Q&A 痴呆介護の100か条 056〜067
「問題行動」「精神症状」への対応

 


 

056.

思わぬ出来事にびっくりする前に
 痴呆症になると、日常の活動など、いままでできたことができなくなる症状のほかに、徘徊や妄想などの、いままでにはなかった行動や精神活動がみられるようになります。それを、問題行動あるいは精神症状などとよんでいます。このなかには、本人や周囲の人にとって危険なものもあり、そうでもないものもあります。また、治療可能なものもあります。慌てず冷静に観察し、危険を防ぐと同時に、専門家に相談して、対策を練りましょう。

 

057. 外出、徘徊は、いつ、どこへを確かめる
 徘徊といっても、場所の見当がつかなくなり、知っている場所で迷子になる、記憶や時間の見当が悪くなって辞めた会社に行ってしまう、夕方になって脳の覚醒水準が下がってくると、家に帰ると言い出す、あるいは、目的もなくじっとしていられないでただただ歩き回るなどさまざまで、それぞれ、対応の仕方も異なります。どんな時間に、どんな状況で出ていってしまうのか、あるいは、歩き出すのかを観察して、困ったときは専門家に相談してみましょう。

 

058. ひたすら歩き続ける徘徊への対応は家庭では無理
 初老期のアルツハイマー型痴呆などで、どこに行くというあてもなく、行く手を阻むものを押しのけながら、ひたすら歩き続けるという徘徊がみられることがあります。健康に自信のある人であってもこのような徘徊について歩くのはかなり大変です。このようなときは、家庭での対応には限度があります。無理をしないで、必要ならば施設介護を考えましょう。このような徘徊も、長期間続くわけではなく、時期がくれば激しさが収まり、やがて徘徊そのものもなくなります。

 

059. 物盗られ妄想は、介護の勲章
 アルツハイマー型痴呆などで、自分がしまい忘れたものを盗まれたと言い張る物盗られ妄想がみられることがよくあります。物盗られ妄想の対象となるのは、たいてい、一番近くで介護をしているご家族です。こうした物盗られ妄想は、「私が忘れるはずはない」「私が嫁の世話にならなければならないはずはない」という思いの裏返しです。いっしょに探して見つかったときはさりげなく返してあげましょう。「だから私じゃないといったでしょ」などと議論したとしてもよいことは何一つありません。

 

060. 妄想が、発展するなら要注意
 その場限りの物盗られ妄想とは異なり、「嫁が、財布を盗んだ。初めから、財産をねらった結婚だったに違いない。そういえば実家の様子もおかしい…」といった具合に、ストーリーが発展していく妄想があります。被害妄想、嫉妬妄想などが発展していくときは、恨みや疑いが持続していくことがあります。このような妄想を放置するとご本人にとっても、ご家族にとっても危険です。物盗られ妄想とは違い、薬物療法が有効な場合もあり、精神科の専門医に相談することを考えてください。

 

061. 「不潔行為」という問題行動はないと思おう
 汚れた下着を押入に隠してあった、便が紙に包んであった、便器に手を入れて大便をつかみ、周囲を汚した等々の行為は、ご家族にとって衝撃的な出来事です。しかし、お年寄りがとるこれらの行為は、失禁したことを隠そうとしたり、あるいは便器のなかの便を何とかしようとしてはみたもののどうすればよいのかわからず、さらに混乱を大きくしてしまった結果であることもまれではありません。不潔行為の多くは、介護によって防ぐことができます。

 

062. 不眠対策は、まず、生活のリズムから
 痴呆症になると、時間の感覚が混乱するため、夜間の睡眠が不安定になることがあります。六時に夕食をして、八時に寝てしまえば、夜中の三時に目が覚めても不思議ではありません。そのような場合は就眠時間を遅らせてみましょう。昼間、1人でウトウトとしていることが多いときは、デイケアなどを利用したり、午前の散歩を午後にずらすなどして生活にメリハリをつけてみましょう。ただし、夜間に興奮して別人のようになるせん妄のような症状のときは、薬を使用したほうがよい場合もあり、専門医に相談してみましょう。

 

063. 「夜になると人が変わったようになる」
夜間せん妄は、本当に人が変わっていると思ったほうがよい
 単なる不眠ではなく、夜間、特に深夜、人が変わったように興奮したり、日中にはない幻覚を見たりする症状を夜間せん妄といいます。これは、病的な寝ぼけのようなもので、痴呆以外の人でも起こります。夜間せん妄は、軽い場合は、部屋を明るくして穏やかに対応すれば落ち着きますが、興奮が激しい場合は、本人の心身の消耗が激しいうえに、周囲の人にとっても危険です。せん妄が何日間も続く場合は、痴呆がいっそう進行することがあるため、早めに専門家に相談しましょう。薬でよくなることも珍しくありません。

 

064. 食べ物以外の物を食べてしまってもあわててはいけない
 食べ物以外のものを口に入れてしまう異食と呼ばれる症状があります。目に見えるものすべてを口にもっていってしまうような神経症状もありますが、これはきわめてまれで、たいていは食べ物とそうでないものの区別がつかないために口に入れてしまうようです。食べてしまうと本当に危険なもの以外は、あまり大騒ぎしないで対応しましょう。洗剤などを飲んでしまったようなときは、救急隊に電話をして指示を受けてください。

 

065. 収集癖は、繰り返す
 脳血管性痴呆のお年寄りのなかに、あちこちから不要品を集めてきて、部屋中足の踏み場もないようにしてしまう人がいます。一人暮らしができるほどの能力が保たれている人に多く、説得してもほとんど無駄です。火事の危険や衛生上の理由で片づけなければならないときは、半強制的に整理をしなければなりませんが、一人暮らしのお年寄りなどでは、たいてい、翌日からまたせっせと収集を開始し、たちまち元通りになってしまいます。こちらも根負けせず、整理を繰り返すことです。

 

066. 暴力は、どのようなとき、だれに、どうして、が大事
 痴呆症を患っているからといって、訳もなく暴力を振るうことはありません。あわてずに、いつ、だれに、どのような情況で暴力を振るったのかを観察します。痴呆症による記憶障害、理解力の低下、性格の変化、傷ついた自尊心などを考慮して、痴呆症のお年寄りの視点から周囲の状況を見直してみると、暴力の原因がみえてくることもあります。暴力は周囲の人にも大きな侵襲を与えるため、暴力の対象となる人の保護にも十分な配慮が必要です。

 

067. 火が危ないから電磁調理器?
 一人暮らしのお年寄りに痴呆が起こったとき、ガスの火が危ないので、電磁調理器にしようなどという話があります。多くの場合、ガスの火が心配という程度の痴呆であれば、電磁調理器や電子レンジのような新しい機械の操作を覚えることはできません。これらの道具は、火がみえないので、本人にとってはガス以上に危険です。ガスが危ないなら、見守りを頻繁にし、安全な電気の暖房や配食サービスを利用するなどして、火がなくとも快適に暮らせる工夫をすべきです。それができない状況ならば在宅を諦めるぐらいの柔軟さが必要です。

 


 

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