日本老年社会科学会
→English 最新更新日:2022年1月28日

日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

最新刊案内:老年社会科学 2022.1 Vol.43-4
論文名 介護福祉士のレジリエンスと老いや死と向き合うことに伴う否定的感情への対処方略の関係
著者名 塩﨑麻里子,濱崎洋嗣,森口ゆたか,佐藤 望,田中晃代
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):349 − 359,2022
抄録  本研究の目的は,介護福祉士が,老いや死と向き合うことによって経験する否定的感情に対して,ど のように対処しているのかを質的に明らかにしたうえで,レジリエンスとの関係を検討することであっ た.特別養護老人ホームの常勤介護福祉士13 人( 男性6 人,女性7 人;平均年齢29.5 歳)を対象に,質 問紙を併用した面接調査を実施した.内容分析によって,対処方略は,5 つの大カテゴリー( 今を大切 にする・ひとつの視点に固執しない・感情に振り回されない・心理的離脱・巨視的視点をもつ),16 サ ブカテゴリーに分類された.コレスポンデンス分析によって,対処方略を,自己統制の仕方(コントロー ル感焦点型‐調和焦点型)と物事をとらえる視点( 具体的視点‐大局的視点)の2 軸で説明することが できた.また,レジリエンス高群は,大局的視点で物事をとらえる傾向があることが示唆された.日本 人の老いや死との向き合い方に関する今後の展望について考察した.
キーワード 介護福祉士,老いや死への態度,否定的感情,対処方略,レジリエンス
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論文名 介護施設における情報共有シートを用いた多職種お薬検討会
―― 介護職・医療職間の連携を目指した実践報告 ――
著者名 馬来秀行,柳奈津代,佐藤宏樹,三木晶子,石坂優奈,岡本勝樹,澤田康文
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):360 − 370,2022
抄録  介護施設の介護職・看護職と担当薬剤師が,薬の情報と介護・看護情報をおのおの時系列で可視 化して見比べられるような情報共有シートを用いて,利用者に関する困りごとと薬のかかわりを検 討する「お薬検討会」を11 施設,38 人を対象に実施した.施設によって4 〜11 回開催され,1 回 あたりの参加者は7 人程度であった.これまで情報交換体制の構築がむずかしかった介護職と薬剤 師による情報共有が可能となり,医師とも連携することによって,処方薬の見直しや,必要な薬で あることの確認等が行われた.お薬検討会に参加した介護職へのアンケートでは,「前に比べて利用 者の状況をよく観察している」「前に比べて利用者の状況とお薬の関連を考えている」と8 割以上が 回答し,医療職に日常の様子を伝える介護職の重要性を認識した等,意識の変化がみられた.今後は, このような機会をより多くの利用者に提供するため,効率のよい取り組みの開発が期待される.
キーワード ポリファーマシー,多職種連携,介護職員,薬剤師,情報共有シート
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論文名 介護予防教室に参加する自立高齢者の社会活動満足度に関連する要因
著者名 飯田みなみ,平野美千代
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):371 − 381,2022
抄録  目的:自立高齢者を対象に,基本的心理欲求,他者との交流,社会活動への参加と社会活動満足度の関連 を明らかにする.
 方法:介護予防教室に参加する要支援・要介護認定を受けていない高齢者( 以下,自立高齢者)472 人を 対象に,自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,基本的心理欲求,他者との交流,社会活動,社会活動 満足度尺度等で構成した.分析は重回帰分析を用いた.
 結果:調査票は回収数468 部,有効回答数441 部であり,女性が399 人であった.関係性の欲求,有能さ の欲求,友人との付き合い,近所との付き合い,家族との付き合い,自治会・町内会活動,ボランティア活 動,学習・自己啓発・訓練と社会活動満足度との間に有意な関連が認められた.
 考察:自立高齢者の社会活動満足度には,関係性,有能さの欲求が重要であり,また,安心できる地域生 活の構築,貢献感および自己成長につながる活動の重要性が示唆された.
キーワード 自立高齢者,社会活動満足度,基本的心理欲求,他者との交流,社会活動
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論文名 実践的質的研究法M-GTAの方法論的特性
著者名 木下康仁
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):383 − 389,2022
抄録  質的研究の現状を大きく定義問題ととらえ,多様な認識論と柔軟な研究方法を理解するには方法論の レベルをおさえる必要がある.本稿ではM-GTA についてオリジナル版GTA との関係から継承する4 項 目と課題で残された3 項目を論じ,そのうえで質的研究法として満たすべき6 条件( 分析方法の明確化, 分析プロセスの明示化,深い解釈,厚い記述,分析の緻密さ・厳密さ,分析結果の実践的活用)を提示 しM-GTA がどのようにそれらに対応しているのかを論じている.最後に,質的データの分析を成功さ せるために分析過程全体を制御する方法の重要性を指摘し,M-GTA でのその方法を説明している.質 的研究法は老年社会科学のような学際領域や多職種連携による実践領域との関連性や有効性が高く,そ の1 つの方法としてM-GTA の活用に必要な方法論的特性を論じた.
キーワード 質的研究の定義問題,方法論,理論生成,実践的活用
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論文名 量的研究と質的研究における問い,認識論,方法,評価基準の違い
著者名 中川 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):390 − 395,2022
抄録  質的研究を用いることで,文化的・歴史的文脈が発達と加齢をどのように形作るか,高齢者が加齢を どのように経験しているか,などの問いに答えることができると考えられてきた.近年,加齢という現 象をよりよく理解する研究法として,研究者は質的研究を用いつつある.しかし,質的研究の教育はま だ十分整備されていない.本稿では,量的研究の教育を受けた研究者を読み手として,量的研究と比較 した際の質的研究の主な特徴を述べる.①どのような問いに適切に答えられるか,②現実をどのように とらえるか,③どのような方法を用いるか,④研究をどのように評価するかについて,量的研究と質的 研究には異なる特徴があり,データの共有を促すオープンサイエンスへの対応も異なっている.模範と なる質的研究論文や量的研究と質的研究を組み合わせる混合研究論文を参照することで,質的研究が知 識と洞察を得る有効な研究法であることをよりよく理解できるだろう.
キーワード 混合研究法,方法論的整合性,オープンサイエンス,再現性,透明性
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論文名 アメリカの老年学雑誌における質的研究の評価と課題
著者名 安元佐織
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):396 - 400,2022
抄録  1990 年代後半,Rowe とKahn によって紹介された,文脈を考慮して加齢を理解すべきであるという 理論的枠組みによって,アメリカでは,高齢者が加齢に伴う出来事をどのように解釈しているかを理解 するために質的研究の重要性が高まった.そして,2000 年に入り老年学雑誌では,「当事者の理解や解 釈を重視する」質的研究論文の投稿数が増加したが,採択率は伸び悩むという状況が続いた.本稿では, そのような状況の打破を試みた2 つの老年学雑誌(The Journal of Gerontology, The Gerontologist)を 紹介すると同時に,質的研究 vs. 量的研究の議論を超えて,質的研究者間でも方法論の認識が異なる場 合があることを紹介したThe Journal of Marriage and Family の特集を紹介する.また,質的研究論文 を国際誌に投稿する際の課題についても言及する.
キーワード 方法論の対立,認識論,科学,アメリカの老年学雑誌
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論文名 EBPと質的研究
著者名 松岡千代
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):401 − 405,2022
抄録  本論考では,EBP(エビデンスに基づく実践)における質的研究の位置づけと意義についてVBP( 価 値に基づく実践)の観点から概観し,質的エビデンスと質的SR(システマティックレビュー)について 簡単に紹介する.
キーワード EBP,質的研究,VBP,質的システマティックレビュー
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論文名 老年学におけるアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)と質的研究の可能性
著者名 佐藤 惟
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,43(4):406 − 414,2022
抄録  「アドバンス・ケア・プランニング(ACP,人生会議)」は,近年保健・医療・福祉の分野で注目され ている,比較的新しい取り組みである.国内においてACP( 人生会議)に関する実証研究の蓄積は十 分とは言いがたく,今後の研究の進展が期待されている.
 本稿では質的研究がACP( 人生会議)の研究・実践に果たし得る役割を,2 つの側面から探求した. 1 つは「あるべきものの探求」という設計科学の考え方に紐づけられるものであり,事例として筆者が 試みたアクションリサーチの取り組みを紹介した.もう1 つは「マイノリティへの視点」であり,2 人へ のインタビュー調査の分析から,現在のACP( 人生会議)をめぐる社会的な議論のなかでは十分に注 目されていない,重要な論題の浮上を試みた.
 ACP( 人生会議)のような,現場での実践手法が確立されていない新しい取り組みを研究するうえで は,量的研究と質的研究それぞれの視点や特長を生かしたアプローチが有効である.
キーワード 老年学,アドバンス・ケア・プランニング(ACP),人生会議,質的研究,アクションリサーチ
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