→English  最新更新日:2020年11月16日

日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

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書 評

更新日 2020/11/16

アクションリサーチの戦略:住民主体の健康なまちづくり
芳賀博編著  定価:2,000円+税
発行:ワールドプランニング 2020年3月10日

安梅勅江(筑波大学医学医療系)

待ってました!と掛け声高らかに千両役者の登場,「アクションリサーチの戦略」.こんな本が欲しかった.やっと出た.
編者の芳賀博先生は疫学研究を究め,40年におよぶ当事者主体の研究を探求し,その蓄積のもとに渾身のアクションリサーチ手引書を上梓された.
執筆者の方々の専門は多様な領域にわたる.学際的なフィールド研究に欠かせないアクションリサーチの理論と実践のコツが詰まっている.なによりも全員がアクションリサーチを楽しんでいる様子が文面からにじみ出ている点が素晴らしい.
当事者の参画とともに遂行するアクションリサーチは,まさに当事者エンパワメントのプロセスであると言っても過言ではない.エンパワメントの原則は,@目標を当事者が選択する,A主導権と決定権を当事者がもつ,B問題点と解決策を当事者が考える,C新たな学びと,より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する,D行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し,それを増強する,E問題解決の過程に当事者の参加を促し,個人の責任を高める,F問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる,G当事者のウエルビーイングに対する意欲を高める,の8点.本著の第1章で解説される.
原則を踏まえた住民同士のつながりの活性化,リーダーシップ,住民主体の仕掛けづくり,地域づくり,街づくり,活動評価など,理論に基づく筋道,目から鱗の工夫が盛りだくさんである.
本書は,当事者主体エンパワメント実現へのアクションリサーチのエッセンスを提供する.老年社会学研究に携わるすべての方にとって必読の書である.ぜひご一読をお勧めする.

 

更新日 2020/11/16

研究の育て方;ゴールとプロセスの「見える化」
近藤克則著 定価:2,500円+税
発行:医学書院 2018年10月22日

涌井智子(東京都健康長寿医療センター研究所)

超高齢社会である日本において,科学的根拠に基づいた,社会保障政策や医療・介護サービスの提供がこれまで以上に求められる時代になっている.本書は,そのような時代に,医療や介護,福祉の専門職に必要な知識と研究メソッドに加えて,研究者,専門職らが研究に取り組む姿勢を学ぶことができる一冊である.
本書は第1部で「研究とは何か」という概論を学ぶ.第2部では,研究を計画する段階で必要な文献のレビューや研究デザインの選択,研究倫理についての知識を,第3部では,研究を遂行するに際して必要なデータの収集,解析方法,結果の記述,そして考察や結論の考え方を学ぶ.第4部ではピアの重要性と,研究者としての「考え方」が強調される.
著者が本著で強調するのは,タイトルの「育て方」に象徴されるように,研究に携わるものがどのように研究に向かい,研究を計画し,研究を遂行し,社会に還元するかという考え方,スタイルである.著者の経験や研究実績に基づいて,初学者や中級者(ある程度の研究経験・実績をもち,研究の幅を広げつつある者)に必要であると考えられる実践的・教育的情報が,コラムとして各章に挿入されている点は,まさに本書の特徴である.
本書は,研究の作法的なことだけでなく,研究に取り組む姿勢を学ぶことができるという点で,ある程度の研究実績をもつ若手の研究者が初心に戻るために読むことをお薦めしたい一冊である.研究に関する知識・経験が増え,研究者として自分が担う研究を分野のどこに位置づけるか,研究に取り組む自身の姿勢を俯瞰して見直すことを手助けしてくれる一冊になるのではないだろうか.

 

更新日 2020/5/12

後悔しない「年賀状終活」のすすめ衷心
澤岡詩野著  定価:1,400円+税
発行:カナリアコミュニケーションズ 2019年11月20日

北川公子(共立女子大学)

年賀状が重荷になっている人,年賀状がしんどいという愚痴を耳にした人,年賀状からの卒業を考えている人.本書は,年賀状問題をかかえる人に,豊かな人生づくりに生かす,前向きな解決策を提示している.
第1章『終活としての年賀状事情』では,「年賀状」の起源と意味合いに加え,「終活」についても概観している.年賀状が「年始まわり」という平安時代から続く儀礼に起源があることや,近年の年賀状売り上げの減少とメールやSNSといった媒体の多様化が紹介されている.
第2章『年賀状で確認する人間関係』では,シニア世代の人間関係とその男女差,健康寿命を示しつつ,年賀状の存在意義を問い直している.年に一度だけ,10cm×15cmの限られたサイズで,静かに届けられる年賀状は,人間関係を細く長く継続させる良質なツールといえる.とはいっても,作成過程の手間ひま,長年のしがらみなど,シニア世代ならではの負担が,第3章『ストレス源としての年賀状』で述べられている.
続く第4章『シニアの年賀状事情を知る』では,あいさつ状をしたためて年賀状から引退した事例や,大切な人間関係を残し,年賀状の断捨離によってスリム化を図った事例などが示され,要は自分の気持ちに添う方法を選べばよいと気づかされる.最後の第5章『本当の意味での終活年賀状』では,長年背負ってきた社会通念としての年賀状の重荷を下ろし,自身の幸福感に忠実に生きることを勧めている.
終活が多くのシニア世代の関心を集める今日.だれでも,今からでも,自分らしい豊かな人生の実現のために,年賀状の見直しから着手することは有効だと気づかされる.シニア世代のみならず,老年後期の親を持つ子ども世代にも参考になる一冊である.

 

更新日 2020/5/12

超高齢社会のリアル;健康寿命の本質を探る
鈴木隆雄著  定価:1,900円+税
発行:大修館書店 2019年7月29日

近藤克則(千葉大学/国立長寿医療研究センター)

健康寿命の延伸や予防はどこまで可能か,そして「健康と予防のその先」について書かれた本である.国立長寿医療研究センター研究所長などを経て,桜美林大学老年学総合研究所所長を務めている著者だけあって,豊富なデータや文献に裏付けられている.
25年間に歩行速度などで15歳若返っていることを紹介する一方で,「健康寿命」の裏側には「不健康寿命」が張り付いていること,平均寿命の延伸は,健康寿命だけでなく不健康寿命の延伸を伴っていたことが指摘される.そこで不健康寿命よりも健康寿命を延伸するための2つの戦略が示される.1つは,健康な期間を延ばす戦略であり,もう一つは,不健康寿命の短縮である.平均寿命がヒトという種の限界年齢(115歳)に近づいた集団では,健康期間の延伸戦略の効果は小さい.そして本人の意思とはかけ離れ,他人の意思と胃瘻や人工透析などの医学的技術で不健康寿命が延伸されることは,悲劇以外の何者でもないとする.予防の本質は「先送りにする」ことで,いつかは「病」を発症し「老い」による要介護となり「死」を迎える.死は予防できないという厳然たる事実を理解し納得する「死生観・死生学」が必要と説く.そこでは,「生物学的な命」「物語的な命」という「生命の二重構造」,「事前の終末期ケア計画」から「共有される意思決定」への展開,「死の質」などが考察されている.
どんなにリスクを下げる努力をしても,高齢期には病気や障害は残念ながら発生する.これこそが超高齢社会のリアル(現実)である.「生命」の限界を見据え,「予防」の先にある「死生観」を涵養すべきである.長年に渡り予防研究に携わってきた著者だからこそ書ける,予防の先・超高齢社会のリアルを見据えた一冊である.

 

更新日 2020/5/12

日本における高齢者教育の構造と変遷
久保田治助著   定価:6,500円+税
発行:風間書房 2018年9月15日

堀 薫夫(大阪教育大学教育学部)

本書は,日本における高齢者像と高齢者学習活動の変遷をたどるなかで,高齢者教育論研究の内実を探った著作である.明治期以降の時期を4つに分け,おのおのにおける社会政策と高齢者(老人)大学等の実践の関連を検討し,今後の高齢者学習支援方策への提言を示している.とくに穂積陳重・小林文成・橘覚勝の論の解読を軸に,高齢者像と高齢者教育の視点の変化をたどり,最終的に高齢者教育の通史を目論んだ点は注目される.この3人は日本の老年学の礎を築いた人であり,一次資料からその足跡をたどった点は評価されるだろう.高齢者大学の分析では,高齢者に対する「教育行政と福祉行政の谷間」の問題としてこれを位置づけた点が興味深い.社会政策と地域活動の2軸から高齢者大学への新たな視座を示しているだけに,今後の教育福祉論への接続を期待したい.
他方で高齢者研究と高齢者教育研究をどう接続するのかという課題も残る.また高齢者概念の時代的変化,教育と学習の概念を高齢者に則していかに定義づけるのか,外国研究との接続という点では,今後の論議が必要となろう.
今日の老年社会科学研究では医療的色彩がつよく,人類学・哲学等のいわゆる人文科学系の研究がかなり手薄になっている気がする.しかし高齢期に対する深い洞察においては,こうした人文系からの知見の援用が必要となるように思う.本書の研究方法は,歴史・学説研究だが,老年社会科学研究におけるこうしたスタイルの研究も今後の課題だろう.

 

更新日 2020/2/4

シリーズ心理学と仕事6 高齢者心理学
太田信夫監,佐藤眞一編  定価:2,200+税
発行:北大路書房 2019年1月11日

谷口幸一(NPO法人子どもとシニアのこころ支援の会)

今から仕事に就く若者,中年になり新たに老いの世代とかかわる仕事に就くことを考える人にとっては,高齢者とかかわることは,いわば未体験の世代とかかわることになる.推察や類推はできても,老いを体現している人の心理をいまだ体現していない世代が学ぶことには当然ながら限界があることは否めない.その意味で,老いをとらえる際に,「エイジズム」(高齢者や高齢期に生じる生物・心理・社会的諸問題に対する偏見や態度)に陥りやすいのも事実である.その理解度の限界を認めたうえで,老いの諸課題を真摯に学び,高齢者の側に立ってかかわる姿勢を学ぶことが必要である.
本書は,産業・組織,教育・学習,保健・医療,福祉・介護の分野の従来の科学的な調査・研究の成果に基づき,老いの心理学がどのような仕事の分野で生かせるかについてそのヒントを与えてくれる.
老いが進むにつれて,身も心も,その機能は漸進的に低下し,やがて自尊心も損なわれ,生きる意欲が減少し,動くことも食べることも人と触れ合うことにも億劫になり,足腰の慢性的な痛みに悩まされ,やがて閉じこもりや要介護状態や寝たきりに移行する.現在の高齢者人口のうち,心身の働きが自立した状態の人が約8割で,2割が要介護状態にある人である.このように心身の健康状態が次第に変化していくので,どのような健康レベルの人にかかわるかで,その仕事内容もかかわり方も異ってくる.
本書では,高齢者を対象としたさまざまな仕事が紹介されている.読者は,どのような分野の仕事に興味や関心を抱けるかについて考えながら将来の進路に結びつけてもらいたい.
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