3.頭を打ったとき |
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軟らかい脳は硬い頭蓋骨によって守られています。さらに、脳は頭蓋骨のなかで外側から順に硬膜、くも膜、軟膜(まとめて脳脊髄膜とよばれます)により被われています。くも膜と脳実質との間には脳脊髄液がゆるやかに循環しています。つまり、脳は頭蓋腔のなかで透明な脳脊髄液に浮かんだ状態で存在しているのです。そして、脳は高齢になるに従って萎縮する傾向があるために、しだいに頭蓋腔内での可動範囲が大きくなり、老人ではとくに損傷を受けやすい状態となっています。 頭を強く打つと、頭蓋骨の骨折を起こしたり、軟らかい脳が硬い頭蓋腔の内壁に打ちつけられて脳挫傷を起こしたり、脳やそれを含む脳脊髄膜に分布している動脈や静脈が損傷して出血し、急性硬膜外血腫や急性および慢性硬膜下血腫を起こすことになります。 脳に障害を受けたときの最も重要な症状は、意識障害です。したがって、さまざまの基礎疾患をもちやすい老人に意識障害がある場合には、まず頭を打ったかどうかを確認する必要があります。また、多くは転倒して頭を打つのですが、転倒の原因が体にある場合(たとえば、心筋梗塞を起こして倒れるなど)もありますから、基礎疾患の有無を知っておくことは重要です。 意識障害があるときにはまず、呼吸をしているか、気道は嘔吐した食物で塞がっていないか、脈はあるかを確認し、頭部に外傷や骨折のあるときはすぐに救急車をよぶ必要があります。救急車が来るまでは安静に臥床させ気道を確保し、必要であれば人工呼吸や心臓マッサージを行いながら待ちます。 意識障害が少なくとも10分以上続くときは、脳に障害が起きている可能性が強いといえます。 脳震盪は一過性の意識障害であり、後遺症を残さずに回復しますが、意識障害が5〜6時間以上続くことはありません。しかし、一過性の意識障害から回復したあとに、急速に再び意識障害を起こすことを特徴とする重篤な疾患(急性硬膜外血腫)もありますから、たとえ軽症であっても早急に病院を受診すべきです。脳の内部を観察できる頭部CTスキャンが普及している現在、それが最も確実な方法であるといえます。 以下に、おもな頭部外傷による代表的な疾患をあげます。 |
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(A)脳挫傷と脳内出血 | ||
脳挫傷とは、脳が頭蓋腔の内側に打ちつけられることにより、とくに脳の表層が損傷を受けることです。 それに伴い、多かれ少なかれ脳内出血を起こします。この損傷自体が軽度であっても、障害部位周辺にしだいに脳浮腫(脳の組織に血液中の水分が溜まること)を起こし、正常な周囲組織を圧迫するために、しだいに意識障害を起こします。血液の浸透圧を高め、脳浮腫を改善させるような輸液(点滴)や、頭蓋腔内の圧を低下させるための手術を必要とすることもあります。 |
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(B)急性硬膜外血腫 | ||
一度意識障害から回復したあとにふたたび昏睡状態にまでなる重篤な疾患で、緊急の手術を必要とします。動脈性の出血であるために血腫を急速に増大させ、脳の深部にあって生命の中枢となっている脳幹を圧迫し、呼吸停止や心停止を引き起こします。この現象を、脳ヘルニアとよびます。脳ヘルニアを起こすまえに、すみやかに血腫除去を施行する必要があります。 | ||
(C)急性硬膜下血腫 | ||
静脈性の出血で、比較的緩やかな血腫の増大を示しますが、症状が現れたときには相当量の血腫を形成しており、脳ヘルニアを引き起こします。やはり、脳ヘルニアを起こすまえに、すみやかに血腫除去術を施行する必要があります。 |
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(D)慢性硬膜下血腫 | ||
老人では最も注意を要する疾患です。慢性硬膜下血腫は、はっきりした頭部打撲の既往がない場合もあり、なおかつ血腫の増大は比較的ゆるやかです。血腫が吸収される過程で、再出血を繰り返すのが特徴的です。そのため、脳幹が圧迫されるまえに精神症状、たとえば人格がかわってきたり、意欲がなくなったり、活動度が低下したりするような症状を示し、往々にして痴呆の初期症状と間違えられます。症状に変動があることも特徴的です。老人だからといってすぐに痴呆の始まりと決めつけずに、よく観察して医師を受診するのがよいでしょう。 血腫が自然に吸収されたり、再出血を繰り返したりするために、手術の適応は専門医の判断を仰ぐべきでしょう。 |
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