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プログラム/Program

タイムテーブル/Timetable

第34回大会:プログラム /Program

6月8日(土) 口頭発表

口頭発表
2019年6月8日(土) 9:30~10:18 老年精神第4会場(第3会議室2F/共通第21会場)
地域医療・医療施設①
座長: 田子 久夫((公財)磐城済世会舞子浜病院)
O-B-1: 倉持  泉(埼玉医科大学病院神経精神科・心療内科,埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック,埼玉医科大学病院てんかんセンター)
O-B-2: 内田 直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック)
O-B-3: 新井 久稔(北里大学医学部精神科学,小鹿野町中央病院)
O-B-4: 宗  久美(熊本県地域拠点型認知症疾患医療センター)
O-B-1
大学病院てんかんセンター精神科初診外来における高齢初診患者の実態調査
倉持 泉(埼玉医科大学病院神経精神科・心療内科,埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック,埼玉医科大学病院てんかんセンター),嶋﨑広海(埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック),村田佳子,渡邊さつき,松岡孝裕(埼玉医科大学病院神経精神科・心療内科,埼玉医科大学病院てんかんセンター),吉益晴夫(埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック),太田敏男(埼玉医科大学病院神経精神科・心療内科,埼玉医科大学病院てんかんセンター)
 
【目的】てんかんは高齢者での発症率が最も高く,超高齢化社会の我が国で重要な疾患といえる.発表者らは第33回日本老年精神学会にて,過去5年間の初診高齢てんかん患者調査報告をした.当院は2017年4月よりてんかんセンターが発足し,2018年5月より精神科病棟での長時間ビデオ脳波検査(VEEG)が実施可能となっている.高齢者医療における大学病院てんかんセンター精神科外来の役割などを把握することを目的に調査を行った.
【方法】2018年1月~12月の当院てんかんセンター精神科外来初診患者のうち,65歳以上の高齢者について診断・てんかんに関する臨床的特徴などについて,診療録を用いて後方視的に調査した.
【倫理的配慮】本調査は埼玉医科大学病院IRB委員会の承認を得て行った.
【結果】1年間の当科外来初診患者は126人(月平均10.5人),平均年齢38.3歳(13-90歳),このうち65歳以上の高齢者は18例(14.3%)であった.高齢受診者の男女比は7:11,平均年齢は72.7歳(65-90歳).受診目的はてんかん精査目的13例(72.2%),次いで薬剤調整・治療目的4例であった.初診後診断はてんかん10例(55.6%),失神5例,心因性発作1例,振戦1例,診断保留1例であった.てんかんの診断に至った全例が症候性局在関連てんかんで,発作型は二次性全般化を伴わない複雑部分発作が6例(60%)で最も多く,50代以降で発症したものが80%をしめた.確定診断にVEEGを要した症例は3例だった.抗てんかん薬は平均1.3剤使用されており,2例が難治に経過していた.
【考察】精神科外来は高齢受診者の発作的症状に対して包括的な精査加療を行うことが可能であり,今後のてんかん診療において重要な位置づけとなると考えた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-2
認知症診療におけるオンライン診療の可能性について
内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック),園田 薫(医療法人すずらん会たろうクリニック,藍野病院),浦島 創(医療法人すずらん会たろうクリニック)
 
 2018年度の診療報酬改定においてはオンライン診療料・オンライン医学管理料・オンライン在宅管理料が新設され,オンライン診療元年となった.しかし,適応疾患が限られることや低く設定された診療報酬の影響もあり,実際に導入している医療機関は限られているのが現状である.
 オンライン診療料の新設に関連した事業として,ICTを活用した「かかりつけ医」機能強化事業がある.この事業は,福岡市が推進する超高齢社会への対応「福岡100」プロジェクトの一つで,福岡市,福岡市医師会に加えて株式会社インテグリティ・ヘルスケアがシステム協力を行い,2017年4月より約20の福岡市内医療機関協力のもと,段階的なオンライン診療の導入と有用性の検証を実施した.筆者は,本事業の開始時より参加し実際に数例のケースにオンライン診療の実証を行い,現在も認知症診療においてオンライン診療を行っている.
 現状ではオンライン診療は対面診療を代替することはできず,対面診療と組み合わせて補完するものにすぎないが,診察の中で身体に触れる機会が少なく話を聞くことが中心となる認知症診療においてはオンライン診療との親和性が高く有用な場面が多い.一方で,使用するデバイスの問題など課題も多いのが現状である.
 今回の発表ではオンライン診療の診療報酬上の取り扱いをはじめ,実際に使用している事例の紹介を行い,その有用性と課題について考察を行う.
 なお,紹介する事例は,学会で事例提供を行うことについて本人・家族の承諾を得ている.また,本事業においてはワーキンググループ運営委員会によって倫理面の検討は十分に行っている.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-3
地域総合病院での心療内科(精神科)外来における老年期精神疾患の臨床的特徴
新井久稔(北里大学医学部精神科学,小鹿野町中央病院),加藤啓子(小鹿野町中央病院),大久保築世(小鹿野町役場),内田 望(小鹿野町中央病院),宮岡 等(北里大学医学部精神科学)
 
【目的】小鹿野中央病院は,高齢化率が約35%で半径10km以内に精神科医療施設がない地域に位置してる総合病院である.精神科病棟無床の地域総合病院における,心療内科(精神科)外来を通して,地域における老年期の精神疾患の臨床的特徴に関して検討する.
【方法】平成29年4月から平成30年11月までに,小鹿野中央病院心療内科(精神科)外来を受診した65歳以上の104例(全体の53%)を対象.調査項目として,外来受診時の年齢,性別,精神科診断(ICD-10),通院経路,受診時主訴,通院期間,転帰,薬物治療の内容などに関して診療録より後方視的に調査した.今回の発表に関して小鹿野中央病院倫理委員会の承認を得ている.
【結果・考察】65歳以上では,性別は男性22例(21%)・女性82例(79%)で,女性の割合が高かった.精神科診断はF3(気分障害)39例(38%),F0(症状性を含む器質性精神障害)33例(32%),F4(神経症性障害)18例(17%)の順であった.F0(症状性を含む器質性精神障害)が認知症を中心としてほぼ全例(38例)が家族や他医療機関からの紹介例に対して,F3(気分障害)は約4割近くが本人希望の受診であった.内科を中心とした身体科を受診している割合が高く,身体的愁訴で受診となる症例も多く,希死念慮を呈する症例も認められた.近隣における精神科医療機関が少なく,今回の調査から,地域総合病院を受診となる老年期における精神疾患の臨床的特徴や今後の課題に関して検討したい.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-4
熊本県荒尾市における高齢者総合健康手帳の開発とその有用性に関する検討;手帳を活用した荒尾モデルの連携と地域包括ケアシステムの構築
宗 久美,井上靖子(熊本県地域拠点型認知症疾患医療センター),藤瀬隆司,中村光成(荒尾市医師会),大嶋俊範(荒尾市民病院脳神経内科),片山貴友(荒尾市保健福祉部),岩本理歌子(荒尾市保健福祉部保険介護課),橋本 衛(大阪大学大学院連合小児発達学研究科行動神経学・神経精神医学寄付講座),石川智久,丸山貴志(熊本大学病院神経精神科),池田 学(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室),王丸道夫(熊本県地域拠点型認知症疾患医療センター,医療法人洗心会荒尾こころの郷病院)
 
【目的】平成27年に公表された認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)には,認知症高齢者等にやさしい地域づくりを目指した7つの柱として,「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」,「認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進」が示されており,各自治体での取り組みが求められている.
 我々は,平成24年度から認知症高齢者の医療介護連携のための情報共有ツール「火の国あんしん受診手帳(以下,くまモン手帳)」を開発し,地域包括ケアシステム構築に向けた「くまモン手帳」の有用性について検証した.
【方法】平成24年に熊本県内の各認知症疾患医療センターを受診した認知症高齢者を対象に「くまモン手帳」の配布を開始した.その後,熊本県荒尾市をモデル地域として,連携の輪を広げ,有用性の検証,内容の検討を重ね,より実践的に役立つ手帳を目指した.
【倫理的配慮】医療法人洗心会荒尾こころの郷病院倫理委員会の承認を得た.
【結果と考察】「くまモン手帳」は認知症疾患医療センターを中心に,認知症高齢者を対象に配布を開始したが,医療機関相互の連携や,薬剤師,歯科医師などとの連携に活用されるようになり,複数の慢性疾患の情報共有に対する有用性が示唆された.現在では,地域の一般総合病院も参加し,高齢者総合健康手帳の開発へとつながっている.
 また,「くまモン手帳」は,電子媒体のICTツールを補完する意義が見いだされ,複数の慢性疾患を患っている高齢者自身の総合的な健康管理手帳としてのみならず,全市を挙げて取り組むことで,在宅医療や救急医療の連携や,より強固な地域包括ケアシステムの構築に向けた「くまモン手帳」の有用性が期待できる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
口頭発表
2019年6月8日(土) 10:18~10:54 老年精神第4会場(第3会議室2F/共通第21会場)
地域医療・医療施設②
座長: 中野 倫仁(北海道医療大学心理科学部)
O-B-5: 菅  康徳(医療法人せいとく会菅医院脳神経外科)
O-B-6: 入谷  敦(金沢医科大学高齢医学,金沢医科大学病院認知症センター)
O-B-7: 山崎 玲子(社会医療法人財団松原愛育会松原病院)
O-B-5
へき地における認知症疾患医療センターの役割;秋田県の認知症治療事情も含めて
菅 康徳(医療法人せいとく会菅医院脳神経外科)
 
【目的】医療分野における「へき地」とは『交通条件及び自然的,経済的,社会的条件に恵まれない山間地,離島その他の地域のうち,医療の確保が困難である地域をいう.無医地区,無医地区に準じる地区,へき地診療所が開設されている地区等が含まれる.』と定義されている.当地域は秋田県南にあり当院以外で認知症含めた神経疾患を診察するには他の二次医療圏へ通うしか手段がない状況であり,いわゆるへき地である.
 このような地域において認知症疾患医療センターの開設認可を受け2年間経過したのでその結果を報告する.
【方法】2年間,当院へ認知症を疑い新規に受診した患者を統計した.受診に際しては前もって介護者の同伴を依頼し情報に齟齬が生じないようにした.
【倫理的配慮】データは匿名化し個人情報の保護に十分な配慮を行った.
【結果】受診した患者は80名で年齢平均:82.34才,長谷川式平均:13.66点であった.また,紹介とは別に,運転免許証更新の診断を要する受診患者は35名であり,年齢平均:82.81才,長谷川式平均:17.81であった.
【考察】認知症患者に対する診療の方法として,単独受診を回避し家族と同伴し現状確認をする,という手順が取れない場合には,患者とのトラブルが増える傾向にある.
 認知症センターへ受診をさせる,という手筈を整えることで患者およびその家族に認知症という病気を受け入れる体制を構築する準備が始まると考えられる.
 都市部ではない地域に認知症疾患医療センターを設置することで,住民および他の医療機関への支援が可能になっていると考える.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-6
運転免許更新時の認知症診断をうけた症例の特徴
入谷 敦,小寺久美絵(金沢医科大学高齢医学,金沢医科大学病院認知症センター),山中麻未(金沢医科大学病院認知症センター),奥野太寿生(金沢医科大学高齢医学,金沢医科大学病院認知症センター),濱 大輔(金沢医科大学病院認知症センター),森本茂人(金沢医科大学高齢医学,金沢医科大学病院認知症センター)
 
【背景】高齢運転者免許更新時の認知機能検査において「1分類:認知症のおそれあり」と判定され,認知症についての診断書提出命令が出され受診する.又,2・3分類と判定を受けた症例さらに75歳未満も認知機能の低下が心配で受診する症例を散見する.
【方法】対象は1分類の16例(A群)と2・3分類の11例(B群).外来受診で,身体活動の程度,生活歴聴取,日常生活能力の聞き取り,神経心理学的検査,血液検査,頭部MRI/CT,脳血流SPECTを通常外来で必要と判断される範囲で施行し診断した.
【倫理的配慮】患者および患者家族によって了解を得たうえで実施し,また,本研究は当院倫理委員会で承認されている.
【結果】A群16例は平均80.4歳であり,認知症に罹患している症例は56.3%,MCIが37.5%を占めており,75%の症例で毎日運転をしていた.MMSEは21.75±3.9であった.交通インフラ上運転免許が必要とされる症例は8例(50%)であった.一方,B群は平均76.7歳でMCI,Alzheimer型認知症がそれぞれ36.3%であった.運転頻度も毎日の症例が72%,すでに辞めた症例も18%含まれていた.
【考察】予備検査で1分類となる症例は,半数が認知症であった.受診時に高度難聴であり補聴器装着を進めるとMCIに該当する症例も3例経験した.ご本人が免許返納の機会を脱している場合もあり,免許返納と代替の移動手段を提案することで進んで免許を返納する場合も経験した.しかし,明らかに交通インフラが未発達の土地に住み続けている高齢者にとって今後難渋する課題も明らかになった.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-7
精神科急性期治療病棟における認知症高齢者の治療効果
山崎玲子,奥村誠一,岡崎里美,相原 瞳,松原三郎(社会医療法人財団松原愛育会松原病院)
 
【目的】当院では平成29年4月から認知症治療病棟を精神科急性期治療病棟(48床医師数3.5人の配置加算)に転換し,高い人員基準の下で短期間の入院治療を目指した.その治療効果について報告する.
【方法】平成29年12月から30年9月までの10カ月間に当該病棟に入院した患者212名を対象に調査を行った.
【倫理的配慮】データは匿名化して取り扱い,当院倫理委員会の承認を得た.
【結果】調査期間中182人の新規入院患者(月平均18.2人)があり,平均在院日数は67.1日(SD 49.38)であった.入院後90日時点での地域移行率は81.3%で,当院のスーパー救急病棟における71.3%よりも高かった.この90日間に総合病院への転院9.6%,病院内転棟5.9%があったが,いずれも身体合併症によるものであった.地域への退院では,自宅29.6%,老健14.5%,GH 15.8%,有料老人H等24.3%,特養15.8%などであった.自宅から入院し,退院後自宅に戻れたのは38.1%であった.91日を過ぎた人の退院先は,自宅16.0%,老健24.0%,GH4.0%,特養12.0%,転院12.0%,転棟20.0%,入院中12.0%であった.入院時の主症状別に地域移行までの平均日数をみると,せん妄90.9日,興奮暴力78.1日,徘徊67.3日,介護抵抗56.3日であり,主症状ごとに差異が認められた.
【考察】認知症高齢者に特化し,高い人員配置で集中的に治療を行うことで,短期間での高い地域移行率を達成出来た.主症状別では入院日数に差があり,症状に合ったクリニカルパスの整備が必要である.また,地域内の家庭,老健,GH,有料老人ホームに対して精神科医が定期的に訪問診療を行い,安心して当院からの認知症患者を受け入れられるように支援を行ったことも,円滑な地域移行を促進した要素と思われる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
口頭発表
2019年6月8日(土) 10:54~11:30 老年精神第4会場(第3会議室2F/共通第21会場)
神経画像・検査
座長: 中野 正剛((医)相生会認知症センター)
O-B-8: 林  博史(山形大学医学部精神医学講座)
O-B-9: 松岡 照之(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
O-B-10: 河月  稔(鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座)
O-B-8
早発性と晩発性アルツハイマー型認知症における脳MRIと脳血流SPECTの有用性;Pittsburgh compound B(PiB)陽性例における検討
林 博史,小林良太(山形大学医学部精神医学講座),川勝 忍(福島県立医科大学会津医療センター神経精神医学講座),大谷浩一(山形大学医学部精神医学講座)
 
【目的】早発性アルツハイマー型認知症(EOAD)は多彩な症状を呈することから前頭側頭葉変性症などと鑑別が難しい場合がある.また,晩発性アルツハイマー型認知症(LOAD)は嗜銀顆粒性認知症など高齢者タウオパチーとの鑑別が難しいとされ,いずれもPittsburgh compound B(PiB)-PETがアルツハイマー型認知症(AD)の診断に役立つ.PiB陽性のほぼ確実なEOADとLOADにおいて脳MRIのVSRADと脳血流SPECTのeZISの有用性を検討した.
【方法】2013年4月~2018年3月までに山形大学医学部附属病院を受診した認知症患者のうち,NIA-AAによるADの診断基準を満たし,PiB-PET陽性の38名を対象とした.発症が65歳未満のEOAD21例と65歳以上のLOAD17例においてVSRADの海馬傍回の萎縮の程度を示すZ-scoreとeZISにおける3指標Severity,Extent,Ratioを比較した.
【倫理的配慮】対象者またはその家族に対して研究内容を説明し文書による同意を得た.本研究は山形大学医学部倫理委員会の承認を得た.
【結果】MMSEスコアの平均はEOAD 21.3±4.4,LOAD 20.4±3.5と両者に差はなかった.VSRADのZ-score平均はEOADで1.50±0.53,LOAD 2.91±1.17でLOADにおいて高く,Z-scoreが2以上の者はEOADで5名(24%),LOADで12名(71%)とLOADに多かった.eZISの3指標ではSeverityがEOAD 2.54±0.80,LOAD 1.47±0.56,ExtentがEOAD 54.68±19.17,LOAD 23.61±20.62,RatioがEOAD 4.24±1.45,LOAD 2.48±1.70でいずれもEOADで高かった.また,Severityが1.19以上の者は,EOADで20名(95%),LOADで10名(59%)とEOADに多かった.
【考察】ほぼ確実なADにおいて,EOADの診断にはVSRADだけでは不十分でeZISが有用である.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-9
松果体体積を用いた軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への移行予測について
松岡照之,大矢 希(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学),横田 元(京都府立医科大学大学院医学研究科放射線診断治療学,千葉大学大学院医学研究院画像診断・放射線腫瘍学),赤澤健太郎,山田 惠(京都府立医科大学大学院医学研究科放射線診断治療学),成本 迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
 
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)患者では軽度認知障害(MCI)患者や健常者よりも松果体体積が有意に減少していることが報告されている.そのため,松果体体積はAD発症を予測するのに有用であるかもしれない.本研究ではMCI患者において,松果体体積がAD発症を予測しうるかを検討することとした.
【方法】北米のAlzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)-1のデータを用いて解析した.頭部MRI(3T,MPRAGE)を施行し,12ヶ月以上経過観察したMCI患者64名(平均年齢74.4±8.0歳)を対象とした.松果体体積はMRIcroを用いて用手的に測定し,松果体体積から嚢胞体積を引いた松果体実質体積(pineal parenchymal volume:PPV)を測定した.統計解析はSPSSを用いてt検定を行い,AD移行群と非移行群のPPVを比較した.さらに,AD移行の予測因子を調べるために共変量にPPV,年齢,性別,MMSE,全脳体積を用いてロジスティック回帰分析(強制投入法)も施行した.解析においてp<0.05を統計学的有意とした.
【倫理的配慮】Laboratory of Neuro Imaging(LONI)Image&Data Archive(IDA)の許可を得て上記解析を施行した.
【結果】PPVは移行群(n=37)が86.3±33.9mm3,非移行群(n=27)が104.8±41.2mm3であり,移行群の方が小さい傾向があった(p=0.053).ロジスティック回帰分析ではMMSE(オッズ比:0.689;95%信頼区間:0.509-0.934;p=0.016)とPPV(オッズ比:0.982;95%信頼区間:0.966-0.998;p=0.027)がAD移行の予測因子として同定された.
【考察】ADで認められる松果体体積の減少はMCIの時点で生じている可能性があり,AD移行の予測因子になるかもしれない.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-10
アルツハイマー型認知症および軽度認知障害患者の味覚機能の検討
河月 稔,浦上克哉(鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座)
 
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)では中枢性味覚障害が引き起こされる可能性があると考えられているが,軽度認知障害(MCI)の味覚障害についての報告は十分ではない.今回,味を検知できた検知閾値,味を認知できた認知閾値,検知閾値と認知閾値の乖離度に注目し,ADやMCIと認知機能正常者(Control)との比較を行うとともに,認知機能との関連性を評価し,認知機能障害と味覚機能の関係を詳細に検討することを目的とした.
【方法】対象は70-89歳のAD患者31名(81.8±4.9歳),MCI患者14名(80.6±3.7歳),Control 12名(79.3±4.1歳)である.対象者には,1)味覚検査(味覚検査用試薬テーストディスクの味質溶液を用いた口腔内滴下法),2)味覚に関するアンケート,3)認知機能検査(Touch Paneltype Dementia Assessment Scale:TDAS)を実施した.
【倫理的配慮】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
【結果】味覚検査の検知閾値や検知閾値と認知閾値の乖離度は3群間で有意差は認めなかったが,認知閾値はMCI群やControl群と比較してAD群で悪化傾向を示していた.しかし,AD群で味覚機能低下の訴えがあったのはわずか3.2%だった.また,TDASとの比較検討においては,認知閾値および検知閾値と認知閾値の乖離度との間に有意な相関を認めた.
【考察】認知機能の低下に伴って味は感じるが何の味か識別が困難な状態になっていくと考えられたが,MCIでは味覚機能が比較的保たれていると思われた.また,認知症患者は味覚機能低下に対する自覚症状が非常に乏しいと考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
口頭発表
2019年6月8日(土) 13:20~14:20 老年精神第4会場(第3会議室2F/共通第21会場)
若年性認知症・非薬物療法
座長: 古田 晶子(常総病院)
O-B-11: 稲垣 千草(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター)
O-B-12: 加藤 真衣(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター)
O-B-13: 多賀  努(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所)
O-B-14: 石丸 大貴(医療法人晴風園今井病院,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,大阪大学大学院精神医学教室)
O-B-15: 花輪 祐司(医療法人清心会八尾こころのホスピタル)
O-B-11
若年認知症の人と家族の語りの分析(その1);ある夫婦間における認知症の認識の比較
稲垣千草,加藤真衣,山下真里,根本留美,並木香奈子,井上志津子,長久美江子(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター),樫村正美,野村俊明(日本医科大学医療心理学教室),北村 伸(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター),三品雅洋(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター,日本医科大学大学院医学研究科脳病態画像解析学講座,日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター)
 
【目的】当院は神奈川県川崎市の認知症疾患医療センターである.2017年度に質問紙による市内の若年認知症の実態調査を実施したところ,医療や介護に結びついていない若年認知症の人の存在が推測された.2018年度はインタビュー調査を開始した.本発表では,1組の夫婦における患者と介護者の認知症の認識を比較した.
【方法】当院の若年認知症家族会参加者から協力者を募り,患者と介護者に個別で半構造化インタビューを実施し,気づきからの経緯や現在の生活等を尋ねた.インタビューは録音し逐語記録を作成した.本研究では,患者と主介護者の協力が得られた70代の夫婦(妻が62歳時にアルツハイマー病と診断)を分析対象とし,認知症の認識に関連する部分を,質的データ分析法(佐藤,2008)を参考に分類して夫婦の結果を比較した.
【倫理的配慮】本研究は,日本医科大学武蔵小杉病院の倫理委員会の承認を受けた.被験者には書面にて同意を得た.
【結果】異変には患者が先に気付き,介護者は患者からの相談で認識し,受診に繋がっていた.「若年認知症で治らない」「診断後に受け止めの意識が生じ心理的に安定した」との認識は一致していた.諸々の症状を患者は認識していたが,介護者はより多くの症状を報告した.「現状は介護者のフォローで支障なし」との認識は一致していたが,公的なサポートを必要と認識する介護者と,現状の人間関係で満足とする患者との間で不一致が見られた.
【考察】患者と介護者の間で,認知症の認識に様々な差異は生じる.認識が一致しない部分で感情的な衝突が生じ易い.公的サポートの導入が進まない一要因として,現状のサポート資源の位置づけに差異があることが示唆された.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-12
若年認知症の人と家族の語りの分析(その2);関係性の変化に伴う語りの質的分析
加藤真衣,稲垣千草,山下真里,根本留美,並木香奈子,井上志津子,長久美江子(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター),樫村正美(日本医科大学医療心理学教室),北村 伸(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター),野村俊明(日本医科大学医療心理学教室),三品雅洋(日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター,日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター,日本医科大学脳病態画像解析学講座)
 
【目的】当院は神奈川県川崎市の認知症疾患医療センターとして,2017年度に質問紙による市内の若年認知症の実態調査を実施し,2018年よりインタビュー調査を進めている.本発表では,語りにおいて見られる,特に家族間の関係性に言及した箇所を取り上げ,若年認知症を抱える患者本人と介護者家族の心理的課題を考察する.
【方法】当院の若年性認知症家族会参加者から協力者を募り,本人と介護者に個別で半構造化によるインタビュー調査(約一時間半)を実施し,認知症と診断されるまでの経緯や現在の生活,本人と家族の関わりについて尋ねた.インタビューは録音し逐語記録を作成した.本研究では,家族間の関係性が語られた若年性認知症本人(4名)と家族(配偶者2名,子世代2名)を対象として,質的データ分析法(佐藤,2008)を参考に分析を行った.
【倫理的配慮】本研究は,日本医科大学武蔵小杉病院の倫理委員会の承認を受けた.協力者には,研究発表の可能性について説明を行い,書面にて同意書を得た.
【結果と考察】家族も本人も互いの関係性が変化していることを感じていた.特に家族の場合は,本人の見た目は変わらないが,本人らしくない行動を目の当たりにして,対象喪失を体験している.さらに症状の進行などで,本人の家族認識が曖昧になると,家族としての自分という関係性の喪失も体験していると考えられる.家族自身の仕事や家庭生活で多忙な中,喪失体験を自分の中で抱えざるを得ない現状も伺え,心理的な支援を行う上で重要な視点であると考える.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-13
若年性認知症の診断後支援のあり方に関する検討;東京都若年性認知症の有病率及び生活実態に関する調査の経過報告
多賀 努,枝広あや子,杉山美香,岡村 毅,宮前史子,山村正子,菊地和則,粟田主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所)
 
【目的】医療機関・福祉事業所等を利用している若年性認知症に対する診断後支援の課題を検討する.
【方法】東京都4区(練馬区,板橋区,北区,豊島区)の医療機関・福祉事業所(介護保険・障害福祉)・行政機関(保健・福祉・精神保健福祉センター等)・若年性認知症総合支援センターを対象(1,879件)に,自記式調査票を郵送配付・回収する悉皆調査を実施した.調査対象は,2017年1月1日から12月31日のあいだに調査対象期間・事業所を利用した18歳以上65歳未満の認知症かつ4区在住者(2018年1月1日現在)である.機関・事業所と年齢階級の関連を検討するため,クロス集計分析を行った.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター倫理委員会の審査を受け承認されている.また開示すべき利益相反状態はない.
【結果】回収率は72.2%,4区在住の若年性認知症は318人(男性52%・女性47%・不明1%)だった.年齢階級別構成比は,60歳代63%,50歳代28%,40歳代5%,30歳代3%,10歳代1%だった.機関・事業所構成比は,介護保険事業所53%,医療機関40%,MCD 11%,若年認知症総合支援センター3%,障害福祉3%だった.
【考察】介護保険事業所を利用する40歳代以下は有意に少なかったが(p<.005),若年性認知症総合支援センター等の相談機関,障害福祉事業所を利用する傾向も見られなかった(p=n.s.).若年認知症に対する訪問調査では,制度・サービスを知らない本人・家族介護者が多く見られる.医療機関が医療上だけでなく,症状にともなう生活上の問題に向けて,制度・サービスの情報を診断時に負担なく提供できる仕組みをつくることが望ましいと考える.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-14
認知症者の抑うつに対する作業療法介入の一例;入院を契機に生じた孤独感の改善と役割の獲得を目指して
石丸大貴(医療法人晴風園今井病院,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,大阪大学大学院精神医学教室),田中寛之(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科),永田優馬(医療法人晴風園今井病院,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,大阪大学大学院精神医学教室),西川 隆(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)
 
【目的】認知症者の抑うつへの非薬物療法では,背景の心理的要因の考慮が重要であるが,時間的制約のため十分な検討がなされないことも多い.本報告では,抑うつの認知症例における,心理的背景の評価に基づいた作業療法介入の結果を示す.
【方法】症例はアルツハイマー型認知症の80歳代女性,MMSEは9点,回復期リハビリテーション病棟の入院患者である.患者は穏やかな様子で笑顔をみせることもあるが,希死念慮,抑うつ気分,無価値感,不安などが伺われ,Geriatric Depression Scale(GDS)は10点と抑うつ状態であった.
 入院に伴う環境変化と,生活場面の言動を考慮すると,抑うつの背景には家族を含めなじみの人との交流の消失が主要因としてあると推察された.介入では,新たななじみの関係の形成を目的に,活動を介して他患者との交流を促した.また経過中に,自己有能感の低下の関与も評価された.役割ある生活の獲得のため,院内各所の掃除手伝いの活動を介入に追加した.なお,活動に対する望ましい取り組みが得られるよう患者の反応を適宜評価して介入を進めた.
【倫理的配慮】発表に際し,本人と家族より口頭・書面で同意を得た.
【結果】患者は生活場面で他患者と交流することが増えた.GDSは8点に減少し希死念慮も消失したが,不安症状は持続していた.掃除活動が定着する頃には,依頼前に自ら活動に取り組む場面が増えた.介入終了時には不安症状はほとんどなく,GDSは2点となった.
【考察】本症例の抑うつ改善の背景には,なじみある人との交流,自身の役割がある生活環境を獲得できたことが挙げられる.認知症者の抑うつに対しては,対象者の生活と密に関わる作業療法介入が有用かもしれない.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
O-B-15
認知症ケア標準化研修受講によるケア意識および多職種連携意識の変化
花輪祐司,谷口かおり,大瀬良聖名子(医療法人清心会八尾こころのホスピタル),木本 泉(八尾市地域包括支援センター緑風園),福田紳介,安田一生(医療法人清心会八尾こころのホスピタル)
 
【目的】当法人では2015年より「認知症ケア標準化」を法人目標に掲げている.本研究は,「認知症ケア標準化」の一環である認知症ケア研修Ⅱの研修効果を明らかにすることを目的とした.
【方法】認知症ケア研修IIは,4~5名の多職種グループに分かれたのち,①グループワーク(認知症ケアの事例検討),②ロールプレイ(シナリオをもとにケア場面を実演),③グループおよび全体でのシェア,など90分間のプログラムである.
 研修受講者84名を対象に,認知症に関する知識尺度,態度尺度,多職種連携意識尺度などの質問紙調査を実施前後に行い,合計得点や各質問項目,受講者の基本属性ごとの変化を,t検定や分散分析などで検証した.
【倫理的配慮】対象者には,個人が特定されないよう配慮することを説明し承諾を得た.また発表については当法人の倫理委員会の承認を得た.
【結果】認知症に関する知識,態度,多職種連携意識尺度いずれのスコアも,研修受講後に有意に上昇していた(p<0.01).質問項目では,「認知症の人にどのように接してよいか分からない」「私は他の専門職との連携やコミュニケーションに前向きだ」などの項目が受講後に有意に向上していた(p<0.001).基本属性では,認知症ケアの実務経験者や認知症ケアをポジティブに捉える職員で,各スコアが有意に高かった(p<0.01).
【考察】認知症ケア研修Ⅱは,認知症の人に関する正しい知識やポジティブな態度を向上させるだけでなく,多職種での連携意識を向上させる効果があることが示され,現任者の多職種連携教育(Interprofessional education:IPE)の機会となっていることが確認された.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

6月8日(土) ポスター発表

ポスター発表
2019年6月8日(土) 14:25~15:15 ポスター会場(2F)
症候学
座長: 近藤  等((医)朋心会旭山病院)
P-B-1: 林  綾子(札幌医科大学再生治療推進講座,札幌医科大学医学部神経精神医学講座)
P-B-2: 﨑元 仁志(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野)
P-B-3: 笠原 信行(医療法人大和会西毛病院)
P-B-4: 當眞 皇咲(順天堂大学医学部精神医学講座,順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック)
P-B-5: 喜田  恒(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
P-B-1
抑うつ傾向にある高齢者が示す症候の特徴の検討
林 綾子(札幌医科大学再生治療推進講座,札幌医科大学医学部神経精神医学講座),津山雄亮,岩本 倫,松山清治,村山友規(札幌医科大学医学部神経精神医学講座),野呂孝徳(砂川市立病院精神科),白石将毅,河西千秋(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)
 
【背景】高齢のうつ病患者は,感情の表出が少なく,周囲から気づかれにくいことが特徴の一つである.
【目的】抑うつ傾向にある高齢者の症候を明らかにする.
【方法】H30年4月12月に,札幌医科大学附属病院神経精神科もの忘れ外来を受診した高齢患者37名を対象に,老年期うつ病評価尺度(GDS15)と,Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)を行った.GDS15で5点以上を抑うつ群(男性5名,女性9名,合計14名,平均年齢77歳±10.91),4点以下を健常群(男性9名,女性14名,合計23名,平均年齢79.09歳±6.77)と定義し,MADRSの各項目についてt検定を行い,群間比較を行った.
【倫理的配慮】本研究は,札幌医科大学附属病院IRBの承認を得て実施された.対象者/家族に研究内容について説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】抑うつ群において,MADRS評価項目の「外見に表出される悲しみ」(p<0.05),「言葉で表現される悲しみ」(p<0.05),「制止」(p<0.05),「感情を持てないこと」(p<0.05),そして「自殺思考」(p<0.05)の得点が健常群の得点より有意に高かった.
【考察】高齢のうつ病患者では,表情や言葉による感情の表出よりも,身体症状の悪さが前景に立つことが多い.しかし,本研究で対象とした抑うつ群の高齢者では,「外見に表出される悲しみ」「言葉で表現される悲しみ」が健常群と比較して多いことが示された.一方で「制止」,「感情を持てないこと」などの非専門家では捉えにくい症候が抑うつ群で高く,また,「自殺思考」も高いことから,症候の深刻化や顕在発症までのプロセスに気づかれにくい可能性があるものと考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-2
難聴を有し音楽性幻聴を呈した6例
﨑元仁志,石塚貴周,肝付 洋,春日井基文,中村雅之,佐野 輝(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野)
 
 音楽性幻聴とは,外的刺激なしに歌や旋律などが聴こえてくる状態を指す.聴覚障害に音楽性幻聴を伴う症例は多数散見されるが,幻聴体験時の脳血流シンチSPECTでの血流上昇部位は,右上側頭回や中側頭回,角回,縁上回など報告により様々で,一定の見解は得られていない.また,治療に関しても,抗精神病薬や抗認知症薬,抗てんかん薬等様々な薬剤が有効であったとの報告があるが,一定のコンセンサスは得られ得ていない.今回我々は,難聴に伴い音楽性幻聴が出現した6症例を経験した.鹿児島大学病院の臨床研究倫理審査委員会の承認を得ており,患者のプライバシーには十分に留意し,発表に際して本人と家族の同意はとっている.全症例で純音聴力検査上難聴が確認され,発症年齢は60歳以降であり,全症例で統合失調症などの幻聴をきたしうる疾患を認めず,簡易認知機能検査で明らかな認知機能低下がないことを確認した.また,全症例に音楽性幻聴を生じている時期に頭部MRIと脳血流シンチSPECT,脳波を施行し,脳血流シンチSPECTに関しては音楽性幻聴の改善後に再検した.優位半球の同定にはChapman利き手テストを用い,利き手を矯正され利き手の判断が困難であった症例4に関しては,fMRIを用いて優位半球を同定した.治療に関しては,症例1~4においてカルバマゼピンの投与を行い,全症例に有効であった.また,幻聴改善後の脳血流シンチSPECTでは,全症例に共通して非優位半球の上側頭回の血流が有意に低下していた.これらの結果から,難聴による末梢からの聴覚情報入力の遮断により,非優位半球の上側頭回が外部刺激なしに自発的に活動して音楽性幻聴が生じた聴覚性シャルル・ボネ症候群は,カルバマゼピンの投与で幻聴が改善する可能性が示唆された.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-3
易怒性と繰り返される一過性の健忘エピソードがバルプロ酸ナトリウムで改善した一例;回復後も数十年分の部分健忘が残り一過性てんかん性健忘を疑った
笠原信行,亀山正樹,結城直也,石関 圭,諸川由実代,高木博敬,武田滋利(医療法人大和会西毛病院)
 
【目的】易怒性と繰り返される一過性の健忘エピソードがバルプロ酸ナトリウム(VPA)で改善したが,数十年分の部分健忘が残った一例を経験し,一過性てんかん性健忘(TEA)を疑ったため報告する.
【倫理的配慮】本人から同意を得,個人が特定できないように配慮した.
【症例】60代後半男性.X-2年,転倒し頭を打った約1週間後,急に仕事先の場所がわからなくなり脳外科を受診したがMRIでは陳旧性脳梗塞のみだった.その後も急に何をしているか分からなくなったり,突然叫び唇をなめたりすることが続き,易怒性や感情失禁も認めるようになり精神科を受診したが診断はつかず,X-1年からアルツハイマー型認知症の診断で神経内科に通院.X年に当院に転院し長谷川式知能スケールは28点だった.情動安定目的にVPAを処方したところ易怒性と一過性の健忘は改善したが,回復後しばらくしてからの記憶はあるものの,以前の数十年の記憶が部分的に無いことが語られた(例えば30代で店を開業した記憶や,数年前の自動車事故の記憶).脳波ではてんかん性異常波は明らかでなかった.
【考察】本症例では当初認知症や解離等を疑ったが,部分的だが症状回復し心因もなく否定的だった.TEAについてZemanら(1998)は①繰り返し確認される一過性の健忘エピソード,②発作時に記憶以外の認知機能が保たれている,③てんかんを示唆する所見がある(脳波異常,てんかん発作による他の臨床症状が同時に起こる,抗てんかん薬に対する良好な反応)を特徴とし,また前向性健忘に加え,ときに数十年に及ぶ部分的な遠隔記憶障害が生じることが知られている.本症例も脳波異常は認めなかったがこうした特徴を認め,TEAを疑った.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-4
多彩な精神神経症状で初発したビタミンB12欠乏症の1臨床例
當眞皇咲,笠貫浩史,一宮洋介(順天堂大学医学部精神医学講座,順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック),新井平伊(順天堂大学医学部精神医学講座)
【目的】ビタミンB12欠乏症は認知機能障害・多様な精神神経症状を示すことが知られる.今回貧血を認めないが,認知機能障害・多彩な精神神経症状で亜急性に発症したビタミンB12欠乏症(抗内因子・抗胃壁抗体陽性)男性症例を経験したため,文献的考察とともに症例報告した.
【症例】60歳代男性.胃の手術歴はない.X年8月から突然閉居がちとなり,数日後に注意・見当識障害,不安・焦燥,多動,滅裂な言動が出現したため,同年9月上旬に当センター救急外来を受診し,精査加療目的にて当科入院となった.入院時,高度認知機能障害(MMSE 7点),滞続言語を認める一方,亜急性連合性脊髄変性症疑う所見は無く,頭部MRI・髄液検査で特記所見を欠いた.大球性貧血を欠くが,血清ビタミンB12値が検知感度以下,抗壁細胞抗体・抗内因子抗体が陽性であり,自己免疫要因によるビタミンB12欠乏症と診断した.ビタミン補充療法開始後,多彩な精神症状は治療開始後2日目より改善を認め,認知機能障害に関しても退院時にMMSE 28点まで改善した.退院後は毎月ビタミンB12筋肉注射施行を継続し,精神神経症状の再燃はない.
【倫理的配慮】報告にあたり個人情報に充分な配慮をした.また本症例報告にあたり患者には十分説明を行い,文書で同意を得た.
【考察】欧州の報告では高齢者入院患者のtreatable dementia新規発症要因として,ビタミンB12欠乏症が32%を占める.血清測定値の感度・特異度が依然として課題点ではあるが,ビタミンB12値の測定は認知機能障害,精神神経症状の背景病態をスクリーニングするうえで必須項目であり,老年精神医療現場における身体要因留意の重要性を再認識した臨床経験であった.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-5
地域在住する高齢者における抑うつ・うつ病と心理社会的関連因子;Arakawa 65+Study
喜田 恒,新村秀人(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室),色本 涼(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室,桜ヶ丘記念病院),堀田章悟(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室),高山 緑(慶應義塾大学理工学部外国語・総合教育教室),三村 將(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
 
【目的】超高齢社会にある我が国では,心身機能の低下や認知症・うつ病に伴う心理的ストレスを抱える高齢者を地域でどう支えるかが課題である.本研究を通じて,都市部地域に在住する高齢者の抑うつ・うつ病と,コーピング行動や地域との関わりなど複数の心理社会的因子との関連を明らかにし,精神的健康長寿達成の要因を探る.
【方法】2016年10月1日時点で東京都荒川区在住の65~84歳の高齢者を対象に,無作為抽出した5,800名のうち同意を得られた1,099名に対して,2017年1月から2018年1月にかけ,質問票による生活・介護状況,身体的・精神的・社会的健康関連指標などの情報取得と,対面による認知機能・抑うつ・身体機能の評価を行った.抑うつはGeriatric depression scale(GDS)を用いて評価し,DSMIV-TRに基づきうつ病の有無を診断した.
【倫理的配慮】本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】評価を完結した1,095名のうち,GDS 6点以上の者は217名(19.8%)で,うち14名(1.3%)をうつ病と診断した.重回帰分析の結果,抑うつはポジティブ感情,人生満足度,地域との繋がり,問題解決型ストレスコーピング,自我の統合感,レジリエンスと負の関係性を,回避型ストレスコーピングと正の関係性を示した.男女別の解析では,男性で地域との繋がり,女性で問題解決型ストレスコーピングの重要性が示唆された.
【考察】本研究を通じ,地域在住する高齢者における抑うつ・うつ病と関連する心理社会的因子が示された.自我の統合感や問題解決型ストレスコーピングの獲得,地域との繋がりの保持は抑うつを回避し,精神的健康長寿達成に近づくと考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
ポスター発表
2019年6月8日(土) 14:25~15:25 ポスター会場(2F)
薬物療法
座長: 古田  光(東京都健康長寿医療センター)
P-B-6: 平川 和重(医療法人誠心会あさひの丘病院)
P-B-7: 小西  修(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部)
P-B-8: 田川 正秋(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部)
P-B-9: 佐藤瑠美子(医療法人篤仁会富士病院)
P-B-10: 戸塚慶一郎(エーザイ株式会社ニューロロジービジネスグループメディスンクリエーションクリニカル日本・アジア臨床開発部)
P-B-11: 大野 篤志(医療法人篤仁会富士病院)
P-B-6
高齢措置入院患者の特徴
平川和重(医療法人誠心会あさひの丘病院),服部早紀(横浜市立大学医学部精神医学教室),和田佐保,俵 美河,福島 端,山口 登(医療法人誠心会あさひの丘病院)
 
【目的】本発表ではあさひの丘病院(以下,当院)の高齢者措置入院患者の特徴を把握し,今後の精神科救急医療の方向性を検討する.
【方法】2014年4月1日から2018年3月31日まで当院措置入院となった患者(583例)のうち,65歳以上(62例)について診療録を基に患者背景,主訴,診断,転帰等を調査し,65歳未満(521例)と比較する.
【倫理的配慮】匿名性に配慮するため,データから個人情報を削除し,通し番号を割り当て情報管理した.また,発表に際し,当院倫理委員会の承認を得た.
【結果】①当院措置入院患者のうち65歳以上の占める割合は10.6%であった.②措置要件は他害が多かった(65才以上71.0%,65歳未満74.3%).③ICD診断名は,65歳以上では統合失調症圏[F2]51.7%,器質性精神障害圏[F0]17.2%,気分障害圏[F3]15.5%,その他15.5%であり,65歳未満では[F2]60.8%,[F3]14.2%,[F0]1.2%,その他13.1%であった.④平均入院期間は,65歳以上では93.1日,65歳未満では72.2日であった.⑤退院後転帰は65才以上では当院通院72.6%が多く,65才未満では他院通院60.3%が多かった.⑥措置要件別(自傷・他害)は65才以上では[F0]で自傷3.2%,他害19.4%であり,65才未満では[F0]で自傷0.4%,他害1.0%であった.65歳未満との比較では[F0]が優位に多かった.また,[F0]で他害が優位に多かった.
【考察】措置入院患者は[F2]が最も多い(59.5%)が,65才以上では65才未満に比べ[F0]が優位に多く,両者とも他害行為による入院が多いことが示された.高齢化の進む中,措置入院に占める高齢者の割合が今後増加することが予想され,[F0]患者の他害行為への対応に関する研究が必要不可欠と思われる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-7
DLB患者に対するゾニサミド(25mg/日)長期投与時の安全性;P3試験Post-hoc解析(その1)
小西 修(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),小田原俊成(横浜市立大学保健管理センター),長谷川一子(国立病院機構相模原病院神経内科),河内健治(大日本住友製薬株式会社データサイエンス部),田川正秋,丸山秀徳(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),村田美穂(国立精神・神経医療研究センター神経内科),小阪憲司(湘南いなほクリニック)
 
【目的】レビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムに対するゾニサミドの有効性を検証する目的で実施した第3相試験結果を用い,本邦承認用量であるゾニサミド25mg/日のみを服用した患者の長期(52週間)投与による認知機能やBPSDへの影響及び安全性を評価した.
【方法】第3相試験の投与期間(二重盲検治療期:12週,非盲検治療期:40週)を通して,25mgのみを服用した症例を解析対象集団とし,各評価時点でのMMSE及びNPI-10の各合計スコア,各下位項目スコアを算出し,ベースライン値と比較した.最終(52週)時の評価はLOCF法を用いた解析を行い,経時推移評価は当該時点での継続症例を用いた解析を行った.また,有害事象の発現状況,試験からの脱落状況をまとめた.
【倫理的配慮】施設IRBの承認を受け,関連法令を遵守し実施した.また,被験者から文書同意を得た.
【結果】解析対象集団は48症例であり,患者背景は第3相試験に参加した全体集団と大きな乖離はなかった.MMSE及びNPI-10の合計スコアはいずれの評価時点でもベースライン値と大きな差はなかった.全48症例中24症例が52週間の投与を完了した.試験を中止した24症例の中止時期に偏りはみられず,うち15症例が有害事象,7症例が患者申し出による中止であった.神経系・精神系の有害事象でゾニサミド投与との因果関係が否定されなかった中止の割合は10%未満(4/48症例)と低かった.
【結論】ゾニサミド25mg/日は,52週投与によりDLB患者の認知機能及びBPSDに大きな影響を与えず,試験中止に至る神経系・精神系の副作用の発現割合も比較的低かったことから,パーキンソニズムを伴うDLB患者への長期使用が可能であると考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-8
DLB患者に対するゾニサミド(25mg/日)長期投与時の有効性;P3試験Post-hoc解析(その2)
田川正秋(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),小田原俊成(横浜市立大学保健管理センター),長谷川一子(国立病院機構相模原病院神経内科),河内健治(大日本住友製薬株式会社データサイエンス部),小西 修,丸山秀徳(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),村田美穂(国立精神・神経医療研究センター神経内科),小阪憲司(湘南いなほクリニック)
 
【目的】レビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムに対するゾニサミドの有効性を検証する目的で実施した第3相試験結果を用い,本邦承認用量であるゾニサミド25mg/日のみを服用した患者の長期(52週間)投与によるパーキンソニズムへの影響を検討した.
【方法】第3相試験の投与期間(二重盲検治療期:12週,非盲検治療期:40週)を通して,25mgのみを服用した症例を解析対象集団とし,各評価時点でのUPDRS part III合計スコア及び下位項目より振戦,筋強剛,運動緩慢,歩行障害・姿勢反射障害の徴候別合計スコアを算出し,ベースライン値と比較した(paired-t検定).最終(52週)時の評価はLOCF法を用いた解析を行い,経時推移評価は当該時点での継続症例を用いた解析を行った.
【倫理的配慮】施設IRBの承認を受け,関連法令を遵守し実施した.また,被験者から文書同意を得た.
【結果】解析対象集団48症例のうち24症例が52週間の投与を完了した.最終評価(52週LOCF)時のベースラインからの平均変化量は,UPDRS part III合計スコアが-3.9(p=0.002),徴候別では振戦,筋強剛及び運動緩慢がそれぞれ-1.1,-1.0及び-1.6(p=0.001,0.013及び0.016)であり,いずれも有意な低下を示した.変化量の経時推移をみると,UPDRS part III合計スコアは試験期間を通して低下が継続し,投与を完了した24症例の52週時の変化量は-7.2(p<0.001)であった.徴候別では振戦,筋強剛及び運動緩慢も同様にスコアの低下が52週時まで継続した.
【結論】DLBに伴うパーキンソニズム,特に運動緩慢,振戦,筋強剛に対する改善作用が示され,DLB患者に対するゾニサミド(25mg/日)長期投与の有用性が期待された.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-9
Creutzfeldt-Jakob病の精神症状に少量の抗精神病薬が有効であった一例
佐藤瑠美子,末藤淳一,小泉伸介(医療法人篤仁会富士病院),上野文彌(本町こころとからだクリニック),大野篤志(医療法人篤仁会富士病院)
 
【目的】Creutzfeldt-Jakob病は年間100万人に1人が発症し,典型例は急速に進行する認知機能障害に加えて錐体外路症状,ミオクローヌス等を呈し,数か月以内に無動性無言に至ると言われている.今回は,失語等の高次脳機能障害に加えて,抑うつ症状を呈して,緩徐に進行した症例を経験したので,報告する.
【倫理的配慮】症例報告にあたり,患者個人が特定されないように配慮し,本人と家族に口頭および書面にて同意を得た.また,院内の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】症例は76歳女性.精神疾患の遺伝負因なし.X-10年に夫と死別後は一人で暮らしていた.X-1年2月頃より言葉の出にくさ,物忘れを自覚し,近医を受診.頭部MRIにて両側前頭葉および側頭葉に高信号を認めた為,Creutzfeldt-Jakob病(以下,CJD)を疑われ,A病院神経内科に紹介された.同院での精査にて孤発性CJDと診断された.同年11月に施設に入所.徐々に失語が進行し,X年7月頃より希死念慮,自傷行為,食欲不等の症状を認め,施設対応が困難との理由でA病院精神科に入院した.オランザピン5mg,メマンチン5mgを投与し,上記の症状が改善したところで,長期療養目的に当院に紹介,入院となった.現在も入院中であるが,精神症状の増悪はなく,院内の作業療法にも参加している.
【考察】CJDに対する治療は栄養,呼吸管理や一般的ケアが施されるのみで,疾患の治癒や進行遅延を目的とした治療法は存在しない.患者や家族に対する心理社会的支援だけでなく,抗精神病薬等の精神科的治療は精神症状の改善に有効であることが分かった.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-10
ベイズ流Response Adaptive Randomization(RAR)デザイン;BAN2401の臨床第2相試験におけるアプローチ
戸塚慶一郎,北原靖実,小川智雄(エーザイ株式会社ニューロロジービジネスグループメディスンクリエーションクリニカル日本・アジア臨床開発部)
 
【目的】複数の用量を用いて用量反応性を検討する臨床第2相試験では,無効な治験薬治療に対する被験者の暴露を少なくするだけではなく,効率的に治験薬の臨床的有効性を明らかにし,適切な第3相試験へ早期に移行させることが重要である.本試験では,ベイズ流RARデザインを用いた国際共同第2相試験を計画し,BAN2401の至適用量・用量反応性の検討および臨床的効能の評価を行った.
【方法】プラセボ及びBAN2401の5つの用量群計6群に800例の被験者を無作為に割り付けることを計画した.196例を規定の割合(4:2:2:2:2:2)にて無作為に割り付けた後,早期AD患者の臨床症状の進行及び治療効果を鋭敏にとらえることのできるコンポジットクリニカルツールとして開発したADCOMSを主要評価項目として中間解析(IA)を実施し,その後800例が無作為化される時点まで,50例の被験者が追加されるごとに中間モニタリング委員会(IMC)にてIAを実施した.IA後の各用量群への無作為割付けはレスポンス適応型無作為化(RAR)に基づいて行った.
【結果】本試験では,856例の早期AD患者が割り付けられ,有効性が示される可能性の高い用量群への高確率での割り付けが確認された.本試験の結果,高用量2群は,350例ランダマイズ後の全期間を通して有効性を示す可能性が最も高い用量として選択され,全ての評価時点においてプラセボ群よりもADCOMSの悪化を抑制していることが示された.
【考察】本試験の結果,ベイズ流RARデザインにより,薬剤の無効性の継続評価又は早期成功所見の継続評価が可能になるほか,試験のインテグリティー及び二重盲検無作為化を維持しながら,効果の高い投与群に割付確率を高めることができることが示された.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-11
レビー小体型認知症のBPSDに対する薬物療法について;統合失調症に対する薬物療法と認知療法の応用
大野篤志,佐藤瑠美子,末藤淳一,小泉伸介,上野文彌(医療法人篤仁会富士病院)
【目的・方法】レビー小体型認知症では,幻視,被害妄想,衝動行為といったBPSDが出現することが稀ではない.このBPSDの治療において,統合失調症に対する抗精神病薬による薬物療法と認知療法が有効であることを症例報告を通して発表する.
【症例】X-4年9月,子供の幻視と子供にまとわりつかれるという被害妄想によりパニックになり警察を呼ぶ,衝動行為あり,クエチアピン25mg/日による薬物療法と「子供は幻視だから相手にしない」という認知療法開始.その後も,子供の幻視と子供にまとわりつかれるという被害妄想に対して,認知療法が可能な程度かつ衝動行為が出現しない様に,クエチアピンを調整.調整は衝動行為の可能性が軽減すればクエチアピンを減量し,衝動行為の可能性が増強すればクエチアピンを増量.X年1月現在,クエチアピン250mg/日による薬物療法と「子供は幻視だから相手にしない」という認知療法が奏功しており,笑顔で外来通院し,デイサービスにも積極的に通っている.
【倫理的配慮】患者本人と患者家族から発表の同意を得ている.
【考察】統合失調症においては,幻聴,被害妄想,衝動行為が出現し,抗精神病薬による薬物療法を行い,幻聴や被害妄想の完全な改善を目指すが,完全に改善しない場合,幻聴と被害妄想に対して認知療法が有効であるケースが少なくない.これは,レビー小体型認知症の治療にも応用可能である.ただし,レビー小体型認知症では,幻視,被害妄想の完全な改善に必要な量の抗精神病薬を投与するのではなく,抗精神病薬の副作用に十分注意を払い,認知療法が可能な程度かつ衝動行為が出現しない量の抗精神病薬で十分である.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
ポスター発表
2019年6月8日(土) 14:25~15:25 ポスター会場(2F)
家族支援・福祉
座長: 水野  裕((社医)杏嶺会いまいせ心療センター・認知症センター)
P-B-12: 松山 詩菜(市立釧路総合病院精神神経科)
P-B-13: 丸田 道雄(医療法人三州会大勝病院リハビリテーション科)
P-B-14: 杉山 美香(東京都健康長寿医療センター研究所)
P-B-15: 水野 洋子(国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
P-B-16: 佐藤 博文(資生会八事病院精神科,共生会南知多病院,名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学)
P-B-17: 安田 圭志(医療法人鴻池会秋津鴻池病院リハビリテーション部)
P-B-12
当院で入院した認知症患者の暴力行為とアルコール飲酒歴に関する検討
松山詩菜,梅津弘樹,森川一史,小川智生,佐々木史(市立釧路総合病院精神神経科)
 
【目的】認知症患者の暴力行為は,介護者に大きな苦痛である.しかし,暴力行為に及ぶ高齢者の特性はほとんど調査されてない.高齢者が加害者の殺人事件では,加害者の44%にアルコールの影響が疑われたという報告もあり,アルコール摂取歴が認知症患者の暴力性に関与する可能性が高いと想定される.今回,当院で入院した認知症患者で暴力行為のあった患者が,過去のアルコール摂取歴に問題がないか調べた.
【方法】2014年4月1日から2018年3月31日に市立釧路総合病院精神神経科に入院した認知症患者を後方視的に調査した.カルテ情報を元に,「介護者への暴力」がみられた患者が過去にアルコール摂取歴に問題がないかを検討した.多量飲酒の時期があること,連日飲酒が30年以上を「問題あり」とし,機会飲酒のみの患者は除外した.
【倫理的配慮】本研究は調査・発表に際し,市立釧路総合病院の倫理委員会の承認を受けた.
【結果】対象患者は合計104名で,男性42名,女性62名であった.入院以前に介護者への暴力が確認できたのは,104名中32名(30.7%)だった.暴力行為のあった患者32名でアルコール摂取歴の「問題あり」は13名,「問題なし」7名,「不明」12名であった.暴力行為のない患者72名では「問題あり」4名,「問題飲酒なし」28名,「不明」40名であった.暴力の有無と「問題飲酒」のある患者のオッズ比で12.1であり,統計学的有意差を認めた(p=0.0001,Fisher test).
【考察】今回の結果から暴力行為のある認知症患者は,過去のアルコール摂取歴に問題がある可能性が高いことが示唆された.認知症患者での生活歴聴取は,より暴力性に配慮必要な患者を判別し,暴力行為を未然に防ぐために重要である.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-13
介護認定調査に基づいた要介護度と生活機能への通所リハビリテーションの効果;傾向スコアマッチングを用いた後方視的研究
丸田道雄(医療法人三州会大勝病院リハビリテーション科),田平隆行,吉満孝二(鹿児島大学医学部保健学科),佐賀里昭(信州大学医学部保健学科),宮田浩紀(九州栄養福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科),韓 侊熙,吉浦和宏(熊本大学医学部附属病院神経精神科),大勝秀樹(医療法人三州会大勝病院神経内科),川越雅弘(埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科)
 
【目的】本研究の目的は,傾向スコアマッチングを用いて通所リハビリテーション(通所リハ)と通所介護利用者の2年後の介護認定調査項目を比較することでその効果を検証し,双方のサービスの質の向上への示唆を得ることである.
【方法】A市において2015年度に介護認定調査を受け2017年度まで経過を追えた18,929人のうち,2年間継続して通所リハのみまたは通所介護のみを利用していた1,642名(平均年齢82.5±6.7歳,女性70.8%)を分析対象とした.調査項目は,認定調査基本項目5群(身体機能・起居動作,生活機能,認知機能,精神・行動障害,社会生活への適応)と要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度,障害高齢者の日常生活自立度とした.要支援者と要介護者の各々で,2015年度の調査項目を共変量として通所リハ群と通所介護群を1:1でマッチングした.2015年度と2017年度の調査項目より変化量を算出し2群間で比較した.
【倫理的配慮】国立社会保障・人口問題研究所において倫理委員会の承認(IPSS-TRN#15001-2)を得ている.
【結果】マッチングにより通所リハ群と通所介護群は,要支援者で289ペア,要介護者で271ペアが抽出された.マッチング後は両群間で特性に差は認められなかった.要支援者では,通所リハ群において精神・行動障害の変化量が小さく(p<0.05),要介護度と認知症高齢者の日常生活自立度を維持・改善している割合が高かった(p<0.001).要介護者では有意な差は認められなかった.
【結論】要支援者において,個別性の高いBPSDに関連する症状や認知症者における日常生活自立度,要介護度の悪化に対して予防効果が認められた.要介護者の生活機能に対する支援の検討が必要と考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-14
地域在住高齢者の認知機能低下と日常生活支援ニーズ
杉山美香,宮前史子,佐久間尚子,稲垣宏樹,宇良千秋,小川まどか,枝広あや子,岡村 毅,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
 
【目的】一人暮らしや高齢者のみ世帯など家族的な生活支援が受けにくい認知症の人が,地域で暮らし続けるためには,現行の医療や介護保険サービスでは提供する事が難しい金銭管理,家事,移動,服薬等の日常的な困りごとを解決するための日常生活支援サービスが必要である.本研究は,地域在住高齢者の認知機能低下と生活支援ニーズの関係について調査した結果を報告する.
【方法】都内A区の70歳以上の地域在住高齢者で郵送調査と会場・訪問面接調査に参加しMMSE-Jを実施した2020名を対象とした.生活支援ニーズは5因子構造(家事支援,私的領域支援,社会参加支援,受療支援,権利擁護支援)とし,各因子の合計得点を用いてMMSE=23点以下の認知機能低下群(335名,女性%=58.2%,平均年齢80.75歳)と24点以上26点以下の認知機能低下疑い群(494名,女性%=57.5%,平均年齢78.90歳),27点以上の健常群(1191名,女性%=61.5%,平均年齢76.79歳)の群間の一元配置分散分析を行った.
【結果】生活支援ニーズとして「家事支援」「社会参加支援」については健常群と認知機能低下群・認知機能低下疑い群に差がみられ,「私的領域支援」「受療支援」「権利擁護支援」については各群に有意差があった.健常群と比べて認知機能低下群のみでなく,認知機能低下疑い群においても生活支援ニーズは高く日常生活の軽微な困りごとや支援の必要性が生じていることが示唆された.
【考察】認知機能が低下し日常生活支援ニーズが高まっている高齢者は多いと考えられ,サービス内容と認知機能低下の程度に応じた提供方法の検討が必要性だろう.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-15
認知症高齢者に対する家族介護者の不適切処遇に係る副次的検討;介護負担得点に基づく支援時に得られた家族の見解に着目して
水野洋子,荒井由美子(国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
 
【目的】認知症高齢者の家族介護者に対して実施した,介護負担得点(荒井ら,2003)に基づく支援(Arai et al., 2018.方法参照)において得られたデータに着目し,不適切処遇(上田,2000)にかかる副次的検討を行うことを目的とした.
【方法】X医療機関を受診した認知症高齢者の家族介護者のうち,ハイリスク介護者(Arai & Zarit,2014)に対して実施した,介護負担得点に基づく支援(外来担当看護師による傾聴と助言)において得られたデータ(n=29)を解析対象とした.
【倫理的配慮】調査の意義,データの管理・使途・個人情報の匿名化の旨を明確にした上で実施し,回答を以て同意とみなした(国立長寿医療研究センター倫理委員会承認取得_受付番号966).
【結果】(1)回答者の内訳(認知症高齢者との続柄):妻13人,夫4人,義理の娘2人,娘7人,息子3人.(2)認知症高齢者の内訳:平均年齢80.0歳(SD 8.7),男性51.7%,MMSE平均得点15.9点(SD 7.0).(3)家族介護者による不適切処遇の有無:事前に実施した介護者に対する質問票の結果では,29人のうち19人が「不適切処遇有り」であった.なお質問票では「不適切処遇無し」であった10人のうち,3人については,介護負担得点に基づく支援を実施した結果,新たに不適切処遇の事実又は可能性が確認された.
【考察】不適切処遇の有無を自己申告に頼ることには限界があることからも(Arai, et al., 2017),介護負担得点に基づく支援及びそのデータの副次的検討も有用と思われる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-16
レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の介護者における心理特性の比較検討;うつ,睡眠障害などの比較
佐藤博文(資生会八事病院精神科,共生会南知多病院,名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),仲秋秀太郎(資生会八事病院精神科,共生会南知多病院,名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学,慶應義塾大学医学部精神神経科学教室),山田峻寛(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学,回精会北津島病院),佐藤順子(資生会八事病院精神科,聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部言語聴覚学科),色本 涼(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室,桜ヶ丘記念病院),明智龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),三村 將(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
 
【目的】レビー小体型認知症は反復する幻覚,特異な妄想,焦燥感,レム睡眠障害などの精神症状が併発し,症状も変動するので介護負担が重い.本研究の目的は,レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症における介護者の心理特性を多様な側面から比較し,レビー小体型認知症における介護者のストレスに関連する要因を明らかにすることである.
【方法】レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の外来患者と介護者を対象に以下の項目を評価した.MMSE,Beck Depression Inventory-II(BDI-II),不眠重症度質問表,Family Attitude Scale(FAS),介護自己効力感尺度,ZBI(Zarit Caregiver Burden Interview),NPI(Neuropsychiatric Inventory)など.
【倫理的配慮】研究プロトコールは八事病院倫理委員会で承認,患者と代諾者から書面同意を得た.
【結果】レビー小体型認知症(42人)は,アルツハイマー型認知症(62人)と比較してMMSEや重症度には有意な差はなかったが,NPIの妄想,幻覚,異常行動,夜間行動などの頻度・重症度は有意に高かった.介護者に関しては,レビー小体型認知症(42人)は,アルツハイマー型認知症(62人)と比較して,うつ,不眠,感情表出,介護負担の程度が有意に高く,介護自己効力感尺度は有意に低かった.
【考察】レビー小体型認知症の介護者は,アルツハイマー型認知症の介護者に比較するとうつ,不眠,介護自己効力感低下などの多様な問題を抱えていた.レビー小体型認知症の介護者のための適切なサポートの考案が必要である.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-17
認知症家族教室を活用した家族支援
安田圭志,松本裕二(医療法人鴻池会秋津鴻池病院リハビリテーション部),坂井一也(星城大学リハビリテーション学部作業療法学専攻)
 
【はじめに】当院の認知症家族教室の目的は,1)家族の悩みを理解し共有する事で安心感を与え,BPSDの要因や解決策を学ぶ意欲を育む事,2)認知症の事例への介入結果を元にBPSDの要因や解決策を情報伝達し,事例本人への理解を深めてもらう事である.今回,ケア拒否に悩む事例の妻に上記の支援を行った結果,事例への理解が深まった.
【事例】認知症の80代男性.X-3年からケア拒否が進行.X年に妻の介護疲れで当院入院.元建設業監督.70代妻と二人暮らし.
【評価】CDR3.FIM 48点.食事・排泄:一部介助.その他ADL全介助.
DBD 42点:介護者から促すと「建てるの先や」とケアを拒否.仕事様の発言に沿ってケアを促すと応じる事があった.Zarit介護負担尺度25点.
【方法】1)介入:事例の行動を現在も仕事をしていると仮定し,ケア方法を検討.2)家族:家族教室の目的に沿って支援し,事例への理解を深める.
【倫理的配慮】事例家族より文章で同意を得た.
【経過】1)「仕事前に○○に行きましょう」とケアを促すと応じるようになった.2)家族:悩みを専門職と共有できると「解決策を一緒に考えて」と意欲を示した.そこで,介入結果を元に情報伝達すると「仕事をしている認識だからケアを拒むんだ」と理解を示し,最終的に「仕事前にトイレに行きましょうと促すと私でも応じてくれた.まだ,主人らしい所が残っていた」と事例への理解を深めた.
【結果】FIM 60点.DBD 18点.Zarit介護負担尺度16点.
【考察】家族教室で,専門職と悩みを共有する事で,ケア拒否の要因や解決策を学ぶ意欲が妻に育まれた.更に,介入結果を元にした情報伝達と実際にケアを受け入れる事例を見る事で,事例への理解が深まった.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
ポスター発表
2019年6月8日(土) 15:25~16:15 ポスター会場(2F)
精神薬理
座長: 林  博史(山形大学医学部附属病院精神科)
P-B-18: 竹島 正浩(秋田大学医学部精神科学講座)
P-B-19: 小田原俊成(横浜市立大学保健管理センター)
P-B-20: 丸山 秀徳(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部)
P-B-21: 演題取り下げ
P-B-22: 向井馨一郎(兵庫医科大学精神科神経科学講座)
P-B-23: 澤田  萌(医療法人風のすずらん会江別すずらん病院)
P-B-18
認知機能障害を主訴に受診したペランパネル誘発性せん妄の1例;ペランパネル誘発性せん妄
竹島正浩,工藤瑞樹,三島和夫(秋田大学医学部精神科学講座)
 
【はじめに】ペランパネル(PER)は,AMPA受容体を選択的非競合的に阻害することにより神経の過興奮を抑制する新規抗てんかん薬である.抗てんかん薬はせん妄の誘発させることがあるが,これまでPER誘発性せん妄の報告はない.今回,PER投与後にせん妄が出現し,PERの中止によりせん妄が完全回復した症候性てんかんの症例を報告する.症例報告に際し,本人より書面で同意を得ている.
【症例】58歳の右利き男性.50歳のときに右前頭葉のLow grade gliomaと診断された.53歳のときに症候性てんかんを発症し,抗てんかん薬を投与されたが発作消失しなかった.そのため,58歳のときに開頭腫瘍摘出術を施行された(day 0).しかし,術後も症候性てんかんは改善しなかった.Day 48にPER 2mg/dを追加され,day 94にPER 4mg/dに増量されたが,day 95頃より眠気と易怒性が出現した.Day 111にPER 8mg/dに増量されたところ,その翌日より急激に注意障害,見当識障害や記憶障害などの認知機能障害,混乱した会話,異常行動が出現した.これらの症状は日内変動が顕著であった.脳外科医より認知症が疑われたため,day 118に当科を紹介受診した.脳波検査ではてんかん性異常波はなく,基礎律動はθ波だった.DSM-5に基づき,せん妄と診断した.PER以外にせん妄の原因は見つからなかったため,PER誘発性せん妄と暫定診断した.PERからラコサミド100mg/dに変更した.その後精神症状が改善し,day 125には見当識障害と異常行動は消失し,day 135にはせん妄の症状は完全に消失した.脳波検査では基礎律動がα波と正常化していた.最終的に,我々はPER誘発性せん妄と判断した.
【考察】PERはせん妄を惹起しうるため,注意が必要である.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-19
レビー小体型認知症患者の認知機能・BPSD重症度別,ゾニサミドのパーキンソニズム改善効果;2試験統合データの部分集団解析(その1)
小田原俊成(横浜市立大学保健管理センター),長谷川一子(国立病院機構相模原病院神経内科),小西 修(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),河内健治(大日本住友製薬株式会社データサイエンス部),丸山秀徳,遠矢俊司(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),村田美穂(国立精神・神経医療研究センター神経内科),小阪憲司(湘南いなほクリニック)
 
【目的】レビー小体型認知症(DLB)におけるパーキンソニズムの治療では,認知機能やBPSD等の症状の重症度を考慮したリスクマネジメントが求められる.そこで,各症状の重症度別におけるゾニサミド(ZNS)の有用性を検討するため,第2相及び第3相試験の統合解析を行った.
【方法】解析対象は2試験の498例(第2相:152例,第3相:346例)とした.各症状の重症度として,①認知機能障害:ベースライン(BL)のMMSE合計スコアを軽度:30-24,中等度:23-20,重度:19-0,②BPSD:BLのNPI-10合計スコアを軽度:0-9,中等度:10-20,重度:21以上と定義し分類した.<有効性>①②の重症度別にZNS 25mg及び50mg群のUPDRS part III合計スコアのBLから12週後の変化量をプラセボ(PLA)群と比較した.<安全性>①におけるMMSE合計スコア,②におけるNPI-10合計スコアのBLから12週後の変化量をPLA群と比較した.
【倫理的配慮】施設IRBの承認を受け,関連法令を遵守し実施した.また,被験者から文書同意を得た.
【結果】<有効性>①MMSE合計スコアで分類したいずれの層においてもZNS 25mg,50mg群ともにUPDRS part III合計スコアを改善した.②NPI-10合計スコアで分類した層のうち,ZNS 25mg群は軽度及び中等度で,50mg群は中等度でUPDRS part III合計スコアを有意に改善した.重度においてもZNS 25mg,50mg群は軽度,中等度と同程度のスコア低下を示した.<安全性>MMSE,NPI-10スコアで分類したいずれの層においてもZNS 25mg,50mg群とPLA群間に有意な差はなかった.
【結論】DLB患者の認知機能障害やBPSDの重症度に関わらず,ZNSは有効であり安全性に大きな問題はないと考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-20
種々患者層のDLBパーキンソニズムに対するゾニサミドの治療効果;2試験統合データの部分集団解析(その2)
丸山秀徳(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),長谷川一子(国立病院機構相模原病院神経内科),小田原俊成(横浜市立大学保健管理センター),河内健治(大日本住友製薬株式会社データサイエンス部),遠矢俊司,小西 修(大日本住友製薬株式会社メディカルアフェアーズ部),村田美穂(国立精神・神経医療研究センター神経内科),小阪憲司(湘南いなほクリニック)
 
【目的】パーキンソニズムを伴うレビー小体型認知症(DLB)に対して,ゾニサミド(ZNS)の有効性を検証する目的で実施した2試験(第2相試験,第3相試験)のデータを統合し,種々の患者層におけるゾニサミドの治療効果について解析した.
【方法】498症例(第2相試験:152症例,第3相試験:346症例)を対象に,以下に示す患者層に分類し,MMRM法(Mixed effect Models for Repeated Measures)を用いて,ZNS 25mg及び50mgのUPDRS Part III合計スコアのベースラインから12週時の変化量をプラセボと比較検討した.患者層の分類はベースライン時の情報に基づき行った:①L-dopa製剤投与量別(≦100,101-200,201-300,>300mg/日),②UPDRS Part III合計スコア別(10-19,20-29,30-39,40-49,50-59),③振戦(安静時振戦and/or動作時振戦)の有無別,など.
【倫理的配慮】施設IRBの承認を受け,関連法令を遵守し実施した.また,被験者から文書同意を得た.
【結果】分類した多くの患者層において,ZNS 25mg及び50mgのUPDRS Part III合計スコアはプラセボより低下し,全例解析時と同様の傾向を示した.また,安静時振戦あるいは動作時振戦の有無にかかわらず,ZNS 25mgのUPDRS Part III合計スコアはプラセボに対して有意に低下した.
【考察】今回の層別解析の結果から,ZNSは患者の状態や治療状況に関わらず,DLBパーキンソニズムの改善効果を示すことが期待できると考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-21
演題取り下げ
 

P-B-22
腎機能障害を伴うせん妄にぺロスピロンが著効した一例
向井馨一郎,岸野 恵,松永寿人(兵庫医科大学精神科神経科学講座)
 
 せん妄は,総合病院において身体科から依頼のある疾患のうち最も多い疾患の一つである.その有病率は入院患者において10~30%におよび,死亡率の増加や入院日数の長期化など社会的障害も多大である.薬物療法に関しては,過活動型せん妄の場合,抗精神病薬が推奨されている.特に,高齢者においては錐体外路症状などの副作用を考慮した薬剤選択が望まれる.さらに,身体合併症を伴う場合には,薬物の代謝にも配慮する必要がある.今回,我々は腎機能障害を併存した脊柱管狭窄症の術後患者のせん妄に対しperospironeが効果的であった症例を経験したので考察を交え報告したい.
 症例は,80歳男性.X-5年より,間欠性跛行を認め循環器内科から整形外科に紹介受診をし,脊柱管狭窄症の診断でしばらくは保存的加療を行っていた.痛みの増強に伴い手術を行うこととなった.術後当日に不明言動・不眠を認め,翌日に当科へのコンサルト依頼があり受診となった.診察時,認知機能障害や幻視を認め,急性発症,注意力障害,認知機能の変動性からせん妄と診断し,説明の後に同意を得てperospirone 4mg/日の内服を開始した.第8病日には,認知機能障害の軽快を認めせん妄の改善と判断し,perospironeの内服を中止した.以降はせん妄の再燃は認めず,第16病日リハビリ目的に他院へ転院となる.尚,症例提示に当たり個人を特定できないように主旨に影響がない程度に変更を加えている.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-23
メマンチンの追加と非薬物的介入で嫉妬妄想が軽快した1例
澤田 萌,安田素次(医療法人風のすずらん会江別すずらん病院)
 
【目的】高齢者の嫉妬妄想はレビー小体型認知症(以下DLB)の幻視が契機としてよく経験され,配偶者を孤立と疲弊に陥らせる.メマンチンと幻視に対する洞察介入で同妄想が軽快した症例を報告する.
【方法】症例報告
【倫理的配慮】症例報告に関する同意を口頭にて本人・家族から得た上,匿名化を行った.
【結果】76歳(初診時)男性.X年6月頃から幻視,レム睡眠行動障害があり同年11月当院初診.MMSE 25点.認知機能低下は軽度であるが初期のDLBと診断.初診時よりリバスチグミンを18mgにまで漸増した.しかし,夜間に見知らぬ男性が妻の布団の中に入り込み愛撫する,おおいかぶさるとの訴えは軽減しなかった.また,「浮気をしている」と妻を包丁で脅す,枕元にゴルフパットを置く,寝室に入室禁止の張り紙を貼る言動も持続した.X+1年2月メマンチンを20mgまで漸増すると2週間で幻視は軽減していった.同時に幻視に対して「足が無い」「カメラに写らない」など,本人の体験に基づく幻視の特性について診察や電話相談を通して理解を促した.「視線を向けると消える」「声をかけると消える」などそれらが消える対処法について本人,妻,医師,看護師も含め,共に考えた.次第に妻に対する攻撃性も少なくなり,跡もないので幻だということが解ると幻視に支配される言動は消失した.
【考察】リバスチグミンにメマンチン漸増で夜間中心の幻視を軽減すると共に,夫婦が孤立しないよう医療者が幻視の理解共有と対処法を共に考える非薬物的介入にて病識を獲得し,以後の妄想展開を回避できたと考える.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
ポスター発表
2019年6月8日(土) 15:25~16:25 ポスター会場(2F)
非薬物療法・ケア
座長: 福原 竜治(熊本大学附属病院神経精神科)
P-B-24: 梅田寿美代(NTT 西日本大阪病院心療内科・精神科・物忘れ外来)
P-B-25: 樫村 正美(日本医科大学医療心理学教室)
P-B-26: 田平 隆行(鹿児島大学医学部保健学科)
P-B-27: 菊地 和則(東京都健康長寿医療センター研究所)
P-B-28: 田中 寛之(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)
P-B-29: 鈴木 美佐(関西医科大学総合医療センター)
P-B-24
軽度認知機能障害患者さんに対して行った当院での認知症予防体操の効果
梅田寿美代,森岡久直,胡谷和彦(NTT西日本大阪病院心療内科・精神科・物忘れ外来),橋本久仁彦,前田恵治(NTT西日本大阪病院内科)
 
【目的】軽度認知機能障害患者さんに対して行った当院での認知症予防体操の効果について発表する.
【方法】平成26年4月~平成29年12月まで当科を初診し,MMSE≧24,CDR=0.5でMCIと診断した43名をコグニサイズ希望する群16名(コグニサイズ群)と希望しない群27名(対照群)の2群に分けた.コグニサイズ群に対し,平成26年4月~平成30年12月末まで国立長寿医療センターが認知症予防体操として提唱した通称コグニサイズを週1回90分計10回を1クールとして計18クール実施した.コグニサイズ群16名のうち,PHQ-9≧10のうつ病エピソード3名を除外した13名に対しADAS及び甲状腺機能,葉酸,ビタミンB1採血を施行,計40回のコグニサイズを修了した12名の患者(男性2名女性10名,年齢77.17±8.36歳)に対し,MMSE・ADASを施行した.
 コグニサイズ群の前後のMMSE・ADAS比較,コグニサイズ40回修了後のコグニサイズ群と1年後の対照群とのMMSE・ADAS比較を行った.統計にはχ二乗検定,wilcoxon検定を用いた.
【結果】コグニサイズ群でコグニサイズ前後で,MMSE総得点は有意に改善した(p<0.01),ADAS総得点でも有意に改善した(p<0.05).コグニサイズ群と対照群とで1年後のMMSEでは有意差を認めなかった(p=0.053),ADASの総得点でも有意差を認めなかった.
【結語】今回の研究では計40回(週1回90分12ケ月)のコグニサイズでもMCIに対して認知症予防効果があることが示唆されたが,国立長寿医療センターでの計40回(週2回90分6ケ月間)のコグニサイズプログラムで報告された効果には及ばなかった.
 
 本研究は院内倫理審査委員会の承認を受け,公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-25
高齢者の不安・うつ症状に対する認知行動療法の試み;一事例からみる介入プログラムの安全性・有用性の可能性について
樫村正美(日本医科大学医療心理学教室),野村俊明(日本医科大学医療心理学教室,日本医科大学武蔵小杉病院街ぐるみ認知症相談センター),石渡明子(日本医科大学大学院医学研究科神経内科学分野),舘野 周(日本医科大学精神医学教室)
 
【目的】高齢者における不安やうつといった精神症状は広くみられることが知られている.発表者はこれまで,不安やうつに対する有効性が示されている認知行動療法を高齢者に適用する試みを続けている.本発表では,物忘れや気分の悪化を主訴として来院した女性高齢患者の一事例を取り上げ,介入の意義について考察する.
【方法】当院の神経内科外来を受診した女性高齢患者1名を介入対象とした.介入プログラムは全8回のセッションで構成され,個別形式で1回あたり30~60分で実施される.およそ隔週に一度のペースで進行し,精神神経科の外来でプログラムを実施した.介入の前後で気分,健康に関連した生活の質などの心理尺度を用いて状態の変化を評価した.
【倫理的配慮】本研究は,日本医科大学附属病院の倫理委員会の承認を受けた.研究参加者には,研究概要を口頭で説明し,書面にて同意を得た.
【結果】介入前と比較して,介入後では気分や生活の質が改善しており,またセッションごとの気分の評価ではセッションを進行するにつれて気分が改善されていった経過をみることができた.介入中,介入に起因する有害事象は発生せず,また研究参加者からも高い参加満足度が示された.
【考察】比較的短期間で行われた認知行動療法は,高齢患者を対象とした場合でも有効である可能性が示され,また安全に介入プログラムを進めることができた.認知行動療法では抽象的な概念を用いて介入を行うため,患者の理解力や症状の重症度などに左右される恐れはあるものの,治療選択肢のひとつとして本プログラムを役立てることが可能であると考えられる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-26
生活行為工程分析表に基づいた地域在住AD患者のADL工程障害と残存の特徴
田平隆行,池田由里子(鹿児島大学医学部保健学科),丸田道雄(医療法人三州会大勝病院),小川敬之(京都橘大学健康科学部),石川智久,吉浦和宏,韓 侊熙(熊本大学医学部附属病院神経精神科),堀田 牧,池田 学(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
 
【目的】生活行為に対するリハビリテーションにあたって生活行為のどのような工程が障害されやすく,残存しやすいのかを分析することは重要である.我々は,認知機能に関連した行為障害を具体的に提示可能な生活行為工程分析表を作成し,地域在住のAD患者に調査した.昨年の本学会でIADL8行為について報告したが,今回は,ADL6行為について工程障害と残存の特徴を分析した.
【方法】対象は,地域に在住するAD患者52名(男性8名,女性44名,平均年齢83.7±7.4歳,MMSE 14.7±5.7点)とした.生活行為工程分析表は,起居・移動,入浴,整容,食事,更衣,排泄の6行為(1行為15点)をそれぞれ5工程(1工程3点)ごとに分類した.PSMS,IADLS,HADLSとの信頼性・妥当性を検討した上で,全ての行為,工程について自立割合を認知機能の重症度別に算出し,比較検討した.
【倫理的配慮】発表にあたって鹿児島大学医学部倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】生活行為工程別において,起居・移動は,移動距離が長くなる「近所に外出する」で4割と顕著に低かったが,重度群では「起き上がり」でも低値であった.入浴では,「脱衣」のみ9割と高く,他は7割程度であった.整容では,「髭剃り・化粧」と「爪切り」が低く4割であった.食事は,全工程9割程度と高い自立割合であったが,重度群で「選ぶ」が低値であった.更衣は,「着る服を選ぶ」で3割と顕著に低かったが,「服を着る」では8割を超えた.排泄では,全工程で8割と高い自立度であるも,重度群では6割程度に留まった.
【結論】整容や更衣において工程間の自立割合の差が顕著であり,認知機能低下に伴うADL工程障害の特徴を示した.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-27
介護保険第2号被保険者データを用いた若年性認知症の状態像に関する研究
菊地和則(東京都健康長寿医療センター研究所),中西亜紀(大阪市立弘済院附属病院),小長谷陽子(認知症介護研究・研修大府センター),多賀 努,枝広あや子,杉山美香,岡村 毅,宮前史子,山村正子,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
 
【目的】介護保険第2号被保険者データを用いて,認知症高齢者の日常生活自立度(認知症自立度)がII以上の若年性認知症者について,要介護認定等基準時間から特定疾病の種別により状態像,つまりニーズがどのように異なるのかを明らかにすること.
【方法】大阪市,名古屋市,練馬区,板橋区,北区,中野区,豊島区から提供された第2号被保険者で要介護・要支援認定された7303名のデータの中から,認知症自立度II以上の「初老期における認知症」479名と「脳血管疾患」1592名について,要介護認定等基準時間(食事,排泄,移動,清潔保持,間接ケア,BPSD関連,機能訓練,医療関連,認知症加算の8領域)に違いがあるかをt検定(5%水準)により分析した.なお,要介護認定等基準時間は「介護の手間」を時間で推計したものである.
【倫理的配慮】本研究は地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター倫理委員会の審査を受け承認されている.また開示すべき利益相反状態はない.
【結果】食事,間接ケア,BPSD関連,認知症加算においては「初老期における認知症」の要介護認定等基準時間が有意に多くなっていた.逆に,排泄,移動,清潔保持,機能訓練,医療関連においては「脳血管疾患」の要介護認定等基準時間が有意に多くなっていた.
【考察】今回の分析においては,「初老期における認知症」と「脳血管性疾患」では8領域全てにおいて有意差がみられ,状態像が大きく異なると推測された.しばしば認知症自立度II以上をもって認知症と判断されるが,要介護認定等基準時間は「介護の手間」であることから,認知症自立度II以上であっても状態像,つまりニーズが大きく異なることを意味すると考えられる.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-28
最重度認知症まで認知機能障害とADLは強く関連する;Cognitive Test for Severe Dementiaを用いての検討
田中寛之,永田優馬,石丸大貴,西川 隆(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)
 
【はじめに】認知症が重度に至れば,ADL障害は行動心理学的症候や栄養状態などの認知機能障害以外の要因も大きく影響を及ぼすことが指摘されている.本研究では,我々が開発した重度認知症者向けの認知機能検査であるCognitive Test for Severe Dementia(CTSD)を用いて,重度認知症者のActivities of Daily Living(ADL)に影響を及ぼす要因を明らかにすることとする.
【方法】対象者は医療法人晴風園今井病院に平成27年4月~平成29年9月に入院し,DSM-5の診断基準に従い認知症と診断され,Clinical Dementia Ratingで重度の患者とした.評価は,認知機能をCTSD, Mini Mental State Examination(MMSE),ADLをPhysical Self Maintenance Scale(PSMS),行動心理症状をNeuropsychiatric Inventory Nursing Home(NPI-NH),Cornell Scale for Depression in Dementia(CSDD),栄養状態をMini Nutritional Assessment Short Form(MNA-SF),並存疾患をCharlson Comorbidity Index(CCI),Cumulative Illness Rating Scale Geriatrics(CIRS-G),痛みをPAINadvanced Dementia(PAIN-AD)を用いた.
 統計解析は,PSMSを被説明変数とし他の指標を説明変数として重回帰分析を用いて検討した.
【倫理的配慮】大阪府立大学大学院の倫理委員会の承認を得ており,発表に際し代諾者から書面にて同意を得た.
【結果】対象者は106名でMMSEは3.9±4.0点であった.強制投入法による重回帰分析では,PSMSの予測因子として,CTSD(β=.563 p=.001),CCI(β=-.234 p=.004),MNA-SF(β=.247 p=.002),CSDD(β=-.202 p=.011)が挙げられた.
【結論】重度認知症のADLに最も寄与する因子は認知機能であった.認知症が最重度に至ってもADLを維持するためには認知機能障害に対する評価・介入を継続することが重要であるかもしれない.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-29
当院における認知症ケアチーム開設について
鈴木美佐,西田圭一郎,佐藤幸代,三澤真広,嶽北佳輝,青木宣篤,樫原彩乃,砂田尚孝,桂 功士,吉村匡史,木下利彦(関西医科大学総合医療センター)
 
【目的】当院では2018年8月より認知症ケアチーム(院内通称:シニアズケアサポートチーム)を運用しているが,活動開始および診療報酬算定における他チームとの役割分担等の課題について検討した.
【方法】精神科病床を有する総合病院である当院では,これまで認知症高齢者が身体合併症のために入院治療を要した場合は,精神科が積極的に関わる場合として,BPSDが活発であったり重度認知症状態の場合に精神科病棟での入院,若しくは身体科病棟への精神科リエゾンチームの介入が行われていた.精神科介入を要しないが各病棟で身体拘束を要する場合は患者家族への説明と同意に基づき実施されていた.精神科を主構成メンバーとした認知症ケアチームの開設により,入院患者への介入窓口をひとつ増やすことができるようになった.
【倫理的配慮】本発表は施設内システム構築の発表であり,倫理的配慮を要するような患者の個別事例を取り扱ってはいない.
【結果】認知症ケアチームでは,認知症高齢者日常生活自立度Ⅲ以上の場合に診療報酬のを算定用件となる.精神科リエゾンチームが介入するせん妄状態の患者の中にも,認知症高齢者自立度III以上の者が多く含まれるため,精神科リエゾンチームと認知症ケアチームのどちらが介入することが適切かは,医療資源を重複させることないように検討する必要がある.
【考察】今後は,認知症ケアチームのスタッフが各病棟ごとに行われている定例カンファレンスに必要時参加することや,院内職員全体の認知症ケアに関するレベルの向上のための研修の開催など,予防的対応にも注力できるような活動についても取り組んでいきたい.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
ポスター発表
2019年6月8日(土) 15:25~16:25 ポスター会場(2F)
フィールドスタディ
座長: 岡村  毅(東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と精神保健研究チーム)
P-B-30: 濱  大輔(金沢医科大学病院認知症センター)
P-B-31: 岡本 和士(愛知県立大学看護学部)
P-B-32: 水上喜美子(金沢大学医薬保健研究域医学系)
P-B-33: 小川 有閑(大正大学地域構想研究所)
P-B-34: 岡  瑞紀(さちはなクリニック)
P-B-35: 小川まどか(東京都健康長寿医療センター研究所)
P-B-30
認知症センターにおけるソーシャルワーカー介入を必要とした患者特性と支援内容の検討
濱 大輔,山中麻未,小寺久美絵,奥野太寿生,入谷 敦,森本茂人(金沢医科大学病院認知症センター)
 
【目的】平成29年7月に認知症センターを開設し,医師,看護師,臨床心理士,ソーシャルワーカー(以下SW)が専従配置され,多職種連携のもと認知症の治療・ケアにあたっている.初診時にはSWが本人や家族から生活状況や困りごとなどを問診票を用い聞き取り,初診担当医へ情報提供を実施している.センター開設から平成30年7月末までの新患305例のうち55例に対してSWが介入した.介入症例を振り返り,SW支援が必要であった患者の特性,相談の内容,SWが果たした役割について分析を行い,SW支援が必要となる可能性の高い傾向の抽出と認知症診療部門においてSWが果たすべき役割を検討した.
【方法】新患305例に対して同一の問診を行い,生活状況など詳細に聴取した.また,各種神経心理検査を実施し認知機能評価を行い,介入群(55例)と非介入群(250例)における結果を比較し検討した.支援内容の検討についてはSW支援記録から,SW支援の依頼経路,相談内容,実施した支援内容等を調査し傾向を分析した.
【倫理的配慮】発表内容においては個人が特定されないように十分配慮した.
【結果】MMSE,ADAS,VI,DBDの結果において有意差を認めた.また,相談支援内容では他機関との連携を必要とした症例が半数以上を占めるなど傾向が示された.
【考察】各種問診結果から患者・家族の置かれている状況を把握することで,早期に生活上の困りごとへSWが介入するきっかけとなる可能性が示された.また,SW支援内容の検討からは医療機関と福祉施設,在宅ケア担当者等との連携を図る上でネットワーク機能を果たす専門職が必要であり,SWは双方向の連携を促進するために必要な職種であると感じた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-31
企業における60歳以上の高齢労働者の精神的健康状態とその関連要因に関する疫学的研究
岡本和士(愛知県立大学看護学部)
 
【目的】定年後に再雇用された高齢労働者の精神健康度の低下は集中力の低下等を介し転倒などの労働災害の一因となり,企業の安全配慮上でもその予防は不可欠である.そこで,本研究の目的は高齢労働者なかの「精神健康度低下」群の特性を明らかにすることである.
【方法】平成28年7月から9月に愛知県内の1企業の従業員のうち,60歳以上の高齢労働者177人に自記式質問紙調査を行い,そのうち質問紙に回答の得られた136人を解析対象とした.精神健康度の評価に用いた5つの質問項目の合計点(15点満点)から,その中央値の13点以下を「精神健康度低下群」,14点以上を「精神健康度安定群」とした.
【倫理的配慮】調査は無記名による自記式調査にて行い,調査票の提出を持って調査への参加に同意したものとみなした.解析に関しては個人が特定できないようにすべて数値化を行った.
【結果】「精神健康度低下」群の割合は22.6%で,男性に高かった.ステップワイズ法にて「精神健康度低下」関連要因を抽出した結果,「朝食を毎日摂取しない」「睡眠状況不良」「日常の低身体活動」「業務量の多さ」の4項目が抽出された.これらの項目の保有数別に「精神健康度低下」群の割合を比較した結果,保有項目の増加とともに「精神健康度低下」群の割合も増加傾向を認め,3項目以上該当の割合は88.9%であった.4項目中3項目以上該当とそれ未満のスクリーニング結果では陽性反応的中率は78.5%,陰性反応的中率は88.9%であった.
【結論】高齢労働者の「精神健康度低下」群の特性を明らかにした本研究結果は,高齢労働者の「精神健康度低下」群の早期把握とその予防に寄与できうる知見と考えられた.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-32
地域における認知症の早期発見に向けた継続的な集団検診について;永平寺町健康長寿プロジェクトからの検討
水上喜美子(金沢大学医薬保健研究域医学系),川口めぐみ(福井大学医学部看護学科地域看護学講座),田中悠二(福井大学医学部病態制御医学講座),東間正人(医療法人社団青樹会青和病院)
 
【目的】本研究は,小規模な参加募集型のコホート調査として実施した集団検診について報告し,地域における検診システムのあり方について考察することを目的とした.
【方法】1)調査参加者:地域に在住する高齢者,延べ1014名を対象とした.2)調査内容:認知機能は,高齢者用集団版認知機能検査ファイブ・コグ(矢富ら,2006)を用いて測定した.この他に,ADL(老研式日常活動指標;古谷野・柴田ら,1987)やうつ状態(GDS-15;矢富,1994),職歴や学歴また家族構成および生活習慣などへの回答を求めた.3)手続き:社会福祉協議会が集落単位で開催しているサロンの中から,協力が得られたサロンを対象に,2013年(Time1)から2017年(Time5)まで実施した.
【倫理的配慮】本研究は福井大学の倫理委員会の承諾を得て行われた.参加者には,同意書を用い口頭でも説明をし,調査への参加の文書による同意を得た.
【結果】1)受検者の特徴:5年間継続して参加した高齢者が27名,4回参加した人が49名,3回参加した人が89名,2回参加した人が136名であった.2)認知機能の変化:5年間継続して受検した参加者について,課題別にTime1とTime5で変化がみられるのかを検討した.この結果,「類似課題」のみ低下が認められた(t(23)=4.25,p<.05,r=.66).ここでは,年齢と教育年数,性別で調整された評価得点を用いた.
【考察】地域の高齢者の方に,継続して検診を受けてもらうためには,どのようなことに期待して参加しているのかを明らかにする必要があると考えられる.今回の調査は,研究グループが単独で行っていたため,研究終了後に地域組織へ検診を移行する仕組み作りをすることが今後の課題となった.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-33
施設ケアにおけるバーンアウトと虐待予防;宗教的アプローチの試み
小川有閑(大正大学地域構想研究所),新名正弥(未来工学研究所),髙瀨顕功(大正大学地域構想研究所),問芝志保(国際宗教研究所),弓山達也(東京工業大学),林田康順(大正大学仏教学部),東海林良昌(浄土宗総合研究所),宇良千秋,岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所)
 
【目的】看取り介護加算の充実により施設における終末期ケアは増えている.加えて介護者の不足も危惧されており,施設ケア従事者への負担は今後増える可能性がある.一方で,認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の柱の一つには介護者への支援があげられているものの,主な政策として明示されているのは家族介護者への支援である.施設介護者への支援が今後の課題になる可能性があるという問題意識から,施設介護者における燃え尽き症候群について調べた.
【方法】機縁法で選択した関東の10施設(認知症専門病棟を持つ病院を含む)のスタッフを対象とした質問紙調査を実施した.調査票には基本的項目に加えて久保らのバーンアウト尺度およびFrommeltのターミナルケア態度尺度日本語(短縮版)が含まれる.
【倫理的配慮】大正大学倫理委員会の承認を得て行なわれた.
【結果】338票を配布し,有効回収は323票であった.回収された調査票のうち看護師82票,介護士178票を解析対象とした.終末期ケアに対して前向きな者は,バーンアウト尺度における情緒的消耗および脱人格化が有意に少なかった.僧侶が入所者,その家族,施設ケア従事者に対して悩みの傾聴などを行なうことについては,前向きな者が多かった.
【考察】脱人格化とは,情緒的消耗の結果としてケア対象者それぞれの人格を無視し,非人間的な対応をする傾向のことであり,虐待につながる.施設ケア従事者が終末期ケアに対して前向きになれるような新たな介入が,高齢者虐待を予防する実装となる可能性がある.当日は精神医学,心理学,社会学,福祉学,仏教学からなる学際チームの越境的議論についても報告する.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-34
認知症症状確認における,写真,動画,音声記録の活用
岡 瑞紀(さちはなクリニック)
 
【目的】認知症治療における生活状態把握の精度向上及び時間短縮を目指す.
【方法】2016年1月から認知症外来診療及び往診で,本人や家族,ケアマネージャー等の関係者及び医師自身に,スマートフォン等の録音,録画,カメラ機能による症状記録を意識的に勧め,行った.
【倫理的配慮】本人及び認知症症状により判断同意能力の不十分な者には家族や補助人同席の元,使用目的を説明し,口頭による同意を得て撮影した.診療録掲載の可否も別途口頭にて確認した.家族の撮影物はその場で診断や治療に有用な部分を確認後返却した.
【結果】・ゴミ屋敷状態の写真が入院の決定打になった例
・夜間特定者の来訪時のみの不穏状態を共有できた例
・散乱する賞味期限切れの飲食物の衛生管理を進められた例
・診察拒否の強い方の進行癌を発見できた例
・診察で現状を伝えきれない家族の不安解消に繋がった例
・盗られたという品を写真に残したことで妄想悪化を防げた例
 上記6有効例を経験した.
【考察】認知症診療では日常生活の把握が欠かせない.しかし患者本人や家族,関係者から状態聴取をする際,その正確性,客観性の判断が難しく,複数の証言を得るために多くの時間を要する.近年,携帯電話やスマートフォンが普及し,写真や動画機能付きの機種が多く高齢者でも操作可能である.
 本人や家族,関係者と情報共有するには,撮影前後の十分なプライバシー配慮が不可欠である.しかし,映像による一目瞭然さは,遠方親族や入院担当医など生活現場にいない者の理解を得る際や生命に関与する問題,自傷他害,近隣住民を巻き込む衛生や騒音問題,不要な頻回入退院などのいわゆる困難事例の解決の一助になり得る.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-35
権利ベースのアプローチによる認知症支援の担い手育成の効果の検証
小川まどか,稲垣宏樹,宇良千秋,杉山美香,宮前史子,岡村 毅,枝広あや子,釘宮由紀子,森倉三男,岡村睦子,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
 
【目的】認知症支援においては,認知症の有無に関わらず,誰でもが尊厳ある地域生活を営む権利を有していることを理解したうえで,それに向かって行動することが求められる.しかし現時点では「権利ベースのアプローチ」に基づく住民教育は十分とは言えない.そこで我々は高島平スタディにおいて,主に地域住民を対象として「認知症について知ること」と「権利について知ること」をテーマとした研修を2017年1月より継続している.本報告では,研修の途中経過時点での効果を検証する.
【方法】研修は地域包括支援センター職員,介護保険サービス事業所職員,民生委員,認知症カフェ・サロンスタッフ,NPO法人スタッフ,住宅関係団体職員,行政職員,認知症当事者等が参加した.ベースラインとするアンケート調査を2018年8月に行った.調査内容は,基本属性,研修への参加目的,認知症の人に対する態度尺度(金,2010)等であった.
【倫理的配慮】当センター倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】有効回答者は40名で,職種(複数回答)は順に保健師・看護師9名,民生委員8名,認知症カフェ・サロンスタッフ7名が多かった.参加目的の多くは認知症への理解を深めること,運営する認知症カフェ・サロンの強化であった.認知症の人に対する態度尺度(得点範囲14~56点)では,合計得点の平均値±標準偏差は44.0±5.8点であった.また,認知症の本人の権利について考えたことがある者は82.5%,合理的配慮という言葉を聞いたことがある者は32.5%,認知症の本人の考えや気持ちを本人に確認している者は40.0%であった.
【考察】当日は参加者の意識の変容とその背景および今後の課題について報告する.
 
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.