論文名 | 居住形態別の比較からみた団地居住高齢者の社会的孤立 |
著者名 | 小池高史,鈴木宏幸,深谷太郎,西真理子,小林江里香,野中久美子,長谷部雅美,藤原佳典 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):303-312,2014 |
抄録 | 高齢者の居住形態と社会的孤立の関連を明らかにするために,団地( 賃貸/分譲)に暮らしている高 齢者と団地以外の集合住宅( 賃貸/分譲)に暮らす高齢者,戸建て住宅に暮らす高齢者それぞれの社会 関係の実態について分析した.2012 年7 月,埼玉県和光市において高齢者11,172 人を対象とした自記 式質問紙調査を実施した.有効回答は8,191 票(73.3%)であった.回答者を独居高齢者と同居者のい る高齢者に分けたうえで,居住形態と社会的孤立のクロス集計および孤立しているか否かを従属変数と した二項ロジスティック回帰分析を行った.結果,@独居の孤立高齢者は,団地以外の賃貸集合住宅に 住んでいる人にとくに多いこと(38.2%),A同居者のいる高齢者の場合は,団地以外の賃貸集合住宅 (37.9%)とともに賃貸の団地(36.8%),分譲の団地(35.0%)に住んでいる人に孤立者が多いこと,B 他の要因を統制しても,団地か団地以外かにかかわらず賃貸集合住宅に住んでいる人に孤立者が多いこ とが明らかになった. |
キーワード | 高齢者,社会的孤立,団地,居住形態 |
論文名 | 施設建替えによる養護老人ホーム入所者の抑うつ度ならびに孤独感の変化に関する研究 |
著者名 | 久保 昌昭 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):313-321,2014 |
抄録 | 本研究の目的は,施設の移転時における入所者への支援方法を明らかにすることである.新築移転し
た養護老人ホームの入所者25 人を対象に,抑うつ,孤独感,他者とのかかわり,居室ですごす時間等に
ついて,訪問面接調査を行った.調査は移転2 週間前,移転2 週間後,1 か月後,3 か月後の計4 回行われ,
経時的変化を比較した. その結果,抑うつと他者とのかかわりは,調査期間を通じて統計的有意差が認められなかった.孤独 感は移転2 週間後から上昇したものの,3 か月後に低下しており,一時的に入所者の孤独感は強くなっ ていた.一方で,居室ですごす時間は移転2 週間後から3 か月後にかけて継続して増加していた. 以上より,移転前の事前準備のみならず,移転後の早い時期から入所者の人間関係作りや居室外です ごす時間の確保について,意図的に取り組む必要性が示唆された. |
キーワード | 養護老人ホーム,移転,抑うつ,孤独感,他者との関係 |
論文名 | 多床室を有する特別養護老人ホームにおける感染管理活動 |
著者名 | 山地佳代,松田千登勢,佐藤淑子,江口恭子,長畑多代 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):322-329,2014 |
抄録 | 本研究の目的は,多床室を有する特別養護老人ホーム( 以下,特養)における感染管理活動を明らかにすることである.全国の特養から無作為抽出した1,000 施設の感染管理の責任者に対して,感染管理に関する郵送質問紙調査を行った( 有効回答数203,有効回答率20.3%). ほとんどの施設において感染対策委員会が設置され定期的に開催されていたが,入居者の健康状態の把 握は看護職のみが担っている施設が111(54.7%)あった.感染症発生経験のある施設はない施設よりも,感 染管理のための定期的なラウンドを行っていた(p<0.05).感染対策マニュアルは自施設の実態に合うもの だと175 施設(86.2%)が回答していたが,感染症発生時の具体的フローを明示していない施設は62(30.5 %)であった.新人職員への感染対策に関する研修は172(84.7%)施設において行われていた. これらのことから,特養の感染管理体制は整備されつつあるが,各施設における感染症発生を想定した, より具体的な取り組みを進めていく必要性が示唆された. |
キーワード | 特別養護老人ホーム,感染管理,看護職 |
論文名 | 地域在住高齢者における日本語版「WHO-5 精神的健康状態表」(WHO-5-J)の標準化 |
著者名 | 岩佐 一,稲垣宏樹,吉田祐子,増井幸恵,鈴木隆雄,吉田英世,粟田主一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):330-339,2014 |
抄録 | 本研究は,日本語版「WHO-5 精神的健康状態表」(WHO-5-J)の地域在住高齢者における標準化を行うことを目的とした. 日本全国に居住する高齢者(65 〜 84 歳)を対象とした無作為抽出標本調査を行い,1,251 人( 男性596 人,女性655 人)を分析の対象とした.WHO-5-J のほか,既存の精神的健康尺度( 心理的苦痛(K6),生活満足度尺度K),社会経済的指標,健康状態指標を測定し分析に用いた. 分析の結果以下が明らかとなった.WHO-5-J は因子的妥当性,併存的妥当性,信頼性を有することが確 認された.WHO-5-J 得点は,負に歪んだ,やや扁平な分布形状を示した.WHO-5-J 得点に性差は認めら れなかった.WHO-5-J 得点に年齢差が認められ,80 〜 84 歳群の得点がほかの群よりも低かった.WHO- 5-J 得点は,健康度自己評価,健康リテラシー等と関連した.上記より,WHO-5-J は良好な計量心理学的特性を示し,地域在住高齢者における精神的健康の測定尺度として有用であることが示唆された. |
キーワード | 地域在住高齢者,日本語版「WHO-5 精神的健康状態表」(WHO-5-J),標準値,信頼性,妥当性 |
論文名 | 日本における老年学の過去・現在・未来 |
著者名 | 長田 久雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):340-345,2014 |
抄録 | 本稿は,筆者の考えられる範囲において,老年学の過去・現在・未来を考察する.はじめに,老年学の
研究,ついで老年学の教育,最後に老年学と社会とのかかわりについて述べる. 老年学の研究は,学会や研究機関の過去の実績をみても,欧米と比べても遜色なく発展してきているが, 人文学的研究や学際的研究は今後,いっそうの展開が必要であろう.老年学の高等教育は,少なくとも大 学のプログラム数において,欧米と比較して日本では乏しいことが現実である.必ずしも,老年学主専攻 の学士課程,修士課程,博士課程を数多く設置する必要はないであろうが,老年学関連の科目,講座,コー スは今後も拡充することが望まれる.また,将来は,初等・中等教育,社会教育に老年学がいっそう取り 入られることも期待される. 老年学と社会とのかかわりに関しては,現状では老年学に対する社会的認識は十分とはいえない.老年 学の有用性と必要性を高めることを通して,老年学が社会に受け入れられることが望まれる.産官学民の 協力,さまざまな学問分野の協働などによる学際的老年学の研究が充実し,老年学の教育が普及し,老年 学の実践的応用が社会に役立つことが期待される. |
キーワード | 老年学,学際的研究,教育,社会 |
論文名 | 地域高齢者の社会活動研究における概念定義と測定および活動参加促進要因 |
著者名 | 岡本 秀明 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):346-354,2014 |
抄録 | 地域高齢者の社会活動に関する量的研究のなかで,概念定義と測定の動向や課題,活動促進要因に焦点 を当て,検討した.社会活動は,非常に扱いづらい概念であるため,概念定義や測定の方法は研究によっ てさまざまである.社会活動の5 つの操作的定義を用意し,各定義の社会活動参加率を算出して比較した ところ,最大で50 ポイント以上も異なっていた.このように,どのように操作的定義をするかにより,研 究結果が大きく異なる可能性が示唆された.社会活動の促進要因の検討については,都市部地域高齢者を 対象にした3 つの研究結果を比較したところ,親しい友人や仲間の数が多いこと,外出や活動参加に誘わ れること,中年期に地域とのかかわりがあったことが,共通する活動促進要因となっていた.今後期待さ れる研究として,第一に,精緻に検討された社会活動の尺度開発研究,第二に,社会活動促進に寄与する ための研究であることを示した. |
キーワード | 地域高齢者,社会活動,社会参加,概念と測定,量的研究 |
論文名 | 建築学におけるQOL(Quality of Life)と環境行動論 ― 高齢者の経路探索行動に基づく環境整備事例を通して ― |
著者名 | 赤木 徹也 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 36(3):355-361,2014 |
抄録 | 本稿は,建築学における高齢者研究の取り組みのなかで,近年,急速に展開している環境行動論について, その重要性を論じたものである.一般に建築学は,建築物を構築する技術や設計を学ぶ学問であるととら えられがちである.しかしながら,建築学の本質は,建築物を利用する人間を理解し,それらの人々にもっ とも適する環境をいかにデザインするかといった事柄である.つまり,建築学とは建築物構築のための技 術や設計を習得するとともに,その環境を利用する人間を学ぶ学問であるととらえられる.本稿で解説す る環境行動論は,高齢者のための環境といった課題に対して,環境と心理・認知・社会的相互作用などを 含蓄する高齢者の多様な行動との関係性を生態学的妥当性に基づいてトランザクショナルにとらえ,高齢 者のQOL を向上させうる環境とはいかなるものであるかを探求し続ける学問領域である.そして,この 環境行動論に基づく環境へのアプローチは,従来の建築学が主としてきた機能主義的アプローチに止まら ず,QOL といったきわめて人間的な課題に対する環境デザインのあり方を示唆するものである. |
キーワード | 生活の質,環境行動論,トランザクション,環境適応,環境のわかりやすさ |