◆どのような病気か?◆
急性肝炎とは、肝炎ウイルス感染、薬物、アルコールや、肝炎ウイルス以外の種々のウイルス感染によって広範な急性炎症を起こす肝障害をいいます。一般には、急性肝炎といえば、肝炎ウイルスによる急性ウイルス肝炎を指します。原因となるウイルスの種類により、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、その他のウイルスによる肝炎に分類されます。わが国における急性肝炎の年間発生は約35万人といわれており、その内訳はA型肝炎10万人、B型肝炎10万人、C型肝炎14万人、D型とE型はきわめてまれです。その他サイトメガロウイルス、EBウイルスによる肝炎が散発的に発生しています。
(1)急性A型肝炎
栄養状態や衛生状態の悪いところに住む人が、糞便を介してA型肝炎(HA)ウイルスによって汚染された食べ物や飲料水などをとることによって経口的に感染します。以前は井戸水などの汚染による保育所、精神薄弱児施設、養護学校、小学校、中学校、食堂などにおける流行がみられましたが、最近ではA型肝炎の患者からの糞便が下水道を通して河川に流れ、そのA型肝炎ウイルスで汚染された生カキやシジミなどを人間が生食することによって発生することが多いといわれています。
また、緯度の低い東南アジア、アフリカなどの開発途上国では、常在伝染病としてA型肝炎はまだ主流であり、東南アジアなどに旅行して感染し帰国後に発症する例もあります。
ただし、A型肝炎ウイルスに対する抗体の有無を調べてみると、40歳代後半から抗体保有率が急上昇し、50歳以上では75〜80%の人が抗体をもっていることがわかってきています。そのため、老人の感染は少ないです。つまり、過去においては日本でもA型肝炎は常在伝染病でしたが、衛生環境の改善とともにその発生が減少しつつあるものと考えられています。
急性A型肝炎は、一部に腎機能障害を合併し、その後腎不全を起こしたり、まれに劇症肝炎となる例もありますが、一般的には発病後数か月で自然に治癒し、慢性化することはないといってよいでしょう。
(2)急性B型肝炎
B型肝炎(HB)ウイルスの感染によって起こる肝炎です。B型肝炎ウイルスを体内に半永久的にとどめているHBウイルスキャリアとよばれる人びとの血液を介して、おもに輸血などで感染することが多い疾患でしたが、献血時のスクリーニング検査でB型肝炎ウイルスのある血液は除かれたり、またB型肝炎ワクチンやB型肝炎グロブリンなどの普及によって減少しつつあります。一方、性行為によって感染することから、最近では性行為感染症の一つとして注目されています。さらに、以前にB型肝炎ウイルスに感染し、無症状のままHBウイルスキャリアになることが珍しくなく、キャリアからの発症もあることが特徴的です。
キャリアとなる要因として、HB抗原陽性の母親からの出産時の産道感染、経胎盤感染、2歳以下のときの小児期の感染、免疫不全状態での感染、男子同性愛、薬物常用者などがあげられます。
急性B型肝炎は、一過性の感染であれば、劇症肝炎とならないかぎり完全に治癒しますが、持続感染では慢性肝炎に移行し、肝硬変、肝臓がんへと進展する例もあります。慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんの約3分の1がHBウイルスキャリアですが、1986年からB型肝炎ウイルスの母子感染防止事業が国によって開始され、キャリアとなる主要な原因が除かれたことにより、現在HBウイルスキャリアの数は人口の1%以下となってきています。B型肝炎ウイルスは、いずれは撲滅される期待が大きいといえます。
(3)急性C型肝炎
急性C型肝炎も急性B型肝炎と同じく、おもに輸血、注射、はり治療、覚醒剤のまわし打ち、入れ墨などを介する非経口感染が主であると考えられています。B型肝炎は検査によって除外されるので、輸血後肝炎の90%以上はC型肝炎です。病気や手術で輸血を受ける機会の多い老人では、その心配もしておく必要があります。血中のウイルスが少量であるため母親から胎児、子への感染はまれであり、また性行為を介しての感染も従来からいわれているほど頻度の高いものではありません。
しかしながら、C型肝炎はいったん発症すると、C型肝炎ウイルスをもつキャリアへ移行する確率が高く、ゆっくりと肝硬変、肝臓がんへと進展することが知られています。治るのに時間がかかったり、高率に慢性化します。慢性肝炎となってから4〜10年で肝硬変に移行し、さらに12〜17年で肝臓がんに進展するといわれています。
1989年12月から日本赤十字社血液センターでは、献血者のC型肝炎ウイルスに対する抗体(HCV抗体)の検査を開始して、以後は輸血後肝炎は激減しています。
◆症状と特徴◆
A型、B型、C型とも、老人でも黄疸が比較的早くから現れれば、普通のかぜや他の消化器の病気との判別はつきやすいものです。診断は、血液や尿をとって肝機能検査をします。
(1)急性A型肝炎
A型肝炎ウイルスの経口感染から発症までの潜伏期は15〜50日、平均30日といわれています。発症するとまず前駆症状として、食欲不振、全身倦怠感、吐きけ、嘔吐、胃部不快感があり、その後38〜39度の高熱がでて、5、6日目に黄疸が出現します。黄疸出現時には、本人の自覚症状は比較的軽快していますが、黄疸や褐色尿の出現ではじめて急性肝炎と気づくことがほとんどです。
(2)急性B型肝炎
潜伏期は60〜90日。発熱、全身倦怠感、関節痛、発疹などのかぜのような症状、食欲不振、吐きけ、嘔吐、腹痛などの消化器症状、そして黄疸などの自覚症状が比較的強く現れます。急性A型肝炎に比べて発熱の程度も弱く、吐きけ、嘔吐、全身倦怠感もそれほど強くはありません。やはり黄疸の出現が診断の決め手です。
(3)急性C型肝炎
潜伏期は14日〜6か月。A型、B型に比べると自覚症状は比較的軽い例が多く、かぜ様症状、消化器症状、黄疸などを訴える症例は約半数ほどといわれています。
緊急時の応急処置
以上述べてきたように、A型、B型、C型肝炎それぞれの「こわさ」があります。とくにA型、B型肝炎ではかぜ症状や消化器症状が前景に立って、黄疸が出現するまでその診断を的確にくだすことはきわめて困難です。ちょっとしたかぜ、食あたりなどと思っても、老人は体の抵抗力、免疫力が低下していますから、まずは入浴や外出などをせずに安静にして厳重に経過を観察し、黄疸や褐色尿が出現したら入院可能な医療機関を受診すべきでしょう。 |
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