論文名 | 日本人における「知恵」の概念 ――中高年世代を対象とした面接調査 ―― |
著者名 | 春日彩花,佐藤眞一,Masami Takahashi |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):379 − 390,2020 |
抄録 | 本研究では,日本人の「知恵」の構成要素を明らかにすることを目的として,15 人の中高年世代を対 象に,「知恵」にかかわる側面を問う半構造化面接を行った.分析の結果,【具体的に問題を操作する 能力】【方針を設定する力】【内的可変性】【周囲との調和性】【信念に基づく生き方】という5 つのカ テゴリーが抽出され,各カテゴリーには2 ?8 個のサブカテゴリーが設定された.海外の先行研究と比 較すると,日本人の「知恵」には,調和性を重視する特徴( 規範に基づいた態度,「おかげ」の意識, 謙虚な態度)と,自分の生き方を見定めて実行する力( やり遂げる力,強い意志に基づく実行力,人生 の指針の確信)を重視する特徴があることが示唆された.これらには,日本の風土やアジアに共通の価 値観,日本人の道徳観が関与していると推察される.今後日本で知恵研究を進めるにあたり,こうした 文化的特徴を踏まえて検討していく必要があると考えられる. |
キーワード | 知恵,潜在的意味論,文化的特徴,質的研究 |
論文名 | 都市規模別にみた学童保育における高齢者との世代間交流プログラムの現状と今後への期待 |
著者名 | 山本晴美,森田久美子,永嶺仁美,青木利江子,小林美奈子,呂 暁衛,佐々木明子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):391 − 399,2020 |
抄録 | 本研究では,全国1,815 か所の学童保育を対象に,高齢者との世代間交流プログラムの現状と今後の期待
について明らかにし,都市規模別に比較・検討することを目的とした. 本研究では,学童保育を「大都市」「人口10 万人以上」「人口10 万人未満」「郡部」の都市規模別に区分 し,世代間交流活動の「実施群」「未実施群」の層化分析を行った.世代間交流プログラムの関心は,大都 市では「将棋・囲碁」,人口10 万人以上の都市では「昔遊び」「楽器演奏・音楽鑑賞・合唱」「体験談」「読 み聞かせ・紙芝居」が高かった.人口10 万人未満の都市では,「料理・おやつ作り」が高かった.今後の課 題として,その地域における学童保育側から高齢者への期待,また高齢者の生活意識などの点から,お互い に参加しやすくニーズに合った世代間交流プログラムを構築する必要があることが示唆された. |
キーワード | 世代間交流,学童保育,高齢者,都市規模,地域 |
論文名 | 認知症初期集中支援チーム員による当事者の認知症への対処に関する 意思決定に向けたかかわり |
著者名 | 家根明子,小野塚元子,長瀬雅子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):400 − 408,2020 |
抄録 | 本研究では,認知症初期集中支援チーム( 以下,支援チーム)による当事者とその家族の意思決定に向け たかかわりを明らかにすることを目的とした.2 つの自治体にある支援チームを対象とし,4 人のチーム員 に半構造化面接を行い,当事者との面接において留意していること,当事者と家族の思いが異なる場面での 対応と思いなどを聞き取り,その逐語録を帰納的に分析した.研究協力者は,初期集中支援において,素早 い診断と対応が求められ,チーム員相互に意図的な役割分担をしていると語り,【警戒心を抱かせない,時 間をかけた丁寧な関係構築】【当事者と家族双方の思いを調整するかかわり】【早期診断・早期対応を意識 した活動】【当事者の思いを中心にした受診やサービスの導入】【認知症対策への認知度が向上したことに 伴う課題があるなかでのかかわり】を経験しており,当事者を尊重したかかわりと支援チームの規定との間 でジレンマを感じていた. |
キーワード | 認知症初期集中支援チーム,意思決定,チーム内の役割分担 |
論文名 | 豊島 彩,入戸野宏 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):409 − 419,2020 |
抄録 | “ かわいい” という語は,若者文化と結びつけて語られることが多い.本研究では,高齢者が感じる“ か わいい” の特徴を明らかにし,若者文化で言及されるかわいいものに高齢者がどのように反応するかを検討 した.地域高齢者20 人にインタビュー調査を行い,“ かわいい” の概念についてたずねるとともに,若者に 人気のあるキャラクターに対する印象をたずねた.質的内容分析の結果,祖父母としての社会的役割や孫 との関係性が,孫だけでなく,孫以外に対する“ かわいい” 感情にも影響すること,長年の人生経験が“ か わいい” と感じる対象に影響することが示された.また,キャラクターの人形はなじみが薄く,かわいいと は感じないと答える者が約半数いた.本研究の結果,高齢者では,表情やしぐさに比べて,動きのない見た 目の特徴をかわいいと感じることは減るが,かわいいと感じること自体はポジティブな感情として評価さ れることが示された. |
キーワード | :かわいい,質的内容分析,インタビュー調査,質的研究法,高齢者 |
論文名 | 老年社会科学研究のための研究倫理 |
著者名 | 石崎達郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):421 − 427,2020 |
抄録 | インフォームド・コンセントは開示,理解,自発性,同意の四要素で構成され,これを踏まえたイン フォームド・コンセントの主な手続きは,文書によるもの,口頭によるもの,オプトアウトとよばれる 情報公開と拒否の機会の提供である.個人情報保護法は「個人情報」を生存する個人に関する情報,と 定めているが,研究倫理上は死者について特定の個人を識別できる情報も,遺族への配慮から,保護の 対象となっている.利益相反とは,外部との経済的な利益関係等によって公的研究で必要とされる公正 かつ適正な判断が損なわれる,または損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事 態を指す.研究機関は研究の透明性,信頼性を確保するうえで,利益相反の管理責任と説明責任がある. 学術的な利益相反についても対応が必要で,科学論文の査読,競争的研究費の応募書類の審査では,審 査の中立性と公正性の確保が求められる. |
キーワード | 研究倫理指針,インフォームド・コンセント,オプトアウト,個人情報,利益相反(経済的,学術的) |
論文名 | 老年社会科学における研究倫理の視座 |
著者名 | 須田木綿子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):428 - 434,2020 |
抄録 | 研究倫理への関心の高まりとともに規定やルールも急速に変化し,その影響は研究のあり方にまで及 びつつある.本稿では,その典型的な例として,p 値ハッキングに関する最近の議論を紹介する.また, 研究不正の原因を研究者の倫理観のみに帰するのは片手落ちであり,研究者をとりまく環境のあり方を 問い直すことの必要性を,アカウンタビリティ・ジレンマの視点から論じる.最後に,「論文が雑誌に 掲載されることが最重要課題であり,研究倫理上の諸課題の優先順位は相対的に低いものとならざるを 得ない」という見解を題材に,研究活動の社会的意義について論考し,研究者相互の協働の重要性につ いて述べる. |
キーワード | 研究倫理,再現性,p 値ハッキング,サンプル・サイズ,アカウンタビリティ・ジレンマ |
論文名 | 看護学領域の研究倫理のトピックス ――インフォームド・コンセントと事例研究について ―― |
著者名 | 松岡千代 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):435 − 439,2020 |
抄録 | 2015 年の「人を対象とする医学系研究の倫理指針」( 医学系指針)(2017 年改定)には,看護学領域 の研究も含まれることが示されたことから,それに沿った看護研究活動をすることが求められている. 医学系指針には,質的研究や質問紙調査なども含まれているが,その中心は,疾病の予防や治療方法の 有効性等を検証する「医学」研究である.看護研究は,看護実践に限らず,看護教育・管理なども研究 対象の範囲は広く,また研究手法も多岐にわたっているため,医学系指針をそのまま適用することがむ ずかしい場合もある.本稿ではインフォームド・コンセントと事例研究をトピックスとして取り上げて, 看護学領域の研究における研究倫理の現状と課題について概観してみたい. |
キーワード | 人を対象とする医学系研究の倫理指針,看護研究,研究倫理,インフォームド・コンセント,事 例研究 |
論文名 | 高齢者心理学における研究倫理の諸課題 |
著者名 | 権藤恭之 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):440 − 448,2020 |
抄録 | 心理学は,長らく基礎的な研究を行う学問領域として発展してきた.そのような背景のため,早くか
ら職業としてのサイコロジストが認められていたアメリカに比べて,わが国では心理学における倫理規
程の整備は遅れてきた.しかし近年,日本心理学会の倫理規程に代表されるように,倫理指針が整備さ
れた.現在,大学の卒業研究においても,倫理審査を受け,承認を得ることが一般的になりつつある. 心理学では,ほかの老年社会科学の研究領域にはない特徴として,「だまし」のような手法がある. また,感情や認知機能を扱うため調査参加者のネガティブ感情を生起させてしまうリスクもある.さら に,再現性が低くても,新規な知見が受け入れられやすいという問題があった.特殊詐欺のように,心 理学が解決に寄与できる可能性がある課題はあるが,倫理的コンフリクトのために研究を進めることが 困難な研究領域もある.また,認知症や抑うつをもつ高齢者では研究参加による心理的負担や参加によ るメリットやデメリットの予測が困難である. このような課題に対してさらに議論を重ねる必要はあるが,新しいテクノロジーを利用し,調査参加 者の心理的負担の少ない測定法の開発を進めつつ,個人の幸福,家族の幸福,社会の幸福のバランスを とりながら倫理的コンフリクトが少ない研究を行うことが必要である. |
キーワード | 心理学,倫理規程,倫理のコンフリクト,だまし,再現性 |
論文名 | ハゲタカ出版社の餌食にならないために |
著者名 | 石崎達郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(4):449 − 451,2020 |
抄録 | ハゲタカ雑誌とは,査読誌であることをうたいながら著者から論文投稿料を得ることのみを目的とし て,適切な査読を行わない低品質のオープンアクセス(OA)形式の雑誌のことで,その出版社をハゲタ カ出版社と呼ぶ.ハゲタカ雑誌誕生の背景は,OA 雑誌の増加,そして,投稿論文が採択・掲載される ことを求める研究者と,論文を採択して論文掲載料の獲得をねらう出版社との関係性にある.ハゲタカ 雑誌への掲載は学術的・経済的にマイナス面しか存在せず,ハゲタカ雑誌への投稿を防ぐ取り組みが必 要である.研究機関や学術団体は,ハゲタカ雑誌に関する注意喚起を行い,研究者によるハゲタカ雑誌 への投稿を防ぐ取り組みが求められる. |
キーワード | オープンアクセス雑誌,ハゲタカ出版社,論文掲載料,Think.Check.Submit. |