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第12回IAGG-AORのサテライトセミナーが開催されました

 2023年9月17日に千葉大学において日本老年看護学会企画、第12回IAGG-AORのサテライトセミナーが開催されました。セミナーのテーマは「Gerontechnologyから高齢者ケアのイノベーションの可能性を探る」でした。GerontechnologyとはGerontorlogyとTechnologyを組み合わせた言葉で、高齢化に関する科学とテクノロジーの融合領域です。今回のセミナーではGerontechnologyにおける先駆的な教育・研究の業績のある米国の看護学研究者2名を招聘し、高齢者に焦点を当てたスマートホームテクノロジーに関する研究から最新の知見をご紹介いただきました。以下に講演の概要を報告します。

1.Building Smart Home Monitoring for Aging in Place:Lessons from the Field
(エイジング・イン・プレイスを支援するスマートホームモニタリングの構築:現場からの教訓)

Dr. Roschelle Shelly Fritz
Associate Professor, Nursing, Washington State University College
Betty Irene Moore Fellow for Nurse Leaders and Innovators

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 Dr. Fritzにより、エイジング・イン・プレイスを支援するスマートホームモニタリングの構築について講演していただきました。Dr. Fritzはこれまでスマートホームテクノロジーに関する複数の学際研究プロジェクトを推進してこられました。まずプロジェクトとしてこれまでに進めてこられた高齢者の経時的モニタリング施設であるスマートホームについて、実証実験としてスマートホームのプロトタイプが紹介されました。経時的モニタリングはモーションセンサーを使って得られる情報と個人の日常的な活動のデータを看護師がアセスメントし高齢者の異常を発見できるというものでした。センサーは5つの種類:赤外線センサー、ドアの開閉センサー、照明・温度・湿度の温度で家全体が網羅されるようになっており、内服管理や緑に水をやるといった決まった行動をしているのかをセンサーで察知する仕組みになっていることが紹介されました。

 高齢者の身体状況の変化を察知する上では、相対的歩行スピード、家の出入り、一つの部屋で過ごす時間、お風呂の使用、睡眠、活動レベルなどの個人の日常的な行動や行動パターンの変化から判断されていました。臨床的に有意な変化を抽出するためにそのデータを頻度・中央値・外れ値の値に着目して分析し、健康状態の変化を活動の変化レベルからとらえようとしていると説明されました。看護師は患者の疾患とその行動を臨床的に関連させて把握することが出来るため、看護師のアセスメントが非常に重要であるとご教示いただきました。

 身体的な異変の検出例について肺がん、不眠、転倒のケースから説明され、ほかには慢性疼痛や認知症にも適応できる可能性があることも紹介されました。このように高齢者や介護者にとって有用なテクノロジーではあるものの、高齢者をモニタリングしていく上で、プライバシーの保護や生活の仕方への介入、スマートホームを紹介する看護師への信頼、紹介するタイミング、導入コスト、文化的な要因などの要件をクリアしていく必要があることも説明され、新しいテクノロジーを開発し、実際に受け入れてもらう際の課題も同時にご教示いただきました。

2.Culture, Cohort, and Capabilities: Older adult’s Adoption of Technology
(文化・コホート・能力: 高齢者のテクノロジーの活用)

Dr. Catherine R. Van Son
Professor, Nursing, Washington State University
Lindblad Distinguished Professor in Geriatrics at WSU College of Nursing

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 Dr. Van Sonからは、高齢者のテクノロジーへの適応に関して、文化的観点・コホート的視点からのアプローチ及び高齢者がテクノロジーを利用するための能力の評価についてご紹介いただき、看護師が高齢者のテクノロジー利用のためにどのような支援が必要かについてご教示いただきました。文化的観点からのアプローチについては、高齢者のテクノロジー利用を支援する上で、看護師は高齢者のリテラシー(識字や教育レベル)、アクセス(地域格差や経済格差)、価値観(テクノロジーをどのくらい受容しているか、社会規範等)、テクノロジーへの信頼、プライバシーへの問題やテクノロジー利用に関する認知について考慮することが重要であるとご教示いただきました。コホート的視点からのアプローチについては、高齢者のこれまでの人生から経験した出来事や生活様式は個人のテクノロジーへの考え方に影響を及ぼすため、コホートごとにそれぞれの年代の生活史を考慮したテクノロジーの提供が重要であることをご教示いただきました。高齢者がテクノロジーを利用するための能力の評価については、看護師が視聴覚やADL、認知機能の低下等加齢に伴う障害をアセスメントし高齢者がテクノロジーをどのくらい利用できるかを評価すること、そして高齢者がテクノロジーを利用しない理由を様々な観点からアセスメントすることで、その人にあった利用方法の提案や、テクノロジー利用の重要性の説明を行うことが重要であるとご教示いただきました。

 さらに、今後看護師には、高齢者がテクノロジーを安全に使える方法や使いたくなるような方法を提案し、産学連携によって高齢者にあったテクノロジーを開発していくことも求められるとのことでした。最後に、高齢者のテクノロジーの活用に対するエイジズムを排除し、個人要因・環境要因、両者の視点から高齢者のテクノロジーへの適応を考えることが重要であることをご教示いただきました。

 講演終了後の質疑応答にも多くの質問が寄せられ、高齢者看護におけるテクノロジー活用への関心の高さがうかがえました。講演内容にデータ分析において看護的な視点が非常に大切であることが説明されていたため、看護師の責任が大きいことや、高齢者が達成したい目標の実現のためのデバイスやテクノロジーを提供することが大切であると深く考える機会となりました。また高齢者に提供するテクノロジーに関しては、どういったものが合うのかについてのエビデンスが乏しいことや、高齢者がデバイスを使用する上でのナビゲーションの必要性も指摘され、今後もエビデンスの蓄積が重要であるとご教示いただきました。今後のGerontechnologyの発展に看護師が貢献できる点について多くの知見と刺激を頂き実り多きセミナーとなりました。

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◆Dr. FritzとDr. Van Sonのご研究に関心を持たれた方は以下の論文もぜひご覧ください。
Fritz, R. L.,& Dermody, G. (2019). A nurse-driven method for developing artificial intelligence in "smart" homes for aging-in-place. Nursing outlook, 67(2), 140–153. https://doi.org/10.1016/j.outlook.2018.11.004

Fritz, R. L., Wilson, M., Dermody, G., Schmitter-Edgecombe, M.,& Cook, D. J. (2020). Automated Smart Home Assessment to Support Pain Management: Multiple Methods Analysis. Journal of medical Internet research, 22(11), e23943. https://doi.org/10.2196/23943

F Corbett, C., M Combs, E., J Wright, P., L Owens, O., Stringfellow, I., Nguyen, T.,& Van Son, C. R. (2021). Virtual Home Assistant Use and Perceptions of Usefulness by Older Adults and Support Person Dyads. International journal of environmental research and public health, 18(3), 1113. https://doi.org/10.3390/ijerph18031113

Braley, R., Fritz, R., Van Son, C. R.,& Schmitter-Edgecombe, M. (2019). Prompting Technology and Persons With Dementia: The Significance of Context and Communication. The Gerontologist, 59(1), 101–111. https://doi.org/10.1093/geront/gny071

IAGG-Asia/Oceania Regional Congress 2023日本老年看護学会企画シンポジウム
3つのテーマについて企画・発表しました

 2023年6月12日から14日まで,パシフィコ横浜においてIAGG-Asia/Oceania Regional Congress2023が開催されました.

 この学術集会で日本老年看護学会は3つのシンポジウムを企画し発表しました.各シンポジウムのテーマは,“Care DX”,“Care for older people with dementia and their families from the perspective of care management”,“End-of-life care in care facilities”でした.いずれも世界的に高齢化が進んでいく中で示唆に富む貴重な発表でした.以下にその発表の概要を報告します.

Ⅰ.Care DX

1.How Will Health Care DX Change Health Activities?
(ヘルスケアDXは健康活動をどう変えるか?)
 吉村健佑 千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センター

2.Two academic-industry collaborative research activities related to “Care DX” from a nursing perspective:predict a timing of emergency visits/admission as well as a period to death using technology devices
(看護の視点からの「ケアDX」に関連した2つの産学連携研究活動:テクノロジーデバイスを用いた救急受診・入院のタイミングと死亡までの期間の予測)
 福井小紀子 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科

3.Nursing Care Operation with Advanced Technology
(先端技術を駆使した介護業務)
 山中裕太 社会福祉法人善光会

4.Enhance wellbeing in later life through virtual reality technology
(バーチャルリアリティ(VR)技術による老年期のウェルビーイングの向上)
  Qian Xiao Capital Medical University, China

吉村氏は,今後,PHR(パーソナルヘルスレコード)の導入が進んでいくと,人々が自分自身の健康情報を管理し,理解し,活用してセルフケアもできるようになることが予測されること,医療DXが高齢者の日常ケアに与える影響について説明しました.福井氏は,ケアDXに関する2つの産学連携研究について紹介しました.内容はバイタルサインや睡眠状態の変化を測定することで,終末期患者の予後を予測できる可能性のある研究結果とその意義について,患者の施設内での日常生活状況とリスクイベントとの関係を明らかにする研究とその意義についてでした.山中氏は,発表者の社会福祉法人で既に実践されてきたICT機器やロボットの施設内での試用・活用により介護サービスの質を維持したまま職員の総労働時間が短縮された成果について発表しました.Xiao氏は,バーチャルリアリティを看護技術の開発につなげるための現状について発表しました.いずれもテクノロジーを用いて効率的に適切なケアを提供するために有用な研究であり,さらに仲上氏と野村氏(UK)座長により展開された討議では,この分野における問題意識を共有しました.ケアDXに関する研究のさらなる発展が期待されます.

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Ⅱ.Care for older people with dementia and their families from the perspective of care management

1.Problematic situations that occur during the process from admission to discharge of elderly people with dementia at acute care hospitals and how nurses deal with these situations
(急性期病院における認知症高齢者の入所から退院までの過程で生じる問題状況とどのように看護師がこれらの状況に取り組んでいるか)
 北 素子 東京慈恵会医科大学大学院医学研究科

2.Comprehensive Dementia Care system (CDC system) for older persons: Lamphun Hospital Experience(高齢者のための包括的認知症ケアシステム(CDCシステム): ランプーン病院の経験)
 Pokin Sakarinkhul Lamphun Hospital

3.Exploring the needs and factors that enable people with dementia and their families to continue living at home while maintaining their well-being
(認知症の人と家族がウェルビーイングを保ちながら在宅生活を継続するためのニーズと要因の探索)
 グライナー智恵子 神戸大学大学院保健学研究科

4.Risk negotiation with people with dementia: From co-designed paper version to implementation preparation of an electronic conversation tool
(認知症の人とのリスクネゴシエーション: 共同でデザインした紙版から電子会話ツールの導入準備へ)
  Claudia Meyer Bolton Clarke

 急性期病院の退院支援サービスでは,入院後すぐに,あるいは入院前から退院を複雑にする要因を持つ患者を把握し,適切な時期に適切な場所に退院できるよう退院支援計画を立案しています.そして認知症高齢者の退院支援はこのような困難事例に該当します.北氏は,急性期病院における認知症高齢者の入院から退院に至るプロセスにおいて,看護師がどのような場面で困難を感じているのか,またその状況にどのように対処しているのかについて,これまでの研究から得られた知見を発表しました.

 Sakarinkhul氏は,タイにおける包括的認知症ケアシステム(CDCシステム)について発表しました.タイの政府病院の一つ,ラムプーン病院での医師としての経験をもとに,CDCシステムを構成する3つのサブシステムとその6つの特徴について紹介されました.また,システム導入後の実践例についても説明されました.

 グライナー氏は,24時間連続して縦断的データを収集する機器を用いて,認知症高齢者とその家族の生物学的情報,行動,生活環境を調査し,Virtual Agent (VA)とのコミュニケーションから得た主観的データと統合することにより,介護者のニーズと要因を把握していく研究を行っています.本シンポジウムでは,家族介護者のストレスと睡眠や介護内容との関連,認知症高齢者のストレスと睡眠との関連などについて分析した結果が報告されました.

 Meyer氏は,オーストラリアの認知症高齢者に対する在宅ケアにおいて,ケア提供者と認知症高齢者及びその家族が,日常生活における様々なリスクを回避するための話し合いツール「Enabling Choices」について概説されました.

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Ⅲ.End-of-life care in care facilities

1.Development and Implementation of The End of Life Nursing Education Consortium Core in Japan(End-of-Life Nursing Education Consortium core-Japanの開発と実践)
 田村恵子 大阪歯科大学

2.Development of End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan Geriatric curriculum(End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan Geriatric curriculumの開発)
 西山みどり 有馬温泉病院看護部

3.Palliative and end-of-life care and education in Japanese long-term care facilities(日本の介護施設における緩和ケアとエンドオブライフケアの教育)
 飯田貴映子 千葉大学大学院看護学研究院

4.Palliative care in care facilities in Taiwan: Past, now and future (台湾の介護施設における緩和ケア: 過去,現在,そして未来)
  Wei-min Chu Department of Family Medicine, Taichung Veterans General Hospital

田村氏は,米国で開発されたELNEC(End-of-Life Nursing Education Consortium)のコアカリキュラムの指導者用ガイドに基づいて,日本で開発されたELNEC-J指導者用ガイド(End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan)の,日本の保健医療福祉制度や文化的背景に合わせた改訂の過程を報告しました.特に,高齢者ケアに関して2010年に高齢者ヘのエンド・オブ・ライフ・ケアのモジュールが追加されたことが強調されていました.さらに,受講回数・受講者(看護師)が広がっている現状についても発表しました.

西山氏は,田村氏が紹介されたELNEC-Jコアカリキュラムと,米国の高齢者用の教育プログラムであるELNEC-Gカリキュラムに基づき, 日本の老人看護専門看護師のグループが開発したELNEC-JG(End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan Geriatric Curriculum)について紹介しました.発表では,ELNEC-JGの開発過程では,老年医学を専門とする医師,老年看護を専門とする看護師,高齢者施設の管理者から最新の知見や意見を収集したこと,ELNEC-JGの内容は病院だけでなく,高齢者施設や在宅でのケアにおけるエンド・オブ・ライフ・ケアに必須の知識や技術であることが紹介されました.また,ELNEC-JGが日本老年看護学会や各県の看護協会との協力により3000人以上の看護師に提供されていることなどの成果が報告され,今後の課題や展望についても語られました.

飯田氏は,日本の介護施設における緩和ケアとエンド・オブ・ライフ・ケアケアの現状と,施設スタッフへの教育的介入について,文献レビューと自身が行われたものも含む入居者の家族の経験に関する研究の知見について紹介されました.さらに,今後の研究の方向性と優先順位について提言しました.

Chu氏は,台湾の高齢化が進む中で施設入所高齢者が増えている現状を説明し,アジアのなかでもQuality of Death and Dyingの質が高いとされている台湾の緩和ケアに関して発展の歴史や現在の状況について具体的な事例や関連文献を用いながら説明しました.また,重要な法律として “Hospice Palliative Care Act(2000)”, “Patient Right to Autonomy(2019)”について説明しました.これらの内容から台湾におけるエンド・オブ・ライフ期の高齢者のQOLを向上させるための取り組み将来の展望について論じました.質疑応答では,ELNEC-JGの内容についての質問や,台湾におけるエンド・オブ・ライフ・ケアのあり方,高齢者の死亡診断をめぐる課題など多岐にわたり活発なディスカッションが行われました.

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日本老年看護学会が企画した3つのシンポジウムでは,会場から様々な質問や意見が寄せられ,活発な討論がなされました.本報告が日本老年看護学会の国際活動の紹介のみならず,会員の皆様の積極的な国際活動へつながりますと幸いです.

IAGG-AOR2023に参加した会員の声 

iagg2023参加者蒲谷苑子 iagg2023参加者倉木文

 IAGG-AOR2023に参加した会員の声を掲載しました.ぜひご覧ください.

IAGGと本学会の関係

 1950年に,国際老年学協会(International Association of Gerontology:IAG)として,生物学,老年医療学,老年社会科学の研究促進とその関連分野の教育促進,そして,4年に1回の国際会議の開催を目的に発足した.2005年にはInternational Association of Gerontology and Geriatric:IAGG)となった.国際老年学会の会議は4年に1回であるが,その間に,各地域の大会が開催されている.IAGG-OARは,アジア・オセアニア地域の国際老年学会の会議である.
 本学会が加入している,日本老年学会では,これまでに国際会議を3回開催しており,4回目として,2023年に横浜で第12回アジア・オセアニア国際老年学会議の開催が決定している.2010年に老年学会に加入した本学会にとっては,初めての国際学会の開催となる.