論文名 | 高齢者の医療・健康情報の入手状況と課題 |
著者名 | 金城 光 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):7- 20,2017 |
抄録 | 高齢者の医療・健康情報入手状況( 内容,程度,メディア)と課題を明らかにするために,東京都(A 区)と長野県(B 市)のシルバー人材センター会員650 人に質問紙を郵送配布し,計521 人から回答を 得た.医療・健康情報の内容別入手程度と主観的健康評価の相関分析では,健康評価の高い人は複数の 情報をより多く入手していた.入手メディアでは,TV,友人や家族,新聞が多く,インターネットは 14%で,メディア利用には地域差がみられた.情報入手得点の関連要因を探る重回帰分析では,居住地 域を含む基本属性は関連がなく,情報希求得点やe ヘルス得点と関連がみられた.情報入手過程で多く の高齢者がさまざまな不満をもっており,情報入手得点の低い人ほど,どこから情報を得たらよいかわ からないという不満が強かった.高齢者が医療・健康情報の入手で感じる不満は複数のプロセスで生じ ている可能性があり,さまざまな現実場面での情報入手についての調査が必要である. |
キーワード | 高齢者,メディア,インターネット,e ヘルスリテラシー,主観的健康 |
論文名 | インプロ(即興演劇)の学習形態と高齢者の変容 ― 千葉県「くるる即興劇団」を事例として ― |
著者名 | 園部友里恵 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1 ):21-30,2017 |
抄録 | 本稿は,日本初の高齢者インプロ劇団「くるる即興劇団」を事例として,同劇団におけるアクショ
ン・リサーチおよび劇団員へのインタビュー調査により,インプロの学習形態と,そうした形態に
よるインプロ実践がもたらす高齢者の変容について報告するものである.
同劇団の前身の講座「即興劇で学ぶコミュニケーション」および劇団化後の稽古ではワークショ ップ形式がとられ,そのなかで@全員,A 2 -5 人の小グループ,B全体を2 グループに,C「舞台」 と「客席」の4 形態が,活動主旨や参加者の様子を踏まえ即興的に選択されていた.それにより, 高齢者が,だれかに「見られる」感覚を負担なく体験できるほか,多様な参加者同士の触れ合いと ゆるやかな関係の構築が可能となっていた. また,インプロを通して,高齢者は,新たな表現を生み出す要素として「失敗」を肯定的にとらえ, パフォーマンスの際に自分をよく見せようとせず,共演者とのかかわりを重視するようになった. |
キーワード | インプロ(即興演劇),学習,ワークショップ,失敗 |
論文名 | これからの百寿者研究 -スーパーセンチナリアン研究- |
著者名 | 新井康通,広瀬信義 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1 ):32- 37,2017 |
抄録 | 近年の平均寿命の延びに伴って世界の百寿者人口は増え続けているが,110 歳以上まで到達するスー パーセンチナリアンはきわめてまれであり,人口統計学的にも注目されている.われわれが行った東京 百寿者研究では,100 -104 歳で亡くなった方に比べ,スーパーセンチナリアンは健康寿命がさらに長く, 100 歳時点でも多くの方が自立していた.健康長寿の分子メカニズムを明らかにする目的で,百寿者684 人( そのうち105 歳以上407 人)を含む高齢者1,554 人を対象に,炎症,貧血,肝・腎機能,脂質・糖代 謝関連の血液バイオマーカーを測定した結果,炎症が健康長寿の阻害要因としてもっとも重要であるこ とが明らかとなった.また,百寿者,105 歳以上の超百寿者およびその直系子孫では加齢に伴うテロメ アの短縮が起こりにくいという特徴も明らかとなった.スーパーセンチナリアンは健康寿命が長いと同 時に人類の最長寿命に迫る集団であり,どのような遺伝的要因や分子メカニズムが究極の長寿を可能に するか,という観点からも今後の研究が期待される. |
キーワード | スーパーセンチナリアン,認知機能,フレイル,慢性炎症,テロメア |
論文名 | 百寿者の血圧 -高齢者疫学研究からの知見- |
著者名 | 神出 計,樺山 舞 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1 ):38 - 43,2017 |
抄録 | わが国は現在,超高齢社会を迎え,百寿者の数も増加の一途をたどっている.百寿者は長寿のモデル とされているが健康長寿との関連を詳細に検討した報告は多くない.健康寿命の延伸が健康施策の第一 の目標とされているため,われわれは百寿者を含む地域在住一般住民高齢者を用いた健康長寿要因の探 索を目的とした研究である“SONIC 研究” を展開している.本項では百寿者における血圧の状況を, SONIC 研究で得られた70,80,90 歳前後の年代と比較検討することにより明らかとし,高血圧を含め た生活習慣病と健康長寿の関連性を論じていきたい. |
キーワード | 超高齢社会,健康長寿,百寿者,血圧,動脈硬化 |
論文名 | 認知加齢研究からみた百寿者研究 |
著者名 | 石岡良子,稲垣宏樹 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):44 - 53,2017 |
抄録 | 本稿では,百寿者の認知機能に関する先行研究の概要と課題を紹介した.まず,認知加齢研究からみ た百寿者研究の意味について,百寿者を含む超高齢期の加齢変化を記述すること,認知加齢モデルにつ いて述べた.その後,百寿者の認知機能を測定する代表的な方法として,認知機能検査と,認知症の診 断基準や行動観察を紹介した.そして,これまでの知見として@百寿者の認知症の有病率に関する研究, A百寿者の認知機能の特徴,B認知機能の個人差に関する研究,の概要を紹介した.最後に,認知機能 の測定方法の課題や研究デザインについて言及し,今後の展望を述べた. |
キーワード | 百寿者,認知加齢,認知症,個人差,測定方法 |
論文名 | 歯科からみた百寿者研究 |
著者名 | 池邉一典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):54 - 59,2017 |
抄録 | 歯と口の健康は,さまざまなほかの危険因子の影響を調整したうえでも,生命予後,循環器系疾患や
認知機能低下と関係があることがこれまで数多く報告されている.われわれの研究からも,咀嚼機能低
下から栄養摂取の変化,動脈硬化,ならびに運動・認知機能低下に至る過程が解明されつつある.
しかし百寿者の歯の状態に関する論文はほとんどない.現状では,日本の百寿者は歯がない人がほと んどで,百寿者がほかの人に比べて歯がよいという結論は導けなかった.この世代は,1945 年の終戦 時30 歳代半ばであり,当時の健康意識と歯科医療水準からすれば,痛みがあれば歯を抜くのが最善の 方法であった.さらに,総義歯を使っている人が約3 分の2 であったが,上顎,下顎のいずれも,約3 分 の1 が義歯を使っていなかった. 現状では百寿者のなかで自分の歯で咀嚼できる人はほとんどいなかったが,今後歯を有する高齢者が 多くなれば,歯と超長寿との関係の検証が可能になるかもしれない. |
キーワード | 百寿者,健康長寿,歯,咀嚼,栄養 |
論文名 | 百寿者研究における家族関係に関する調査の意義 |
著者名 | 安元佐織 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):60 - 65,2017 |
抄録 | 本稿では,百寿者のwell-being に影響があるとされる,家族の研究( とくに親子関係)の重要性につ いて検討する.機能低下により社会参加がむずかしくなる百寿者にとって,家族は社会である.しかし, 百寿者と家族の関係性について注目した研究は限られており,高齢期における家族内での社会化がどの ように行われているかは明らかでない.そこで,百寿者と家族に関する先行研究を,@家族が百寿者に 与える影響に関する研究,A百寿者が家族に与える影響に関する研究,B百寿者と家族の関係性に関す る研究,に分類し,既存の研究の傾向について述べ,今後どのような調査が重要となるかについて議論 する.百寿者と家族の関係性についての理解を深めることは,親としての百寿者を理解すると同時に, 百寿者が子ども高齢者のエイジング過程に与える影響を知ることにもなる.また,高齢化により家族関 係性が延長する時代に,ライフコースを通して変遷する家族関係を理解する重要な研究にもなると考え られる. |
キーワード | 百寿者,家族,ライフコース,高齢期の社会化 |
論文名 | 在日コリアン超高齢者の社会経済的状況と健康,QOL |
著者名 | 文 鐘聲 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):66 - 71,2017 |
抄録 | 本稿は,老年社会科学におけるこれからの百寿者研究として,在日外国人,とりわけ在日コリアン超 高齢者の健康に関連する要因について概観した.在日外国人の百寿者研究はまだなされておらず,同地 域に住む在日コリアン超高齢者と日本人超高齢者の比較を行った.結果,在日コリアン超高齢者は日本 人超高齢者と比べ年齢,性比,基本的日常生活動作,既往歴に差がなかったものの社会経済的状態が悪 く,転倒,抑うつの頻度が高く,手段的日常生活動作能力およびQOL の値が低かった.転倒は要介護 のリスクとなり,超高齢者においても予防対策を講じる必要がある.在日コリアン超高齢者は渡日する にあたり日本の植民地化や差別による影響を受けており,識字率の低さや貧困が高齢期の抑うつ,QOL の低下の要因と考えられた.また,国際的な百寿者の比較研究,日系移民高齢者の研究もあり,今後, より多様な観点に立った百寿者研究の展開が望まれる. |
キーワード | 在日外国人,在日コリアン,超高齢者,社会経済的状況(SES),QOL |
論文名 | 身体機能と将来の認知症との関連 |
著者名 | 谷口 優 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):72 - 78,2017 |
抄録 | 世界的に認知症予防への関心が高まり,将来の認知症発症ハイリスク者を効率的にスクリーニングする
ことが求められている.本稿では,身体機能に着目し,認知症発症ハイリスク者をスクリーニングするた
めに身体機能を評価することの意義を言及した. 本稿で先行研究をレビューした結果,歩行速度,握力,片足立ち時間による身体機能の評価が, Adverse Health Outcomes のハイリスク者のスクリーニングに有効であることが明らかになった.とくに, 歩行速度に代表される歩行機能は,認知症や,その前駆段階にある認知機能低下に対する優れた予測因子 であることが示された. 介護予防や健康づくりの現場では,高齢者の身体機能を適切に測定・評価することが重要である.また, 高齢者の身体機能評価を定期的に実施することで,その後の加齢に伴う変化を推測することができる.身 体機能の低下に加えて,認知機能障害がみられる場合には,認知症予防を目的とした積極的な介入が望ま れる. |
キーワード | 身体機能,骨格筋量,認知症,認知機能低下,スクリーニング |
論文名 | 高齢者とICT の関係 -その領域と研究・実践- |
著者名 | 小川晃子,小柳達也 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,39(1):79 - 86,2017 |
抄録 | 本稿では,高齢者とICT の関係について,彼ら彼女らとそれを取り巻く環境の相互作用としてとらえ, 「高齢者を支援する側の情報化」「高齢者と支援者をつなぐ情報化」および「高齢者のエンパワメントとし ての情報化」という3 つの領域に区分し,当事者意向も含め,それぞれの領域における研究と実践につい て整理するとともに,問題・課題提起や今後の展望の明示を試みた. |
キーワード | 高齢者,ICT 環境,支援,エンパワメント,当事者意向 |