介護者の条件
痴呆性高齢者の介護者としてもっともよいのはだれなのでしょうか。これにも一定の法則などありませんが、一般的には家族が介護することがもっとも自然であることはいうまでもありません。では、どのような条件をもった家族が介護をするのに適しているのでしょうか。
その条件の第一は、介護者が健康であることです。介護者が健康でなければ、日常の大変な介護に耐えられないことは、すでに説明しました。第二に、介護者を助けてくれる家族が身近に存在することです。主たる介護者は1人でよいのですが、たった1人で痴呆性高齢者を介護することはとても大変なことです。いつでも気楽に介護を手伝い、また変わってくれる家族が身近に存在することが大切です。第三に、介護する人とされる人との関係が以前からよい関係にあることです。これは、大変重要なことで、介護者が「介護してあげたい」と思える関係が必要です。第四は、介護者が「介護の素質」をもつているか否かです。高齢者との関係がいかによくとも、またどれほど世話をしたいと思っても、介護の素質がなければどうにもならないのが現実です。
介護者の介護者
痴呆性高齢者の介護は、たった1人でできるほど容易なものではありません。24時間目を離せない高齢者の介護は、精神的にも肉体的にも大変なことです。介護者のごく身近に遠慮なく日常の介護の手伝いを頼める人がいるかいないかで介護負担は大きく変わります。
配偶者が介護者の場合、妻よりも夫のほうが、意外と介護破綻を来し難いというイギリスの報告があります。それによると、妻の多くは、夫を介護する際に「自分がやるのが当たり前」「自分がやらなければいけない」と大きな責任を背負ってしまいがちで、「子どもたちに迷惑をかけたくない」「近所の手前、手が抜けない」「自分が介護しなければだれもしてくれない」など、さまざまな思いや責任感を背負って、介護を完璧にこなそうとします。そして、世間の人も妻が夫の面倒をみるのは当然であるかのように考えてしまいがちです。その結果、いかに苦労をしてもいっこうに楽にならない介護に疲れ果て、破綻を来してしまうのです。その反面、夫が介護者である場合は、妻に付き添い、世話している姿に周囲が同情し、また慣れない家事を行っている姿をみて、なにか手伝わなければいけないのではという気持ちにさせられます。子どもたちは、できる限り時間をつくって父親の介護に協力しようとし、隣近所や友人たちも、その夫の手助けをしようと、精神的にも肉体的にも協力を申し出たりします。また夫が妻を介護している姿は、他の家族や隣人、友人にとって尊敬の対象にもなります。周囲からの援助や誉め言葉、尊敬のまなざしは、その夫の大きな励みになるのです。
痴呆性高齢者を介護するときに、「自分だけで何とかしなければいけない」との思いが強ければ強いほど、周囲はその介護者になにも協力できなくなります。介護者のなかには、家族や周囲に遠慮して、介護の手助けを断る人がいますが、その遠慮がかえって介護者の大きな負担につながるのです。可能な限り1人ひとりの家族が介護を分担し、主たる介護者の負担を軽減することが必要です。また、困ったときは、遠くの親戚よりも近くの他人が、大きな力になります。家族に限らず、隣近所、友人あるいは公的な介護サービスを利用して、介護負担をできる限り軽減する努力が介護者には必要です。自分の介護力を過信することがいちばん危険なのです。
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