医師にできること…できないこと…

 

 医師が日常の臨床で痴呆患者に行う診療は、主に(1)痴呆の診断、(2)鑑別診断、(3)必要な薬の処方、(4)経過の予測、(5)身体管理、(6)介護指導です。しかし、医師にはそれぞれの得意分野があります。たとえば、私は精神科医であり、身体管理は内科医ほど得意ではありません。よって、私の外来患者が慢性の身体疾患を有している場合は、内科医と連携して診察にあたっています。また、その患者が家庭医として長年診療を受けていた診療所の医師がいるならば、その医師とお互いの受け持ち分野を確認したうえで診療します。反対に、私は精神科医の立場から、異常行動に対する向精神薬の処方に対しては比較的容易に判断できるのですが、これは内科医にとっては大変難しいことのようです。このように、医師にはそれぞれ専門分野があり、その範囲内で臨床にあたっていることを家族は認識する必要があるでしょう。
 家族が特別養護老人ホームへの入所やデイサービスなどの地域の介護支援サービスへの紹介を依頼してくることが時々ありますが、これらの公的施設の利用はそれぞれの地域の福祉事務所が窓口になっているため、医師から直接それらの施設に紹介することはできません。医師は、地域でどのような介護支援サービスを受けられるかという助言はできますが、紹介はできないのです。しかし多くの病院ではケースワーカーが在籍しており、その役割を果たしています。
 痴呆性高齢者の入院を希望する家族のなかには、入院することが痴呆症状の改善につながると期待する人も多いのですが、痴呆が入院によって改善することはありません。医師が入院を勧めるケースの多くは、身体合併症の入院治療が必要なときです。ただ、内科一般病棟の痴呆患者の受入れ体制に問題があるため、入院できる病院が限られてしまいます。このような場合には、各地にある老人性痴呆疾患センターに相談してみてください。現在のところこのセンターは全国に約120か所あり、最寄りの保健所あるいは福祉事務所に問い合わせてください。
 そのほかにも、痴呆性高齢者の異常行動のために在宅介護ができなくなったときに、入院治療を勧めることがあります。この場合は、精神科病棟を有する総合病院あるいは精神科病院、特例許可老人病院を勧めます。しかし、いずれにしてもひと昔前のように長期の入院が可能というわけではなく、ほとんどの病院が、入院期間を最長でも3〜6か月に限定しているのが現状です。

 

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