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国際交流委員会から国際誌掲載論文のご紹介
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この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.

日本老年看護学会国際交流委員会

INDEX

Vol.5

1.介入研究

Hsiao-Ying Wu PhD, Ai-Fu Chiou PhD (2023)
The effects of social media intergenerational program on depressive symptoms, intergenerational relationships, social support, and well-being in older adults: A quasi-experimental research
高齢者のうつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングに対するソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果:準実験研究
Geriatr Nurs. 2023 July–August; 52: 31-39.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.008


要旨

 本研究の目的は,高齢者の抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート及びウェルビーイングに対する,ソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果を検証することである.本研究の参加者は,介入群50名,対照群50名,計100名の高齢者であった.介入群の高齢者は,5週間のソーシャルメディアによる世代間交流プログラムを実施し,対照群の高齢者は,通常の日常生活を送った.ベースライン,介入実施から5週間後および9週間後に質問紙によりデータを収集した.本研究では,高齢者の約35%が軽度から重度の抑うつ症状を有していた.研究の結果,介入群は対照群と比較して介入後5週目と9週目に,抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングすべてにおいて有意な改善を示した.ソーシャルメディアを活用した世代間交流は,高齢者の抑うつ症状の改善,世代間関係の促進,ウェルビーイングの向上ために推奨される.


国際交流委員会からのコメント

この研究は台湾で実施された準実験研究です.ソーシャルメディアを用いた世代間交流プログラムは,3時間30分のセッションを1週間に1回,5週間継続して実施されました.セッションの内容は,LINEやFacebook,オンラインのアルバムやビデオファイルの使い方についての学習,世代間でのゲームの実施,LINEグループによる世代間の交流などでした.このプログラムは,高齢者へソーシャルメディアを学習する機会を提供し,そしてそれを活用しながら世代間交流を図るという内容で,高齢者の嗜好に考慮する必要はありますが,現代社会に即したオリジナリティのあるプログラムではないかと考えられました.


2.調査研究

Mary Dioise Ramos PhD, RN (2023)
Exploring the relationship between planned behavior and self-determination theory on health-seeking behavior among older adults with hearing impairment
聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動における計画行動理論と自己決定理論の関係の探求
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 1-7.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.001


要旨

 本研究の目的は,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するうえでの計画行動と自己決定理論の関係を検討することであった.60歳以上の対象者103名に自記式質問紙を用いた調査を実施した.質問項目は,健康追求志向,知識能力,関連性,態度,スティグマ,自覚している能力および自律性に関する変数であった.研究の結果,計画行動と自己決定理論モデルの両方が,聴覚障害を有する高齢者の健康追求志向と行動を有意に予測することが示された.より高い知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性は,健康追求志向と行動の有意な予測因子であることが明らかになった.本研究の結果は,知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性を高めることを目的とした介入が,聴覚障害を有する高齢者の聴覚に関連した健康を追求する行動の促進に有効である可能性を示唆している.今後は,これらの変数が健康追求行動の予測に果たす役割や,この集団における聴覚に関する健康増進のための介入の効果について更なる探求が必要であろう.本研究から得られた知見は,臨床家およびヘルスケアの専門家がこの集団をターゲットにした介入を立案する際に役立つであろう.


国際交流委員会からのコメント

この研究は,計画行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)と自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)による概念モデルが,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するかについて調査したもので,アメリカで実施されました.聴覚障害を有する高齢者は年齢と共に徐々に増加し,75歳以上では約50%の方が聴覚障害を有していると言われています(本文より).聴覚障害は認知機能やQOL等に影響するとされ,近年研究が進んでいます.論文には計画行動理論,自己決定理論による概念枠組みの図が掲載されているので,そちらを確認すると調査の概観が視覚的に把握できると思います.


3.調査研究

Takazumi Ono Msc, Misato Nihei PhD, Tomoki Abiru MSc, Kaname Higashibaba MSc, Tomohiro Kubota PhD (2023)
Association between meaningful activities at home and subjective well-being in older adults with long-term care needs: A cross-sectional study
要支援・要介護高齢者における自宅での意味のある活動と主観的ウェルビーイングの関連:横断研究
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 121-126.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.013


要旨

 本研究の目的は,介護保険で要支援・要介護の認定を受けた高齢者の外出の嗜好性によって,自宅での意味のある活動への参加が主観的ウェルビーイングと関連するかどうかを検討することであった.日本の介護施設に自記式質問紙を配布し,線形混合効果モデル回帰分析によりデータの解析を行った.従属変数は主観的ウェルビーイングとし,独立変数は自宅での意味のある活動の数,外出嗜好性,およびそれらの交互作用とした.217名のデータを分析した結果,自宅での意味のある活動の数(B=0.43;95%CI:0.17, 0.70)と,自宅での意味のある活動の数と外出嗜好性との交互作用(B=-0.43;95%CI:-0.79, -0.08)の両方が主観的ウェルビーイングと関連していることが明らかとなった.これらの結果は,外出を好まない高齢者が自宅での意味のある活動に参加することの重要性を示唆している.我々は,高齢者がそれぞれの嗜好に合った活動に参加するよう奨励すべきであろう.


国際交流委員会からのコメント

この論文は,日本で実施された調査研究です.主観的ウェルビーイングの測定には,改訂版Philadelphia Geriatric Center Morale Scale(PGCMS)という尺度が使用されています.自宅での意味のある活動については,活動のリスト(読書,音楽鑑賞,自宅でのスポーツ観戦など)から対象者にとって意味のある活動と思うものをチェックしてもらっています.外出の嗜好性については,「私は家にいるのが好きだ」と「私は家にいるより外出する方が好きだ」の2つの質問について4段階のリッカート尺度を用いて回答してもらっています.自宅での意味のある活動の数と外出を好まない高齢者のウェルビーイングが関連していることから,著者は外出を好まない要支援・要介護高齢者には,必要以上に外出を勧めるべきではないと論じています.また,外出しないことでADLの低下などが危惧されますが,在宅での身体活動や社会的交流にICT(情報通信技術)などを活用することでその点を補う可能性も述べられていました.