日本老年社会科学会
→English 最新更新日:2022年5月30日

日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

最新刊案内:老年社会科学 2022.4 Vol.44-1
論文名 高齢者のインターネット利用と健康・幸福感の関連
―― JAGES2016 横断断究 ――
著者名 大田康博,斉藤雅茂,中込敦士,近藤克則
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):9 − 18,2022
抄録  高齢者のインターネット利用と健康や幸福との関連を分析した.要介護認定のない高齢者約2.2 万人 対象の調査(JAGES[ 日本老年学的評価研究]2016 年)を用い,インターネット利用有無や利用目的 が健康感や幸福感と関連があるのかを,性,年齢,学歴,所得,IADL( 手段的日常生活動作),人口密度, 家族構成,就労状態,友人と会う頻度を調整して,多項ロジスティック回帰分析した.その結果,インター ネットを利用しない人と比べ,インターネットを友人や家族とのコミュニケーションに利用する人は健 康度自己評価(オッズ比1.64, 95%信頼区間1.37 〜1.97),幸福感(1.38, 1.09 〜1.74)ともに高かった. 一方,コミュニケーション利用のない人では有意差はなかった.以上から,障害や感染症対策等で他者 との接触が困難になった場合でも,インターネットによる他者とのつながりを保つことが高齢者の健康 や幸福の保持に資する可能性を示唆した.
キーワード 高齢者,インターネット,健康度自己評価,幸福感,コミュニケーション
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論文名 介護老人福祉施設における介護ロボット導入の現状と課題
―― 郵送調査と訪問調査から ――
著者名 壬生尚美,森千佐子,永嶋昌樹,鶴岡浩樹,竹内幸子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):19 − 29,2022
抄録  本研究は,介護老人福祉施設における介護ロボット導入の実態を明らかにすることを目的とした.東京 都内の介護老人福祉施設478 か所を対象とした郵送調査( 回収率10.7%)と訪問調査(10 施設)を実施した. その結果,郵送調査では,「見守り・コミュニケーションロボット」の導入率が高かった.介護ロボット導 入の有無は施設の規模や情報環境との関連はなく,同じ機種のロボットでも現在継続的に使用している施 設がある一方,中止した施設もあった.課題として,費用面や適合性,職員教育,精神的抵抗等が挙げられ た.訪問調査では,施設環境と職員や利用者の状態・状況により必ずしも継続的に有効利用されるとは限 らないという実態が明らかとなった.介護ロボットの導入に際しては,利用者の状態と使用目的,職員およ び施設の状況をアセスメントし,適合する介護ロボットを選定することが重要であり,費用面の問題解決や 職員教育などの使用体制の構築も求められる.
キーワード 介護ロボット,介護老人福祉施設,郵送調査,訪問調査
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論文名 新型コロナウイルス感染症と高齢者の世帯間家族交流
著者名 渡邉大輔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):30 − 36,2022
抄録  新型コロナウイルス感染症対策は,人と人との交流の抑制を求め,われわれの日常を大きく変容させて いる.そこで本稿では,高齢者の同居していない家族との交流に焦点を当て,感染症が長期に渡って続く なかでの世帯間の家族交流の変化について電話によるインタビュー調査データをもちいて検証した.
 その結果,家族といえども交流を自粛している人が多くみられた.家族,親族などから支援を受けて ICT( 情報通信技術)をもちいたバーチャルな交流を積極的にもちいて家族と交流をとる人もおり,利用 のための支援の重要性が示唆された.また,同居していない家族との社会的サポートの授受についても検 証し,家族からの手段的サポートの受領は多くみられたこと,地域活動に比べてサポートの授受が継続し ていたことなどが示された.
 そのうえで,新型コロナウイルス感染症の広がりは,地域社会だけでなく同居しない家族においても, 既存の社会関係の強度を試す経験となる可能性を論じた.
キーワード 新型コロナウイルス感染症,家族,世帯間交流,自粛,社会的サポート
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論文名 混合研究法
著者名 尾島俊之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):37 − 42,2022
抄録  混合研究法とは,量的アプローチと質的アプローチを統合することにより,それぞれのアプローチを超 えた理解が得られる研究法である.
 混合研究法の基本デザインとしては,説明的順次デザイン,探索的順次デザイン,収斂デザインの3 つ がある.そのほかに,多数の応用デザインがある.
 質的データの収集方法としては,観察,聞き取り,文書,考えることなどが重要である.質的データの 分析方法として,カテゴリー化戦略や,文脈化戦略などがある.カテゴリー化戦略での分析としては,多 数の元データから,「予想していた内容」「驚いた内容」「珍しい内容」に着目して重要な内容を選定する とよい.量的データと質的データの統合方法の類型として,データの結合,説明,積み上げ,埋め込みが ある.結合の典型的な手法として,ジョイントディスプレイがある.
 混合研究法は,老年社会科学の展開に有用と考えられるため,多くの人に実践していただきたい.
キーワード 混合研究法,量的データ,質的データ,ジョイントディスプレイ
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論文名 認知症発症の時代的推移
著者名 西田裕紀子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):43 − 50,2022
抄録  本論文は,認知症発症の時代的傾向に関する動向を考察することを目的とした.主な内容は以下のとお りである.①認知症発症の時代的傾向に関する論文を概観し,最近20 年間の認知症発症の減少が複数報告 されていること,一方で,対照的な結果も見いだされていることを論じた.②認知症発症の減少にかかわ る要因として教育水準に焦点を当て,成人期から高齢期全般の認知機能のレベルと教育歴との有意な関連 が頑健であること,低教育歴が認知症発症のリスクに影響することについて論じた.③「長寿コホートの 総合的研究(Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan;ILSA-J)」から,日本人高齢者の認知機 能が向上している可能性について論じた.
キーワード 認知症,時代的推移,教育水準,ILSA - J
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論文名 「フレイルの社会的側面」の研究および実践活動のあり方
――日本老年社会科学会「社会的側面からみたフレイル」検討委員会の提言をふまえて――
著者名 藤原佳典
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):51 - 58,2022
抄録  近年,フレイルの予防・対策が注目されるなかで,その社会的な要素や側面を「社会的フレイル(social frailty)」として細分化した研究が散見される.しかしながら,社会的フレイルの概念や定義が定まらな いなか,マス・メディア等を通じて,「社会的フレイル」という用語のみが流布している.新しい学術用 語の導入は,既存の用語によってとらえきれない事象や概念を表現しうる場合にのみ意義を有することか ら,学術的および社会的観点から慎重を期する必要がある.こうした現状をふまえ,日本老年社会科学会「社 会的フレイル」に関する検討委員会は,複数回の議論を経て2021 年6 月に提言を公表した.本稿では,検 討委員会における論点を基に「社会的フレイル」に関する議論を整理した.本検討委員会の提言を起点と して,対象となる高齢者の健康度,価値観や選好に配慮するとともに,生活者としての個人にとって meaningful な( 意味のある)概念・定義に基づく研究や実践が進展することを期待する.
キーワード 混合研究法,量的データ,質的データ,ジョイントディスプレイ
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論文名 ジェロンテクノロジー
――つくる側とつかう側とそれを取り巻く社会について――
著者名 二瓶美里
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,44(1):59 − 65,2022
抄録  高齢者が地域社会で快適に活力ある生活を維持していくためには,人による支援のみだけではなく生活 を支援する機器や技術が不可欠である.日本における高齢者のための支援機器は,介護保険制度の導入を きっかけに安全で使いやすい製品が広く普及するようになった.一方で,支援機器を使用する高齢者のな かには,加齢による身体機能の低下が受け入れがたいために支援機器を肯定的に受け止めることができず, 機器使用の選択を迫られた際にジレンマを感じる人もいることがわかってきた.このジレンマを解消する 方法として,知識や経験から得られるケアリテラシー,技術開発,技術開発を後押しする高齢社会像に関 する3 つの方法を示した.これからのジェロンテクノロジーの発展には,つかう側の多様性の理解と社会 の深い洞察,どのような社会を築いていくのか,その将来像に関する社会科学的な視点を含めた議論が重 要であると考える.
キーワード 支援機器,デザイン,テクノロジー,ジレンマ
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