Q&A 痴呆介護の100か条 018〜030
在宅介護をする際の注意点

 


 

018.

義理や世間体でできるほど、痴呆介護は甘くない
 義理や世間体でできるほど介護は甘くはありません。もしそうであるならば、介護をしている人にとっても、また介護をされているお年寄りにとってもこれほどの不幸はありません。冷静に自分の気持ちと周囲の情勢を考えましょう。これまでのいきさつからどうしても気持ちよく介護ができない、あるいは、介護したい気持ちは多分にあるが、自分の仕事も大切だと思うなら、そのような気持ちを大切にしましょう。10年以上及ぶことも少なくない、介護が終わった後に訪れる、自分自身の老いにも思いをいたすべきです。

 

019. 上手な手抜きが、長持ちの秘訣
 在宅介護を無理なく続けるためには、ショートステイ(老人ホームに1週間を限度にお年寄りを預かってもらう制度)やデイサービス(週に何日か日中だけ預かってもらう制度)等のサービスを上手に利用することが大切です。「一度ショートステイを使ったら具合が悪くなり、後が大変だった」という声を聞くことがありますが、最初から1週間というのではなく、1泊、2泊から始め、お年寄りと施設が互いに慣れた後に1週間のステイとするほうがスムーズにいくように思います。

 

020. 可能ならば専門医と家庭医の両方に相談できる態勢を整えておく
 在宅介護においては、痴呆に詳しい専門医と、身体的な病気に詳しい家庭医の両方に相談できる態勢を常日頃から整えておくことが大切です。一般的にお年寄りは複数の病気を併せ持っていることが多いうえに、痴呆症にかかると精神の機能だけでなく、身体の機能にも障害が起こります。正確な診断や将来の見通しを聞くための専門医と、きめ細かく日常の身体の健康について相談にのってくれる家庭医がいると安心して介護ができます。

 

021. 介護保険で、介護サービスの性格が変わる
 従来、老人ホームやデイサービス等の福祉サービスは、市区町村役場による行政措置として行われていましたが、介護保険のもとでは、利用者が、保険を使って、サービス提供業者と契約をする形に変わります。いままでは、役所に申し込めば後は全部役所がしてくれた代わりに、利用者がサービスを選択できる範囲はきわめて限られていました。介護保険では、自分で業者を選び、利用契約をしなければならない代わりに、安くてよいサービスを選ぶことができるようになります。まだまだ不完全な制度ですが、みんなで育てていかなければなりません。

 

022. 緊急時の準備は平時から
 痴呆症に限らず、お年寄りの介護には、緊急事態がつきものです。介護者がお年寄りである場合は、緊急事態の危険性は倍になります。身体の状態が急変したときに連れていく病院、介護者の状態に急激な変化があったときに預かってくれる施設、家庭介護が困難になった場合に備えて長期入院・入所の可能な施設などを、余裕のあるうちに探しておきましょう。長く待たなければ入れない施設などは、とりあえず申し込んでおくというのも1つの手段です。

 

023. 我慢は禁物。厳しいと思ったときはすぐにSOS
 上手な介護のこつは、介護する人が楽をすることです。これまで、楽しかったことが楽しくない、いままで気にならなかったことにイライラするなどの兆候が現れたときは、介護者の心と身体がSOSを発しているといえます。そのようなときは、介護を休む方策を講じます。従来の公的なショートステイは融通が利きにくく、急な事態には対応できませんでしたが、介護保険が実施されれば、多少は改善するかもしれません。老人保健施設の短期入所は、時期も期間もかなりの融通が利きます。困ったときに話を聞いてもらえる人を確保しておくことも大切です。

 

024. 備えあれば憂いなし。入所施設もチェックしておく
 在宅ケアをすると決めていたとしても、いざというときのために、長期ケアのための施設を見学しておきましょう。長期ケアを引き受ける施設や病院には、費用、入所手続き、介護の状態等にいちじるしい差があります。自分の目で見てよい施設を探しておくことは、将来、家庭介護が困難になったときの選択肢の一つになるばかりでなく、日々の在宅介護をするうえでの心の余裕にもつながります。

 

025. 有料ホームも使い方次第
 有料老人ホームは非常に高価なものと思われていますが、案外、手軽でサービスのよいホームもあり、また介護保険の適用を受けて、いままでよりもずっと費用負担の軽くなる所もあります。正規の料金は数千万円でも、特養入居までといった期間限定ならば別料金で安く受け入れてくれる所や、空いた部屋を使ってショートステイを受け入れている所など、急に預かってもらう必要が生じたときなどは便利です。1泊2〜3万円の所が多いようですが、公的なショートステイと比べて融通が利くことから、チェックしておくとよいでしょう。

 

026. 家族介護に間違いも正しいもない
 人にはそれぞれの個性があるのと同様に、家族にもそれぞれの歴史があります。介護の教科書に書いてあることはあくまでも机の上の原則論です。この原則論にこだわって無理をするより、自然に振る舞うことのほうが大切です。介護者が行っている24時間、365日の介護と、専門家の1日8時間、週休2日の介護とはおのずから違うのです。家族は専門家にはなれませんが、また専門家も家族にはなれないのです。専門家の技術や知識を利用しながら、肩の凝らない普段着のケアをすればよいのです。

 

027. 在宅介護にこだわるな
 何度も書きますが、在宅介護がすべてではありません。「ホームは絶対に嫌だ」「病院なんて、とんでもない」といっているお年寄りでも、実際、施設に入ってみると、無理なく適応する人もいます。介護のイライラから、子どもに八つ当たりをしてしまう、気分が滅入るといった状態のときは、介護に何らかの無理がある証拠です。このようなときは在宅介護にこだわらず、病院や施設入所を含めた柔軟な対応を考えてみてください。介護者の心の健康が保てなければ、介護されるお年寄りの心が満たされることもありません。

 

028. 介護を終えた後の人生を考える
 痴呆症が70歳代以前に発症したとすれば、介護の期間が10年以上に及ぶことも少なくありません。痴呆症の在宅介護に対する公的サービスは、介護に専念する家族が1人以上いることを前提にしているため、在宅介護を行うということは、介護者の社会参加の機会を相当犠牲にするということになります。常勤の仕事を辞めて在宅介護を行うといった場合、介護を終えた後の自分の人生をどのようにするのかを充分に考えておいてください。介護後の人生のほうが長く、また大切なはずです。

 

029. 親の介護を妻に頼むなら、夫は外野を黙らせる
 東京などの大都市では、嫁が夫の両親の世話をするのは当たり前、といった風潮を聞くことは少なくなりました。しかし、地方ではまだまだつらい立場に立つお嫁さんも少なくないようです。自分の親の介護を妻に任せるならば、その夫が、休みを返上して介護を手伝うのは当たり前であり、また自分の兄弟姉妹が、妻の介護にあまり余計な口出しをしないように気を配り、介護に関する決定権を妻がもつように配慮する必要があります。介護の大変さはその当事者でければわかりません。

 

030. 介護者の健康が、痴呆性高齢者の健康
 ストレスに耐えきれなくなったとき、そのストレスの元に立ち向かって問題を解決するという方法は、成功すればよいのですが、うまく解決できなかったときは、ますますストレスを増大させてしまう結果となります。そのようなときは、ストレス源から自分の気を逸らしたり、それに負けないように心身のコンディションを整えるほうが得策です。痴呆症の症状や、痴呆性高齢者の行動を何とかしようとしても疲れるだけです。まず、コントロールが可能な自分の健康を少しでも増進するように気を配ってください。

 


 

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