論文名 | アクションリサーチによる地域高齢者の社会参加促進型ヘルスプロモーション・プログラムのプロセス |
著者名 | 佐藤美由紀,齊藤恭平,若山好美,芳賀 博 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):3 - 20,2016 |
抄録 | 本研究の目的は,地域社会における高齢者の役割を見直すことにより社会参加を促進するヘルスプロ モーション・プログラムにおける地域課題の解決に向けた住民の意識と行動の変化の過程を明らかにす ることである.研究はアクションリサーチの手法により実施した.札幌市近郊の一地区において,住民 を対象とした参加型ワークショップ等を実施し,ラジオ体操,公園清掃ボランティア等が住民主体によ り創出された.フィールドノート,インタビュー逐語録等の多様なデータを質的記述的方法により分析 した.住民の変化は,【義務的参加とアンビバレントな気持ち( 第一段階)】から始まり【課題解決の方 向性に対する合意形成とコアメンバーの選出( 第4 段階)】を経て【コアメンバーの組織化と自治会との 協働( 第8 段階)】までの8 つの段階をたどった.このような8 つの段階の推移が抽出されたことにより, 高齢者が主体的に地域課題の解決に取り組む様相が明らかになった. |
キーワード | 社会参加,高齢者,ヘルスプロモーション,プロセス評価,アクションリサーチ |
論文名 | サービス提供責任者の調整業務と離職意向の因果モデル |
著者名 | 須加美明 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):21 - 31,2016 |
抄録 | 目的:サービス提供責任者は,本来の調整業務が満足にできないと,職務満足感の低下とバーンアウ
トにつながり離職意向を強めるという仮説の検証を目的にした.
方法:協力を得た事業所のサービス提供責任者904 人を対象に質問紙調査を行い,有効回答は582 件, 回収率64%であった.次の因果モデルを検討した.リーダーシップが組織風土の活発性に影響し,組 織風土の活発性と連絡時間の保証は,調整業務の水準に影響する.そして調整業務は職務満足感とバー ンアウトを介して離職意向に影響するというモデルである. 結果:共分散構造分析を行った結果,有意な推定値が得られ,適合度はGFI = .856,CFI = .901, RMSEA = .067 となり,モデルは許容範囲と思われた. 結論:サービス提供責任者に連絡調整の時間を保証せず,組織風土の活発性が低い事業所は,調整業 務の達成度が下がるため,職務満足感の低下とバーンアウトの危険を高め,離職意向が増えることが示 唆された. |
キーワード | 訪問介護,サービス提供責任者,離職意向,組織風土,職務満足感 |
論文名 | 余暇活動と認知機能との関連 |
著者名 | 小園麻里菜,権藤恭之,小川まどか,石岡良子,増井幸恵,中川 威,田渕 恵,立平起子,池邉一典,神出 計,新井康通,石崎達郎,高橋龍太郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):32 - 44,2016 |
抄録 | 本研究は,高齢者が実施している余暇活動の実態を把握すること,および余暇活動と認知機能との関 連を検討することを目的とした.分析対象は,69 .71 歳の地域在住高齢者961 人であった.現在行っ ている余暇活動として自由記述で挙げられた4,412 項目を心理学・老年学を専門とする研究者6 人で討 議した結果,138 種類に分類され,12 種類の上位カテゴリーに分類された.認知機能を評価する課題と して日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用いた.認知課題の成績を従属変数とし, 余暇活動の上位カテゴリーごとの実施数を独立変数にした階層的重回帰分析を行った.その結果,関連 要因を統制しても趣味活動カテゴリーや休息・リラックスカテゴリーの実施数が多いほど,認知課題の 成績が高かった.これらの結果は,余暇活動の実施数と認知機能には正の関連があることを示しており, 今後も余暇活動の評価方法を検討し,認知機能との関連を検証することが望まれる. |
キーワード | 地域在住高齢者,余暇活動,認知機能 |
論文名 | 過疎山村に住む高齢女性のきょうだい関係に影響を及ぼす要因 |
著者名 | 野邊政雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):45 - 56,2016 |
抄録 | 本稿の目的は,高齢女性のきょうだい( 兄弟姉妹)関係に影響を及ぼす要因を明らかにすることであ る.岡山県の県北にある山村で高齢女性に調査を2006 年に実施した.そのデータを分析から,次の4 点を明らかにした.@きょうだいが近くに居住しているほど,高齢女性はきょうだいと頻繁に会ったり, 電話や手紙で連絡を取り合ったりしていた.A高齢女性は最年長の兄または弟が近くに居住していると き,その兄または弟と頻繁に会っていた.これに対し,高齢女性は兄弟よりも姉妹と電話や手紙で頻繁 に連絡を取り合い,兄弟よりも姉妹に情緒的サポートを期待できた.B同居子のいる高齢女性は同居子 のいない高齢女性よりもきょうだいと電話や手紙で頻繁に連絡を取り合い,情緒的サポートをきょうだ いに期待できた.Cきょうだいと頻繁に会ったり,電話や手紙で連絡を取り合ったりしていたのは,社 会経済的地位の高い高齢女性であった. |
キーワード | きょうだい関係,高齢女性,山村 |
論文名 | シルバー人材センター会員の前職と希望する職種の関係 |
著者名 | 塚本成美,中村桃美,石橋智昭 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):57 - 65,2016 |
抄録 | 会員の増加を目指すシルバー人材センターにおいては,ホワイトカラー層の入会を促進するために事
務的な仕事の開拓が求められているが,会員の前職と希望職種の関係は現在も明らかにされていない.
本研究では,全国から抽出したシルバー人材センター36 か所の在籍会員47,440 人の前職をホワイト カラーとブルーカラー等に分類し,希望職種との関連をみる. ホワイトカラー出身会員の割合は,男性42.5%,女性50.3%で日本における就業者全体の分布と近似 していた.これら会員の希望職種は,男性では「一般作業群」や「管理群」等の単純労務が多く,女性 会員では事務志向の割合が男性の2 倍程度高いが,やはり「一般作業群」と「サービス群」のほうが多 くなっていた. したがって,ホワイトカラー出身者が退職後に事務的仕事を希望するとは限らず,事務的な仕事の開 拓だけではなく,さまざまな仕事を会員のニーズに応じて充実させていくことが求められる. |
キーワード | シルバー人材センター,就業,生きがい,社会参加,プロダクティビティ |
論文名 | 一人暮らし高齢者における見守りセンサーを用いた在宅生活支援に関する検討 |
著者名 | 長谷部雅美,小池高史,野中久美子,深谷太郎,李 ?娥,村山幸子,渡邊麗子,植木章三,吉田裕人,松本真澄,川崎千恵,二瓶美里,田中千晶,亀井智子,渡辺修一郎,藤原佳典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):66 - 77,2016 |
抄録 | 本研究の目的は,一人暮らし高齢者の在宅生活の継続における見守りセンサー(赤外線人感セン サー)の効果を,見守られる高齢者と見守る地域ケア機関の専門職の両面から検討することであった. 対象者は,65 歳以上の一人暮らし高齢者80 人(介入群:39 人,対照群:41 人)と,高齢者を担当 する専門職32 人であった.介入プログラムでは,介入群の自宅に設置した見守りセンサーが検知し た対象者の活動量データを,月次レポート等の形式で担当の専門職に提供した. 約1 年間にわたる介入の結果,介入群で要介護2 以上への悪化抑制と,老研式活動能力指標の下 位次元である社会的役割の低下抑制が確認された.専門職では介入群の担当者のほうが,高齢者の 外出頻度やトイレの利用状況を把握している割合が高いことが示された. 以上の結果から,見守りセンサーは,一人暮らし高齢者の在宅生活を継続させるための支援策と して,有効である可能性が示唆された. |
キーワード | 一人暮らし高齢者,見守りセンサー,ICT,見守り,在宅生活支援 |
論文名 | 在宅要介護高齢者を対象とした最大歩行速度に基づく有効な相対的歩行速度の検討 |
著者名 | 菱井修平,稲田拓馬,桑岡慎也,久保晃信 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):78 - 83,2016 |
抄録 | [目的]要介護高齢者において,最大歩行速度に基づく有効な相対的歩行速度について検討すること とした.[方法]対象は,在宅要支援・要介護高齢者男女14 人(平均年齢75.1±12.7 歳)であった. 最大歩行速度(MWS)の40%と50%の2 つの速度で歩行テストを実施した.評価項目は,HR, SBP,DBP,% HRmax,SpO2,RPE,PCI であった.[結果]換算式から得られた40% MWS は, 1.8±0.3METs,53.3±9.4% HRmax,50% MWS は,2.0±0.3METs,56.4±8.4% HRmax 強度であ り,RPE はそれぞれ11.1±1.9,12.2±1.7 であった.[結論]要支援・要介護の低体力高齢者にお いては,MWS を基準とした40%,50%強度の歩行は,換算した運動強度から,@要支援・要介護 の低体力高齢者でも安全に遂行できる歩行速度であること,A換算した運動強度から心肺機能の改 善に有効な運動強度である可能性が示唆された. |
キーワード | 歩行速度,要介護高齢者,運動器機能訓練 |
論文名 | 認知症高齢者による場所の見当識障害にかかわる現象の捉え直し― 場所についての語りのディスコース分析 ― |
著者名 | 田中元基,大橋靖史 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):84 - 93,2016 |
抄録 | 本研究では,場所の見当識障害として従来とらえられてきた,認知症高齢者が今いる場所を事実と異なる 場所として語る現象を,保たれた能力として捉え直すことを試みた.認知症高齢者の語りを,ディスコース 分析の手法を用い分析した結果,以下の2 つの特徴が明らかとなった.第一の特徴は,今いる場所からみえ る対象に言及してから話題を展開するという「共同参照→話題展開」という定式化である.この定式化は, 他者との関係性に基づき話題を共有した語りが可能なことを示している.第二の特徴は,現在の状況と過去 の状況の差異に言及した語り方である.今いる場所の状況と過去の経験との間に不一致が生じた際に,「過 去への言及→だけど→現在における過去の不在」という定式化が行われていた.以上の特徴から,場所の見 当識障害としてとらえられてきた発話行為は,他者への配慮や状況への気づきといった能力として捉え直 すことが可能であることが示唆された. |
キーワード | 場所の見当識障害, ディスコース分析, 認知症高齢者, 定式化, 発話 |
論文名 | 高齢者の就労の現状と課題 |
著者名 | 藤原佳典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):94 - 101,2016 |
抄録 | 少子超高齢社会が進展するわが国においては,高齢者の就労に多面的な期待が寄せられている.先行研 究を概観した結果,退職によるストレスからの解放の観点からは健康にプラスの影響が,社会参加の喪失 や経済的困窮の観点からはマイナスの影響が示唆された.さらに,求職高齢者に着目し就労支援システム のあり方を検討した.その結果,ハローワークやシルバー人材センターを補完するアクティブシニア就業 支援センターの利用者には65 歳未満および男性を主とする心理社会的ハイリスク層と,65 歳以上および 女性を主とする健康や生きがいを探究する2 層が混在した.高齢者の就労支援システムの目指すべき方向 として,@社会参加支援として長期的視点で求職者とかかわるべき,A活力あるキャリア層を取り込む仕 組みづくり, B保育・介護といった緊喫の課題解決に向けた就労を勧奨する仕組みづくりが挙げられる. また,就労・求職高齢者の能力を適切に評価する基準づくりも求められる. |
キーワード | 高齢者,就労,退職,求職,就労支援 |
論文名 | 老年社会科学の対象としての団地居住高齢者 |
著者名 | 小池高史 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):102 - 107,2016 |
抄録 | 本稿では,公団の団地に居住する人たちの,とくに社会関係をテーマとしてなされてきた調査研究につ いてまとめる.まず1950 年代や60 年代,団地が新しい居住スタイルだった時代に,「団地族」とよばれ た若年層を対象とした都市社会学者たちによる先行研究を振り返る.次に,団地の高齢化が叫ばれるよう になった時代の団地居住高齢者についての研究の知見をまとめる.そして,現代の団地居住高齢者のうち, どの程度の人が入居開始当初から住んでいた人なのかということについて検討する.そこから現代の団地 に居住する高齢者が,老年社会科学の対象として,どういった特性をもつ人たちであるのかについて考察 する.団地居住高齢者のなかには,若いころから同じ団地に住み続けてきた人と最近になって移住してき た人の両方が含まれており,とくに近隣関係や地域活動への参加といったことを検討する際には,この両 者の存在を念頭に置いておくことが必要である. |
キーワード | 団地,団地族,社会関係,高齢者 |
論文名 | 高齢期における幸福感 |
著者名 | 中川 威 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,38(1):108 - 115,2016 |
抄録 | 老年学では,高齢期において人は喪失に対してどの程度適応しているかが重要な課題とされ,幸福感が 適応の指標とみなされてきた.本稿では,高齢期における幸福感に関する先行研究を概観し,今後の展望 を検討した.先行研究における課題は3 つに大別され,幸福感はいかなる概念であり,いかに測定するか, 幸福感は加齢につれどう変化するか,幸福感はなにに影響されるか,についての知見が蓄積されてきた. 今後の展望として,複数の課題を挙げた.たとえば,文化によって幸福感の概念が異なることが示唆され ており,概念の文化普遍性と文化的差異の検討が待たれている.幸福感の加齢変化に関しては,幸福感を 構成する複数の要素を包含するとともに,欠損データを適切に処理する方法を導入した縦断研究の実施が 求められている.幸福感の規定因子については,幸福感が健康長寿に影響することが示唆されており,幸 福感の向上を目指す政策や介入への発展が望まれる. |
キーワード | QOL,加齢,肯定的感情,人生満足感,心理的well-being |