論文名 | 施設入所高齢者における転倒・転落事故の発生状況に関する調査研究 |
著者名 | 河野禎之,山中克夫 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):3−15,2012 |
抄録 | 目的:施設ケア場面における高齢者の転倒の発生状況について,いつ,どこで,どのような転倒が起 こりやすいのか明らかにすることを目的とした.対象:7 高齢者介護施設に入所する146 人.調査デザ イン:後ろ向きデザイン.手続き:過去1 年間の転倒事故報告書に基づいて調査した.結果:74 人 (50.7%),209 件の転倒が報告された.場所では居室,転倒タイプでは立位/歩行からおよびベッド周 辺での転倒が多く報告された.発生時間のピークは6 時,9 時,19 時であった.1 日の時系列に沿った 分析から,夜間から日中にかけて,ベッド周辺での移乗に伴う転倒から居室以外での活動に伴う転倒が 増えることが示された.また,起床や就寝,朝食やお茶,夕食等,移動を伴う活動の際に発生しやすい ことが示された.考察:施設での生活の流れに沿って転倒の発生しやすい状況が変化すると考えられた. 今後,生活の流れを考慮した転倒防止が必要と考えられた. |
キーワード | 転倒・転落,高齢者,施設ケア,事故状況,転倒予防 |
論文名 | 高齢者の同性友人関係の性差 ― 現実,期待,そのズレと主観的幸福感の関連 ― |
著者名 | 和田 実 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):16−28,2012 |
抄録 | 本研究は,高齢者の同性友人関係(現実と期待する友人との関係性)とその性差を調べた.さらに, 現実と期待する友人関係,およびそれらのズレと主観的幸福感との関連を調べた.調査対象者は,59 .84 歳の男性337人,女性377人であった.友人との関係性についての因子分析の結果,気楽な関係と 有用な関係の2 つの因子が抽出された.男性と比べて,女性の現実の友人関係は気楽で,有用なもので あった.そして,女性は男性よりも友人関係に気楽な関係と有用な関係を期待していた.現実の友人関 係が気楽であり,有用である者ほど,主観的幸福感は高かった.また,気楽な関係を期待している者ほど, 主観的幸福感は高かった.これらの結果に性差はなかった.有用な関係の現実が期待以下の男性よりも, 現実が期待以上の男性のほうが主観的幸福感が高かった.これらの性差について考察した. |
キーワード | 同性友人関係,高齢者,性差,主観的幸福感 |
論文名 | 認知症の行動・心理症状(BPSD)と効果的介入 |
著者名 | 加瀬裕子,多賀 努,久松信夫,横山順一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):29−38,2012 |
抄録 | 本研究は,認知症の行動・心理症状(Behavioural and Psychological Symptoms of Dementia;
BPSD)に対し効果的な介入行動の傾向を明らかにすることを目的としている.質問紙調査により収集
したBPSD 改善事例130を,多重コレスポンデンス分析を用いて分析した. 分析の結果,BPSD の内容と効果的な介入行動は,4 群に分かれた.第一群は,行動性・攻撃性のあ るBPSD であり,落ちつかせる介入が効果に関連していた.第二群は,混乱と失見当識への対応が主要 課題であるBPSD 群で,その改善には,社会性と能力活用を刺激する介入が関連していた.第三群は「幻 視」等生理学的な原因に由来するBPSD であり,対立を避けつつメリハリのある生活をめざす介入が効 果に結びついたことが明らかになった.第四群からは,被害妄想改善には聴覚の低下を補完する介入の 効果が示唆された. |
キーワード | 認知症高齢者,行動・心理症状(BPSD),介入効果,多重コレスポンデンス分析 |
論文名 | 都市のひとり暮らし後期高齢者における他者との日常的交流 |
著者名 | 澤岡詩野,古谷野亘,本田亜起子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):39−45,2012 |
抄録 | 高齢者の他者との日常的な交流の実態を明らかにするために,「会って話をした」他者について記述・分
析した.調査は,東京都杉並区に居住するひとり暮らし後期高齢者を対象に訪問面接法により実施された
( 回収率56.2%). 分析の結果,@多くのひとり暮らし後期高齢者は非親族との交流を有していること,A交流のある非親族 では「近所の人」と「友だち」が多く,そのため他者の多くは,よく話をしたり,名前と連絡先の両方を知 っている人であること,Bそれらの他者との間で話されるのは軽いあるいは習慣的な事柄であることが多 く,情緒的サポートの授受はわずかなこと,そしてC日常的に交流する他者のなかには役割のうえの関係の みを有する非親族もまた多く含まれていること,が示された. |
キーワード | 社会関係,ソーシャルネットワーク,日常的交流,非親族,ひとり暮らし |
論文名 | 老年期のGenerativity 研究の課題 ─ その心理社会的適応メカニズムの解明に向けて ─ |
著者名 | 小澤 義雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):46−56,2012 |
抄録 | Erik Erikson によって提唱されたGenerativity,すなわち生み育てることと心理社会的適応との結び つきをとらえる概念に関する研究は,社会科学諸分野にて精力的に取り組まれてきている.そのなかで, Generativity は,Erikson が当初想定した中年期にとどまらず,老年期にかけてまで,人間の生においてさ まざまな意味をもつことが報告されるようになった.しかし,その背後にある心理社会的適応メカニズム については十分な解明が進んでいない.本論では,老年期のGenerativity 研究が心理社会的適応の問題を扱 うための枠組を明確化することを試みる.まず,中年期のGenerativity の概念およびGenerativity と心理社 会的適応を結びつけて検討した実証研究の動向を概観し整理する.次に,老年期のGenerativity に関する議 論と実証研究を概観し,心理社会的適応のメカニズムを検討するうえでの課題を明らかにする.最後に,老 年期のGenerativity の心理社会的適応メカニズムを明らかにするために,Narrative approach の枠組みに対 し,高齢者の思考が有する時制の特徴を踏まえ視座を与える. |
キーワード | Generativity,老年期,心理社会的適応,Narrative approach |
論文名 | 大都市における高齢者の家族変動をめぐって ─ モデルとしての夫婦制家族へ ─ |
著者名 | 奥山 正司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):57−63,2012 |
抄録 | 本稿では,現代家族の変動過程のなかで,大都市地域のモデルとする夫婦制家族と高齢者家族に焦点を
当て,「直系制家族」「夫婦制家族」「修正拡大家族」「修正直系家族」なる概念をレヴューしたうえで,
動向とするモデルとしての夫婦制家族について分析検討する.そのうえで,急増している単身高齢者や老
夫婦のみの世帯の高齢者,さらには,高齢者の孤立,孤独に関する家族の変動過程を明らかにし,今後の
研究の糧とすることを目的とする. 分析の手順として,最初に対象地域を大都市に絞ることから大都市地域における「地域社会」と「家族」 を分析する場合,「in」という視点だけではなく,それをつなぐ「and」の重要性を指摘する.そのうえで 「高齢者家族」と「大都市地域」の関連を論じ,ついで,モデルとしての夫婦制家族と高齢者の関連を論じ, さらに,夫婦制モデルの転換に関する要因を整理するとともに,これまでの高齢者にかかわる縦断研究の 調査結果からその動向を明らかにしたうえで,高齢者の孤立や孤独,さらには「孤独死」についても論じ ることにする. |
キーワード | 高齢者家族,夫婦制家族,大都市地域,「and」,孤立・孤独 |
論文名 | 運動をつくり,広める,地域高齢者の運動のあり方 |
著者名 | 植木 章三 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 33(4):64−70,2012 |
抄録 | 地域高齢者の健康づくりに重要な役割を演じる運動を「つくる」ことと「広める」という視点から,そ のあり方について論じた.わが国の高齢者の運動は,体操,散歩,ゲートボールに代表されてきたが,近 年では散歩はウォーキングに,体操はストレッチや筋力トレーニングに,そしてゲートボールはグラウン ドゴルフやパークゴルフへと広がりをみせ,太極拳の介護予防への活用など新たな運動プログラムの提案 がなされている.提案された運動プログラムを普及し,地域高齢者の日常生活に定着させるためには,運 動教室等を通じて介入頻度を上げることだけにこだわることなく,情報伝達の方法を工夫し,意識づけを 強化する方法を検討することや,運動プログラムの作成に高齢者自身を参加させるといった発想の転換を 図ることによって光明を見いだせる可能性を指摘した.そして,その運動を地域に根ざしていくためには, 高齢ボランティアの養成と活用がますます求められる. |
キーワード | 地域高齢者,運動の習慣化,介護予防,体操,高齢ボランティア |
論文名 | 養介護施設従事者等による高齢者虐待と身体拘束 ─ 法施行後5年間の経過から ─ |
著者名 | 吉川悠貴 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 34(1):71−76,2012 |
抄録 | 高齢者虐待防止・養護者支援法が施行されてからの5 年間における,養介護施設従事者等による高齢者 虐待の状況,法施行前後の時期における身体拘束の状況,および法施行後の地方自治体の体制整備の状況 等について概観し,いくつかの課題を示した.養介護施設従事者等による高齢者虐待は,いまだ潜在ケー スの掘り起し時期にあるといえ,実態をより正確に明らかにする取り組みが求められる.また身体拘束に ついては,この間一定の改善がみられたものの,公に確認された数字と実状が乖離している可能性があり, 同種の問題をはらんでいるといえる.また,虐待に関する相談・通報等を受けつけ,対応する市区町村を 中心とした地方自治体においても,身体拘束を含む養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止・対応に はさらなる体制整備・施策展開が求められる.さらにこれらの課題に対するとき,虐待の定義と判断プロ セスを適切に構築することも必要と考えられた. |
キーワード | 高齢者虐待,身体拘束,養介護施設従事者等 |