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介護を楽にする最大のヒント

 痴呆性高齢者の介護方法やさまざまな異常行動、精神症状への対応方法に関し、これまでに多くのことがいわれてきました。それらのすべてが、正しく、必要なことかもしれません。しかし実際の家庭での介護は、すべてが教科書どおりに行かないのが現実です。たとえば、介護者に突然「あなた、私の財布を盗んだでしょう」と面と向かっていわれたとしたら、その介護者は、驚き、憤慨し、それを否定しようとするのが普通です。そのときに冷静に対処できる介護者などほとんどいないでしょう。また、長年一緒に生活してきた配偶者が、また自分を育てた親が痴呆に冒されたことを知ったとき、何とか治したい、以前の夫あるいは妻、父、母に戻ってほしいと懇願し、記憶を取り戻す訓練をしようとする家族の行動も当たり前のことです。

 このように家族介護者の多くは、当初、何とかもの忘れや失敗を自覚させよう、できる限り1人でできるようにしよう、ボケを何とかなおそうと躍起になります。これは、一種のパニックです。介護者の「どうしよう」「何とかならないものか」との叫びが聞こえてくるようです。そのようなときに、よい介護方法などすぐに見つかるはずがないのです。

 それでは楽をする介護方法はないのかと考えたとき、その1つの方法があります。それは、できる限り介護に携わらないことです。もし仮に、痴呆に冒されていたとしても、その高齢者がそれほどの問題もなく1人で生活できていたとすれば、介護者は、可能な限り手を出さないことです。とはいっても、現実は決してそうは行きません。しかし、ここに家庭介護を楽にする最大のヒントがあるのです。これはすなわち、介護に携わる時間を短くし、介護者自身の生活に十分なゆとりがもてる方法を考えるということです。「何とかしなければ」から「何とか楽に介護しよう」という考え方に変えてみてください。

 

一つ、できることには、手も口も出さない。
一つ、できないことを無理にやらそうとするのでなく、手を貸す。
一つ、危険なこと以外は、見てみない振りをする。
一つ、説得や訓練は時間の無駄。
一つ、他の家族も介護に巻き込む。必要ならば猫の手も借りる。
一つ、遠くの親戚より隣の他人。
一つ、これまでの介護者の生活パターンはできる限り変えない。
一つ、自由な時間を多くもつ。
一つ、できるだけ多くの介護サービスを利用する。
一つ、介護は生活のすべてでなく、その一部にする。

できることはたくさんある

 介護者は、高齢者のできなくなったことに対して大変神経質になってしまいます。毎日の食事の支度、買い物、電球の交換、掃除、洗濯、留守番など、当然できるものと思っていたことが、たびたび失敗し、混乱したその姿をみて、家族は何事が起こったのかと当惑してしまいます。そして、1つのことができなくなると、ほかにもできないことがあるか、目くじらを立てて探し回るのです。そうなると、失敗やできないことのみに捕らわれ、一時が万事のように、日常のすべてのことができなくなったと思い込み、パニック状態になってしまいます。しかし、いくら痴呆になったからといってもまだまだできることはたくさんあります。

 たとえば、夕食の支度ができなくなっても、お皿を洗うことはできます。洗濯機の操作が分からなくなっても、乾いた洗濯物を取り入れてきれいにたたむことはできます。お風呂で洗髪ができなくなっても体を自分で洗うことはできます。洋服が着られなくても自分で脱ぐことはできます。このように、できることでも介護者が「できない」と決めつけ、あれこれと指示したり、注意したとすると、かえって混乱を起こしてしまいます。

 したがって、お年寄りのできる能力を見極め、できることは可能な限り自分でするように介護者が注意深く見守る必要があるのです。また、多少の失敗があったとしても、介護者は手も口も出さず、本人のやりたいようにさせてみてください。そして、もしどうしてよいのかが分からず迷っているようならば、そのときこそ無視をせず「こうすればできるよ…」「こうしたらよいのでは…」と救いの手を差しのべてください。

できないことは、できない

 衣服を着るときに前後を間違えたり、セーターの上から下着を着たり、どのように服を着てよいのか混乱してしまうお年寄りがいます。その人に向かって、「そうじゃないでしょ、右手を袖に通して…」などと言葉で指示している介護者がいますが、その指示を正しく理解して従える痴呆性高齢者は、まずいません。そのような介護者の指示には、「何とかして1人で着られるようにしたい」との思いがあるのではないでしょうか。しかし、そのような期待は無駄なのです。むしろ、お年寄りにしてみれば「いちいちうるさい。馬鹿にするな」と介護者に悪感情を抱かせてしまい、指示に対して拒否したり、ときには怒りの感情を露わにすることさえあります。このようなお年寄りには、介護者が手を貸して「さあ、こちらの腕をここの袖に通してくださいね」と、できないことに積極的にかかわることで、安心感をもたせるようにしてください。これが介護者への信頼へとつながってゆくように思います。

 また、食べたことを忘れ、何度も「食事はまだか」と介護者に責めよってくるお年寄りに、食べ終わった食器や食べ残した物をみせて、すでに食べたことを納得させようと一生懸命になる介護者もいます。しかし、食べたことを忘れてしまうような記憶障害のある人に、そのような説得をしたところで、それを認められる人はいません。むしろ、そのような介護者の説得にますます猜疑心を抱いてしまいます。このような説得は、時間が無駄なだけで、効果はほとんどありません。それよりも、食事のことを尋ねられたなら、「はい、分かりました。お腹がすきましたね。すぐに食事の用意をしますから、待っていてくださいね」と対応したほうが、お年寄りは安心し、納得するのです。しかし、またしばらくすると同じように尋ねてきます。そのときもまた、同じように対応してください。そして時間があれば、お茶を沸かしたり、小さなお菓子を出し「これでも食べて、食事ができるまで我慢してくださいね」と対応してみてください。すでに食べたことを延々と説得し続けるよりも、時間もわずかですむように思われます。このように、できなくなったことは説得や訓練で治ることはありません。

 


 

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