6.中毒と薬の飲みすぎ
 中毒とは、毒物が経口的にあるいは皮膚や粘膜(おもに気道)を介して体内に吸収され、体の異常を起こすことをいいます。
 中毒を起こしうる物質は10万種類もあるといわれますが、拮抗薬(毒素の生体機能障害に逆の作用をもつ薬)として確立されているものはきわめて少ないため、毒物が体内に吸収される以前にまずすみやかに除去することに力が注がれます。
 一般的に中毒の応急手当てと治療は、
  (1) 毒物の体内への吸収を阻止する
  (2) 毒物をすみやかに体内より排泄させる
  (3) すでに吸収された毒物の作用を軽減させ、全身管理を行う
ことにより行われます。加えて、その間生命、とくに呼吸と循環を保持する必要があります。呼吸が止まっていたり、弱くなっていたら、ただちに気道の確保、次いで人工呼吸を行い、心臓が止まっていたら心臓マッサージをします。
 毒物が皮膚に付着したときは、汚染された衣服をとり、局所を大量の水で洗浄するのが原則です。
 有毒ガスを吸入している場合は、患者を発生源から遠ざけ新鮮な空気のあるところへ移すことが重要で、必要に応じて酸素吸入をします。
 経口的な中毒の場合は、まず機械的に嘔吐させます。最も確実な方法は、指をのどに入れ刺激して吐かせます。十分に吐かないときは、ぬるま湯をコップ1杯程度飲ませてから吐かせます。吐かせたあと、水を十分に飲ませ下剤を投与します。
 服用した毒物はなにか、どのような性質をもったものか、どれくらい服用したか、などの情報を周囲の状況や人びとから得ることも必要です。ただし、注意すべきことは、意識のない患者の場合には、吐物が気管に入るおそれがあり、また酸やアルカリによる中毒のときには、消化管の穿孔を起こす危険があるので、催吐は禁忌です。
 嘔吐しないときは、医師が行う応急処置として胃洗浄を行います。太い胃管を用いて胃内容物を流出させたのち、水300ミリリットルを注入し、胃内容物が注入した水に混ざらなくなるまで繰り返し同量で洗浄します。吸着剤である活性炭や、塩類下剤である硫酸マグネシウムなども投与します。体内に吸収された毒物を除去するためには、輸液を十分に行い、強制的に尿量を増加させ尿中への排泄を促進させます。
 また、すでに吸収された毒物の排泄を促進させるものに、血液浄化法があります。これは、血液中にたまった毒物を除去し、血液をきれいにする治療法で、血液透析、血液潅流、血漿交換などが、毒物の性状に応じて行われています。
 血液透析は、タンパク質と結合しにくい小さい分子の毒物で水溶性の化学物質を血中から除去するのに適します。血液潅流は、活性炭を用いて毒物を除去する方法です。血漿交換は、タンパク質と結合しやすい毒物による中毒の治療に適します。
 以上の処置は可能なかぎりすみやかに行われる必要があり、中毒の疑いのある老人を見つけたら、ただちに医師に連絡することが重要です。
 意識障害があるときには、催吐はさせず適応する治療を行いますが、同時に呼吸や循環の管理を行える集中治療が可能な施設での治療が望まれます。
 中毒を引き起こす代表的な物質を以下に示します。
 眠剤中毒には、睡眠薬、抗不安薬、向精神薬などが含まれます。集中治療の進歩により、眠剤中毒は激減していますが、老人の場合はやはり合併症を起こしやすく、その管理と早期治療の有無が予後を大きく左右します。
 アスピリン中毒は、欧米では時折みられる疾患ですが日本では比較的少ないといえます。3〜5グラム以上で起こるといわれています。頭痛薬、解熱薬の飲みすぎで起こります。中枢神経系の興奮症状が主体です。
 アセトアミノフェンは、市販のかぜ薬にも含まれているため十分中毒を起こします。とくに老人では少量でも中毒を起こしえます。初期症状が軽いにもかかわらず、重篤化する可能性が高いので注意が必要です。
 酸やアルカリによる中毒はトイレ用洗剤や漂白剤などで起こり、経口中毒では消化管粘膜にびらんや潰瘍を起こします。催吐は禁忌で、牛乳や水を大量に飲むのが先決です。
 急性中毒のなかでも、私たちが日常生活を送るうえでよく知られ、注意しなければならないものに食中毒があります。有害な毒などを含んだ飲食物を摂取することによって起こる中毒ですが、原因として細菌性のものが大部分を占めます。
 食後数時間〜1日で、発熱、吐きけ、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸炎症状がみられます。食中毒が疑われたら、ただちに医師の診断を受ける必要があります。生命にかかわることもあり、一刻を争います。身体の抵抗力や回復力が低下している老人ではなおさらです。医師の診察を受ける際には、原因と思われる食物と食べた量と、食後、中毒症状が現れるまでの時間を話し、原因と思われる食物や吐物、便などはとっておきます。専門的な処置は医師に任せますが、応急手当てとしては食後間もない段階では食塩水を飲ませて吐かせます。
 薬の飲みすぎは、すでに述べた精神安定薬や抗不安薬のほかに、降圧薬や抗糖尿病薬などが注意すべきものです。老人ほど何らかの慢性疾患(高血圧、糖尿病、心臓病など)を有する頻度が高く、必然的に多種類の薬を服用していることが多くなります。誤って薬を飲みすぎた場合には、まず主治医に連絡をとり指示に従うべきです。
 これらの薬物では、早急に対処しないと重篤な転帰をとる可能性が高いので注意しなければなりません。

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