論文名 | 地域高齢者の精神的健康の縦断変化に及ぼす老年的超越の影響の検討 ―― 疾患罹患・死別イベントに対する緩衝効果に注目して ―― |
著者名 | 増井幸恵,権藤恭之,中川 威,小川まどか,石岡良子, 稲垣宏樹,蔡 羽淳,安元佐織,栗延 孟,小野口航, 山 緑,新井康通,池邉一典,神出 計,石崎達郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):247 − 258,2019 |
抄録 | 地域在住の前期および後期高齢者に3 ? 4 年間隔で実施した2 時点の縦断データを用いて,老年的超
越が精神的健康に対して縦断的な影響を与えるか,大きな疾患や死別を経験した際の精神的健康の低下
を緩和するか,またその年齢差について検討を行った. 分析の結果,ベースライン時の老年的超越が高いと,ベースライン時の精神的健康やその他の変数を 調整しても,フォローアップ時の精神的健康が有意に高かった.また後期高齢者では「きょうだいとの 死別」経験時の精神的健康の低下が老年的超越により緩衝されることが有意に示された. これらの結果から,前期および後期高齢者では,老年的超越が高いとその後の精神的健康がよくなる ことが示された.また,老年的超越の緩衝効果は限られたイベントのみで確認された.このことは,老 年的超越は前期および後期高齢者の精神的健康に対して状況特異的に機能するのではなく,全般的に高 める働きをもつことが示唆された. |
キーワード | 精神的健康,老年的超越,ライフイベント,縦断研究 |
論文名 | 特別養護老人ホームの終末期ケアにおける多職種チームプロセスモデルの検討 |
著者名 | 田中克恵,舞谷邦代,山根淳子,新口春美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):259 − 269,2019 |
抄録 | 特別養護老人ホームの終末期ケアにおいて職員が必要と考える「多職種が連携・協働するためのチー ムの行動」を明らかにし,「特養の終末期ケアにおける多職種チームプロセスモデル」を検討すること を目的に取り組んだ.先行研究を基に検討した結果,チームの行動は36 項目となった.次に,特養の 職員を対象にコンセンサスメソッドであるデルファイ法を用いて,チームの行動36 項目を基に2 回の調 査を実施した.コンセンサスを示す基準は,平均値,中央値,最頻値においてすべて4 以上の項目とした. その結果,チームの行動は40 項目となった.さらに40 項目を用いて多職種チームプロセスを検討した. 検討したモデルは,地域や施設の規模に関係なく多職種で使用することが可能であり,使用することで チームの機能を促進し,終末期ケアの質の向上につながると示唆された. |
キーワード | 特別養護老人ホーム,終末期ケア,多職種チーム,プロセスモデル |
論文名 | 加齢に対するポジティブなステレオタイプは高齢者において長寿を予測する |
著者名 | 中川 威,安元佐織 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):270 − 277,2019 |
抄録 | 社会的に構成された加齢に対するステレオタイプは,高齢者に内在化され,個人の行動や経験に影響 する傾向がある.本研究では,19 年間の縦断データを用いて,加齢に対してポジティブなステレオタ イプをもつことが高齢者において長寿を予測するか検討した.加齢ステレオタイプがポジティブな者は, ポジティブではない者に比べて,4 年間長生きだったことが示された.年齢,性別,教育歴,日常生活 基本動作,疾患数,配偶者有無,同居子有無,主観的健康感を統制しても,加齢ステレオタイプと生存 に有意な関連が認められた.ポジティブな加齢ステレオタイプが高齢者において長寿を予測するという 仮説を支持する結果が得られた.今後,加齢ステレオタイプと生存の関連の背景にあるメカニズムを検 討すべきである. |
キーワード | 加齢に対する自己認知,ステレオタイプ脅威,エイジズム,主観的幸福感 |
論文名 | 家族介護者による在宅要介護高齢者の看取りケアの場所選択意識に関する要因 ―― 日韓比較研究 ―― |
著者名 | 金 貞任 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):278 − 291,2019 |
抄録 | 本研究では,在宅の要介護高齢者を介護している日韓の家族介護者を対象に,医療サービスと在宅介
護サービスが看取りケアの場所選択意識の関連要因であるか否かを明らかにすることを目的とした. 日本では留置調査,韓国では面接調査の質問紙調査を用いて調査を実施し,日本の946 ケース,韓国の584 ケースが分析の対象となった. ロジスティック回帰分析の結果,日本の訪問看護サービス利用群(OR = 2.11)は, 看取りケアの場所 として在宅選択意識が高く,韓国の訪問看護サービス利用群(OR = 0.37)は,看取りケアの場所とし て在宅選択意識が低いことが示唆された.韓国のみ介護職員のサービス受領の種類が多い群(OR = 0.92)は,要介護高齢者の在宅での看取りケアの選択意識が低かった.日本の短期入所サービスの利用 群(OR = 0.68)と,韓国の介護專門員からの情緒的サポートの受領が多い群(OR = 0.69)は,要介護 高齢者の看取りケアの場所として在宅選択意識が低い傾向にあった. 以上の日韓の家族介護者の比較研究により,家族介護者による要介護高齢者の看取りケアの在宅選択 意識には,日韓の医療サービスの利用が正と負の関連,日韓の在宅介護サービスの利用が負の関連要因 であった.これらのことから,日韓の家族介護者による要介護高齢者の看取りケアの場所選択意識には, 日韓の皆保険制度と介護保険制度の相違が関連する可能性が示唆された. |
キーワード | 日韓比較研究,要介護高齢者,看取りケアの場所,家族介護者 |
論文名 | 中国都市部における障がいのある高齢者とその子ども 援助者の介護サービス利用希望の一致に関する研究 |
著者名 | 牛 嘯塵,杉澤秀博 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):292 − 305,2019 |
抄録 | 本研究の目的は,中国都市部に居住する60 歳以上の高齢者とその子どものペアを対象に,両者の介 護サービスの利用希望の一致の割合と世代間連帯モデルに基づきその関連要因を解明することである. 調査対象は,高齢者については山東省済南市Z 区に在住し,かつ日常生活に支障がある者とし,子ども については高齢者を主に援助している者とし,ペア数は97 であった.要因分析には,ロジスティック 回帰分析を用いた.高齢者とその子どもの間で利用希望が一致した割合は44.3%であった.情緒的連帯・ 交流的連帯の影響については,高齢者が子どもとコミュニケーションを頻回に取っている,あるいは子 どもとの親密度が低い場合,一致する割合が有意に高かった.高齢者との親密度が高いという子どもで は,一致する割合が有意に高かった.合意的連帯の影響については,高齢者が子どもの介護の社会化に 対する意識を正確に理解している場合,子どもが高齢者の介護サービスの対人的抵抗感に対する意識を 正確に理解している場合,一致する割合が有意に高かった.以上,高齢者とその子どもの間では介護サー ビスの利用希望が一致する割合が低いこと,一致の関連要因を検討すると,情緒的連帯が有意な関連を 示していることが示唆された. |
キーワード | 介護規範,介護サービスに対する認識,介護の社会化,世代間連帯,高齢者とその子ども両者 |
論文名 | 高齢就業者の職場における世代間関係と精神的健康 ―― 媒介変数としての職場満足度―― |
著者名 | 原田 謙,小林江里香 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(1):306 - 313,2019 |
抄録 | 本研究は,職場における世代間関係が精神的健康に及ぼす影響を,職場満足度を媒介変数として検討
することを目的とした.データは,無作為抽出された首都圏の60 ? 69 歳の男女285 人から得た.世代
間関係は,職場でのエイジズム,若年世代へのサポートの提供,若年世代との否定的相互作用で測定し
た. 媒介分析の結果,職場でのエイジズムが抑うつに与える直接効果は有意でなく,職場満足度を介して 抑うつに与える間接効果が有意であった.つまり,職場でエイジズムを経験している者ほど職場満足度 が低く,その職場満足度の低さが抑うつ傾向の高さにつながっていた.若年世代へのサポートの提供は, 職場満足度の高さをもたらしていたが,抑うつに対する直接効果・間接効果ともに有意でなかった.さらに,若年世代との否定的相互作用が多い者ほど,抑うつ傾向が高いという直接効果が確認された. |
キーワード | エイジズム,社会的サポート,否定的相互作用,職場満足度,媒介分析 |
論文名 | 日本で介護職として就労を考えている外国人の 就労継続意向についての認識とそれに関連する要因についての文献検討 |
著者名 | 荒居康子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):314 − 321,2019 |
抄録 | 現在,さまざまな制度下で外国人が介護職として就労するために来日し,今後外国人労働者の受け入れ は拡大することが予想される.しかし,彼らの認識に焦点を当てた研究は少ない.本研究では,経済連携 協定(EPA),在留資格「介護」で来日する外国人の就労継続意向の認識とそれにかかわる要因を明らかに する事を目的に文献検討を行った.結果は該当23 件.就労期間についてはインドネシア人・フィリピン人 では平均5年程度の滞在を考えていた.就労継続意向に影響する要因に関しては<対象者の属性><宗教実 践・文化的な考えの違い><アイデンティティの葛藤><日本人との関係性>がテーマとして明らかとな った.考察として,就労継続意向は介護の場での日本人との関係性を通して変化し得ること,また継続意欲 を高めるため,彼らを積極的に知ろうとする姿勢や日本における介護とはなにか,どのように介護の概念を 発展させるかを共に考えていく必要性が示唆された. |
キーワード | 介護,介護福祉士,外国人,就労 |
論文名 | 創造的課題における高齢者と若年者の 世代間相互作用の特徴 |
著者名 | 田渕 恵,三浦麻子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):322 − 330,2019 |
抄録 | 本研究は,高齢者と若年者という異世代が創造的課題に共同で取り組む際の,世代間相互作用の特徴を明 らかにすることを目的としたものである.創造的課題として積み木課題を用い,同世代間・異世代間の相 互作用場面の会話内容に着目した.高齢者同士・若年者同士・高齢者と若年者の3 群の2 名集団により実験 を行った.先行研究に従い課題遂行中の会話を4 つのカテゴリ(「提案の要求」「新しい提案」「提案に対す る反応」「相手の行動に対する評価」)に分類し,各カテゴリに関する発話比率が条件間でどのように異なる かを検討した.その結果,高齢者では相手が若年者である場合のほうが同世代よりも,「提案の要求( 相手 に提案を促す発話)」の比率が高く,若年者同士ではそのような傾向は認められなかった.異世代間の特徴 として,高齢者が若年者に対して目的遂行のための新奇な行動を促す役割を担うという,世代による役割分 担が明確に行われている可能性が考えられた. |
キーワード | 高齢者,異世代間相互作用,創造的課題,会話行動,実験 |
論文名 | 高齢運転者の運転免許返納と健康 |
著者名 | 平井 寛 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):331 − 336,2019 |
抄録 | 高齢運転者の問題に対する関心が高まるなか,道路交通法の改正が行われ,2009 年以降,運転免許返納 者数,返納者割合は改正前に比べ大幅に増加してきている.返納者の増加については一定の効果をあげた といえるが,検討すべき課題が2 つ残されていると考えられる.1 つは機能検査等の導入により,本来の目 的である事故の減少が達成されているのかどうかの検討である.もう1 つは運転免許の返納により自家用 車を使えなくなった高齢者の活動性,健康への影響の検討である.返納を進め,高齢者の活動性,健康を 維持するためには自家用車を利用しなくても生活しやすい環境をつくることである.その1 つの方法とし て高い水準の公共交通サービスの提供が考えられる.公共交通の運行費用の根拠として,公共交通事業の 健康分野へのクロスセクターベネフィットの評価が求められている. |
キーワード | 高齢者,運転免許返納,公共交通,クロスセクターベネフィット,健康影響評価 |
論文名 | 高齢者のエンパワメント ―― 理論と実践活用―― |
著者名 | 安梅勅江 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):337 − 341,2019 |
抄録 | 人間国宝の歌舞伎役者,坂田藤十郎の米寿祝「寿栄藤末廣」.艶を纏った舞は85 年の鍛錬に磨かれたオー
ラを放ち人びとを魅了する.1 人ひとりの心が響きあい,共に生きる喜びを寿ぎつながるエンパワメント
の一端といえよう. エンパワメント(湧活)とは,人びとに夢や希望を与え,勇気づけ,人が本来もっているすばらしい, 生きる力を湧き出させることである. 人はだれもが,すばらしい力をもって生まれてくる.そして生涯,すばらしい力を発揮し続けることが できる.そのすばらしい力を引き出すことがエンパワメント,ちょうど清水が泉からこんこんと湧き出る ように,1 人ひとりに潜んでいる活力や可能性を湧き出させることが湧活である. 支援などの実践では,1 人ひとりが本来もっているすばらしい潜在力を湧きあがらせ,顕在化させて, 活動をとおして人びとの生活,社会の発展のために生かしていく.また,施設機関などの組織や地域では, 構成員1 人ひとりに潜んでいる活力や能力を上手に引き出し,この力を人びとの成長や組織の発展に結び つけるエネルギーとする.これが組織,集団そして人に求められるエンパワメント(湧活)である. 本稿では,30 年におよぶコホート研究成果を引用しながら,高齢者のエンパワメントに向けた理論と実 践活用について論じる. |
キーワード | エンパワメント(湧活),可塑性,多様性,全体性 |
論文名 | 中高年者の自己概念と主観的well-beingの関係 ―― 活動理論の再考を通して―― |
著者名 | 中原 純 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,41(3):342 − 347,2019 |
抄録 | 心理学の分野では広く扱われている自己概念と主観的well-being の関連について,社会老年学では活動 理論の文脈のなかで扱われてきた.筆者は,活動理論を背景に,自己概念のひとつの側面としての役割ア イデンティティと生活満足度の関連を実証的に検討し,その因果関係を示唆する結果を得た.しかし,活 動理論には,複数の役割やそれにかかわる役割アイデンティティの相互作用が主観的well-being に与える 影響を適切に扱えていないという課題がある.この問題の解決を目指し,役割の数やつながりを説明する 自己複雑性理論を取り上げ,活動理論への展開を検討した.その結果として,役割アイデンティティが主 観的well-being へ与える影響を自己複雑性が調整するという新たな活動理論を提案した. |
キーワード | 自己概念,役割アイデンティティ,活動理論,自己複雑性,主観的well-being |