「認知症の最近の話題ーDLBを中心にー」

小阪憲司( 聖マリアンナ医学研究所/日本老年精神医学会理事長)

 

 わが国は昭和40年半ばに高齢化社会に突入し,その後急速に人口の高齢化が進み,現在では高齢者人口は全人口の20%を超え,1〜2年もすれば高齢社会から超高齢社会に突入することになる.すでに5人に1人が65歳以上の高齢者であるが,数年先には高齢者が4人に1人になるであろう.
 高齢者が増えるから当然高齢者の精神障害が大きな課題になるし,ことに認知症は重大な医療・福祉問題であり,ますます深刻な社会問題となるであろう.
 したがって,老年精神医学会の役割は今後ますます高まるものと思われる.老年精神医学会の専門医制度も軌道に乗り,すでに会員は2,500人を超え,専門医も800余名になっているが,全国的な視点から見るとまだまだ少なく,もっともっと増やさなければならない.認知症に関する基礎的研究はここ10数年の間に目を見張るほど発展しているが,医療・福祉のレベルももっと高めなければならない.認知症学会でも専門医制度の導入が真剣に検討されており,老年精神科医はもちろん,神経内科医や老年科医などが相互に協力して認知症問題に取り組まなければならないと思う.
 さて,高齢者のなかで認知症に陥る頻度は7〜8%といわれるが,その頻度は年齢とともに増加し,85歳を過ぎると4人に1人が認知症に陥るといわれている.わが国には現在高齢者の8%ほどが認知症者であるといわれ,軽度の認知症者を含めると200万人近くの認知症患者がいることが想定される.今後は後期高齢者が増加するため,ますます認知症患者が増加するであろう.
 今回は認知症の最近の話題についてお話しすることにするが,短い時間でこの問題をお話しするには焦点を絞ってお話しするのがよいと考えて,レビー小体型認知症dementia with Lewy bodies(DLB)およびその関連疾患に焦点を絞ることにする.最近は認知症の前段階として注目されている「軽度認知障害mild cognitive impairment」(MCI)が話題になっているので,まずMCIと認知症との関連から話を始めたい.
 MCIは正常と認知症との間に位置づけられているが,最初はその多くがアルツハイマー病に移行することが重視され,したがって,アルツハイマー病の早期診断・早期治療という観点から注目されるようになった.しかし,最近はMCIをもっと広い観点から見るようになった.まず,以下の3点についてお話しする.

 1:MCI概念について

 2:最近のMCIのとらえ方

 3:後期高齢者のMCIとLNTD

 今回は,あえてアルツハイマー病についてはふれないことにする.非アルツハイマー型変性認知症non-Alzheimer degenerative dementiasを紹介したうえで,DLBについてお話する.
 私は1976年以降の一連の報告のなかで,1980年に「レビー小体病」(LBD)を,1984年に「びまん性レビー小体病」(DLBD)を提唱したが,これが基礎になって1996年に「レビー小体型認知症」(DLB)が提唱され,その診断基準も報告され,臨床診断が可能になった.さらに,2005年にはDLBの診断基準改訂版が発表され,現在ではDLBはアルツハイマー病についで二番目に多い認知症で,その頻度は10数%から20数%といわれ,アルツハイマー病・血管性認知症とともに三大認知症といわれるようになった.2006年2月にワシントンにてLippa教授を中心に“DLB and PDD at Crossroads”という国際シンポジウムが開催され,また11月には私が主催して第4回DLB/PDD国際ワークショップを開催した.今回はそれらの結果も含めて,以下の項目に沿ってお話をすることにする.

 4:パーキンソン病とレビー小体型認知症の歴史

 5:レビー小体型認知症の臨床診断基準と問題点
   CDLBガイドライン(1996)とCDLBガイドライン改訂版(2005)

 6:具体的症例

 7:レビー小体型認知症の脳病理

 8:新しい動き

 9:レビー小体型認知症の治療とその課題:研究の進展