7.床ずれ(褥瘡) | ||||||||||||||||
床ずれとは、長く臥床中の患者の圧迫を受けやすい皮膚にみられる組織の壊死、および難治性の皮膚潰瘍です。褥瘡ともいいます。これは、皮膚直下に骨が存在する部位、たとえば仙骨部や大転子部に多くみられ、皮膚が体圧やふとんの重さで持続的に圧迫されて、組織の血行障害と壊死が起こるために発症します。 寝たきりで、独力で体位をかえられなかったり、疼痛を感じない患者が同一部位を長時間圧迫し続けるために起こりやすくなります。また、衰弱しやせて皮下脂肪が少ない人、汗や失禁によって皮膚がいつも湿った状態にある人、栄養状態の悪い人、麻痺があるために血液循環が悪い人、むくみがある人などは床ずれができやすくなります。 皮膚組織の壊死が軽度であれば、痛み、発赤、びらん程度ですみますが、ひどくなると水疱ができ皮がむけたり、潰瘍ができます。創部から出血したり、うみが出てくることもあります。さらに血行障害が続くと皮下組織や筋肉にまで壊死は進展し、肉がみえてきます。同時に尿便失禁を伴うと汚染され、潰瘍部に細菌感染を起こします。皮膚が黒褐色になってきて、皮下深部にはうみがたまっています。さらに進行すると、壊死部がえぐれて骨までみえるものもあります。 このように、感染が皮下深部にまで波及すると、さらに骨髄炎や全身性の細菌感染を起こし、いわゆる敗血症を起こす危険が増します。とくに寝たきりの老人の場合、免疫機能の低下は避けられず、さらに予後は不良となります。 床ずれの治療と予防を考えるとき、最も大切なことは、「床ずれをつくらないこと」です。家族や介護者は、清拭や体位変換、寝衣をかえるとき、床ずれができそうになっていないか、全身の皮膚の状態をよく観察します。 床ずれの発症の原因として、意識障害の有無、独力で寝がえりがうてるかどうか、尿便失禁があるかないか、全身の栄養状態が良好かどうかということがあげられます。これらの危険要因のある患者に対しては、長時間同一部位を圧迫しないように、ベッド柵をとりつけて自力での体位変換訓練を行ったり、頻回(約2時間ごと)の介護者による体位変換を行ったり、パッド、円座、クッションやエアマットなどの補助具を用いることにより、予防につとめることが最も大切です。摩擦も床ずれの原因となるので、着衣やシーツにしわが寄らないように注意します。入浴や清拭により、体はつねに清潔を保ち、乾燥させておくことも大切です。尿便失禁のある患者に対しては、局所の乾燥と清浄を心がけるべきです。血液の循環をよくするために、床ずれのできやすい部位のマッサージをするのも効果的です。食事面では、タンパク質、ビタミンC、鉄分の補助で栄養障害が起こらないように気をつけます。 床ずれができてしまったときには、まず円座、マットレスなどを使用して、局所の圧迫を軽減、除去します。表層に発赤やびらんができた程度の場合、温湯で清拭したのち創部の消毒、乾燥とガーゼによる圧迫からの保護が必要となります。このとき発赤のまわりを軽くたたいたり、マッサージをします。患部を日光に当てるのもよい方法です。 創部表面に壊死組織や痂皮(血液、うみなどが乾燥して付着した厚いかさぶた)が形成されているときは、深部に感染を起こしうみが貯留していることも多いため、外科的に壊死部や痂皮を除去して、膿瘍部まで切開排膿する必要があります。全身の炎症反応(白血球の増多、CRP反応陽性、血沈亢進、発熱)が認められる場合には、菌血症(循環している血液の中に菌がはいる)のおそれもあり、抗生物質の全身投与が必要となります。創部が清浄化されれば、その部分にイソジンシュガー(グラニュー糖100グラム、イソジンゲル30グラム、消毒用イソジン液10ミリリットルを混ぜたもの)を塗布することにより、肉芽の形成が促されます。肉芽が形成され始めた場合、デュオ・アクティブ・ドレッシングを用いて、潰瘍面を覆い外部からの汚染を防ぎ肉芽の増生を促すことも行われます。 全身の栄養状態が低下している患者では、局部の治療だけでは治療効果をあげることが困難です。創部からのタンパク喪失や、感染治療過程でのカロリー消費のため、患者は低タンパク血症、貧血を有することが多く、全身的な栄養状態の管理が必要となります。また、各種ビタミンや、亜鉛などの微量金属が適切に投与されているかどうかも大切であり、患者の食欲不振に対しては、調理方法の工夫や食事介助も必要です。 今後、長期臥床のまま医療施設から在宅看護へとさらに移行するなかで、家族や介護者が具体的な床ずれ予防の方法と、まず「床ずれをつくらないこと」の大切さを理解することが必要です。 |
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