◆どのような病気か?◆
ある神経支配領域に疼痛を起こす疾患で、その傷害された神経が三叉神経であれば三叉神経痛と、坐骨神経であれば坐骨神経痛とよびます。その原因はさまざまであり、原因不明のもの、ウイルス感染によるもの、外傷によるもの、または神経障害をきたす疾患に随伴するものがあります。したがって、本症は各年齢層にみられます。ここではたびたびみられる三叉神経痛、舌咽神経痛、坐骨神経痛、ヘルペス後神経痛、その他についてそれぞれの症状、特徴、および合併症を分けて記述します。
−三叉神経痛−
顔面の知覚を支配する三叉神経支配領域に起こる発作性の激痛です。顔面の頬部、顎部(三叉神経第二、三枝)に片側にのみ起こりやすく、突然焼けるような耐え難い痛みが起こります。痛みの持続時間は数秒から数分で、食事、会話、洗顔、髭剃り、歯みがきなどの動作がきっかけで起こります。発作間欠期にはまったく神経症状はなく、発作時にも痛みを除いては神経症状はありません。神経痛の発作は数日から数か月続き、数か月から数年の間欠期をもつこともあります。その原因の多くは、動脈硬化により蛇行した脳底動脈が三叉神経根を圧迫することです。
他方、額部・眼瞼などの顔面上部(三叉神経第一枝)に神経痛が生じ、その数日後に同部位に水疱が発生してくるときは、帯状疱疹(ウイルス性疾患)によるものです。また、両側に三叉神経痛が現れたときは神経疾患の存在が疑われます。顔面領域に知覚障害が伴う場合は耳鼻科、歯科領域の疾患が存在するので検索が必要となりす。
治療としては抗てんかん薬(カルバマゼピン)が効果があります。難治性のものは神経ブロック、手術が行われます。
−舌咽神経痛−
舌咽神経の知覚枝が分布する咽頭部や耳に耐え難い激しい痛みが起こります。その持続時間は数秒から数分で、再発性です。三叉神経痛を合併したり、迷走神経症状(徐脈、失神発作)を呈することもあります。本疾患の原因として耳鼻科、歯科領域疾患の存在を検索する必要があります。
治療は三叉神経痛に準じます。
−坐骨神経痛−
臀部からももの後ろにかけてふくらはぎまで広がる痛みで、しびれ感を伴います。その原因は、腰椎ヘルニア、変形性腰椎症、腫瘍の転移などがあります。
治療としては、消炎鎮痛薬の服用、理学療法(牽引、マッサージ等)が行われます。原因によっては手術を行います。整形外科を受診し治療を受けるようにします。
−ヘルペス後神経痛−
胸部の皮膚がおかされやすいのですが、その他、腰から臀部にかけて、また頚部、顔面もおかされます。原因は神経根に寄生している帯状疱疹ウイルスの活動による神経傷害の後遺症によります。帯状疱疹はたびたび水疱の出現に先だって前述の部位に疼痛や異常知覚がみられますが、通常、水泡出現時に痛みを生じ、水疱消失とともに痛みは消退します。時に疼痛が水疱消失後も長期間にわたって続くことがあり、これをヘルペス後神経痛とよびます。高齢者ほど痛みは強く、皮疹の程度と相関します。再発を繰り返すときは悪性腫瘍を合併することもあります。
治療としては抗ウイルス薬による帯状疱疹の早期治療が重要です。早期に治療を開始するほど、予後は良好です。その他、抗うつ薬、抗てんかん薬の服用を行います。無効な場合は、経皮的電気刺激や神経ブロックが施されます。
−その他−
(1)多発神経炎に伴う神経痛
痛みは多発神経炎を起こす部位すなわち四肢の末梢部に生じ、持続性であり、知覚障害を伴います。多発神経炎をきたす原因としては、糖尿病、栄養障害(ビタミンB欠乏、アルコールの過量摂取、ビタミンE、ニコチン酸、葉酸の欠乏)、感染症、薬物、中毒(鉛、ヒ素、水銀、タリウムの金属やn-ヘキサン、トリクロルエチレンの化学物質)、悪性腫瘍、膠原病、遺伝性疾患、原因不明のものがあります。
治療として原因疾患の治療および抗てんかん薬、抗うつ薬を服用します。
(2)カウザルジア
末梢神経の外傷後にみられる神経痛で「焼けつくような」と表現される痛みで、自発的、持続的です。疼痛は感情の変動や皮膚の接触によって増悪します。罹患部の皮膚は淡紅色で硬く、発汗が著明です。痛みは外傷後、数日以内に始まることが多いのですが、数週間たってから起こることもあります。とくに正中神経(手を支配する神経の1つ)や坐骨神経(下肢の運動、知覚を支配する)に起こりやすく、経過は自然に治癒するものから、1年以上にわたって持続するものまであります。
治療として交感神経節ブロックや交感神経切除術を行います。
(3)視床痛
脳血管障害の後遺症として、障害側の上下肢に不快な痛みを伴うことがあります。そのなかで視床痛は代表的なものです。通常、障害後数週から数か月経過したあとに出現します。痛みは持続性、発作性で焼けつくような耐え難い痛み(視床痛)であり、外部からの刺激で誘発されます。視床痛は脳の視床部(感覚の伝導路の中継地点)の病変、とくに脳血管障害によって引き起こされます。
治療としては抗てんかん薬、抗うつ薬の服用を行いますが、効果が不十分のことも多くあります。
(4)心因性疼痛
神経系に器質的病変がなく、末梢からの刺激がないにもかかわらず、痛みを生じます。痛みは通常限局性ですが、部位が変化することも多くあります。原因としてヒステリー、うつ病、分裂病、性格異常の部分症状と考えられます。治療として原因疾患の治療および精神安定薬、抗うつ薬の服用を行います。
緊急時の応急処置
家庭においては疼痛にしてバファリン(アスピリン配合剤)などの鎮痛薬の服用を行い、耐え難い場合は内科医(または神経内科医)を受診します。
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