論文名 | 訪問介護事業所の対応を評価する尺度の交差妥当性 |
著者名 | 須加美明 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(1):307−316,2010 |
抄録 | 利用者が受けとめる訪問介護の質は,ヘルパーとの人間関係の質以外に,要望への対応や説明の親切さ,サービスの継続性など事業所の対応の違いによっても左右される.「事業所の対応」評価尺度は,この質を測るためにつくられた5 因子のモデルであるが,妥当性は一地域のデータでしか確認されていなかったため,他の地域に尺度を適用して交差妥当性を検討した. 訪問介護を利用する高齢者を対象に調査を行い,欠損値のない回答(520 件)を基に探索的因子分析を行ったところ仮説のモデルと同じ因子が抽出された.確認的因子分析を行ったところ,モデルの適合度指標のうちRMSEA は不良であったがCFI とTLI は良好であったため,多母集団分析を用いて尺度の因子構造の不変性を検討した.因子負荷量と因子の共分散と項目の残差を等値に制約した条件でのモデルの適合度は,ほぼ許容範囲にあったことから,本尺度は一定の交差妥当性をもつものと思われた. |
キーワード | 訪問介護,サービス評価,サービスの質の確保,満足度調査,因子不変性 |
論文名 | 認知症デイサービスの職員は介護をどのように
意識しているか ─ 介護職員の体験を探索的にモデル化する試み ─ |
著者名 | 堀 恭子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):317−327,2010 |
抄録 | 高齢化が急速に進むわが国において認知症高齢者の介護は大きな問題となりつつある.本稿は,介護職員の体験構造を相互作用の視点をもって明らかにする研究のひとつであり,認知症デイサービス職員が意識することについてインタビューを行い,参与観察から得たサブデータをガイドに探索的に分析,構造モデル化して検討を加えた. 職員は,介護を「利用者を受け止め支える」ことであると,精神的側面に重きをおき,また支えることの双方向性を感じつつ,意識していた.職員は,認知症の利用者や同じ利用者を介護する同僚,利用者家族に対して共感を覚え,同時に認知症の利用者に対する介護職員としての無力感や「わからなさ」感,同僚や利用者家族への疑問からジレンマを意識していていた.利用者を統合的にとらえることやジレンマの軽減が,介護職員の利用者理解や自己肯定につながり,介護の質や職員のメンタルヘルス向上へつながることが予見された. |
キーワード | 認知症介護,介護職員の意識構造,相互作用の視点,体験モデルの質的検討,職員のジレンマ |
論文名 | 介護保険施設の自然災害による被災と防災に関する研究 |
著者名 | 北川慶子,宮本英揮,橋本 芳 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):328−337,2010 |
抄録 | 介護保険施設は,要介護高齢者にとっては生活の場である生活施設であり,災害時には地域の災害時要援護者の避難受け入れや被災後の生活復興,地域の要援護者への支援機能をもつ地域にとって強力な機能を有する施設となる.介護施設における被災時の避難には要介護高齢者の介助避難が必要であるため,避難の安全性を重視した安全確保態勢をとっておくべきである. 本論では,介護保険施設を対象にした防災・減災に関する意識調査により,施設の被災経験がその後の防災にどのように生かされるかの分析を試みた.その結果,被災経験のある施設は被災の危惧が強い傾向がみられた.被災経験は避難や防災への意識を喚起し,それを災害への備えに反映させることが期待されるといえよう.施設の被災経験は1割程度であり,施設は安全であるといえるかもしれないが,利用者・家族に対しては,災害時の対処の方法を過半数の施設が説明していないという実態もまた明らかになった. |
キーワード | 特別養護老人ホーム,老人保健施設,被災経験,施設防災 |
論文名 | 高齢者大学の機能の変化に関する調査研究 ─ 西宮市高齢者大学における10年間の受講者層の変化 ─ |
著者名 | 堀 薫夫 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):338−347,2010 |
抄録 | 高齢者大学の機能の変化を明らかにするために,兵庫県西宮市高齢者大学の1998 年度受講者753人および2008 年度受講者1,247人に対して,同様の内容の質問紙調査を実施し,両調査結果の比較を試みた.2つの時期の受講者の基本的属性,受講のきっかけ,受講後の感想の単純集計ののちに,受講への意識を構造化するために,受講のきっかけと受講後の感想に関する共通の項目群を数量化III類によって構造化して基本軸を析出したのちに,とくに規定力の大きい第I軸の項目の並び方の分析を行った. その結果,1998年度受講者の基本軸が「健康生活−人間関係/学習内容」の軸として命名されたのに対し,2008年度受講者の基本軸は「生活性−人間関係/社会性」の軸と命名された.両者ともに「人間関係」が注目されるが,1998年度受講者ではこれが学習内容や教養などと近い位置にあったのに対し,2008年度受講者の場合は,学習内容や教養とは近い距離にはなかった.ここから,1998年度受講者では, 学習内容・教養と結びつきつつ人間関係が構築されていたのに対し,2008年度受講者の場合は,学習内容・教養とは切り離されたかたちで人間関係が編まれており,この10年間に高齢者大学の機能は変容したものと解釈された. |
キーワード | 高齢者大学,高齢者大学の機能,受講者,生涯学習 |
論文名 | 知の相対性が開く老年社会科学研究の可能性 |
著者名 | 須田木綿子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):348−352,2010 |
抄録 | データや解釈の相対性を積極的に活用した実証研究のあり方として,以下の3つのアプローチに着目して論考した.ひとつは,同じ事柄をめぐる異なる報告者間の回答の相違を検討するdyad 研究法であり,もうひとつは,同じ質問を複数回繰り返すと報告内容が変わる現象を適応行動と理解する視点である.そして最後に,分析レベルによるデータ解釈の異なりに基づいて,当事者支援のあり方を検討するうえでのメ ゾレベルの分析視点の有効性を論じた. |
キーワード | 認識論的相対主義,量的データ,実証研究,dyad 研究法,メゾレベル |
論文名 | 日付と場所を刻印する社会を思考する ― 学問が取り組むべき課題のいくつか ― |
著者名 | 天田 城介 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):353−360,2010 |
抄録 | 本稿では,第一に,社会老年学は《既存の価値・制度の問い直し》を試みてきたという意味で「再帰的エイジングのプロジェクト」であったのだが,まさにそのプロジェクトは「再帰的な高齢者像」を参照前提にしたものであったことを明示する( I,II).第二に,そうした「再帰的エイジングのプロジェクト」は《既存の価値・制度の問い直し》を試みながらも,まさにそのプロジェクトを可能にしている社会的機 制に対する根本的な批判に挫折してしまっていることを解説する( III,IV).第三に,そのような「老いをめぐるアイデンティティの政治の解明」の重要性を確認したうえで,その射程でも問われなかった現代社会における「家族」「経済」「政治」「思想」をその根本において徹底的に分析すること,とりわけ,歴史診断・制度分析ならびに思想史・体制史からの解明を通じてそれを明らかにすることこそがわれわれの社会がいま立つ日付と場所を指し示すことを論じる( V,VI,VII). |
キーワード | 社会老年学,再帰的エイジング,歴史診断,制度分析,思想史・体制史の解明 |
論文名 | 高齢者美術学習における課題と方向性 |
著者名 | 俵 国昭 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 32(3):361−366,2010 |
抄録 | 今日における「高齢者の美術学習」は,従来に比べて多彩になり一般化されつつある.具体的な学習方法や活動としては,高齢前期の都会型のカルチャーセンター的な学習レベルでは多彩な時代を迎えている.しかしながら,高齢中後期の「医療や身体造形・過疎地の高齢者」や「孤独で生活する高齢者の文化など」は,まだまだ多くの問題があるといわねばならない.それらは,「高齢者の美術学習の課題」や「二極化の時代への対応」,さらに「高齢者の自立意識や学習」などさまざまな課題があろう.本稿は,そのような一面から,「高齢者の美術学習の課題や方向性」を挙げてみた. |
キーワード | 高齢者,美術学習,課題,方向性,一般学習 |