日本老年社会科学会
→English 最新更新日:2023年1月10日

日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

最新刊案内:老年社会科学 2022.10 Vol.44-3
論文名 配偶者および子どもとの資源配分にみる高齢男性の就業選択
著者名 新田真悟
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):231 − 241,2022
抄録  本研究では65 歳以上高齢男性の妻および子どもとの経済的・時間的資源の配分と高齢男性の就業行 動との関連を,「家族についての全国調査」の個票データを用いて検証した.線形確率モデルに基づい た多変量解析の結果,学歴・健康状態などの社会人口学的属性を考慮してもなお,夫婦に占める妻の家 事時間が高齢男性の就業確率と正の関連を,子どもへの非経済的援助の提供が負の関連をそれぞれ生じ させることが明らかになった.以上の結果からは,高齢者の就業選択には経済状況や就業機会だけでな く家族内の資源配分を考慮する必要があることを示唆した.
キーワード 高齢者就業,家族,資源配分,新家族経済学,線形確率モデル
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論文名 性的マイノリティ(LGB)高齢者の主観的生活課題
著者名 北島洋美,杉澤秀博
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):242 − 255,2022
抄録  本研究の目的は,性的マイノリティ高齢者の主観的な生活上の課題・不安の構造とその背景について, ライフコース上の経験も含め質的調査に基づき明らかにすることである.
 分析対象者はレズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシュアル(B)を自認する22 人で,平均年齢は67.1歳であった.インタビュー調査を2017 年5 月〜2019 年2 月までの間に行い,質的データ分析法によって 分析を行った.
 分析の結果,【否定的な価値観の影響】【頼らない/頼りにくい状況】【心配なく過ごせる場所を求め る】【自助・互助で備える】の4 つのカテゴリーが抽出された.そこから,差別・偏見の経験がさまざ まな影響を及ぼしてきたことや,支えになる人間関係があると自己否定につながらないこと,自己を律 する意識と行動が強調されていること等が明らかになった.地域社会でのつながりや安心できるフォー マルサービスの構築等の課題が示唆された.
キーワード LGBTQ,質的調査,偏見,自助互助,孤立
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論文名 介護施設における生きがい就労の効果と課題
――3 か月の体験就労による変化――
著者名 安里知陽,片桐恵子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):256 − 268,2022
抄録  本研究は,介護施設での生きがい就労における高齢者自身の効果と実践における課題について検討 することを目的とした.介護施設の介護助手として3 か月間の生きがい就労の体験プログラムに参加 した,60 〜80 歳代までの男女52 人(男性9 人,女性43 人)を対象として,質問紙調査およびイン タビュー調査を実施した.質問紙調査は就労開始時と3 か月後の終了時に実施,インタビューは終了 時に参加者10 人を対象に行った.その結果,他者や組織に対する「貢献に関する満足度」が3 か月 で有意に高くなり,「生活の充実感」も上昇傾向が示された.また中年期以降の発達課題である「世 代性」も有意に高まり,上の世代との交流や介護助手の仕事と「世代性」との関連が示唆された. 生きがい就労では,募集時の年齢や雇用条件を高齢者に合わせて設定することで,高齢者の就労機 会を保証すること,また仲間同士の交流が雇用の継続につながることが示唆された.
キーワード 介護施設,生きがい就労,世代性,高齢就労者
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論文名 家族による評価に基づく重度要介護者の全身状態の変化の類型化
著者名 島田千穂,平山 亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):269 − 275,2022
抄録  本研究の目的は,介護者家族が12 か月間毎月把握した,要介護高齢者の全身状態の軌跡を類型化し,得ら れた類型の妥当性を確認することである.対象は,要介護3 以上の人を介護する家族を,Web 調査会社のモ ニターから募集し,210 人を対象とした.12 か月間の状態を把握するための指標は,Palliative Performance Scale(PPS)を参考にして独自に開発して得点化し,この得点の経時的変化を,潜在クラス分析を用いて 分類した.その結果,高程度維持群,中程度維持群,漸次低下群の3 類型が得られた.類型別に,健康状態 の主観的悪化,入院有,および死亡の割合を算出して比較したところ,健康状態の悪化や入院の有無と有意 に関連した.介護者家族の状態評価によるデータの活用可能性と類型化の妥当性を示唆したと考える.
キーワード 要介護高齢者,状態変化の軌跡,エンドオブライフ,介護者家族
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論文名 超高齢社会における新しい生涯観の基盤となる基礎研究とその社会実装
――学術変革領域研究(A)「生涯学」がめざすもの――
著者名 月浦 崇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):276 − 281,2022
抄録  「生涯学の創出-超高齢社会における発達・加齢観の刷新」( 生涯学)は,科研費学術変革領域研究(A) のひとつとして,2020 年度に採択された領域である.この領域では,人間の生涯における変化を「社会と の相互作用の中で多様な成長と変容を繰り返す生涯発達のプロセス」として捉え直し,心理学・神経科学, 社会学,文化人類学,教育学の学際的融合から,従来の生涯観を見直す基礎研究と社会実装を進めている. 本領域の進展によって,全世代の人々が豊かな人生を享受できる超高齢社会を実現するための科学的基盤 が解明され,その成果を元にした社会実装が進められることで,新しい生涯観が次世代の人々と共有され ることが期待されている.
キーワード 生涯観,心理学・神経科学,社会学,文化人類学,教育学
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論文名 地域包括ケアシステムにおける生活支援コーディネーターの役割
著者名 中村一朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):282 - 287,2022
抄録  生活支援体制整備事業は,地域包括支援センター( 以下,センター)の機能強化を目的に,高齢者のニー ズと地域資源のマッチングを行う事業だが,機能を強化すべきセンターと生活支援コーディネーターの連 携がないままに事業を進めている自治体が多く存在する.高齢者の生活全般を支援するには地域資源の活 用は必須だが,こうした自治体では健常でない高齢者の対応は専門職サービスのみで行うと考えているの ではないか.
 欧州では「できないことに対するサービス提供」から「地域を巻き込みつつ,その人のwell-being を高 める」という高齢者支援のパラダイムシフトが起きている.
 センターの機能を強化するには,ケアプランの量の削減と質の向上を同時に行う必要があるが,それを 目指す地域では欧州のような高齢者支援のパラダイムシフトが起きるはずである.このため地域包括ケア システムの構築前に,自治体は生活支援コーディネーターの重要性を再認識することになるだろう.
キーワード 地域包括ケアシステム,生活支援コーディネーター,生活支援体制整備事業,地域包括支援センター, 高齢者支援のパラダイムシフト
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論文名 人生の真の長さと老後資金
著者名 森 義博
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):288 − 295,2022
抄録  急速に進む少子高齢化により,公的年金制度の将来像( 支給開始年齢,年金額水準等)は楽観できない. さらに,退職金の給付水準低下も重なり,自助努力による老後資金準備の重要性が今後ますます高まると 考えられる.老後資金はストックとフローで構成されるが,高齢期の就労,年金型商品( 終身年金あるい はできるだけ長期の確定・有期年金)の活用,公的年金の繰下げ受給等によりフロー収入を厚くすることで, 長生きリスクに弱いストックへの依存度を下げることが,安定した経済生活のために有効と考える.さら に,老後資金の枯渇を避けるためには,自身の寿命を正しく認識することが重要である.ダイヤ高齢社会 研究財団の調査によれば,50 歳代の「想定寿命」( 自身の人生設計において想定している寿命)の平均は 男女とも80 歳で,平均寿命さえ下回っている.正しい寿命の長さを広く啓発することが求められよう.
キーワード ライフプラン,平均寿命,想定寿命,老後資金,公的年金
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論文名 アドバンス・ケア・プランニングはなぜ必要か
著者名 島田千穂
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(3):296 − 302,2022
抄録  アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は,周知が進んできたものの,実践現場での定義については, 十分なコンセンサスは得られていない.本稿では,Sudore ら(2017)がデルファイ法でACP の定義を導 出する過程で,展開された論点を切り口にして,日本老年医学会のACP 推進に関する提言をあらためて整 理した.Sudore らの定義と異なる点は,本人の決定に加えて,共同意思決定が重視されること,本人が代 理人を指名してその人が決定するのではなく,最終的には合意で決めることが挙げられる.そして,「人 生の物語り」が重視されていることに着目し,エビデンスといった実在論的な視点を重視する従来の医療 の考え方に,もう1 つのパラダイムとして,物語りのもつ構築論的な視点( 宮坂2021)を加える役割を, 共同意思決定を目指すACP が果たしうることについて考察した.
キーワード アドバンス・ケア・プランニング,治療の選択,ナラティブ,対話,人生の物語り
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