論文名 | 介護老人福祉施設における介護職員のワーク・ライフ・バランスと職務満足度および離職意向との関連 |
著者名 | 橋本 力 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):401 - 409,2017 |
抄録 | 本研究では,介護老人福祉施設における介護職員のワーク・ライフ・バランス( 以下,WLB)と職
務満足度,および離職意向がどのような関連を有しているかを明らかにすることを目的とした.調査対
象は,介護老人福祉施設に勤務する介護職員である.調査方法については,全国の介護老人福祉施設を
無作為に1,000か所抽出したのち,自記式調査質問紙を用いた郵送調査を行った.分析対象は,回答が得られた317 人である. 介護職員のWLB と職務満足度,および離職意向の各構成概念の関連を明らかにするために,共分散構造分析を行った. 分析の結果,WLB は,職務満足度に正の関連を有し,離職意向には負の関連を有した.また,職務 満足度が離職意向と負の関連を示した. 以上の結果より,介護職員のWLB は,職務満足度を高め,さらに離職意向の軽減にも影響を与えて いることが示唆された.また,WLB により高められた職務満足度は,離職意向の軽減に影響を及ぼす ことが明らかとなった. |
キーワード | 介護職員,ワーク・ライフ・バランス,職務満足度,離職意向,共分散構造分析 |
論文名 | 家族介護者へのソーシャルサポート ─ 続柄別にみた介護への認知評価との関連 ─ |
著者名 | 西村昌記 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):410 - 417,2017 |
抄録 | 家族介護者ソーシャルサポート尺度を用い,ソーシャルサポートと介護に対する認知評価の関連が被介護者との続柄によって異なることを検証した.調査は2011 年10 〜11 月,神奈川県伊勢原市の居宅介護支援事業所利用者1,316 人( 要介護1 以上)の家族介護者のうち838 人を対象に,訪問配布郵送回収法により実施された.有効回収数は450,有効回収率は53.7%であった.介護に対する認知評価の指標には,「介護 負担感」「介護充実感」「介護統制感」を用い,家族介護者ソーシャルサポート尺度の5 つの下位尺度(親族からの情緒的サポート,親族からの手段的サポート,非親族からの情緒的サポート,非親族からの手段的サポート,被介護者からの情緒的サポート)との関連を続柄(妻,夫,娘,息子,息子の配偶者)別に検討した.分析の結果,ソーシャルサポートと介護に対する認知評価の関連は続柄によって大きく異なることが明らかになった. |
キーワード | 家族介護者,ソーシャルサポート,介護に対する認知評価,被介護者との続柄 |
論文名 | 老親扶養意識にみる世代間の葛藤とつながり |
著者名 | 中西泰子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):419 - 426,2017 |
抄録 | 本稿では,老親扶養規範意識におけるコーホートや年齢階層による違いや,親の扶養期待と子の扶養意向の対比をとおして,老親扶養をめぐる世代間の意識の相違や不一致について検討している.老親同居に関する規範意識では,扶養を担う中年層において賛同する割合がもっとも低いが,扶養意向と扶養期待との対比では,低い扶養期待と高い扶養意向という形での世代間の意識の不一致が指摘されてきた. そうした回答の背景には,自立規範や子どものため規範などに支えられる「社会的望ましさ」の影響が 考えられる.ただし,親世代と子世代の経済階層がともに低い場合には,高い扶養期待と低い扶養意向という形での世代間の意識の不一致があることも確認された.老親扶養をめぐる世代間の意識の一致・不一致は複雑な様相を呈しており,その背景には,老親扶養をめぐる規範が揺らぎつつ維持されている現状があると考えられる. |
キーワード | 同居意識,扶養期待,扶養意向,コーホート,社会階層 |
論文名 | 幼老複合施設における世代間交流の可能性と課題 |
著者名 | 村山 陽,竹内瑠美,山口 淳,山上徹也, 金田利子4,多湖光宗5,藤原佳典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):427 - 436,2017 |
抄録 | 本研究では,幼老複合施設における園児と高齢者との自然発生的な世代間交流をとらえるとともに, そこにどのような効果や課題があるのか検討することを目的とし,2013 年4 月に開所した保育所と認知症グループホームを合築した幼老複合施設A を事例対象とした質的・量的調査を行った.その結果,園児との自然発生的な世代間交流を通して,高齢者の行動や心理状態の安定に寄与する可能性が示唆された.また,幼老複合施設における世代間交流の課題として,@施設入所高齢者の認知症症状やADL,園児に対する意識を考慮すること,A園児と高齢者の双方の安全と衛生に留意すること,B交流の際に「保育」と「介護」という2 つの視点を踏まえること,が示された. |
キーワード | 幼老複合施設,世代間交流,認知症グループホーム,保育園 |
論文名 | 若年者と高齢者の労働市場における競合関係と協働の可能性 |
著者名 | 太田聰一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):437 - 444,2017 |
抄録 | 本稿は労働市場における若年者と高齢者の関係を論じる.まず,日本の高齢者の就業状況の変化を調 べる.そこでは,2006 年以降の高齢者雇用推進施策が60 歳代前半の労働力率を大きく高めたことを指摘する.それと同時に高齢者人口が増大したことで,高齢者の急激な労働参加が行われていることを明らかにする.そのうえで,高齢者と若年者が雇用面で代替関係にあるかどうかについての調査・研究を概観する.そこでは,日本において代替的な関係を示唆する企業調査や研究が存在すること,また最近の海外における研究のいくつかも代替的な関係を示唆していること,厳密な検証にはさまざまな困難が存在することを述べる.最後に,職場における若年者と高齢者の補完的な関係を構築する必要性を論じたうえで,2 社の事例を紹介する. |
キーワード | 高齢者,若年者,代替関係,互譲,補完 |
論文名 | セカンド・マジョリティ・グループとしての
高齢世代の社会的役割と政治意識 ―― 世代間比較からの考察 ―― |
著者名 | 小田利勝 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):445 - 458,2017 |
抄録 | 急速な高齢化に伴ってセカンド・マジョリティにまで“ 成長した” 高齢世代は,一方では,青壮年世 代のパートナーとして新たに多くの重要な社会的役割を担うことが期待されるようになったが,他方で は,政策予算や社会保障に関して世代間公平や世代間対立の問題が議論されるようになった.しかし, 高齢世代も青壮年世代も,互いに対立的といえるような自世代利益志向的な態度をもっているわけではない.有権者のかなりの部分を占めるようになった高齢世代の新たな社会的役割は政治的な役割である.しかし,現在のところ,高齢世代の政治的有効性感覚や政治的年齢集団意識は,ほかの世代に比べて取り立てて高いというわけではない.これからの少子・高齢社会では,高齢者は,サード・エイジャーとして幅広い年齢層の人々と脱世代的なパートナーシップを取り結ぶことが必要であろう.そして,「自次世代環境育成性」を達成して獲得される「環境改変型適応能力」と「英知」を発揮することによって,社会のサクセスフル・エイジングの実現に向けて社会的環境条件の整備に積極的に関与してこそ,シニア・パワーは頼もしい存在となるだろう. |
キーワード | セカンド・マジョリティ・グループ,シニア・パワー,世代間対立,政治意識,自次世代環境育成性 |
論文名 | 教育老年学の展開と課題 |
著者名 | 堀 薫夫 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):459 - 464,2017 |
抄録 | 教育老年学という学問的枠組みが提起されて45 年が経った.その間の研究の変化を概観したところ,@発展途上国からの研究の増加,A福祉・看護などパラメディカル領域の研究の増加と教育学領域の研究の減少,B量的研究・( 一部の)質的研究の増加と文献研究の減少がうかがわれた.これらの動向からの今後の課題として,高齢者の主体形成の問題と「教える教育」から「学習を紡ぐ・組織化する教育」への移行の問題を取り上げた.最後に,教育老年学の今後の課題として,@一般市民向け教育と高齢者教育の接続,A後期高齢者への学習支援の可能性,B高齢者教育の目標論の3 点を示した. |
キーワード | 教育老年学,メディカライゼーション,主体,教育学,学習支援 |
論文名 | 高齢者の就業理由からみた就業支援のあり方 -就業理由の階層性の観点から- |
著者名 | 渡辺修一郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(4):465 - 472,2017 |
抄録 | 高齢者の就業理由に着目し就業支援のあり方を検討した.わが国の高齢者の就業理由の大半は経済的理由であるが,ドイツとスウェーデンでは生きがいに関する理由がもっとも多い.貧困層の割合は経済的理由と正相関し,生きがいに関する理由と負相関を示すことから,生きがい就業は,所得保障による生活の安定のもとに成り立つことが推察される.高齢者の就業理由はマズローの自己実現理論にある程度あてはまり,相互の関連と階層性があるものと考えられる.年金抑制などによる経済的理由の強化を高齢者の就業のインセンティブにすると健康を害しても働かざるをえない事態を招き好ましくない.一方,年金の充実は就業の抑制に作用する.矛盾を解消し働く理由を強化することで高齢者の就業を支援するためには,就業による収入の増加,働くことによる健康状態の維持・向上の見える化,経験・知識・能力向上のための支援などに取組むべき余地が大きいと考えられる. |
キーワード | 高齢者,就労支援,マズローの欲求階層,就業理由,所得保障 |