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施設介護も1つの選択

 夫婦間のことや嫁と舅・姑の問題など、当事者でなければ分からない軋轢が存在すると、それは理屈ではなく、感情的に修復できません。そのような関係が長年続いた後に、一方が呆けて介護をしなければならない関係になったとき、介護者がすべてを犠牲にして、当然のごとく弱者の痴呆性高齢者を介護すべきとの考えは、あまりにも一方的で不平等のような気がします。車いすの障害者が道ばたで立ち往生しているのをみて手を貸したり、電車のなかで障害者や高齢者に席を譲るといった障害がない者が障害のある者に手を貸すケースとはまったく異なります。

 たとえば、痴呆性高齢者を含め5人の家族がいたとします。その家族全体の関係を1とした場合、家族1人ひとりが5分の1ずつ、お互いの社会的立場を尊重し、自分自身の生活を楽しむために助け合い、各自の時間を有意義に過ごす権利があります。また、お互いが相手のために思いやり、犠牲になることもあります。そのギブ・アンド・テイクの関係がバランスよく保たれていることが良好なそして平等な関係といえます。しかし、痴呆性高齢者と介護者の関係が、一方的に与える者と与えられる者の関係であったとすれば、このバランスは崩れ、介護者に大きな負担がかかります。すなわち、痴呆性高齢者を介護する人も、そのお年寄りからなにかが与えられなければバランスが保てないのです。

 介護者が介護に疲れたときは、ショートステイやデイサービスを利用する。また、在宅介護に破綻を来した場合は、施設に入所してもらう。その代わりに介護者は、最大限の努力を払い、お年寄りにとって可能な限り条件のよい施設を探す努力をする。また、お年寄りとの面会を頻回にし、ときには一緒に外出したり、家族の時間が許す限り、お年寄りのためにその時間を使う努力をするなどでギブ・アンド・テイクの関係が成り立つのです。

 このように、介護者が施設入所を考えることは、決して罪悪ではなく、ましてボケたお年寄りがそこで手厚い介護を受けられるとすれば、そのほうが在宅介護よりもよい場合もあります。施設入所は、介護に破綻したときの最終手段ではなく、1つの選択なのです。施設に偏見のある介護者は、ぜひ1度地域の介護施設を見学したり、ボランティアに参加してみてください。そのときに、施設入所も1つの選択として、将来の在宅介護を考えることができたとすれば、気分的に楽になるのではないでしょうか。

施設の選び方

 各種の入院・介護施設を具体的に選択する場合には、以下のような状況を考慮してください。

(1)評判を鵜呑みにしない
 非常に評判がよい施設だからといって、それを鵜呑みにすることは禁物です。また、有名な病院であっても、経営者が変わったり、看護・介護スタッフが大きく入れ替わることで、その施設の質も大きく変わることがあります。入院・入所を決定する前に、必ずその施設を自分の目で確かめてください。

(2)入院・入所前に十分な説明を受ける
 各施設には、ケースワーカーが勤務しています。彼らは、家族に施設の説明、システム、経費などを説明し、入院あるいは入所に関する相談に応じてくれます。家族は、お年寄りを施設に預けることに対し、非常に不安を抱くのですが、その不安を解消してくれるのが入所前の詳しい説明です。入院・入所に関する些細な疑問であっても遠慮なくケースワーカーに尋ねてください。もし、ケースワーカーから痴呆性高齢者の入所・入院に難を示す説明があれば、おそらくその施設は痴呆性高齢者の対応に慣れていないか、あるいはそのような介護体制にないと考えてください。入院・入所を募るパンフレットでは、痴呆性高齢者の受け入れが可能であるとを謳っている施設でも、実際には、お年寄りの状態によって入院・入所を制限しているところも少なくありません。ぜひ、介護者が直接その施設に出向き、入所に関する詳しい説明を聞いてください。

(3)病棟や居室を実際に見学する
 施設内を実際に見学してください。もしも見学を拒否する施設であれば要注意です。見学する際には、居室のみではなく、共同スペースの有無、その広さや機能性、浴室やトイレの設備、廊下の広さ、また床などに安全性を重視した工夫がなされているか、お年寄りがつまずきやすい物や洗剤、薬品などの危険物が無造作においていないかを注意してみてください。そして、自分がその立場になったとき、その施設に入りたいかどうかを考えながら見学してください。

(4)スタッフの動きはどうか
 よい介護を施している施設は、明るい雰囲気が感じ取れるものです。それは、看護者あるいは介護者のお年寄りに接する態度から伝わってくるもので、介護スタッフの機敏な動きやお年寄りへの話しかけ、居室の飾り付けなどは、介護者の質を判断するうえで重要な要素です。また、直接介護スタッフに話しかけてみてください。そのときの介護スタッフの笑顔や接し方は、お年寄りに対する接し方につながります。

(5)入所者に笑顔がみられるか
 介護スタッフに活気がみられる施設は、入所者に笑顔があります。それは共同空間に集まっている入所者の様子をみていると、その雰囲気が自然に伝わってくるものです。また、お年寄りが着ている服や身につけている物のなかに、介護者の心遣いがくみ取れます。施設見学の折には、入所者の様子をしばらく観察してみてください。

(6)異様な臭いはないか
 居室や病棟の一角で異臭、便臭がないかを注意してください。施設のなかには、介護スタッフの人手不足から、オムツを安易に用いたり、その交換を怠ったり、また介護スタッフの都合に会わせてオムツ交換の時間を決め、いっせいに交換しています。このような対応をせざるを得ない状況の施設もありますが、排泄処理が杜撰であったり、お年寄りの排泄に対する配慮に欠けている施設ではよい介護は望めないと思います。

(7)いくつかの施設を見学してみる
 お年寄りの入院や入所を考えるときには、いろいろな施設を見比べるのもよいでしょう。1か所の施設をみるだけでは、その施設のどの点が他の施設よりも優れているのか、また劣っているのかが比較できません。よい施設を見極める目を養うことが大切です。また、めぼしい施設は少なくとも2回は訪問してみてください。初回の訪問で発見できなかったことが見つかるかもしれません。お年寄りのためによりよい施設を選択するためには、意外と時間がかかります。在宅介護が上手く行っている場合でも、万一のことを考えて、施設選びをしておくことが必要でしょう。

(8)立地条件
 家族が面会に訪れやすい近隣の施設を選択することが第一の条件です。長期の入院・入所ともなれば、どうしてもお年寄りとの面会回数が少なくなってしまいます。しかし、痴呆性高齢者を入院させたい場合には、多くの病院が郊外に立地しているため、なかなか家の近くで探すことは難しいようです。しかしそのような場合であっても、交通機関が少しでも便利な施設を探すように心がけてください。先は長いのです。訪ねる側が便利で楽な施設をまず考えましょう。

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介護者の条件 介護者の向き不向き 介護を楽にする最大のヒント
さぼることも大切 優しくなれとはいうけれど・・・ 施設介護も1つの選択
(施設の選び方)