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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

:老年社会科学 2023.10 Vol.45-3
論文名 ケアマネジャーのエンドオブライフに向けた対話と看取りへの関与との関連
著者名 島田千穂,多賀 努,松家まゆみ,木田正吾
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):191-199,2023
抄録 人生の最期を支えるために,多職種ケアチームが,利用者本人や家族などとの対話を通じて,価値観を理解するアドバンスケアプランニングが必要といわれる.本研究は,ケアマネジャーが,利用者本人とのエンドオブライフを意識した対話( 以下,EOL 対話)の実践にどの程度関わっているかを確認し,看取りへの関与との関連を明らかにすることを目的とした.全国の居宅介護支援事業所から3,000 か所を無作為抽出し,管理者宛に調査票を郵送し,担当する利用者数が最も多いケアマネジャーに渡してもらい,返信用封筒で回収した.EOL 対話の程度は,利用者本人と将来どこでどのように最期を迎えたいかについて話したことのある割合,介護する家族と話したことがある割合から把握した.看取りケアマネジメントへの関与は,看取り事例の担当の有無を指標とした.多くの利用者本人とEOL 対話を実践しているケアマネジャーほど,看取り事例を担当し,入院・入所による終了者が少ないという関連性を確認した.人生の最期は,多職種による連携チームで支える必要があり,ケアマネジメントにおける関わりのスキルを明確化する必要があると考える.
キーワード エンドオブライフケア,アドバンスケアプランニング,ケアマネジメント,看取り,意思

論文名 ニューカマー在日コリアン高齢者が抱えている生活上の困難と社会福祉サービスアクセスの阻害要因の検討
著者名 安 瓊伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):200-212,2023
抄録 本研究は,ニューカマー在日コリアン高齢者15 人にインタビュー調査を行い,日本地域社会で生活するなかで抱える困難と,その困難を乗り越えるため用いた手段を調べて社会福祉サービスアクセスの阻害要因を検討した.質的データ分析法によって分析した結果,困難として【言語の壁による困難と不安】【在留資格に関する不安と困難】【健康上の問題による困難と不安】【不安定な経済的状況による困難】【人との貧弱なつながりによる孤立】【他国に居住する外国人として抱える心理的不安と困難】が確認された.困難を乗り越える手段には【知り合いの支えと助け】【韓国人福祉関連職の相談と助け】【地域の行政・病院の助け】があった.結果に基づき考察を行い,アクセスの阻害要因としてコミュニケーション問題による情報へのアクセス困難,不十分な相談支援体制,在日コリアン高齢者の認識と地域社会との弱いネットワークを示し,必要な資源を提言した.
キーワード 在日コリアン高齢者,ニューカマー,生活上の困難,社会福祉サービスアクセス阻害要因

論文名 中高年ひきこもり者が再び社会とつながるまでの過程
著者名 山崎幸子,宇良千秋,岡村 毅
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):213-224,2023
抄録  中高年ひきこもり者が,再び社会とつながるまでの過程を明らかにすることを目的とした.対象者は中高年ひきこもり経験者3人であった.各調査対象者には,1回90分程度の半構造化面接を2回ずつ実施した.調査内容は,ひきこもりのきっかけやひきこもり中の生活,支援機関につながった経緯などであった.分析には複線径路等至性モデル(TEM)を用いた.分析の結果,対人不安がひきこもり生活に影響し,社会規範や家から外に出したい親の意向を受けつつも,外に出られない葛藤が認められた.この長いひきこもり生活において再び社会とつながるための意識の変容には,自分や親に対する老いの気づき,親から支援の限界を明言されるなど,中年期の課題が転機となって作用することが示された.当事者がこのような気づきを得た機会を取りこぼすことなくスムーズに支援が実施できるよう,支援者とのゆるやかな関係を継続し続けることが重要であると示唆された.
キーワード 中高年のひきこもり,8050問題,複線径路等至性モデル(TEM)

論文名 地域在住高齢者におけるグリーンスローモビリティ導入による外出,社会的行動,ポジティブ感情を感じる機会の主観的変化――前後データを用いた研究――
著者名 田村元樹,井手一茂,花里真道,中込敦士,竹内寛貴,塩谷竜之介,阿部紀之,王 鶴群,近藤克則
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):225-238,2023
抄録 目的:高齢者の移動支援として試行導入したグリーンスローモビリティ(以下,グリスロ)利用による外出,社会的行動,ポジティブ感情を感じる機会の主観的変化を明らかにした. 方法:2市3地域で8週間グリスロを導入し,導入前後の自記式質問紙調査に回答した65歳以上の高齢者599人を分析対象とした.対象者をグリスロ利用群と非利用群の2群に分け,導入後の外出(行動範囲など),社会的行動(地域活動に参加など),ポジティブ感情(気持ちが明るくなるなど)の変化を評価した.ポアソン回帰分析を実施し,累積発生比と95%信頼区間,P値をそれぞれ求めた.P値はボンフェローニ法により補正した(有意水準:P=0.0042). 結果:グリスロ利用群は非利用群と比較して外出,社会的行動,ポジティブ感情の機会が2~5割,累積発生比で1.74〜5.21倍と有意に高かった. 結論:グリスロには移動支援にとどまらず,“動く”通いの場のような心理社会的な変化もあり,健康に資する可能性が示唆された.
キーワード グリスロ,移動支援,心理社会的要因,介護予防

論文名 在宅における介護ロボットの利用状況と課題――東京都内の訪問介護事業所への郵送調査より――
著者名 壬生尚美,森千佐子,永嶋昌樹,鶴岡浩樹,竹内幸子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):239-247,2023
抄録  本研究は,訪問介護事業所における介護ロボットの使用状況や登録利用者の利用状況から,在宅における介護ロボットの課題を明らかにすることを目的とした.2020年12月30日時点で40人以上の利用者登録がある東京都内訪問介護事業所(1,137件)の管理者宛に,郵送法による無記名自記式アンケート調査を実施した(回収率11.8%).その結果,介護ロボットの利用経験のある事業所は26.6%あり,入浴支援ロボット(18.7%)の利用が高かった.利用継続している利用者は9人のみであった.介護ロボットに関する意見から,在宅での適用には,「価格」「情報の不足」「機能に対する疑問」等の諸課題があり,訪問介護サービスの特性や,利用者宅の環境や経済などの諸事情から普及に至らないと考える. 今後は, 利用継続に至らなかった理由を明らかにし,在宅利用者の人的・物的環境に合わせ,効果的な介護ロボットの利用方法を検討していくことを課題とした.
キーワード 介護ロボット,訪問介護事業所,在宅利用者,郵送調査

論文名 通いの場の多様性と主目的による類型の活用
著者名 植田拓也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):249-254,2023
抄録 一般介護予防施策の主戦略としての通いの場には多様性が求められるが,多様性の考え方や,行政が把握し支援・連携すべき通いの場の概念や類型は明確ではなかった.筆者らは,通いの場の概念および主目的による類型を提示した.通いの場の類型は,3つのタイプ(タイプⅠ:趣味活動,他者といっしょに取り組む就労的活動,ボランティア活動の場等の「共通の生きがい・楽しみを主目的」,タイプⅡ:住民組織が運営するサロン,老人クラブ等の「交流(孤立予防)を主目的」,タイプⅢ:住民組織が運営する体操グループ活動等の「心身機能の維持・向上等を主目的」)に分類した.この類型は2021年度に厚生労働省が示した「運営主体,場所,内容」による類型とも相補的に活用可能であり,地域資源としての通いの場の把握と展開および評価の系統的な実施の一助となると考えられる.
キーワード 地域づくり,通いの場,多様性,概念,類型
論文名 通いの場の担い手としての住民参加―都市部の中高年者におけるニーズの分析―
著者名 小林江里香,根本裕太
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):255-263,2023
抄録 本研究では,就労者の多い中年者(55~64歳)と前期高齢者(65~74歳)に焦点を当て,通いの場の種類別の参加意向,担い手としての参加意向や意向をもつ人の特徴,希望参加頻度を検討した.都内4自治体で実施した郵送調査のデータ(中年者4,333人,高齢者6,363人)を分析した結果,通いの場への参加意向は概して中年者より高齢者のほうが高かったが,担い手としては,中年者の意向のほうが高い役割もあった.フルタイム(月20日以上)の就労者は,高齢者では非就労者より担い手意向が低く,中年者では差がなかったが,労働日数の少ない就労者の意向が非就労者より高い点は両群に共通していた.つまり,就労者は担い手となる意欲が低いわけではない.一方で,就労率の高い中年者では月1回やそれより少ない頻度での参加希望が多いことから,「ゆるやかな参加」を可能にするための役割分担(ワークシェアリング)の導入などが必要である.
キーワード 通いの場,社会参加,ボランティア,就労,地域社会
論文名 PDCAサイクルに基づく多様な通いの場の推進と評価
著者名 清野 諭
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):264-267,2023
抄録 令和2年度老人保健健康増進等事業および令和3〜4年度厚生労働科学研究(研究代表者:藤原佳典)において,「通いの場の取り組みをPDCAサイクルに沿って推進・評価するための枠組み」が検討された.本稿では,通いの場の取り組みにおけるPDCA サイクルと,各局面で重要となる10 のコア項目について概説する.行政レベルでの通いの場の取り組みは,以下の6つの局面に整理できる.1.「理解」:介護予防・フレイル予防の要点や通いの場の必要性について理解する局面,2.「調査・計画」:地域アセスメントによって通いの場の現状と地域の強み・課題を明らかにし,課題解決に向けた計画を立案する局面,3.「体制・連携」:課題解決に必要となる行政内外の組織と連携し,体制を構築する局面,4.「実施」:課題解決に必要な取り組みを実施する局面,5.「評価」:取り組みによる直接の成果と効果を確認する局面,6.「調整・改善」:評価結果をもとに計画や体制,内容,目標を再検討する局面である.これらを活用することで,今後,PDCAサイクルに沿った通いの場の取り組みや効果評価がますます進むことを期待したい.
キーワード 通いの場,PDCA サイクル,ロジックモデル,評価
論文名 持続可能な通いの場とは―多世代・民間連携の視点から―
著者名 倉岡正高
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(3):268-275,2023
抄録 介護予防・フレイル予防に資する通いの場等の事業において,これまで各自治体で進められてきた運動教室のみではない,多様な取り組みや多様な主体との連携がよりいっそう求められている.一方,多世代が集う通いの場や民間企業と連携した取り組みなどは全国でも限定的である.持続可能な通いの場づくりには,多世代が参加するのみでなく担い手として,また地域の高齢者の健康づくりの理解者として地域全体を巻き込む仕組みをつくっていく必要もある.多世代型の居場所に関する調査では,活動頻度と継続性の関係性が示唆されたことから,常設型を広めていくことや,単なる居場所のみでなく,地域全体の世代間の交流をゆるやかなつながりで深めていくことが,若い世代への理解や機運の醸成につながると考えられる.
キーワード 多世代,世代間交流,通いの場,社会参加,地域社会

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