◆どのような病気か?◆
肝硬変は、種々の原因で起こった慢性進行性の肝障害の終末の状態で、不可逆的に進行性の経過をたどり、最終的には死に至るものです。
病理学的には、肝細胞の持続的な崩壊が起こり、通常では肝細胞の再生によって修復されるのが、肝細胞の障害が強くそれに続いて起こる炎症反応が長時間持続、反復することで線維が多くなって硬くなり、残存した肝細胞の強い再生とあわさって肝臓内に結節を形成します。この結節が肝臓内部の静脈を中心とする血管系を圧迫して、肝臓の内外の血行を大きく障害します。これによって門脈圧の亢進(後述)、肝血流の減少などが起こり、これらのことがさらに肝細胞の障害を増悪させるという悪循環が起こるのです。
わが国では肝硬変の患者さんの数は約20万人と推定されており、年間約1万6000人の死亡があるといわれています。約3対1の割合で男性に多く、年齢的には40〜60歳代に1つのピークがあります。
肝硬変の原因としては、慢性の肝細胞障害をきたすすべての疾患があげられます。最も一般的には、ウイルス性肝炎が慢性化したのち移行するもののほかに、長年飲酒を続けた結果のアルコール性慢性肝炎から移行するもの、自己免疫疾患、長期間薬剤性の肝障害があったときなどがありますが、ウイルス性慢性肝炎とアルコールの過剰摂取によるものが圧倒的に多数を占めています。
ウイルス性肝炎による肝硬変は、圧倒的にB型肝炎ウイルスキャリアからの慢性肝炎発症によるものと、C型肝炎ウイルス感染、慢性化によるものです。B型およびC型慢性肝炎に関しては、「慢性肝炎」の項で詳しく述べていますのでそちらを参照してください。
アルコールによる肝硬変は、アルコールの肝細胞に対する直接的障害作用が一次的な原因となります。近年わが国でも、アルコール消費量の増加に伴って肝硬変の頻度も増加してきています。摂取したアルコールの総量と肝硬変の発生頻度は密接な関係があり、1日約160グラム以上のアルコールを5年以上飲み続けると、約80%の確率でアルコール性肝障害または肝硬変となるといわれています。ちなみにアルコール160グラムというのは、焼酎3〜4合、日本酒5〜6合、ウイスキーダブル6杯などに相当します。
◆症状と特徴◆
肝硬変に特徴的な自覚症状はとくにありませんが、一般的には全身倦怠感、易疲労感などの漠然とした症状で始まり、食欲不振、腹の張るような感じ、微熱、腹痛などを訴えることもあります。このような自覚症状しかでない時期を代償期とよびます。
肝硬変になると、皮膚がメラニン色素増生のためどす黒くなり、毛細血管(首、胸など)のくも状の拡張(くも状血管腫)、手のひらのふくらんだ部分が赤くなる(手掌紅斑)などがみられるようになります。くも状血管腫は、上半身とくに首、前胸部、肩などに認められます。また、乳房が肥大する女性化乳房、睾丸の萎縮などもみられます。診断には、肝機能障害のほか、肝生検を行います。肝生検とは、肝臓の一部を針でとってきて細胞を調べるもので、肝硬変の検査には欠かせない検査です。
肝硬変が進行すると、非代償期という肝機能の障害の強い時期になります。非代償期になると、次のような症状が出現してきます。
(1)黄疸
通常軽度の黄疸を示しますが、末期には高度の黄疸が出現します。
(2)門脈圧亢進による症状
門脈圧が上昇することにより血液が肝臓を通過できず、門脈と下大静脈を結ぶ血行路が発達し、とくに門脈と胃の静脈、食道の静脈を経由する血行路によって食道静脈瘤が形成され、これが破れると大量の吐血、下血をきたし、これによって命を失うことも多くなります。また、門脈とへその静脈の経路の発達により、腹壁の静脈の怒張が出現します。さらに脾臓の腫大が出現し、脾臓の働きが亢進して赤血球や血小板が減少して出血しやすくなります。
(3)浮腫(むくみ)、腹水
血液中のタンパク質が低下することによって浮腫、さらには腹水がたまって腹部が膨満し「カエル腹」という状態になります。
(4)消化管出血
食道静脈瘤の破裂による出血のほかに、胃・十二指腸潰瘍を合併しやすくなり、そこからの大量出血のため死亡したり、肝性昏睡となったりします。
(5)肝性昏睡
消化管出血、利尿薬投与などによる急激な腹水の減少などが引き金となって意識障害、肝性昏睡に陥ります。また、肝不全の症状の一つとしても昏睡になります。昏睡に至る前駆症状として睡眠の昼夜逆転、多幸状態、無欲状態などの感情、性格の変化、羽ばたき振戦などがみられます。
(6)合併症
肝硬変の末期になると、感染症を合併しやすくなり、また播種性血管内凝固症候群、腎不全なども合併しやすくなります。さらに、肝硬変には肝臓がんが合併しやすく、これが命とりになることが少なくありません。
緊急時の応急処置
肝硬変で緊急事態となるのは、消化管出血、肝性昏睡です。吐血などの消化管出血に対しては、緊急内視鏡検査を行い、食道静脈瘤硬化療法やゼングスターケン-ブレークモア管という食道と胃の内部でふくらませて圧迫することによって出血を抑える管による止血、抗潰瘍療法などが必要となり、肝性昏睡ともども高度かつ専門的治療が必要となります。すみやかに医療機関へ搬送するようにしましょう。 |
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