論文名 | 日本の高齢者における生物・心理・社会的な認知症 関連リスク要因に関するシステマティックレビュー |
著者名 | 高杉 友,近藤克則 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):173 − 187,2020 |
抄録 | 日本の高齢者を対象にした認知症関連リスク要因を検証した研究をシステマティックレビューし,研
究の到達点と今後の課題を提示することを目的とした.医学中央雑誌及びPubMed 文献データベース検
索とハンドサーチにより,2007 年以降に発表された34 編の論文が抽出された.全体の8 割が縦断研究
であった.残存歯数,日本食,歩行時間等の生物学要因にとどまらず,うつなし等の心理要因,社会参加,
ソーシャルサポート等の社会的要因と認知症リスクとの関連が示唆された.海外での研究に比した独自
性は社会的な結びつきに関連する研究が豊富なこと,認知症リスク評価スコア研究や災害地域における
研究などと思われた. 今後は個人レベルの要因にとどまらず,認知症対策の新たな戦略・社会政策を検討するためのエビデ ンスとして,より広い地域や社会,異なる時代の社会・環境要因を明らかにしていく社会科学的研究が 必要と考えられた. |
キーワード | 認知症,予防,社会的要因,システマティックレビュー,リスク評価 |
論文名 | 介護職員におけるバーンアウトとワークエンゲイジメントの関係性 ――仕事の要求度?資源(JD-R)モデルによる検討 ―― |
著者名 | 畦地良平,北村世都,内藤佳津雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):188 − 199,2020 |
抄録 | 本研究では,仕事の要求度- 資源(JD-R)モデルに準えつつ,仕事の量的・質的負荷とバーンアウト, ワークエンゲイジメントの関係について調べた.5 種の介護サービス181 事業所から計1,129 人の介護 職員のデータが集められた.共分散構造分析の結果,JD-R モデルに修正を加えたモデルが適合した. 具体的には,量的負荷が情緒的消耗感を媒介として脱人格化に影響していた.質的負荷は個人的達成感 に直接影響し,かつワークエンゲイジメントが両変数を媒介していた.そして,ワークエンゲイジメン トは脱人格化を減じる可能性が示唆された.これらの変数間の影響に関しては,通所・訪問介護群,短 期入所・小規模多機能群でも同様に確認された.適切な仕事量と裁量権,明確な役割を与えることで, 情緒的消耗感を軽減し,かつワークエンゲイジメントを高めることが重要であるものと考えられる. |
キーワード | バーンアウト,ワークエンゲイジメント,仕事の要求度?資源モデル,介護職員 |
論文名 | 認知症高齢者の家族介護者が代理意思決定場面で経験した後悔に関する質的調査研究 ――後悔を引き起こす要因と後悔に影響する選択の仕方―― |
著者名 | 塩﨑麻里子,佐藤 望,増本康平 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):200 − 208,2020 |
抄録 | 本研究の目的は,認知症高齢者の家族の代理意思決定に焦点を当て,①家族の後悔を引き起こす要因 と②後悔に影響する選択の仕方を質的調査の結果から,明らかにすることであった.家族介護者11 人 を対象に,半構造化面接を実施した.質的内容分析によって,後悔を引き起こす要因は,3 テーマ( 知 識の欠如・家族の心理的要因・他家族への影響)の10 カテゴリーに分類された.また,後悔に影響す る選択の仕方は,9 カテゴリーに分類された.得られた結果と後悔に関する研究知見を踏まえて,後悔 が生じにくい選択の仕方について考察した.結論として,認知症高齢者家族の代理意思決定において, 決めることから逃げない,選択肢をトレードオフで比較しない,正解を選択しようとしない,の3 点が 重要であることが示唆された. |
キーワード | 認知症高齢者,家族,代理意思決定,後悔,選択 |
論文名 | シルバー人材センター会員の加齢と就業 ――65 ?66 歳会員の3 時点10 年間の変化 ―― |
著者名 | 石橋智昭,森下久美,中村桃美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):209 − 216,2020 |
抄録 | シルバー人材センター会員の就業実態は,これまで横断研究に限られ,加齢に伴う就業状況の変化は
解明されていない.本研究では,全国から64 か所のシルバー人材センターを選定し,2006 年時点に65
?66 歳であった会員1,710 人( 男性1,094 人,女性616 人)を対象に2011 年(5 年後)と2016 年(10 年後)
の就業状況を把握して,その変化を記述分析した.就業状況は,配分金額と仕事の内容の2 変数を用い,
年次間の変動を統計学的に検定した. 分析の結果,男女ともに配分金収入が加齢とともに減少する傾向が認められ,とくに75 歳以降に顕 著に縮小することが確認された.仕事の内容は,複数の職種で75 歳以降に離職する会員が増えるものの, 全体的には後期高齢期に差し掛かっても同一の仕事を継続している実態が明らかとなった.会員の就業 可能な期間の延伸に向け,心身の変化に応じて仕事をスムーズに転換する体制の構築が課題である. |
キーワード | 加齢,縦断研究,シルバー人材センター,就業,生きがい |
論文名 | 「乳児と視線が合うこと」が認知症高齢者の行動に与える影響 |
著者名 | 田渕 恵,小島康生 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):217 − 225,2020 |
抄録 | 本研究の目的は,認知症高齢者と生後12 か月未満の乳児との交流場面において,「乳児と視線が合うこ と」が認知症高齢者の行動に与える影響を明らかにすることであった.グループホームに入居中の高齢者5 人( 全員女性;年齢は83 ?97 歳)を対象とし,5 人の乳児( 男児3 人,女児2 人;3 ?9 か月)とのその親を 研究協力者とした.高齢者5 人が着座している場所に母親が乳児を抱いて近づき,1 組ずつ高齢者と乳児が 対面する場面( 高齢者5 人× 乳児5 人= 25 場面)を記録した.高齢者の4 種類の行動( 笑顔,発話,手を伸 ばして触れる,なでる・あやす)の生起時間を,乳児と視線が合っている場合( 視線あり)と合っていない 場合( 視線なし)に分けて測定し,視線の有無によって各行動の生起時間比率が異なるかを検討した.その 結果,すべての行動において,乳児と視線が合っている場合のほうが合っていない場合よりも有意に行動が 生起していた.2 者間で互いに積極的な相互作用や言語的反応がなくても,乳児とただ「視線が合う」だけ で,認知機能低下が認められる高齢者において自発的なコミュニケーション行動がより生起することがわ かった. |
キーワード | 認知症高齢者,乳児,アイコンタクト,世代間交流,世代性 |
論文名 | 老年期に血液透析を導入した高齢者の生活行動 |
著者名 | 吉田直美,松本真希 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):226 - 235,2020 |
抄録 | 本研究は,老年期に血液透析導入となった高齢者が導入後も継続できている生活行動を明らかにすること
を目的とした.A 市で通院透析を受ける65 歳以上で血液透析を導入した50 人を分析対象とし,生活行動ご
とに継続できている人数の割合を算出した. 老年期に血液透析を導入した高齢者が導入後も継続して行っていた生活行動は「テレビをみる」「新聞を読 む」「音楽を聞く」「子どもや親せきと電話をする」「歌を聞く」「食堂やレストランで食事をする」「携帯電 話やパソコンを使う」であり,75 歳以上で導入した高齢者では「自動車やバイクに乗って運転をする」「国 内旅行に行く」の生活行動は導入後に中断されることが多かった. 「テレビをみる」「新聞を読む」「子どもや親せきと電話をする」「携帯電話やパソコンを使う」の生活行動 は導入後も行いやすいことが考えられた. |
キーワード | 老年期,血液透析,導入,生活行動 |
論文名 | 高齢期における孤独への志向性と主観的ウェルビーイングとの関連 |
著者名 | 豊島 彩 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):236 − 243,2020 |
抄録 | 高齢者の心身の健康維持のための運動や社会的活動を促進することは重要な課題である.その一方で, 新型コロナウイルスの感染拡大により社会的活動が制限され,従来は“ 孤独” ととらえられていた個人の プライベートな時間をどのようにとらえなおしていくかが,今後の課題となる.高齢期では,加齢による 社会的活動の制限が孤独感や主観的ウェルビーイングに与える影響が想定よりも弱いことから,1 人の時 間を好む志向性により,高齢者の心理状態によい影響を与える可能性が議論されてきた.従来の尺度を使 用した調査研究では,孤独への志向性と主観的ウェルビーイングの高さとの関連は確認されなかったが, 3 因子に分けて検討することで,孤独の生産性を評価する傾向は精神的健康や人生満足度の高さに関連す ることがわかった.今後,孤独の時間を楽しめる高齢者の存在にも注目し,心身の健康状態に対する影響 について慎重に検討していくことが重要である. |
キーワード | 孤独への志向性,孤独感,主観的ウェルビーイング,精神的健康,人生満足度 |
論文名 | 地域での自主グループ活動に求められるリーダーシップ |
著者名 | 柴 喜崇 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):244 − 249,2020 |
抄録 | 長期に継続する自主グループを,PM 理論の視点で調査・データ分析した.リーダーは羅針盤の針のよ うに進むべき道を指し示す機能(P 機能)とともに,フォロワーのことを気遣う黒子の機能(M 機能)の両 者を担うことの重要性を示した.地域での自主グループ活動継続的に運営には,リーダーシップのみに拘 泥するのではなく,フォロワーシップの理解と実践が肝要であり,リーダーはフォロワーシップの視点を 同時に担える資質が必要である.社会的な要請が高い地域リーダー育成の考え方として,PM 理論の“P”・ “M” 両機能を向上させうるリーダー養成講座プログラムの開発および実践により可能となると考えてい る.リーダー養成とその後の地域での自主グループ活動の実践には,理論の実証にとどまることなく社会 への実装を見据えたアクション・リーサーチを足掛かりとした,応用の実証を進める必要がある. |
キーワード | リーダーシップ,フォロワーシップ,PM 理論,リーダー養成講座 |
論文名 | 「ケアの意味を見つめる事例研究」の老年社会科学への貢献 |
著者名 | 野口麻衣子,山花令子,山本則子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,42(3):250 − 255,2020 |
抄録 | 優れたケア実践を言語化し,蓄積することを目指し,「ケアの意味をみつめる事例研究( 以下,本事例研
究)」の開発に取り組んでいる.本事例研究の特徴としては,対象がケア実践であり,ケア実践を概念化( 大
見出し・小見出し)することである.複数人のグループで語り合い,問われて語る( 問われ語り)ことで,
新たな意味に気づき,実践を語るための概念( 大見出し・小見出し)が形成される.論文中には,見出し
ごとに行われたケアについて,患者・家族の状況および時間経過とともに記述される.そのため,本事例
研究が示す知見は,実践に活用しやすい知見を提供できる. . 老年社会科学の諸領域は,本事例研究に親和性が高い.そのため,本事例研究方法を活用していただき, 多くの実践知が産出されることを期待したい.将来的には,複数の領域で生まれたケア実践の知が統合さ れ,高齢者ケアの実践知が発展していくことを願う. |
キーワード | 事例研究,高齢者ケア,実践知,看護 |