸剤を服用します。また、横になると症状が悪化するため、横にならないようにします。痛み、嘔吐の症状が強い場合は、腹部外科を受診するようにします。
−鼠径ヘルニア−
◆症状と特徴◆
腹腔内の臓器(おもに小腸)が、足のつけ根(鼠径部)の抵抗の弱い部位から腹壁に包まれたまま脱出し、腫瘤(こぶ)として認められます。男性の場合は、陰嚢まで出てくることがあります。女性の場合は、股関節部に脱出します。この腫瘤は押すと腹腔内に引っ込み、おなかに力をいれると出てくるのが特徴です。
外鼠径ヘルニアは、おもに小児の病気です。内鼠径ヘルニアは壮年期以後の男性に多く、筋肉の萎縮や肥満が原因となって発生します。治療は、外科専門医のいる病院で手術します。
◆どこを注意すればよいか◆
鼠径部の腫瘤に気づいときには、なるべく早く外科専門医の診察を受けます。とくに注意を要するのは、嵌頓です。この状態は、ヘルニアがもとに戻らなくなった状態で、脱出部で締めつけられるので腸管の血行障害を起こします。腸管が閉塞すると、腹痛や嘔吐、排便排ガスの停止、腹部膨満などの症状がでます。締めつけられる状態が続くと、壊死に陥ったり、腹膜炎を併発することがあります。
−術後腹壁瘢痕ヘルニア−
◆症状と特徴◆
手術や外傷の手術瘢痕部から、腸管や大網などの腹腔内の臓器が腹膜に包まれて脱出した状態をいいます。手術創の瘢痕部が膨れるのでわかります。原因は、縫合の不完全や縫合不全などが考えられます。
自覚症状は少なく、起立したり腹圧をかけると膨らみが増し、横になると消失することが特徴です。一般にヘルニア門は大きいので、嵌頓する頻度は低いです。
◆どこを注意すればよいか◆
重い物を持ったり、せきによって腹壁に緊張が加わって縫合部が開くことがあるので、開腹手術をした人は注意を要します。
−大腿ヘルニア−
◆症状と特徴◆
大腿ヘルニアは、鼠径部のやや下方、大腿部にかかる部に腫瘤が触れます。中年以後の経産婦に多く、これは鼠径靭帯の後ろの大腿管が女性の場合広く、分娩で抵抗が弱くなるためと考えられています。治療は手術のみです。
◆どこを注意すればよいか◆
自覚症状は少ないのですが、ヘルニア嵌頓になりやすい特徴があるので、注意を要します。ヘルニア嵌頓は、脱出した腸管や臓器が腹腔内に戻らず循環障害を起こした状態です。腫瘤が戻らなくなったら、腹圧がかからないようにし、できるだけ早く腹部外科を受診する必要があります。大腿ヘルニアは、とくに嵌頓しやすく腸管の壊死を起こしやすいので、注意を要します。 |
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