医師は、家族からの情報を基にして、患者が果たして痴呆なのかどうかを診断します。その際はまず、患者の緊張感、不安感を取り除くことから始めます。最初に、名前や年齢を尋ね、また出生地や若いころの仕事、昔の出来事などを世間話のような雰囲気で尋ねていきます。このようなさりげない会話から、医師は患者の記憶の障害を判断していきます。痴呆を診断する際にもっとも重要なことは、患者の記憶の障害が、加齢に伴う正常なもの忘れなのか、あるいは病的なもの忘れなのかを明らかにすることです。そこで、医師が困るのは、患者への質問に対して、側に付き添っている家族が答えてしまうことです。家族の正確に伝えなければいけない、という気持ちは分かりますが、正確な診断を下すためにも、家族の方はこのことを念頭に入れて医師の診察に立ち会ってください。
次に、医師は簡単な記憶テストを試みます。ここでは、痴呆であるかないかを診断するのではなく、痴呆の可能性の有無を確かめるのです。テストの結果、もしも痴呆が疑われたならば、さらに詳しい知能の検査を行い、また、脳のなかの病巣を確認するためにCTスキャンやMRIで検査を行います。CTスキャンは、X線を利用して脳の断面像を描く装置で、これにより、脳萎縮や脳梗塞、脳出血などが明らかになります。またMRIは、核磁気共鳴画像法といって、簡単にいえば、大きな磁石のなかに入り、磁場の働きで身体の内部の構造を描き出し、脳の病巣を細部にわたってみることができます。痴呆が疑われた患者は、その痴呆がアルツハイマー型痴呆なのか脳血管性痴呆なのか、あるいはその他の脳の病気で痴呆を来したのかを詳細に調べる必要があります。そのために、前述の検査だけではなく、高血圧、高脂血症、糖尿病などの身体的な病気の有無を調べ、また、麻痺や筋肉の硬さ、言葉の障害などの神経症状のチェックを行います。
このように、家族からの問診や患者の診察、諸検査結果から、患者のもの忘れがどのような病気が原因で起こっているのかを診断します。しかし正直なところ、これで完全に正しい診断を下せるわけではありません。特に軽度の痴呆症の場合は、それがアルツハイマー型痴呆なのか、あるいは脳血管性痴呆なのかを判断するのが非常に難しいのです。診断をより正確にするためには、その後の経過をじっくりと観察する必要があります。だからこそ、家庭での患者の行動、もの忘れの度合い、日常生活上の失敗などの詳細な情報は、医師にとって、より正確な診断を下すために非常に重要なものとなるのです。
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