→English  最新更新日:2017年5月30日

日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

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書 評
更新日2017/10/31

超高齢社会を生きる;老いに寄り添う心理学

日本心理学会監修,長田久雄,箱田裕司編著 定価2,052円

発行:誠信書房 2016年12月10日

藤田綾子(大阪大学名誉教授)

本書は,日本心理学会が「面白くてためになる心理学叢書シリーズ」として監修した心理学叢書のなかの一書である.
 第T部,第1章は,健康長寿にとって,身体活動・運動を無理なく続けるための心理的支援.第2章は,食生活と心理的な問題.第3章は,百寿者調査から導き出された「サクセスフルエイジング」についての新しい視点.
 第U部,第4章は,高齢者の「モノの使いやすさ」を高めるため,「良いデザイン」と「コミュニティの力」の必要性.第5章は,「閉じこもり高齢者」の予防と支援のために,ライフレビューの活用が紹介.第6章は,高齢者の「うつ病」の一次予防は「生活習慣」の改善,二次予防は家族・友人によるケアの重要性,三次予防では,自殺予防を指摘.
 第V部,第7章は,「認知症」の病気について,また,認知症者の生活を支える家族・介護者の心構え.第8章は,認知症に対する心理学からの貢献として,アセスメント面,支える家族への心理療法,さらに,権利擁護への心理的支援の3点を指摘.第9章は,アルツハイマー型認知症の発症に影響する要因として,運動・食事・知的活動・社会的ネットワークについて.
 以上,本書は,高齢者の生活の質を高めるための重要な課題に関して,第一線で研究や支援活動を行っている専門家の執筆によるものなので,超高齢社会を生きる人について学び,実践している人にとって貴重な情報を与えてくれる.
 しかし,超高齢社会の到来は,「量」だけでなく「質」的な変化が起きている.にもかかわらず,本書の章立ては,高齢者を弱者ととらえ,支えられる対象としての高齢者観に基づいている.心理学は高齢者を狭い視点からしか見据えていないのか,(そうではないのに!)という不満が残った.
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更新日2017/10/31

就労支援で高齢者の社会的孤立を防ぐ;社会参加の促進とQOLの向上

藤原佳典,南 潮編著 定価4,860円

発行:ミネルヴァ書房 2016年11月10日

澤岡詩野(公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団)

本書は高齢者就労を経済活動という側面ではなく社会的側面に着目し,豊富なデータと事例を基に,地域包括ケア時代の新たな支援体制の在り方を検討した意欲的な一冊といえる.
 まず第T部では,高齢者就労が心身の健康維持に重要で,孤立への懸念を払しょくさせる選択肢として有用であることを示している(1章).さらに,「生きがい就業」や「第三の働き方」という経済的動機ではない高齢者就労の在り方を中心にした労働社会の変容(2章),増加しつつある派遣労働における高齢者就労の実態(3章),高齢者の労働能力(4章)についてデータを基に丁寧に記述している.次に第U部では,シルバー人材センター(5章),社会福祉協議会(6章),高齢者協同組合(7章),東京しごと財団(8章)について,具体的な取り組みや課題を紹介している.最後に第V部では,就業支援体制を考える視点として,多様な事業主体による重層的な支援(9章),就労支援に当たる職員に求められる孤立予防のゲートキーパーとしての役割(10章),高齢者を雇用するメリットを理解したうえでの経営者のマネジメント(11章),地域包括ケアシステムとしての高齢者就労(12章)の在り方を読者に投げかけている.
 とくに興味深く感じられるのは,就労の機会を求める高齢者には制度の狭間に在る高齢者が存在し,求職活動そのものが社会参加になっている実態を調査から明らかにしたことである.本書は,高齢者を雇用する企業,就労のコーディネートを行う団体から,自治体の福祉系部署や地域団体,地域包括ケアセンターの職員までに,多くのヒントを与えてくれるだろう.
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更新日2017/5/31

ケアと健康;社会・地域・病い

近藤克則編著 定価3,780円

発行:ミネルヴァ書房 2016年9月10日

原田 謙(実践女子大学人間社会学部)

 本書は,ソーシャル・キャピタルを鍵概念として,社会疫学の成果をふまえてケアと健康の関係性を議論した一冊である.ケアという営みあるいは概念を軸として「人間についての探究」と「社会に関する構想」を総合する試みである『講座ケア:新たな人間−社会像に向けて(全4巻)』の4巻目を成す.全体の構成は,第T部「健康に影響する社会的・環境的・遺伝的要因」,第U部「ソーシャル・キャピタルと健康」,第V部「社会的レベルのケアに関わる要因と政策」,第W部「ケアにおける“多対多モデル”」に整理されている.  本書が今日の学会にとって有意義である理由のひとつは,ソーシャル・キャピタルという概念の理論的/政策的意義が的確に整理されている点である.ソーシャル・キャピタルについては,本学会誌でも特集を組んだが(37巻4号),第U部でソーシャル・キャピタルと健康に関する疫学研究が簡潔にレビューされ,秋田県の自殺対策や,愛知県武豊町の地域サロン事業などの応用研究が具体的に提示されている.  もうひとつは,本書が狭義のケア(個別臨床の介護/看護)だけではなく,広義のケア(さまざまな関係性や制度/システムまで)を重視する立場,そして遺伝的要因や生活習慣といった個人的要因だけでなく,個人を取り巻く社会的・経済的な環境要因を健康の重要な決定要因として重視する立場をとっている点である.本来,学際的な議論の場である「老年社会科学」会では,本書が強調する社会的・経済的な環境要因に焦点を当てた研究がますます重要になっていくだろう.会員諸氏に,新しい健康観の認識枠組(パラダイム)という知的刺激を提供してくれるお薦めの一冊である.
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更新日2017/5/30

荻窪家族プロジェクト物語;住む人,使う人,地域の人みんなでつくり多世代で暮らす新たな住まい方の提案

荻窪家族プロジェクト編著,瑠璃川正子,澤岡詩野,連健夫ほか 定価1,944円

発行:萬書房,2016年5月10日

芳賀博(桜美林大学大学院老年学研究科)

 本書は,高齢になったときの理想の住まい方,すなわち,『さまざまな世代の他人が心地いい距離感をもって助け合って暮らす住宅と地域交流により力を得ていく場所』を求めて,そのことに賛同する専門家や仲間とワークショップなどの手法を用いて,理想とする住まいの建設と活用の仕方について,そのプロセスも含めてまとめたものである.既存の高齢者向け住宅とは異なる,住民自らがつくりだす新たな住まいと住まい方にヒントを与えてくれる書である.  第二章では住居のハード面から,第三章では利用の仕方のソフト面からの工夫が列挙されているが,いずれも,住まいのオーナー,専門家などのコアメンバーに加えて入居者や地域の人びとをも巻き込んだ「参加のデザイン」により,理想の住まいを追い求めようとしていることが「荻窪家族プロジェクト」の特徴といえよう.また,本プロジェクトのもう一つの重要なキーワードとして「第三の居場所」を挙げることができる.「家庭」「職場や学校」という生活上必要不可欠な居場所に続く,潤いを与える場としての第三の居場所を持つことが大切であるという.多世代の多様なつながり,出番や役割を見いだせる居場所づくりを目指しているのである.  そのほかに,本書を読み解くためのキーワードとして,第四章で「多世代」「シェア」「地域開放」「ワークショップ」等を取り上げ,解説している.これらキーワードの意味をまず理解したうえで,各章を読み進めるのもよいかもしれない.第三章では,「百人力サロン」の取り組みが紹介されている.その試みは,各地で実践されている○○サロンの企画に悩んでおられる方々には参考になると思われる.  いずれにしても「荻窪家族プロジェクト」は,「現在進行形」をモットーにしており,今後の展開が楽しみである. ?
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更新日2017/5/30

認知症ケアマネジメント;認知症の行動・心理症状に対処する技法

加瀬裕子著 定価2,592円

発行:ワールドプランニング 2016年7月15日発行

北川公子(共立女子大学看護学部)

 本書は7つの章から構成されている.第1章「ケアマネジメントの概念と介護保険制度におけるケアマネジメント」では,文献から歴史的な経緯をひも解き,欧米におけるケアマネジメントの起こりと機能を,とくに在宅ケアに軸足をおきながら整理している.また,日本の介護保険制度においてケアマネジメントの現状にも触れられている.第2章「認知症ケアマネジメントのガイドライン」ではエビデンスに基づく文献検討から,『認知症ケアマネジメントガイドライン』『認知症アセスメントについてのガイドライン』『認知症ケアプランのアセスメントについてのガイドライン』『家族・介護者のアセスメントと支援についてのガイドライン』を示した.続く第3章「認知症ケアマネジメントの実際」では,介護保険制度下での実際の援助事例から,認知症ケアマネジメントの課題を実証的に探索している.  第4〜6章は一転して,介護保険事業所に対象とした質問紙調査の検討結果を述べている.第4章「認知症ケアにおける効果的なアプローチの構造」では,BPSDが改善した204例の質的検討から,“心理的ケア−身体的ケア”軸と,“環境への働きかけ−本人への働きかけ”軸とで構成された介入・対応モデルを導いた.また,第5章「認知症の行動・心理症状と効果的な介入・対応の関連(量的分析1)」では介護施設でのBPSD改善例130事例,第6章「居宅介護における認知症の行動・心理症状への対応(量的分析2)」では在宅でのBPSD改善例72事例に対してコレスポンデント分析を行い,効果的な介入行動を明らかにした.そして7章の「総括」へと続く.  圧巻は章ごとにリストされた文献の豊富さである.ケアマネジメントや認知症ケアに携わる実践者から研究者まで,幅広く活用できる一冊である.
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更新日2017/5/30

よくわかる高齢者心理学

佐藤眞一,権藤恭之編著 定価2,700円

発行:ミネルヴァ書房,2016年6月10日

山緑(慶應義塾大学)

 本書は,ミネルヴァ書房『やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ』の一書である.初学者にもわかりやすく,高齢者心理学の重要なトピックスを99選定し,各トピックを見開き2頁で解説している.  高齢者心理学は,心理的側面のエイジング・プロセス,メカニズムの解明を目指すとともに,超高齢社会や老いが内包する心理的諸問題の解決に取り組んでいる.本書の第一の特徴は,心理学的側面の加齢変化にとどまらず,生物学的側面,社会学的側面の加齢変化も解説し,それらの加齢変化が人の心理的側面に与える影響についても論じている点である.  第二に,100近いトピックスを扱う本シリーズの特徴を活かして,本書は認知情報処理と情動・感情の加齢変化について,多様な視点から解説している.認知情報処理に関しては,認知加齢に関する諸理論,注意,記憶と学習,高次の情報処理,さらにメタ記憶,認知の予備力などを取り上げ,丁寧に解説している.また情動・感情については,高齢者の心を理解するうえで重要なトピックスであるパーソナリティ,感情,老の自覚などに関する研究が紹介されている.人と人のつながり,すなわち社会関係をはじめとして,介護や現代社会の問題まで,広く「社会」に関するトピックスを取り上げている点も本書の特徴である.   本書は高齢者の心理に関心のある初学者にとって,高齢者心理学の内容を知るための教科書や参考書として最適な書であるとともに,卒業研究や修士論文に取り組む学生が研究テーマを選定し,関連する概念を学ぶのに適した良書である.また科学的知識として「老い」を知り,自らが「老いを生きる」ことの意味を問うことに対する,多くのヒントを与えてくれる.
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更新日2016/11/18

高齢社会のアクションリサーチ;新たなコミュニティ創りをめざして

秋山弘子編著 定価3,024円

発行:東京大学出版会 2015年9月26日

古谷野 亘(聖学院大学人間福祉学部)

待望の書物が公刊された.急速な人口高齢化と,それに伴う課題の増加にこたえて,全国の自治体でさまざまな取り組みが進められている.研究者は,多くの自治体の取り組みに顧問的な立場で加わっているが,なかには地域での取り組みを自分の研究として位置づけ,それを科学的な営為として構築しようとしている人がいる.また,大学院生や若手研究者のなかには,地域での取り組みを学位請求論文にまとめ,あるいは雑誌論文や学会発表として世に問いたいと思っている人がいる.そうした人びとにとって,本書は格好の手引きとなるであろう.
本書は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術開発センター(RISTEX)の研究開発プロジェクトの経験と成果をもとにまとめられた入門書である.各章では,アクションリサーチのそれぞれのフェーズで行うべきこと,守るべきポイントが整理され,豊富な実践例をもとに記述されている.読者は,各章を順に読み進んでいくことを通して,各フェーズで求められる知識と技術を知り,身につけていくことができるであろう.
本書の目的は,「コミュニティにおけるアクションリサーチを科学的手法として確立する」ことであるとされている.これはまさに現在求められていることであるが,残念ながら,この点では道半ばであるとの感を禁じえない.日本の社会老年学においては,量的研究が隆盛ななかで質的研究の方法論的洗練が進み,長い時間をかけて受け入れられるようになった歴史がある.本書が扱うアクションリサーチにも同様のプロセスが必要なのかもしれない.著者たち,そして現在アクションリサーチに携わっている研究者たちには,先駆者また開拓者としての貢献を期待したい.
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更新日2016/11/18

認知症の人を知る;認知症の人はなにを思い,どのような行動を取るのか

加藤伸司著 定価1,080円

発行:ワールドプランニング 2014年2月25日

下垣光(日本社会事業大学社会福祉学部)

著者は,1982年の聖マリアンナ医科大学病院での臨床活動を皮切りに,認知症ケアの第一線で,認知症のある人の心理的理解をベースにし,研究活動を行ってきており,本書は一般の人に限らず専門職の人にとっても,認知症のある人の立場にたって心理を踏まえた支援を平易な表現で説明している.
前半の章では,多くの一般の人にとって,理解しにくい老化現象と認知症の違い,心理的特徴として,「慢性的な不快感」「持続する不安感」「自発性低下やうつ状態」「混乱状態」など具体的に例示を,専門的な研究成果を背景にしながら,その人の「気持ち」に通じる対応の説明へとつなげている.
認知症の行動・心理症状は,いわゆる問題対処型のケアにつながる最大の要因である.中核症状である認知機能障害がどのような心理状態をもたらしているのか,それこそが原因となり,徘徊などの行動・心理症状につながっているものといえる.その理解こそが,専門職のケアにおいても基本となる視点であり,本書のなかで繰り返し強調されている記述でもある.
また第5章では,「悪性の社会心理」としてTomKitwoodの提唱するケア環境の負の側面を説明している.ここでは,日常的な事例を付け加え,とくに専門職のケアに,自らの対応を検証するための手がかりを提示している.著者が指摘しているように,「だます」ということは,「認知症の人の世界に入る」という視点で,たとえ事実でないことも本人にあわせて説明することが,日常的にケアの現場で行われやすい現状にとって重要な警鐘となるものといえる.本書では,認知症におけるケアを,心理的理解をべースに考える視点をわかりやすく説明している一般書でもあり専門書でもある.
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更新日2016/5/23

在宅ケア学第6巻 エンド・オブ・ライフと在宅ケア

日本在宅ケア学会編 定価:2,592円

発行:ワールドプランニング 2015年9月5日発行

工藤禎子(北海道医療大学看護福祉学部)

日本在宅ケア学会の設立20周年を記念して,『在宅ケア学 全6巻』が出版された.本書は,その第6巻であり,「エンド・オブ・ライフケア」研究におけるわが国の第一人者である長江弘子氏(東京女子医科大学看護学部教授)によって編集された. 日本在宅ケア学会が編集する『在宅ケア学』の一冊に位置づけられた「エンド・オブ・ライフと在宅ケア」は,高齢社会が今後も進行するわが国の地域包括ケアの指針ともなる意義深い書といえる.
本書は,第1部基本編と,第2部実践編からなる.第1部は,エンド・オブ・ライフを必要とする社会的背景,エンド・オブ・ライフの概念,倫理的課題,チームアプローチ,ケアの質と人材育成などが取り上げられている.
エンド・オブ・ライフケアについて,従来のターミナルケア,終末期ケア,緩和ケアなどの用語との関係が整理されており,エンド・オブ・ライフケアは,看取りだけではない最善の生を生き切るための,治療と療養の場の選択であり,合意形成,意思決定のプロセス,チームでかかわる組織的なアプローチが重要であることについて理解が促される.
第2部実践編では,エンド・オブ・ライフケアが必要となる多様な疾病別の支援が取り上げられており,がん,慢性呼吸不全,脳卒中後遺症,神経難病などの患者への実践的な対応が役に立つ.それらに加え,高齢者の終末期において特別の配慮を要する認知症やひとり暮らしの方への支援のあり方も考えさせられる構成となっている.
エンド・オブ・ライフという切り口からケアを見直すことは,すべての保健医療福祉関係者にとって重要であり,手に取ってほしい一冊である.
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更新日2016/5/23

後半生のこころの事典

佐藤眞一著 定価:1,728円

発行:CCCメディアハウス 2015年4月23日発行

谷口幸一(東海大学健康科学部)

人の生涯にわたる発達のプロセスを心理社会的視点から論じた理論家は多い.たとえば,エリクソン,E.H,ハヴィガーストR.J,ユングC.G,ペックR.C,レビンソンD.J.などの理論家達は,ライフサイクル(人生周期)理論に基づいて,人生の後半生を含む生涯発達について論じている. 本書では,ホームズとレイ(Holmes & Rahe,1967)が,Journal of Stress という学術誌において概念化した「ライフイベント」という用語をキーワードにして,人生の後半生の時期に生じる生活上の変化や適応の在り方について,幾多の事例をもとにわかりやすく解説されている. 本書は,人生の後半生を60代,70代,80代,90代に分けて,各年代に大方の人に遭遇する個別のライフイベントを示して,その解決に奔走する個人の在り方について,具体的な事例を挙げて解説されている.老い行く過程で生じるライフイベントとは,往々にして重く,陰湿で,できれば触れたくない回避的イベントとしてとられやすい.とくに今から老いを迎える世代にとっては,できるだけ先延ばしにしておきたいストレッサーとみなされやすい.著者の解説にもあるように,老いの生活で遭遇する生活出来事は,悪いイベントのみではなく,良いイベントもある. いずれにしても,遭遇したイベントを当人が,どのように受け止め,意味づけるかにかかわってくる.性格,体力,健康,興味・関心など同年代の人達のなかでも,個々の生活事象に対する受け止め方や対処の仕方は異なる.その意味で,ライフイベントは,大まかな人生のメルクマールということになろう.祖父母や老いつつある親世代とふれ合う機会が希少になりつつある現代の日本において,本書を読み進めることによって,迎えつつある老いの時代を疑似体験し,それを迎え撃つ覚悟もつくる好機になると思われる.
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更新日2015/6/15

高齢者とのコミュニケーション;利用者とのかかわりを自らの力に変えていく

野村豊子著 定価:2,160円

発行:中央法規出版 2014年7月20日発行

黒川由紀子(上智大学)

本書は高齢者とのコミュニケーションについて,専門職向けに書かれたものである.「コミュニケーションについて学ぶ」「自分自身について理解する」「高齢者とのかかわりについて考える」の3つの柱が立てられている.
第一章「コミュニケーションについて学ぶ」では,コミュニケーションとはなにかを述べ,介護におけるコミュニケ−ション,コミュニケーションの構成要素等に言及されている.第二章「自分自身について理解する」では,自分の傾向,適切な自己開示,感情,関心,組織におけるストレスや葛藤等にふれられている.第三章「高齢者とのかかわりを考える」では,高齢者の理解,信頼関係の形成,高齢者に学ぶ姿勢,高齢者の閉じこもり,高齢者と死,回想やグループでのコミュニケーション,家族等の課題を取り上げている. 「閉じこもっているといわれる高齢者のなかには,当然,静かに暮らすことや一人の時間を楽しんでいる人もいます」高齢者が「今伝えている思いには,ためらいや恥ずかしさもあることを理解することが大切です」などの言葉に深く頷く.
本書は演習やコラムによって,読者が自分をふりかえる機会が随所に盛り込まれている.私はいつのまにか,これまで出会った高齢者やその家族の顔を思い浮かべていた.交わした言葉,励まされた瞬間,受けとった叱責,だれにともなくつぶやかれた独白,喜びとも悲しみとも寂しさともいえない微妙な表情,それが雲のように移ろうさまを想った.それはある種の苦さを含みながら,著者の懐の広さと深さに支えられてだろうか,温かく心地よい体験であった.高齢者とのコミュニケーションを学び,はたまた高齢者と自分の人生を考えるよき契機となる.  
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更新日2015/6/15

原子力災害の公衆衛生;福島からの発信

安村誠司著 定価:5,400円

発行:南山堂 2014年1月20日発行

甲斐一郎(東京大学名誉教授)

本書は,本学会理事長の安村誠司氏(福島県立医科大学教授)が編者となり,東日本大震災の際の原子力災害への公衆衛生的対応をテーマとした重要かつタイムリーな書籍である.
第一に,大震災・原子力災害の経験については,今後,将来に向けてさまざまな形で語り継ぐ必要がある.今回は発生3年後という,ある程度整理の可能となった時点での,とくに自治体レベルの対応の記録として資料的価値がきわめて高い.
第二に,被災者の心身の健康問題は慢性化しており,健康問題をもった個人を対象にする医療・福祉サービス提供もさることながら,集団(地域社会全体)にアプローチする公衆衛生の重要性はますます高まっているように思われた.
第三に,高齢者,障害者などの災害弱者は,@自力で避難行動が困難,A避難のための移動中における健康リスクが高い,B社会経済的要因により避難行動以外にも一般に環境への適応力が低い,などの問題を抱えており,種々の災害時における医療・福祉サービスの事業継続計画(BCP)を整備する必要がある.
第四に,災害に対する備え(preparedness)は国,各自治体,関係諸団体,個人など,いろいろなレベルで行われる必要がある.各レベルが協調して動くことは当然のことだが,それぞれに対応を準備していないと,いざというときに指示待ちでは十分な対応ができない.
記録としての価値という観点からすると,本書の3章にある各市町村からの報告はとくに貴重と思われた.将来のため,多忙のなかで執筆していただいた関係者に深く敬意を表したい.今回はフォーマットを決めて執筆されたようだが,限られた紙幅のなかでは語り尽くせなかったことも多々あったのではないかと想像する.今後も,時系列に沿って,行った活動とその問題点をぜひ語り継いでいただきたいと願うものである.
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更新日2014/11/21

高齢者保健福祉マニュアル

安村誠司,甲斐一郎編 定価3,780円

発行:南山堂 2013年6月12日発行

人間総合科学大学保健医療学部 柴田 博

2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は「病院完結型」から「地域完結型」への医療の転換の重要性を謳っている.保健・医療・福祉の統合の概念が提唱されて四半世紀以上が経過したが,現在その枠組みづくりと実践ならびに評価ツールの整備が喫緊の課題となっている.
このような状況のなかで本書が上梓されたことには大きな意義がある.これまでのこの種のマニュアルは,保健・医療・福祉(介護を含む)の分野別に出されており,統合的なプランを作成するうえで支障となっていた.本書は「序」で述べられているように,高齢者の保健・医療・福祉などに携わる専門職や,これから学んでいく学生にとって必要な分野に関するマニュアルを網羅的に紹介,解説している.家庭で高齢者とともに生活している一般市民を含め,社会のあらゆるセクターの方々に座右の書として活用していただきたい良書である.
しかし,本書はいわば,良質な政府刊行物としての役割を果たすが,それ以上のものではない.本書の発刊後巻き起こっている特定健康診査の基準を巡る論争などに一定の見識を示し得るような思想的な深みがベースにあるわけではない.
老年学へのもう一歩深い理解も欲しい.主観的幸福感は高齢者のQOLのもっとも重要な構成要素である.しかし,うつ尺度をその測定尺度として位置づけておらず,PGCモラールスケールやLSIKの具体的な紹介もない.
1980年に発表された国際障害分類のimpairmentsやLawtonの生活機能モデルのeffectanceの訳語が不適当なのは,老年学の概念への認識不足にも一部起因するであろう.
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更新日2014/05/29

成人学習者とは何か;見過ごされてきた人たち

マルカム・ノールズ著,堀薫夫,三輪建二監訳  定価:3,780円

発行:鳳書房,2013年9月26日発行

甲子園大学心理学部  藤田綾子

本書は,アメリカで成人教育関連の著書を多く著しているマルカム・ノールズのThe Adult Learner :A Neglected Species (4th.ed), 1990をわが国で成人教育・教育老年学の分野で精力的に研究を行っている堀 薫夫・三輪建二の両者が監訳を行った労作である.
本書の構成は5章からなる本論と13個の付録から成り立っている.本論の第1章は,「学習理論の世界の探求」,第2章は,「学習理論について」の記述である.彼は,学習を機械論的な学習と生活体系モデルに分けているが,前者はS-Rの連合モデル,後者は認知モデルで従来から心理学の分野で説明されていたものである.
第3章は,「成人学習の一つの理論:アンドラゴジーについて」である.アンドラゴジーは多くの社会科学からの貢献,とくに人間主義的な心理学といわれる学問の影響を受けて生徒のニーズを中心としたカリキュラムの展開を目指しているという.
第4章では,教授の諸理論が述べられる.教授理論は学習理論と密接に結びついているので,第2章で述べられた学習理論と対応させながら展開されている.
第5章では,学習理論と教授理論の人的能力開発への適用について述べられる.適切な教授モデルは学習課題の複雑さと個人の学習能力レベルの関係で決まること.たとえば,学ぶ内容が単純で学習者の学習能力が高くない場合,行動主義的モデルが,学習内容が中程度に複雑な場合は認知学習理論が,学習内容が高度に複雑で,学習能力が高い場合は人間主義的な理論が適しているという.
付録は,すべて同じ形式ではないが,彼の実践記録というべきものが含まれており,彼の理論の落としどころがみえて興味深い内容であった.
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更新日2014/05/29

シリーズ福祉社会学・第4巻
親密性の福祉社会学;ケアが織りなす関係

庄司洋子編  定価:3,780円

発行:東京大学出版会,2013年8月28日

高崎健康福祉大学健康福祉学部  安達 正嗣

本書は「シリーズ福祉社会学(全4巻)」の第4巻目であり,第1章「ケアの社会学」,第T部「現代家族の子育てと支援」,第U部「介護・介助・看護―家族の意味と限界」,第V部「家族ケアと専門職ケア」の3部構成で,高齢者介護だけでなく,子育て,障害者ケア,原発避難者への支援にも配慮している.
第1章では,「ケアをする側」と「ケアをされる側」の相互作用という本書を貫く主な視点が明確化されている.第T部では,子育ての社会的条件の整備が児童虐待対策には急務であること,日本では家族像の見直しが不十分なままで子育て支援政策が進んできたこと,ひとり親世帯にみられるジェンダー不平等が家族規範を媒介として制度に織り込まれてきたこと,原発避難で親や子どもたちの関係性の分断と親密圏の再構築がみられることなどが,第U部では,全身性障害者が日常生活での介助者との関係性で経験する困難さ,生活を支援する延長に看取りがあること,子世代男性介護者による高齢者虐待家族の分析から家族主義福祉政策の転換の必要性などが,最後の第V部では,親密性の概念の日本的特徴として共同性とセットで考える点が福祉現場で重要であること,家族介護者だけでなくそれ以外の人びとも含むケアラーの概念とその支援がケアラー支援のプログラムとして必要であること,インフォーマルなケアの構造の男女別分析からケアの平等化の検討が求められること,生存保障システム全体の再設計が重要であることなどが,それぞれ提示されている.
以上,本書はケア現場の人びとに対しても重要な示唆を含んだ論考が多く,ぜひお奨めしたい.
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日本老年社会科学会事務センター
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