さまざまな慢性疾患をもつ老人の場合、いつどこで急に体の変調を起こすかは予測できません。また、必ずしも既往があるとか、発病の前兆があるわけでもありません。それでは、急病のときどう対処すればよいのでしょうか。
まず、老人と同居する家族や介護者は、つね日ごろから生活習慣や日常生活の活動度をよく観察しておく心構えが必要です。そうしてはじめて、本人の病態を正しく把握できることになります。加えて、老人の場合には、たとえ疾患が急を要し重篤であっても、若年者のように病気特有の症状を示さず、単なる全身衰弱と思われがちです。むやみにようすをみようとせず、早めに医師の診察を受けさせるべきです。
医師の診察を受ける際にまず伝えるべきことは、いつから、どこが、どのような状態なのかということです。さらに、前兆や発症のきっかけがあったのか。それは今回はじめてなのかどうか。持病はあるのか、それに対して常用している薬はあるのかどうか。かかりつけの医師や医療機関があるのか。おもな既往になにがあるのか、などをできるだけ詳しく伝えます。
たとえば意識障害がある場合には、その起こり方が突然なのか、徐々に出現したものか、随伴する症状(片麻痺など)があるのかどうか、などの情報を医師に伝える準備が必要です。
救急車を必要とするほどの急病の場合、医師あるいは救急隊が到着するまでに症状をそれ以上悪化させないために適切な応急処置を施しますが、そのまえに以下のことをチェックします。
(1) 意識はあるか
(2) 呼吸をしているか
(3) 脈があるか
(4) 顔色はどうか
(5) 瞳孔はどうか
(6) 手足は動くか
とりわけ救急車が来るまでのわずかな時間に生命の危険を感じた場合には、いかなる急病でも一次救命処置(救急心肺蘇生術)をしながら救急車を待ちます。その際、中途半端な知識や判断による処置は、生命にかかわることもあるので絶対に禁物です。
呼吸が止まっている場合には、ただちに人工呼吸を行います。呼吸をしているかどうかを確かめるためには、患者の鼻や口にほおを近づけ、呼吸音や呼吸の気配を感じるかどうか調べます。さらに、胸の上下運動を確認します。そしてまず最初に気道の確保が必要です。
患者をあおむけに寝かせ、片手を首のうしろに当て、もう一方の手を前額部にのせ、のどを持ち上げて頭部を後屈させるか、軽く下あごを上に引き上げるかして気道を確保します。それからただちに人工呼吸を開始します。口対口式の場合、指で患者の鼻をつまみ、深く息を吸って口を大きく開き、しっかり患者の口の周囲を覆うようにして、息を吹き込みます。このとき胸がふくらむかを確かめます。吹き込み終わったら、患者から口を離し、息が吐き出されるのを確認します。次に手首の動脈や頸動脈に指を当てて脈が触れない場合は、すぐに心臓マッサージを行います。胸の中央部、すなわち胸骨の中央部を、両手を重ねて垂直に体重をかけるようにして胸が4〜5cm沈むくらい押し、一気に力を抜きます。救助者が1人で人工呼吸と心臓マッサージをあわせて行う場合、気道を確保し口対口式で1〜2秒かけて2回息を吹き込み、次に心臓マッサージは15回、1分間に80〜100回くらいの速さで加圧して行います。この組み合わせを繰り返します。
これらのことを、あわてずに確実に行いながら、救急車を待ちます。その間、健康保険証、小銭、印鑑など必要なものを用意しておきます。
次ページからは、急を要する病気の代表的なものとその症状をまとめてみます。
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気道確保





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