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 つい少し前のことを忘れる、つじつまのあわないことを言う、おかしな言動をする、性格が急激に変化するといったことがあると、老人性痴呆症(ぼけ)が疑われます。もの忘れなどは歳をとると、老人に限らずよくみられますが、本人にその自覚があるのが普通で思い出すことができます。しかし、老人性痴呆症の場合、体験自体をまるっきり忘れてしまっているのです。
医学的には「痴呆」は「一度獲得された知的機能が病気のために高度に低下した状態」と定義されています。そのため、「知恵遅れ」や老化に伴うもの忘れは、痴呆とはいいません。
 以下に、老年期の痴呆性疾患のおもなものとしてアルツハイマー型痴呆、脳血管性痴呆、そして仮性痴呆をあげておきます。


アルツハイマー型痴呆

◆どのような病気か?◆
 初老期および老年期に始まる痴呆を主症状とする原因不明の病気です。65歳以前に発症したものをアルツハイマー病、それ以降に発症したものを老年痴呆ということもありますが、両者とも症状は似ており、病理学的にも同一のものなので、両者をあわせてアルツハイマー型痴呆とよんでいます。
 老人にみられる痴呆性疾患として、脳血管性痴呆に次いで多い病気です。男性より女性に多い病気ですが、これは女性のほうが寿命の長いことと関連していると考えられています。原因がまだわかっておらず有効な治療法がないため、発症より10年前後の経過で死亡する場合がほとんどです。

◆症状と特徴◆
 発症は急激でなく、いつとはなしに始まった記憶障害が初発症状であることがほとんどです。発症後間もない時期では、人の名前を忘れたり、ものをしまった場所を忘れたり、約束を忘れたりという程度で、老化による正常のもの忘れとの区別はつきません。
 しかし、アルツハイマー型痴呆では、この記憶障害が徐々に進行してきます。進行の速さは急激なものからゆっくりとしているものまでさまざまですが、みられる症状とその出現する経過はほとんど同様です。
 症状の進行に伴い判断力も低下して、職業について社会生活を送っている人では仕事の能率が落ちたり、いままでできていた仕事ができなくなったりしてきます。この段階では日常生活には支障がないかもしれません。しかし、次の段階になると、買い物をきちんとできなくなったり、家計簿をつけられなくなったりすることがみられ、少し複雑な日常生活行動にも支障がみられるようになってきます。記憶障害のため、同じことを何度も尋ねたりするかもしれません。はじめて行った場所では、迷子になったりするかもしれません。
 この時期には、日時に関する失見当識や計算力低下なども出現しています。日時に関する失見当識とは、今日が何年何月何日かを正しく認識できない状態をいいます。言葉も徐々に忘れてきて、会話の成立が困難になってきます。そのうち、季節や場所にあった服を選ぶことができなくなり、入浴することを忘れたりして、通常の日常生活を送ることにも手助けが必要となってきます。
 さらに痴呆が進行すると、一人で服を着られなくなり、入浴ができなくなり、トイレの機器を扱うことができなくなったりしてきます。そのうち、尿失禁や便失禁がみられるようになり、ついには言葉を発することもほとんどなくなり、歩くこともできなく、寝たきりとなってしまいます。

緊急時の応急処置
 徐々に進行する疾患なので、アルツハイマー型痴呆そのものに対して応急処置が必要なことはまずありません。合併症に対しての処置はそれぞれの項を参照してください。


脳血管性痴呆

◆どのような病気か?◆
 脳血管障害により、痴呆を生じたものが脳血管性痴呆です。わが国では、老年期に最も多い痴呆です。
 脳血管障害とは、脳の血管が詰まったり破れたりして血液がさきに行かなくなり、酸素不足、栄養不足となった脳細胞が機能しなくなってしまう状態をいいます。すなわち、脳血管性痴呆の原因は脳梗塞と脳出血なのです。
 脳血管障害の起きた脳の部位によっては、1回の脳卒中発作によっても痴呆の生じることもあり、何回かの脳卒中発作のあとに徐々に痴呆が生じることもあります。

◆症状と特徴◆
 痴呆は、脳血管障害のあとに突然に生じるときと、始まりのはっきりしないときとがあります。痴呆の進行は、アルツハイマー型痴呆のように徐々に進行することもありますが、階段状に進行したり、時には改善がみられたり、進行の停止がみられるなどさまざまです。
 出現してくる失見当識(自分のいる状況の判断ができない)、記憶障害、判断力・理解力低下、失行(麻痺はないけれども動作ができなかったり、道具を扱えなくなる状態)、失認(見えているけれどもそれが何なのかがわからない状態)などの痴呆の症状の組み合わせもさまざまです。
 痴呆の発症早期には、脳の機能のなかには保たれているものもあり、まだら痴呆ということもあります。アルツハイマー型痴呆と比較して、早くから尿失禁がみられる、自分が病気であることを感じ、自覚している、人格が保たれている、などが多いことが特徴とされています。当然のことながら、高血圧、糖尿病、高脂血症などの脳卒中の危険因子のあることが多いです。そして、ほとんどの場合に脳血管障害による麻痺や知覚障害などの神経症状があります(下表参照)。

▼アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆の鑑別
  アルツハイマー型痴呆 脳血管性痴呆
脳卒中の既往 なし あり
高血圧 なし あり
痴呆の発症 徐々 急激
痴呆の進行 徐々 階段状停止
麻痺や知覚障害 なし あり
病気であるという認識 なし あり
尿失禁(発症早期より) なし あり


緊急時の応急処置
 脳血管性痴呆そのものについて緊急の問題が生じることはまずないと思います。転倒による外傷や感染症などが生じたときが問題ですが、それらについてはその項を参照してください。


仮性痴呆

◆どのような病気か?◆
 仮性痴呆とは、うつ病や精神分裂病のような脳の器質性病変の明確でない機能性精神疾患に二次的にみられる痴呆様症状のことです。これは、本来はヒステリーの精神症状の1つで、ぼんやりとして簡単な質問にも答えられず子どもっぽくなっている状態をいいます。
 老人での仮性痴呆の原因としては、うつ病が最も多く、そのほか精神分裂病、神経症などがあります。アルツハイマー型痴呆と異なる点は、仮性痴呆での痴呆様の症状は回復可能なことです。

◆症状と特徴◆
 老人の仮性痴呆の原因のほとんどがうつ病ですから、ここではうつ病による仮性痴呆について解説します。
 症状の発症は、比較的はっきりしていて急速に進行してきます。既往歴にはうつ病のあることが多いです。精神症状としては、反応が遅れる、記憶障害、失見当識、作業能力の低下、そして注意力低下などがみられます。質問されると、わかりませんとか知りませんと答えることがよくあります。気分は抑うつ的です。自分の記憶障害などにも気づいており、自分が病気であることをはっきり自覚しています。運動機能の障害もみられ、動きは少なく、表情もあまりなく、前屈姿勢をとり、小声でゆっくりと話します。不眠、食欲不振、体重低下、便秘、そしてインポテンツなどの自律神経の症状もみられます。

緊急時の応急処置
 仮性痴呆そのものについて緊急の問題が生じることはまずないと思います。

 

 

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