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日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

書 評
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更新日 2023/10/23

健康格差社会;何が心と健康を蝕むのか(第2版)
近藤克則著 定価2,600円+税
発行:医学書院 2022年6月20日
社会格差が人々の健康にまで格差をもたらしていることは,社会や健康・福祉をテーマとするさまざまな学術領域において「社会疫学(social epidemiology)」として広く認知されている.
関連するキーワードである「健康格差」「健康の社会的決定要因」「ソーシャル・キャピタル」についての膨大な国内外のエビデンスをもとに,健康格差の拡大にいち早く警鐘を鳴らしたのが,2005年に出版された本書の初版であった.
本書は社会経済的要因が健康に及ぼす機序を詳細に解説している点できわめて有用である.
その後,著者は研究代表者として牽引する日本老年学的評価研究(JAGES)のビッグデータを用いて,多数の社会疫学研究の論文を輩出してきた.
第2版となる本書には,この17年間に蓄積されたJAGES研究の成果を踏まえて,未解明の研究課題や新たな社会課題の解決に向けて最新の視点や知見が盛り込まれている.
たとえば,ライフ・コースに沿った社会疫学研究の重要性や生活環境そのものへの介入を意味する「ゼロ次予防」への展開について言及している.この点は,健康福祉分野に限らず,多様なステークホルダーの参画の必要性を説くものである.
特に,初版ならびに第2版に掲載される数々のエビデンスは,政策実装においても多大なインパクトを与えてきた.
本学会ではフレイルの社会的側面に関する概念やあるべきとらえ方について,「社会的側面からみたフレイル」検討委員会が提言を行った. 
そのなかで,社会的フレイルの語を用いる際には対象となる高齢者本人の価値観や選好,ライフ・コース,社会規範・制度・政策などの環境条件に鑑みつつ表記すべきことが示された.高齢者本人の人権に配慮した提言であり,本書の主旨やエビデンスが反映されている.だれひとり取り残さない,地域共生社会の実現に向けて,本書は,本学会の羅針盤といえよう.

更新日 2023/10/23

東アジアの高齢者ケア;韓国・台湾のチャレンジ
西下彰俊著 定価2,500円+税
発行:新評論 2022年9月15日
韓国と台湾では,介護サービスのエビデンスが乏しいなかで介護保障政策が実施されており,介護保障政策の再評価が必要な時期である.その意味で本書は,韓国と台湾の介護保障政策の端緒となった研究をとりまとめた一冊といえる.
本書は,第1~9章,終章に構成される.第2~4章までは,韓国の老人長期療養保険制度と介護予防事業の現状と課題の分析がされている.本書において注目すべき点は,老人長期療養保険制度の理念と目的が「介護者家族モデル」であり,家族療養保護士は介護の社会化の後退であること(第2章),昼夜間保護サービスの提供時間とケアマネジャーやケアマネジメントが要介護者に負の影響を及ぼすこと(第3章),認知症高齢者を対象とする終日訪問療養サービスと短期保護サービスの利用者数が少ないこと(第4章)を指摘する.
第5~8章では,台湾の介護政策と介護予防対策が分析されている.介護サービスの対象者が高齢者,障害者,中年期の認知症患者であり,昼間に自宅で要介護者を4名までサービス提供すること(第5章),ケアマネジメントの問題と住み込み型外国人介護労働者の過酷な労働環境(第6・7章),「長期介護2.0」と「エンドオブライフ・ケア」における認知症高齢者などがあいまいであること(第8章)が指摘されている.
本書の研究成果と知見は,直接的には韓国と台湾の介護保障政策に反映されるものではないが,今後の介護政策において基盤となる重要な研究である.韓国と台湾の介護保障政策の効果や課題を科学的に精査する必要性が高まっているなかで,エビデンスに基づいた介護保障政策の研究を促進する契機となることが期待される.

更新日 2023/10/23

高齢社会と社会教育
日本社会教育学会編 定価2,900円+税
発行:東洋館出版会 2022年10月11日
本書には,2019〜2021年度の日本社会教育学会プロジェクト研究「高齢社会と社会教育」の成果を中心に,「今日の超高齢社会における社会教育が果たす役割を再確認することをねらいとして」,「総論」(3編),「高齢者学習支援の理論」(2編),「高齢者学習支援実践論」(6編),「高齢者学習支援の条件整備論」(6編)の4部構成で第一線級の研究者22人による17編の論文が収められている.最近の社会教育の実践活動と課題が幅広く議論されており,高齢社会における社会教育の最新情報を得ることができる.
実数でも割合でもかつてよりも遙かに大きな人口集団を構成することになった高齢者層は,社会のさまざまな領域で陰に陽に影響力をもつようになり,高齢者への役割期待と高齢者の役割認知も変化してきた.社会教育もそうした変化に対応した目的や内容,アプローチの方法が求められていることも,本書から読み取れるだろう.社会教育の研究者や実務家にはもちろんのこと,社会教育にはなじみが薄いと自ら思っている老年学研究者にも一読を勧めたい一書である.

更新日 2023/10/23

社会福祉研究叢書1 認知症のある人への経済支援;介護支援専門員への期待
竹本与志人著  定価4,500円+税
発行:法律文化社 2022年10月30日
本書は経済問題に焦点をあて,認知症のある人やその家族,彼らの身近に位置する介護支援専門員を対象に課題解決の方法を検討している.認知症のある人と家族にとって経済は大きな問題である.しかし要介護者や要支援者のさまざまな相談を受ける介護支援専門員の経済問題の知識や対応力については,これまでほとんど取り上げられてこなかった.本書では,認知症のある人やその家族の状況がまず明らかにされ,介護支援専門員の社会保障制度の選定能力,経済問題の評価方法,認知症高齢者や若年性認知症の患者が使える社会保障制度,介護支援専門員が経済問題に対応するために必要なスキルを習得するための研修プログラムまで,課題解決に向かって段階を踏んで展開されている.そのうち介護支援専門員の知識と能力については,残念ながら十分だとはいえないことが示された.しかし,著者が本書で伝えたいことは,介護支援専門員の知識や能力の不足ではなく,この問題の支援の難しさ,そのなかでも真摯に関わっている介護支援専門員の姿,多くの専門職や機関の積極的な協力・協働の必要性等である.実際のところ,今日の多様化したニーズに対応する複雑な制度を,多忙な介護支援専門員たちに自己努力で情報を常にアップデートしておくように求めるのは酷である.そこには介護支援専門員をバックアップするシステムが必要であり,本書で提案された研修プログラムはそのひとつであろう.
本書は介護支援専門員のみならず,認知症のある人やその家族をサポートする人々にとって,重要な示唆が得られる内容である.
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