高齢者の気分障害
-診断と治療のポイント-

白川 治(近畿大学医学部精神神経科学教室)

 

 高齢者における気分障害の診断と治療(特に,薬物療法)のポイントについて述べる.老年期は,身体的な衰えが目立つようになり,配偶者や友人などを喪ったり,役割,地位,仕事などを失う機会が多い「喪失の時代」である.うつ病では,こうした身体的,環境的要因の変化を背景にした好発時期でもあるが,加齢に伴う不可避の現象であると周囲からは見なされることも稀ではない.高齢者におけるうつ,躁の症候学的特徴を述べ,脳器質因,身体因検索の重要性を踏まえて,うつでは,認知症との鑑別ないしは併存を念頭においた診断,初発の躁では,二次性躁病として原因疾患の検索が求められる点を強調したい.薬物療法については,肝・腎機能をはじめとする身体機能の低下による薬物代謝・排泄能力の低下に加え,多少とも脳の器質性変化が高齢者では存在することから,重篤な副作用の回避を重視した薬物選択・投与を行う必要がある.抗うつ薬,気分安定薬を中心に薬物の具体的な選択法・投与法について述べる.