第3回(5月24日) コミュニケーションが大切、関係づくりは芝居の要領で

 

 痴呆症の方は、信頼・安心できる相手を敏感に見抜きます。ヘルパーは、痴呆症の方の世界にすっかり浸りきることで、受け入れてもらえ、安心してもらえます。そのようにして、介護が円滑になる場面に何度か出会いました。
 ヘルパーは痴呆症の方を「○○さん」「奥さん」「お母さん」「おばあちゃん」と呼び、痴呆症の方はヘルパーを「近くの奥さん」「子どもの友達のお母さん」「先生」と呼んだりします。「あなたはだれ?」と問われて、「昨日もお会いしました○○です」で受け入れてもらえる事もありますが、夕方から目つきが変り、恐い表情でいきなりご近所に向かって「だれか来てくださーい!」と叫ばれたときは、ドキドキしました。さりげなく「いつも来ている○○です。大丈夫ですよ。娘さんの○○さんが帰るまで一緒に待ちましょう、待たせてくださいね」と逆らわずに、場面を変えるきっかけを待ちました。
 関係づくりがよかった例として、勤めている娘との2人暮しで、日中は独居している中等度痴呆の女性(80代)の例があります。急に思い出したように「わたし家に帰りますので、どうもお邪魔しました」と言うので、「そうですか」と芝居の要領で私が答えると、その女性は玄関に行って靴に履き替え、置いてある車椅子に座って待っている風情。私はここで慌ててはいけないと自分に言い聞かせ、急いで食堂に戻りお茶を入れ、「○○さん、お茶が入りましたのでどうぞ。ご一緒しましょう」と靴に履き替えたときに預かっていたスリッパを並べて出してみました。すると、女性は「はい」と素直に答えて、元の椅子に戻ってくれたので、私はほっと胸をなでおろし、「二人でお茶を」の場面を楽しみました。
 逆らわずに付き合い、芝居の要領で役になりきる、上手に場面を変えるきっかけをつかむ。本や授業で学んだ事が役に立ちました。べつにだましたり、嘘をつくわけではない。誠意をもってその時を共有する。本人が気持ちよく、満足して、嬉しい表情をするなら善しと、こちらも役になりきることを関係づくりの1つの方法と割り切り、その時々の人になりきって楽しく介護ができました。ただし、場合によっては筋書きどおりにはならず、「途中まで送りましょう」とついて行って、きっかけをつかむまで行動を共にする介護も必要になります。痴呆症の方の介護には、必要な時には「芝居の要領でのる」くらいの臨機応変さと、「予定は未定」のゆとりが、ヘルパーに求められます。

次回へ続く

 

第1回(4月23日) 痴呆症の介護と普通の介護との違いの有無は?(その1)
第2回(5月7日) 痴呆症の介護と普通の介護との違いの有無は?(その2)
第3回(5月24日) コミュニケーションが大切、関係づくりは芝居の要領で
第4回(6月11日) 痴呆症の方は自分から喉の渇きを訴えないことも。
水分補給はまめに (その1)
第5回(8月3日) 痴呆症の方は自分から喉の渇きを訴えないことも。
水分補給はまめに (その2)
第6回(8月17日) トイレの意思表示がある前に、早めのお誘い、ついでのお誘いを(その1)
第7回(9月17日) トイレの意思表示がある前に、早めのお誘い、ついでのお誘いを(その2)
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