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日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

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書 評

更新日 2022/05/16

認知症plusコミュニケーション;怒らない・否定しない・共感する
大庭  輝著 定価2,400+税
発行:日本看護協会出版会 2021年6月10日

河野保子(人間環境大学松山看護学部)

本書は第1章から第5章で構成されており,認知症の人とのコミュニケーションについて最新の知見を踏まえつつ心理学的視点から説明するとともに,著者らが開発したCANDy(日常会話式認知機能評価)というツールについて,その活用法を解説したものである.
第1章は,なぜコミュニケーションが大事なのか?として,認知症の人がとる不可解な行動について記述し,不可解な行動をどのように理解したらよいのか,どうしたらコミュニケーションが増やせるかについて説明している.
第2章は,認知症の人の苦しみを考察するという内容である.認知症と診断されること,認知症の人が抱える苦しみ,不安等について心理学的に分析し,ケアにかかわる者はこの苦しみにどのように向き合えばよいのかについて概説している.
第3章は,認知症の人とのコミュニケーションについて記述されている.認知症の人の非言語的コミュニケーションの重要性,曖昧なコミュニケーションの問題性について事例を用いて解説しており,認知症の人の立場になって考えることの意味を伝えている.
第4章は日常会話による認知症のスクリーニング,第5章は医療福祉現場におけるCANDyの活用法について述べている.日常会話を用いて認知機能を診断するCANDy開発の必要性を説き,このツールが認知症の程度を評価・予測し,ケアの方針を決定するために有用であると説明している.
認知症の人との会話を増やしかかりをもつことは,ケア実践を豊かにし,本人のQOLを高める.その意味において,本書は看護職・介護職等のケアに携わる専門職にとって価値ある良書といえる.

 

更新日 2022/05/16

「幸福な老い」と世代間関係;職場と地域におけるエイジズム調査分析
原田  謙著  定価3,000+税
発行:勁草書房 2020年11月16日

斉藤雅茂(日本福祉大学社会福祉学部)

エイジズム(Ageism;年齢差別・高齢者差別)は,人種差別・性差別に次ぐ,第3の差別とよばれている.エイジズムの解消および対策は,国連が定めた“Decade of Healthy Ageing (2020?2030)”における4つのアクション・エリアのひとつでもある.筆者らは,国内で先行してエイジズム研究に着手してきており,本書はそれら一連の成果をまとめたものである.3つの大規模調査データに基づいて,あくまでも実証的に日本のエイジズムに関する知見を提示している点に特色がある.
要約すると,第T部『変容する高齢者像』では,プロダクティブ・エイジングの「落とし穴」を含め,エイジングにかかわる主要な理論と課題を概観し,高齢者の雇用と地域活動に関する日本の特徴を記述している.つづく第U部『エイジズムの測定と関連要因』では,エイジズム研究をレビューしたうえで,日頃から高齢者との接触が少ない人ほどエイジズムが強い(接触頻度仮説),加齢に関する事実を知らない人ほどエイジズムが強い(知識仮説),老後の生活に対する不安や不満が強い人ほどエイジズムが強い(不満・不安仮説)という3つの仮説がおおむね支持されることを明らかにしている.第V部『職場と地域における世代間関係と幸福感』では,若年者との接触頻度が低い高齢者ほど若年者を嫌悪し回避しがちであること,年長の人の意見や考えが無視されがちといったエイジズムに満ちた職場に身を置いていることは,職場満足度の低さを介して高齢者自身の抑うつ傾向に関連することなどを示している.
本書はエイジズムと世代間関係という社会老年学の重要課題を体系的にまとめられた良書である.本書の理論的含意は示唆に富むものであり,エイジズム研究の射程の理解に有益である.

 

更新日 2022/01/28

幸福な老いを生きる;長寿と生涯発達を支える奄美の地域力
富澤 公子著 定価2,300円+税
発行:水曜社 2021年3月25日

柴田 博(桜美林大学名誉教授)

人類が100歳を少し超えるくらいまで生存できる遺伝子を獲得したのは,3〜4万年前であるとされている.しかし,平均寿命が50歳に達する民族(国民)か出現してから,まだ一世紀あまりしか経っていない.Gerontology(老年学)という用語がThanatology(死生学)という用語と双子のように誕生したのは,1903年のことであった.
老年学は,ルネサンス以降,タテ割化し,要素還元化してきた既存の学問の問題点を止揚するため誕生したがゆえに,学際的な学問として発展する使命を担ってきている.人口学,経済学などを活用し,高齢社会を営んでいく手立てを確立する目的と,そこで生活していく人間の生き方と老い方(死に方もふくめて)に示唆を与える役割も担っている.
評者が本書を高く評価する理由のひとつは,著者がこの2つを強く意識していることである.老いの様式(aging)と老い(aged)の価値に対する考え方,すなわち老化概念は,めまぐるしく変化してきた.1960年代までは,タテ割化し要素還元化した学問の成果が支配的で,老化に対する否定的な考え方しかなかった.しかし,1970年以降,学際的老年学の進展により,直角型の老化(≒終末低下)の考え方,人格と能力の生涯発達理論,老年的超越理論の登場により,老化を肯定的にとらえる視点が広まってきた.
本書は,そのめまぐるしい老化概念の変遷を,奄美における人々との交流と調査をベースに,他著に例をみない学際的な文献検索と緻密な分析により美事にまとめ上げている. 学際的老年学の入門書はもとより,すべての研究者や実践者にとって,必読の著書である.

 

更新日 2022/01/28

世界はチャレンジにあふれている:高齢者ケアをめぐるヨーロッパ&中国紀行
山崎 摩耶著 定価2,700円+税 
日本医療企画 2020年12月15日

北川公子(共立女子大学看護学部)

本書は,新型コロナウィルス感染症との戦いが,1年になろうかという2020年12月に刊行された.著者の山崎摩耶さんは,それまで頻繁に北欧をはじめとする諸外国に赴き,高齢者や困難をかかえる人々への保健医療福祉の現場を訪問し,そこで働く人々と交流を重ねてきた.しかし,その活動を中断せざるをえなくなった感染症流行の渦中に,これまでの知見を整理し,コロナ後の保健医療福祉に従事する人々の活動の手掛かりになることを願って執筆した書であることが,前書きのなかで紹介されている.  本書を構成する国々は,デンマーク,イギリス,ドイツ,フランス,オランダ,フィンランド,リトアニア,そして中国の計8か国に及ぶ.しかしそこを訪れた時期は,コロナ前の2019年以前である.
デンマーク編からは人口14,000人の小さな町での地域包括ケアシステムの実践と,スヌーズレン療法という認知症ケアの手法,イギリス編からはケアラー法,ドイツ編からは日本の介護保険法のモデルとなったドイツ版介護保険法の改正の経過が報告されている.さらに,フランス編では「在宅入院(Hospital at Home)」という往診に似た制度が紹介されている.これは,入院中の治療を在宅でも受けられるようにすることで入院期間の短縮を図るために,1950年代に設けられた制度である.オランダ編では農場で認知症ケアを展開する「ケアファーム」という活動が,フィンランド編では,出産や子育て支援も含め,全世代への支援が紹介されている.リトアニア編では,旧ソ連からの独立後の歩みの概略と高齢者ケア制度整備の進捗状況が紹介されている.最後の中国編では,迫りくる高齢化を目前に,急速なスピードで高齢者ケア制度と人材育成が推進されていることが報告されている.
どの国も,コロナ禍に苦しんだ今,この本を読むと,高齢者の生命と生活はどうだったのか,海外からの介護人材に頼る国々はどうだったのかなど,とても気にかかる.コロナ後への勇気をもらえ,コロナ後の世界に目を向けさせる一冊である.

 

更新日 2021/011/05

高齢者のための法的支援
山口 絢著 定価5,000円+税 
発行:東京大学出版会 2020年4月20日

岡本多喜子(明治学院大学名誉教授)

高齢になると,遺産相続や自らの健康問題などで弁護士や司法書士に依頼することが増える可能性がある.しかし一般の高齢者にとって,法的な事柄を判断してだれに,どのように相談するかを決めることは,決して簡単なことではないだろう.2000年に民法の改正による成年後見制度が施行されたが,その活用も決して多くはない.
本書は高齢者が必要としている法的な支援に関しての著者の博士論文をまとめた一冊である.北米ではElder Law Lawyer という高齢者に関係する法律を専門に扱う弁護士がおり,これらの弁護士は高齢者が抱える法的な課題をひとつの専門領域として扱っている.しかし日本においてはelder lawという考えはあまり浸透していない.著者はこの点に注目し,高齢者自身や弁護士・司法書士へのインターネット調査,聞き取り調査を実施し,日本では今後,どのような支援が必要であるかを検討している.この点は,人口高齢化が進む日本社会における,高齢者と司法とのかかわりを明らかにする新しい視点の研究であるといえる.
日本では2005年10月から日本司法支援センター(通称:法テラス)が業務を開始し,司法制度の利用がより身近なものとなってきた.しかし高齢者の利用は必ずしも多くないという現実があるという.
また法律家も高齢者との関り方には不安をもっている状況もみられ,高齢者の特性を理解した対応ができるとも限らないということが本書から明らかにされた.本書においては司法関係者が高齢者と接する際の技術を身に着ける必要性や,地域包括支援センターと協力しながら高齢者の法的課題を解決する重要性が指摘されている.高齢社会のなかでの司法を考えるうえでの問題を提起している一冊といえる.

 

更新日 2021/011/05

高齢期における社会的ネットワーク:ソーシャル・サポートと社会的孤立の構造と変動
中田知生著 定価3,500円
発行:明石書店 2020年3月21日

村山洋史(東京都健康長寿医療センター研究所)

本書は,タイトルのとおり,社会的ネットワーク,ソーシャル・サポート,そして社会的孤立や孤独感に至るまで,著者のこれまでの研究を中心に丁寧に書かれている.高齢期の社会関係は,老年社会科学分野における主だった研究トピックであることはいうまでもない.本書は,基本的な定義や理論的背景からマニアックな解析結果まで幅広く取り扱っており,初学者のニーズにもこのトピックの専門家のニーズにも対応できる一冊である.
具体的には,ソーシャル・サポートの定義と基礎的分析(第2章,第3章),社会的ネットワークの加齢による変化(第4章),個人を取り巻くソーシャル・サポート・システム(とくにサポートの送り手の移行について;第5章),ジェンダーによる違い(第6章),親子間でのサポートの受け渡し(第7章),居住する地域の影響(第8章),そして社会的孤立と孤独感(第9章),についてそれぞれ論じられている.
そして最後の章である第10章「結論」では,本書で紹介されている知見のまとめ,今後の課題,政策的インプリケーションが記されている.長年にわたり社会的ネットワーク研究を積み上げてこられた著者の考察は,非常に示唆に富むものである.とくに,個人レベルの議論に終始しがちな社会関係に関する研究だが,マクロなレベルの政策にどう提言できるかを考えることも重要である.著者が言う「サポートの社会化」は,現在の地域包括ケアにおいてもっと必要な視点だと感じる.
コロナ禍において,人との対面でのつながりがもちにくくなった一方,オンライン等によるコミュニケーションが世代を問わず普及した.その結果,社会関係のあり方がますます複雑化している.しかし,複雑化した社会関係を読み解くには,これまで積み上げられてきた社会関係についての理論や考え方をしっかりと踏まえ,1つひとつ解きほぐしていく作業が必要である.体系的にまとめられた本書は,大いにその助けになるであろう.

 

更新日 2021/07/09

スーパービジョントレーニング;対人援助専門職の専門性の向上と成長を支援する
ジェーン・ワナコット著 野村豊子,片岡靖子,岡田まり,潮谷恵美訳 定価3,300円+税
発行:学文社 2020年8月10日

和気 純子(東京都立大学人文社会学部)

本書は,保健医療サービスやソーシャルケアの領域における対人援助の専門職らを対象に,スーパーバイザーおよびスーパーバイジーの役割を担う双方にむけて編纂されている.内容は2つに分かれており,前半の1章から7章はスーパービジョンの理論的論考であり,後半には,スーパーバイザーを養成するプログラムである「トレーニングパック」が所収されている.
本書の中核は,第2章で説明されるスーパービジョンの統合アプローチとされる「4×4×4モデル」である.このモデルは,スーパービジョンの4つの機能(マネジメント,サポート,発達,仲介),4つのステークホールダー(サービス利用者,スタッフ,組織,協働機関),スーバービジョン・サイクルの4つの要素(経験,振り返り,分析,アクションプラン)が統合された枠組みである.スーパービジョンは感情,思考,行動の動的な相互関係を対象とし,これらを,スーパーバイジーが協働的なスーパービジョンのもとで省察しながら,自らのアイデンティティや実践を止揚的に発展させる螺旋的なサイクルが存在する.そこでは,両者の役割が明確化され,安全性が確認され,情緒的能力と共感性,正確な観察とアセスメント,パートナーシップと権限が保持され,適切なコーチングと計画立案が求められる.
近年,対人援助専門職のバーンアウトやそれに伴う離職増加が問題となっている.良好なスーパービジョンは,仕事に対する満足度,組織への関与,スタッフの確保,従業員が組織から受ける支援に関する認識にポジティブに作用する.この点からも本書が翻訳された意義は小さくない.

 

更新日 2021/07/09

ソーシャル・キャピタルと健康・福祉;実証研究の手法から政策・実践への応用まで
近藤克則編著 定価4,500円+税
発行:ミネルヴァ書房 2020年4月30日

福川 康之(早稲田大学文学学術院)

本書は,2016年から刊行が始まった「叢書ソーシャル・キャピタル」(全7巻)の第6巻だが,出版順としては最後である.
本書は2部構成となっている.第T部では,ソーシャル・キャピタルに関する研究や実践を行う際の技術的側面に焦点を当てている.すなわち,ソーシャル・キャピタルの測定指標の開発(1章),分析手法(マルチレベル分析)や研究デザイン(混合研究法)の提案(2・3章),ソーシャル・キャピタルを醸成するための地域介入法(4章),地域診断にソーシャル・キャピタル指標を組み入れることの有用性(5章),をそれぞれ論じている.
第U部は「テーマ別にみた実証研究」のセクションで,「地域包括ケア」(6章),「東日本大震災」(7章),「健康格差」(8章),「子ども」(9章),「行動科学的アプローチ」(10章),「運動」(11章),「地域での健康づくり」(12章),「職域での健康づくり」(13章),の各テーマに即してソーシャル・キャピタル研究の成果がまとめられている.
本書はほとんどの章が,高齢者の健康・福祉に関する研究成果の報告や高齢社会を見据えた論考であることから,「老年社会科学」誌の読者が一読する価値は十分あるだろう.
ただし,本書の刊行準備がなされていた段階では,本書の編著者らはもちろん,われわれのだれも想像できなかった事態が生じ,現在まで混乱が続いている.コロナ禍は,人々の行動様式や健康意識に深く影響を与えており,今後の地域の在り方を大きく変えるだろう.本書と現状のギャップを埋めるのは,私たち老年学者にとって最重要課題のひとつである(この拙文を書いたのは2021年1月初旬であるが,これが公になるころには新たな成果が報告されているかもしれないことを期待しつつお断りしておく). .

 

更新日 2021/07/09

成年後見の社会学
税所真也著 定価5,500円+税
発行:勁草書房 2020年2月20日

中谷陽明(桜美林大学大学院老年学研究科)

近年,成年後見制度の概要や留意点などを解説した書籍が数多く著されている.しかしながら本書は,それらの書籍とはまったく異なり,「成年後見」を分析の対象とした,社会学分野の研究書である.第1章の成年後見制度の概要の説明に続いて,第2章では,本書の主題でもある「成年後見の社会化」が説明される.成年後見の社会化とは,家族が担ってきた扶養や介護といった機能が,年金や介護保険によって社会化されてきたのと同様に,家族の機能が成年後見制度によって社会化されていく様子を,多面的に明示していくことが本書のねらいである.
3,4,5章は,これまでに執筆してきた成年後見の社会化についての研究論文が収録されている.第3章では,@親族後見人から第三者後見人への変化の実態の分析,A後見人選択を市町村が申し立てる制度の運用とそれを支える専門職ネットワークの研究.第4章では,@生命保険会社による成年後見制度の取り扱いの分析,A第三者後見人としての士業専門職の主流化についての研究,B家計管理の社会化の実態の分析.第5章では,@後見人による居住環境支援の分析,A本人の自己決定をめぐる後見人と専門職との間でのトラブルの事例の分析,B生活協同組合による成年後見事業の分析.
これらの論文においては,事例研究やさまざまな関係者に対する詳細なインタビュー調査が駆使されており,社会学のフィールドワークの研究成果としても,非常に「厚み」のある知見および記述が示されている.本書は,社会学関連分野の研究者にとっては社会学研究の王道的アプローチによる研究書として,また他分野の研究者にとっても,異なる分野の研究アプローチによる分析等の新鮮さに触れる書籍として,一読の価値のある書籍である.

 

更新日 2021/04/26

人間行動と組織行動:パフォーマンス向上の視点から
西口宏美著  定価:2,500円+税
発行:コロナ社 2020年3月23日

佐伯和子(富山県立大学看護学,北海道大学)

人生100年時代と言われ,生涯現役の人生を送る時代となった.2020年は新型コロナウィルス感染の拡大により,感染予防のために在宅ワークが普及した.雇用形態と労働形態の変革が起こり,働き方改革が一気に進行しつつある.AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の発達は,日常生活はもとより,介護や保健医療福祉のあり方にも大きな変革をもたらすだろう.
社会の変化に合わせて,組織が果たすべき社会的使命の遂行をより効果的効率的に行うためには,「人財」である個々人の育成と,組織の変革が常に求められる.
本書は,著者が大学での講義を基に,7章の構成で人間行動と組織行動にかかわる基本的な理論やモデルが網羅的に説明されているのが特徴である.
第1章は生活の場での行動のプロセスとその質的な評価尺度について,第2章は人間行動と能力を感覚や知覚・認知,運動などの生体機能からとらえている.
第3章は最適な人材確保と知識・技能の共有について,第4章はモノづくり現場における作業の能力の発揮について,第5章は個人と組織のパフォーマンス向上には,個人の動機づけと組織におけるリーダーシップの重要性が説明されている.
第6章では加齢や障害による機能の変化を多様性ととらえ,その補助・代替の方法について,第7章はIoTやAIなど高度情報処理技術の活用の浸透による人間の行動様式の変容や労働のあり方についての考察である.
「コーヒーブレイク」の囲み記事でほっと一息つき,章末問題で学習効果が試される.もちろん解答例は本書に記載されている. 本書は人間行動と組織行動について,体系的に基本的な知識を得たい方や理論を活用して研究を始めようとする研究者に,入門書として最適の一冊である.

 

更新日 2020/11/16

アクションリサーチの戦略:住民主体の健康なまちづくり
芳賀博編著  定価:2,000円+税
発行:ワールドプランニング 2020年3月10日

安梅勅江(筑波大学医学医療系)

待ってました!と掛け声高らかに千両役者の登場,「アクションリサーチの戦略」.こんな本が欲しかった.やっと出た.
編者の芳賀博先生は疫学研究を究め,40年におよぶ当事者主体の研究を探求し,その蓄積のもとに渾身のアクションリサーチ手引書を上梓された.
執筆者の方々の専門は多様な領域にわたる.学際的なフィールド研究に欠かせないアクションリサーチの理論と実践のコツが詰まっている.なによりも全員がアクションリサーチを楽しんでいる様子が文面からにじみ出ている点が素晴らしい.
当事者の参画とともに遂行するアクションリサーチは,まさに当事者エンパワメントのプロセスであると言っても過言ではない.エンパワメントの原則は,@目標を当事者が選択する,A主導権と決定権を当事者がもつ,B問題点と解決策を当事者が考える,C新たな学びと,より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する,D行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し,それを増強する,E問題解決の過程に当事者の参加を促し,個人の責任を高める,F問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる,G当事者のウエルビーイングに対する意欲を高める,の8点.本著の第1章で解説される.
原則を踏まえた住民同士のつながりの活性化,リーダーシップ,住民主体の仕掛けづくり,地域づくり,街づくり,活動評価など,理論に基づく筋道,目から鱗の工夫が盛りだくさんである.
本書は,当事者主体エンパワメント実現へのアクションリサーチのエッセンスを提供する.老年社会学研究に携わるすべての方にとって必読の書である.ぜひご一読をお勧めする.

 

更新日 2020/11/16

研究の育て方;ゴールとプロセスの「見える化」
近藤克則著 定価:2,500円+税
発行:医学書院 2018年10月22日

涌井智子(東京都健康長寿医療センター研究所)

超高齢社会である日本において,科学的根拠に基づいた,社会保障政策や医療・介護サービスの提供がこれまで以上に求められる時代になっている.本書は,そのような時代に,医療や介護,福祉の専門職に必要な知識と研究メソッドに加えて,研究者,専門職らが研究に取り組む姿勢を学ぶことができる一冊である.
本書は第1部で「研究とは何か」という概論を学ぶ.第2部では,研究を計画する段階で必要な文献のレビューや研究デザインの選択,研究倫理についての知識を,第3部では,研究を遂行するに際して必要なデータの収集,解析方法,結果の記述,そして考察や結論の考え方を学ぶ.第4部ではピアの重要性と,研究者としての「考え方」が強調される.
著者が本著で強調するのは,タイトルの「育て方」に象徴されるように,研究に携わるものがどのように研究に向かい,研究を計画し,研究を遂行し,社会に還元するかという考え方,スタイルである.著者の経験や研究実績に基づいて,初学者や中級者(ある程度の研究経験・実績をもち,研究の幅を広げつつある者)に必要であると考えられる実践的・教育的情報が,コラムとして各章に挿入されている点は,まさに本書の特徴である.
本書は,研究の作法的なことだけでなく,研究に取り組む姿勢を学ぶことができるという点で,ある程度の研究実績をもつ若手の研究者が初心に戻るために読むことをお薦めしたい一冊である.研究に関する知識・経験が増え,研究者として自分が担う研究を分野のどこに位置づけるか,研究に取り組む自身の姿勢を俯瞰して見直すことを手助けしてくれる一冊になるのではないだろうか.

 

更新日 2020/5/12

後悔しない「年賀状終活」のすすめ衷心
澤岡詩野著  定価:1,400円+税
発行:カナリアコミュニケーションズ 2019年11月20日

北川公子(共立女子大学)

年賀状が重荷になっている人,年賀状がしんどいという愚痴を耳にした人,年賀状からの卒業を考えている人.本書は,年賀状問題をかかえる人に,豊かな人生づくりに生かす,前向きな解決策を提示している.
第1章『終活としての年賀状事情』では,「年賀状」の起源と意味合いに加え,「終活」についても概観している.年賀状が「年始まわり」という平安時代から続く儀礼に起源があることや,近年の年賀状売り上げの減少とメールやSNSといった媒体の多様化が紹介されている.
第2章『年賀状で確認する人間関係』では,シニア世代の人間関係とその男女差,健康寿命を示しつつ,年賀状の存在意義を問い直している.年に一度だけ,10cm×15cmの限られたサイズで,静かに届けられる年賀状は,人間関係を細く長く継続させる良質なツールといえる.とはいっても,作成過程の手間ひま,長年のしがらみなど,シニア世代ならではの負担が,第3章『ストレス源としての年賀状』で述べられている.
続く第4章『シニアの年賀状事情を知る』では,あいさつ状をしたためて年賀状から引退した事例や,大切な人間関係を残し,年賀状の断捨離によってスリム化を図った事例などが示され,要は自分の気持ちに添う方法を選べばよいと気づかされる.最後の第5章『本当の意味での終活年賀状』では,長年背負ってきた社会通念としての年賀状の重荷を下ろし,自身の幸福感に忠実に生きることを勧めている.
終活が多くのシニア世代の関心を集める今日.だれでも,今からでも,自分らしい豊かな人生の実現のために,年賀状の見直しから着手することは有効だと気づかされる.シニア世代のみならず,老年後期の親を持つ子ども世代にも参考になる一冊である.

 

更新日 2020/5/12

超高齢社会のリアル;健康寿命の本質を探る
鈴木隆雄著  定価:1,900円+税
発行:大修館書店 2019年7月29日

近藤克則(千葉大学/国立長寿医療研究センター)

健康寿命の延伸や予防はどこまで可能か,そして「健康と予防のその先」について書かれた本である.国立長寿医療研究センター研究所長などを経て,桜美林大学老年学総合研究所所長を務めている著者だけあって,豊富なデータや文献に裏付けられている.
25年間に歩行速度などで15歳若返っていることを紹介する一方で,「健康寿命」の裏側には「不健康寿命」が張り付いていること,平均寿命の延伸は,健康寿命だけでなく不健康寿命の延伸を伴っていたことが指摘される.そこで不健康寿命よりも健康寿命を延伸するための2つの戦略が示される.1つは,健康な期間を延ばす戦略であり,もう一つは,不健康寿命の短縮である.平均寿命がヒトという種の限界年齢(115歳)に近づいた集団では,健康期間の延伸戦略の効果は小さい.そして本人の意思とはかけ離れ,他人の意思と胃瘻や人工透析などの医学的技術で不健康寿命が延伸されることは,悲劇以外の何者でもないとする.予防の本質は「先送りにする」ことで,いつかは「病」を発症し「老い」による要介護となり「死」を迎える.死は予防できないという厳然たる事実を理解し納得する「死生観・死生学」が必要と説く.そこでは,「生物学的な命」「物語的な命」という「生命の二重構造」,「事前の終末期ケア計画」から「共有される意思決定」への展開,「死の質」などが考察されている.
どんなにリスクを下げる努力をしても,高齢期には病気や障害は残念ながら発生する.これこそが超高齢社会のリアル(現実)である.「生命」の限界を見据え,「予防」の先にある「死生観」を涵養すべきである.長年に渡り予防研究に携わってきた著者だからこそ書ける,予防の先・超高齢社会のリアルを見据えた一冊である.

 

更新日 2020/5/12

日本における高齢者教育の構造と変遷
久保田治助著   定価:6,500円+税
発行:風間書房 2018年9月15日

堀 薫夫(大阪教育大学教育学部)

本書は,日本における高齢者像と高齢者学習活動の変遷をたどるなかで,高齢者教育論研究の内実を探った著作である.明治期以降の時期を4つに分け,おのおのにおける社会政策と高齢者(老人)大学等の実践の関連を検討し,今後の高齢者学習支援方策への提言を示している.とくに穂積陳重・小林文成・橘覚勝の論の解読を軸に,高齢者像と高齢者教育の視点の変化をたどり,最終的に高齢者教育の通史を目論んだ点は注目される.この3人は日本の老年学の礎を築いた人であり,一次資料からその足跡をたどった点は評価されるだろう.高齢者大学の分析では,高齢者に対する「教育行政と福祉行政の谷間」の問題としてこれを位置づけた点が興味深い.社会政策と地域活動の2軸から高齢者大学への新たな視座を示しているだけに,今後の教育福祉論への接続を期待したい.
他方で高齢者研究と高齢者教育研究をどう接続するのかという課題も残る.また高齢者概念の時代的変化,教育と学習の概念を高齢者に則していかに定義づけるのか,外国研究との接続という点では,今後の論議が必要となろう.
今日の老年社会科学研究では医療的色彩がつよく,人類学・哲学等のいわゆる人文科学系の研究がかなり手薄になっている気がする.しかし高齢期に対する深い洞察においては,こうした人文系からの知見の援用が必要となるように思う.本書の研究方法は,歴史・学説研究だが,老年社会科学研究におけるこうしたスタイルの研究も今後の課題だろう.

 

更新日 2020/2/4

シリーズ心理学と仕事6 高齢者心理学
太田信夫監,佐藤眞一編  定価:2,200+税
発行:北大路書房 2019年1月11日

谷口幸一(NPO法人子どもとシニアのこころ支援の会)

今から仕事に就く若者,中年になり新たに老いの世代とかかわる仕事に就くことを考える人にとっては,高齢者とかかわることは,いわば未体験の世代とかかわることになる.推察や類推はできても,老いを体現している人の心理をいまだ体現していない世代が学ぶことには当然ながら限界があることは否めない.その意味で,老いをとらえる際に,「エイジズム」(高齢者や高齢期に生じる生物・心理・社会的諸問題に対する偏見や態度)に陥りやすいのも事実である.その理解度の限界を認めたうえで,老いの諸課題を真摯に学び,高齢者の側に立ってかかわる姿勢を学ぶことが必要である.
本書は,産業・組織,教育・学習,保健・医療,福祉・介護の分野の従来の科学的な調査・研究の成果に基づき,老いの心理学がどのような仕事の分野で生かせるかについてそのヒントを与えてくれる.
老いが進むにつれて,身も心も,その機能は漸進的に低下し,やがて自尊心も損なわれ,生きる意欲が減少し,動くことも食べることも人と触れ合うことにも億劫になり,足腰の慢性的な痛みに悩まされ,やがて閉じこもりや要介護状態や寝たきりに移行する.現在の高齢者人口のうち,心身の働きが自立した状態の人が約8割で,2割が要介護状態にある人である.このように心身の健康状態が次第に変化していくので,どのような健康レベルの人にかかわるかで,その仕事内容もかかわり方も異ってくる.
本書では,高齢者を対象としたさまざまな仕事が紹介されている.読者は,どのような分野の仕事に興味や関心を抱けるかについて考えながら将来の進路に結びつけてもらいたい.
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日本老年社会科学会事務センター
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