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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

:老年社会科学 2024.1 Vol.45-4
論文名 要介護高齢者のケアとしての日常会話(生活世界コミュニケーション)に関連する要因の検討――基本的属性と社会関係要因に焦点をあてて――
著者名 深谷安子,岡部明子,川口 港,小山幸代,北村隆憲
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):315-326,2024
抄録 本研究は,要介護高齢者の日常会話の関連要因を個人的属性と社会関係要因から把握することを目的とする.居住型介護施設並びに在宅の要介護者からランダムサンプリングされた539人を対象に質問紙調査が行われた.生活世界コミュニケーション尺度(LWCS)の関連要因の全体像の把握にはダミー変数を用いてパス解析を実施した.使用した尺度の欠損値の補完には多重代入法を使用した.結果は,LWCSには,施設と在宅において家族との会話(標準化推定値:SC=.17~.13)と女性(SC=.23~.13),施設では友人との会話(SC=.20),在宅ではデイサービスと訪問看護利用(SC=.18~.26)から有意なパスが示された.LWCSは施設・在宅において協調的幸福感(SC=.35~.36),施設では抑うつ(SC=-.14)に有意なパスが示された.日常会話は,要介護高齢者の生活の質や,施設における抑うつに影響することが示された.
キーワード 要介護高齢者,生活世界コミュニケーション,幸福感,抑うつ,パス解析

論文名 公的な相談窓口への相談意向と地域のソーシャル・キャピタルの関連――マルチレベル横断研究(JAGES)――
著者名 伊藤大介,斎藤 民,村田千代栄,近藤克則
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):327-337,2024
抄録 地域包括支援センター・社会福祉協議会など公的な相談窓口(以下,包括・社協等)への相談意向と地域のソーシャル・キャピタル(SC)の関連を検証した.対象はJapan Gerontological Evaluation Studyが2016年に行った自記式質問紙調査に回答した要支援・介護認定を受けていない65歳以上の高齢者124,014人(39市町,572小学校区)である.マルチレベルロジスティック回帰分析の結果,対象の人口統計学的特性や個人のSC等を調整しても,地域のSC「社会的連帯」の豊かな地域に住む人のほうが,包括・社協等に相談する意向をもつ可能性は高い(OR=1.004)という関連が示された.一方,地域のSC「互酬性」の豊かな地域に住む人のほうが,包括・社協等に相談する意向をもつ可能性は低い(OR=0.988)という関連も示され,相談意向と地域のSCの関連は,SC指標によって異なった.
キーワード 援助要請,相談意向,公的相談窓口,ソーシャル・キャピタル,マルチレベル分析

論文名 災害時要配慮高齢者における時系列に沿った避難意思の類型化と避難行動の実態
著者名 日笠優希実,佐藤ゆかり,齋藤美絵子,大津暢人,荒木裕子,北後明彦,アナ・マリア・クルーズ,風早由佳,大山剛史,齋藤誠二,綾部誠也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):338-352,2024
抄録 災害時要配慮高齢者の早期避難は重要な課題であり,状況認識や避難の時間的推移を詳細に把握する 必要性が指摘されている.本研究は,防護動機理論を援用し,豪雨災害を実際に経験した要配慮高齢者 を対象に,時系列に沿って避難意思等を用いケースを類型化し,避難行動の実態と特徴を身体機能・認 知機能の要素を加味し記述することを目的とした. データは混合研究法の考え方を参考に半構造化面接調査により収集した.倫理的配慮として,調査へ の参加は任意で協力しなくとも不利益は生じないこと等を説明し同意を得た. 情報入手,脅威評価,対処評価,防護動機を用いクラスター分析し,対象者18人は4つに類型化された.状況を正しく認識し脅威評価と対処評価により防護動機が形成され早期に水平避難したクラスターや,対処評価をもつのみで防護動機を抱けなかったクラスター等が観察され,脅威評価と対処評価をバランスよく保持することが防護動機形成および早期避難につながる可能性が示唆された.
キーワード 高齢者,災害時要配慮者,防護動機理論,避難行動,豪雨災害

論文名 働く後期高齢者の社会参加パターンと関連要因――全国のシルバー人材センター会員調査による検討――
著者名 森下久美,中村桃美,松田文子,渡辺修一郎,塚本成美,石橋智昭
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):353-363,2024
抄録 本研究では,全国から抽出した52か所のシルバー人材センター(SC)に登録する後期高齢者(2,095人)を対象に,社会参加のパターンと関連要因を検証した. 社会参加のパターンの類型は,SC内の就業・ボランティア・同好会,SC外の就業・ボランティア・近所の集会活動・地域のイベント・自身が管理するグループの8種類への参加有無を用い,潜在クラス分析を実施した.関連要因の検討は,社会参加のパターンを従属変数,基本属性を独立変数とした多項ロジスティック回帰分析を実施した. 結果,就業単一型,近隣集会型,複合型,ボランティア型,同好会型の5つに類型化された.類型の関連要因としては,最長職が無職ではないこと,フレイル状態ではないこと,SCの在籍年数が長いこと,経済的動機がないことが,就業単一型よりも,重層的な参加がみられる他の4つの類型への所属確率を高める可能性が示唆された.
キーワード 高齢者,就業,シルバー人材センター,社会参加

論文名 地域包括ケアシステムの構築に寄与する生活支援コーディネーターへの支援のあるべき姿
著者名 中村一朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):365-370,2024
抄録  地域に生活支援コーディネーターの存在が浸透していないのは,なにより生活支援体制整備事業に成果が上がっていないことが原因で,事業成果が上がらないのは事業目的に誤認があるからではないか.本事業は高齢者のニーズと地域資源をマッチングさせることによって地域包括支援センターの機能を強化することが目的だが,住民主体の活動を創出するだけの事業と認識されているケースが多く,結果的にその先にある本来あるべき成果が上がっていない.ケアマネジメントと接続し,高齢者のニーズと地域資源をマッチングすることで,地域包括ケアシステムの構築に寄与する活動を行う自治体もあるが,こうした活動につながる研修体制を整えている都道府県は多くない.  国際長寿センターでは,イギリス等の社会的処方で活躍するリンクワーカーに対する支援について調査を行い,それと同等の取り組みを行っている.イギリスではリンクワーカーに対する教育と同様にゲートキーパーであるかかりつけ医等への教育を重要視しており,日本でも自治体や地域包括支援センターに対して適切な教育・研修支援等を行う必要があると考える.
キーワード 地域包括ケアシステム,生活支援体制整備事業,生活支援コーディネーター,地域共生社会,社会的処方

論文名 生活支援コーディネーターの活動とその課題
著者名 渡邉大輔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):371-378,2024
抄録  本稿の目的は,生活支援コーディネーターの活動の現状と課題について,2021年10月に実施したオンライン調査データをもとに,生活支援コーディネーターの活動の現状と課題について,特に第一層と第二層のコーディネーターの違いという観点から分析することである. その結果,生活支援コーディネーターは幅広い活動を実施していた.しかしその活動の多くは,地域資源の涵養に関わるもの,すなわち地域社会との関係にのみ重点をおいたものが多く,三師会や商工会,民間企業,NPOなど他のセクターとの協働は乏しかった.また,生活支援コーディネーターの業務に対する意識や課題認識は分散が大きく,第一層と第二層による違いも大きくはなかった.その困難の認識は多次元的なものであり,困難を感じていない人のほうが活動の評価についてばらつきが大きくなっていた.この違いは,活動の評価が個人的か組織的かについての認識の違いが寄与していた. 以上を踏まえ,今後の生活支援コーディネーターを支えていくために,第一層と第二層でやや構造が異なることを踏まえた支援体制の整備の必要性について論じた.
キーワード 生活支援コーディネーター,生活支援体制整備事業,地域包括ケア
論文名 二層を支える生活支援コーディネーターの役割
著者名 渡辺麻希
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):255-263,2023
抄録  生活支援体制整備事業に限らず,地域包括ケアシステムを具体化していくための理論や手法を示す研修や手引きの作成が自治体などにより行われている.しかし,生活支援コーディネーターが「それぞれの地域に合わせた取り組み」として実践に結びつけていくためには,自身で考え,とらえていく必要があり,ゴールを見いだせず,揺れ動く二層生活支援コーディネーターも少なくない.  このなかで,一層生活支援コーディネーターに求められる役割とは何であろうか.本稿では,筆者が一層生活支援コーディネーターとして動くなかで重要な役割と考える「二層生活支援コーディネーターが担当地域で一定の期間,いきいきと活動し続けるための支援」について,具体的な事例を交えつつ紹介する.さらに,今後ますます求められていくと考える支援についても論じる.
キーワード 一層生活支援コーディネーター,横浜市,地域ケアプラザ,SC連絡会
論文名 二層生活支援コーディネーターの日常;見えない価値に形を与える
著者名 鯉渕百合子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(4):386-392,2024
抄録  二層生活支援コーディネーター( 以下,二層SC)の日常をのぞいたことはあるだろうか.生活支援コーディネーター(SC)は,自分らしい生活を住み慣れた地域でできる限り暮らし続けられるよう,介護保険にとどまらない豊かな支援やサービスを選択できる環境を整えることを仕事とする.「資源開発」「ネットワーク構築」「ニーズと取り組みのマッチング」をすることが期待されているが,これらを達成するためにどのような働き方をしているのか.高齢者1人ひとりが抱くささやかな夢や希望を把握して,それをかなえるために,どのような価値を大切にしているのか.残念ながら,SC の仕事=通いの場をつくって参加してもらうこと,としか,地域包括ケアに直接関わる専門職にすら認知されていないのが現実ではないだろうか.本稿では,SC として働く筆者が,一SC として日々,通いの場に足を運ぶことでなにを思い,どう活動しているのかを伝えたうえで,現場で求める支援について述べる.
キーワード 生活支援コーディネーター,通いの場,地域共生社会,地域包括ケアシステム

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