論文名 | 認知症家族介護者における高齢者虐待の蓋然性自覚の生起要因― 介護者と被介護者の続柄および性別による検討 ― |
著者名 | 矢吹知之,吉川悠貴,阿部哲也,加藤伸司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):383 - 396,2016 |
抄録 | 認知症高齢者を介護する家族自身の,介護生活中における高齢者虐待の蓋然性自覚を属性および性別 ごとに明らかにしたうえで,その支援方法について検討した.家族介護者を対象に実施した質問紙調査 819 人の自由記述をテキストマイニング手法にてカテゴリを生成し,コレスポンデンス分析にて虐待の 蓋然性自覚の生起要因について続柄および性別の特徴を読み取った.その結果,「夫が妻」「息子が母親」 が「介護放棄」の蓋然性を自覚しづらい傾向であった.続柄による生起要因の特徴は,夫婦間の介護は, 将来の不安を感じることで介護放棄の蓋然性を自覚すること,娘が母親では,父親を介護するよりも蓋 然性を自覚する要因が多いこと,また嫁が介護する場合サービス利用の拒否が他の続柄に比べ負担とな ることが明らかになった.息子では被介護者の性別により生起要因が異なることが示された.概して専 門職による虐待未然防止には,一括した家族支援策ではなく被介護者との続柄と性別を意識した対応の 必要性が示唆された. |
キーワード | 認知症,高齢者虐待,家族介護者,蓋然性の自覚,コレスポンデンス分析 |
論文名 | グループホームにおける終末期ケア実践に関連する要因の検討― 管理職に対する調査から ― |
著者名 | 平松万由子,新野直明 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):397 - 405,2016 |
抄録 | グループホームにおける高齢者終末期ケア実践に関連する要因について明らかにすることを目的とし た.全国のグループホームから無作為に抽出した事業所の管理職を対象とした質問紙調査を行い,297 人について分析を行った.終末期ケア実践の可否を目的変数,可否に関連する要因を説明変数とし,ロ ジスティック回帰分析を行った.グループホームにおける終末期ケア実践は,事業所の終末期ケア提供 方針が積極的であり,医師の往診があり,医療連携体制加算を取っており,グループホームでの終末期 ケア経験がある場合に可能である場合が多いことが明らかとなった. |
キーワード | 終末期ケア,認知症,グループホーム |
論文名 | 家族介護者の介護評価と居宅サービス利用状況との関連─ 要介護4,5 の要介護者の家族介護者を対象とした横断調査 ─ |
著者名 | 菅原直美,坂田由美子,高田ゆり子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):406 - 416,2016 |
抄録 | 本研究の目的は,家族介護者の介護評価と居宅サービス利用状況との関連を明らかにすることである.対 象は居宅サービスを利用中の要介護4,5 の要介護者の家族介護者186 人で,自記式質問紙調査を行った.調 査内容は家族介護者と要介護者の属性,介護評価( 認知的介護評価尺度),居宅サービスの利用状況( 自己 負担額,各サービスの利用の有無)であった.分析は居宅サービスの利用状況および属性により,介護評価 の下位尺度得点の中央値をMann-Whitney またはKruskal-Wallis 検定で比較した.分析の結果,訪問介護, 訪問入浴,訪問看護,福祉用具貸与利用群の介護役割充足感,訪問介護,訪問看護,福祉用具貸与利用群の 高齢者への親近感,福祉用具貸与利用群の自己成長感は非利用群に比べ有意に低いことが明らかとなった. 利用する居宅サービスの選択には要介護者の寝たきり度と医療的ケアの必要性,家族介護者の在宅介護継 続意志が影響している可能性が示唆された. |
キーワード | 要介護者,家族介護者,在宅介護,介護評価,居宅サービス |
論文名 | 地域活動に参加している高齢者の視覚機能の実態と活動性との関連 |
著者名 | 林 雅美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):417 - 427,2016 |
抄録 | 高齢者の視覚機能と活動性との関連を明らかにするために,地域活動に参加している高齢者の視力およ び視覚補助具の使用状況,活動性について分析した.2013 年7 月,愛知県N 市S 区の地域健康づくりなど に参加している141 人に依頼し,72 人(51.1%)より回答を得た.遠見・近見視力0.5 を基準とした2 群と 視覚補助具の使用状況による4 群に分け,ADL,生活不自由感,IADL,転倒を従属変数とした比較を行っ た.結果,日常生活視力では,遠見視力は平均0.63±0.29,近見視力は0.44±0.21 であった.近見視力の2 群は,視覚補助具や読字,歩行に有意差があった(p < .05).視覚補助具の使用状況による4 群は,近見視 力と生活不自由感に有意差があった(p <.05).近見視力と歩行や読字を含めた生活不自由感に関連が認め られた.これらのことより,遠見視力は0.7 程度,近見視力も0.5 程度に維持矯正し,輻湊のバランスを抑 えることが,不自由をさほど感じることなく生活が送れる可能性が示唆された. |
キーワード | 近見視力,遠見視力,生活不自由感,歩行 |
論文名 | ライフレビュー・サクセスフルエイジング・居場所感 閉じこもり高齢者支援からの論考 |
著者名 | 藺牟田 洋美 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):428 - 434,2016 |
抄録 | 筆者は行政と協働でライフレビューを活用し,介護予防を目的に閉じこもり訪問型支援を行ってきた. そこで出会った高齢者の語りや生活から明らかになった閉じこもり高齢者の心性を紹介したうえで,介護 予防の視点を超えた気づきをまとめた. 生涯発達心理学の観点からサクセスフルエイジングの考えに照らせば,閉じこもりとは死を意識したり, 活動性の低下など喪失を見越して,主体的な選択に基づき自分なりにじょうずに歳をとった結果とも言え る.そのように理解することがよりよい支援につながる. 続いて,当該高齢者の家庭内での居場所のなさを居場所感という観点から実証研究を行い,家庭内だけ ではなく社会的孤立についても明らかにした.最後に,居場所をもたらす家庭内での語りの重要性および 今後の研究の方向性として居場所感との関連の深いノスタルジア研究へのアプローチの必要性を論じた. |
キーワード | 閉じこもり,ライフレビュー,居場所感,サクセスフルエイジング,ノスタルジア |
論文名 | ソーシャル・キャピタルの潜在力 |
著者名 | 稲葉 陽二 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):436 - 446,2016 |
抄録 | 本稿は経済学におけるソーシャル・キャピタルへの対応について概観し,その後,ソーシャル・キャ ピタルの定義と付加価値について検討する.ソーシャル・キャピタルは私的財,準公共財,公共財の3 つの異なる財・サービスを含んでいる.多くの論者は,ネットワークや信頼など狭義のソーシャル・キ ャピタルを個別に分析しているが,それではソーシャル・キャピタルという新たな概念で表記する意味 は薄い.筆者は前述の3 つの財すべてを含めた広義のソーシャル・キャピタルこそ,ソーシャル・キャ ピタルという概念が付加価値を生むと考えている.とくに,広義の概念としてのソーシャル・キャピタ ルは,@格差がなぜ問題なのかを明らかにし,格差問題の機序の解明に役立ち,A歴史的・文化的経緯 まで含めたコミュニティの理解,Bかつその個人レベルの構成員とコミュニティ全体,さらに社会全体 までをも俯瞰できる概念として意味がある. |
キーワード | ソーシャル・キャピタル,社会関係資本,コミュニティ,ミクロ・マクロ・リンク,経済格差 |
論文名 | 社会学の系譜から地域の文脈効果を再考する― 集合的効力感に着目したソーシャル・キャピタル研究 ― |
著者名 | 原田 謙 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):447 - 455,2016 |
抄録 | 本稿は,老年社会科学におけるソーシャル・キャピタル研究の必要性について,社会学の立場から, 地域レベルの集合的効力感に焦点を当てて検討した.地域環境と健康に関する研究において,地域の文 脈効果に着目する視点は,シカゴ学派都市社会学の生態学的アプローチにさかのぼることができる.こ の系譜を引き継いで,Sampson らは地域環境を定量的に評価するエコメトリクスの重要性を主張し,地 域の社会構造と個人の健康を結びつける鍵概念として集合的効力感を提示した.集合的効力感の尺度は, 近隣に対する信頼などを示す「社会的凝集性」と共有された期待を示す「インフォーマルな社会統制」 によって構成されている.この地域レベルの集合的効力感が健康に及ぼす影響に関する研究がアメリカ を中心に蓄積されつつある.わが国においても,集合的効力感をはじめ地域環境が健康に及ぼす影響を, とくに年齢との交互作用効果に着目して検証していく必要がある. |
キーワード | 地域環境,集合的効力感,文脈効果,ソーシャル・キャピタル,シカゴ学派 |
論文名 | ソーシャルキャピタルの多面性― 地域保健活動でいかに醸成を目指すか ― |
著者名 | 村山 洋史 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):456 - 464,2016 |
抄録 | 複雑で多元化した課題に対して分野・領域・部局横断的な連携が求められる昨今,ソーシャルキャピ タルは連携を促進しうる強力なキーワードである.しかし,その健康影響をみると,文化,歴史,住民性, 地理的条件などの文脈(context)が違えば期待できる効果も異なってくる.すなわち,地域によってポ ジティブな側面もネガティブな側面も持ち合わせ,多面性のある概念といえる.ソーシャルキャピタル の醸成を目指した地域保健活動を展開していくには,このようなソーシャルキャピタルの特徴およびそ の健康影響を適切にアセスメントし,計画段階からソーシャルキャピタルの醸成を意識しておく必要が ある. |
キーワード | ソーシャルキャピタル,健康,地域保健活動,醸成,連携 |
論文名 | 老年学におけるソーシャル・キャピタルに関する研究の意義と課題 |
著者名 | 杉澤 秀博 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,37(4):465 - 472,2016 |
抄録 | 日本だけでなく,欧米においても老年学におけるソーシャル・キャピタル研究の意義と課題に関する 系統的な議論はほとんどない.本稿では,老年学におけるソーシャル・キャピタル,なかでも健康影響 に関する研究の今後に資するため,以下の課題を取り上げ,私論を述べてみたい.課題は,第一にソー シャル・キャピタルの定義に関する問題,第二に老年学におけるソーシャル・キャピタルの重要性,第 三に老年学におけるソーシャル・キャピタル研究の現状評価,第四に老年学におけるソーシャル・キャ ピタル研究の分析モデルである.議論の中心は,第一に老年学における個人を対象とした社会関係に関 する研究とソーシャル・キャピタルに関する研究の差別化であり,あえてソーシャル・キャピタルとい う概念でとらえることができる独自の現象はなにかという点である.第二には,公衆衛生分野の分析モ デルをそのまま老年学に導入するのではなく,高齢者の特徴を意識した分析モデルの必要性に関してで ある. |
キーワード | 環境老年学,ソーシャルサポート,ソーシャルネットワーク,コミュニティ |