◆どのような病気か?◆
糖尿病は、体の要求に見合うだけのインスリンが分泌されず、ブドウ糖の代謝がうまく利用できないために起こる、全身の病気です。インスリンはホルモンの1つで、胃の裏側にある膵臓から分泌されます。三大栄養素である糖質、タンパク質、脂肪の代謝に必要なホルモンで、とくに、ごはんやパン、めん、菓子類などの食べ物でとった糖質が血液中でブドウ糖に分解され、肝臓、筋肉に吸収されて、エネルギーになるときに大きな役割を果たします。このインスリンが不足すると、人が活動していくための燃料にあたるブドウ糖がエネルギーとしてうまく利用できなくなって血液中にブドウ糖が増加し、高血糖の状態となってきます。また、血糖が一定以上に高くなると、尿に糖が出てきます。その結果さまざまな症状が出現し、体の調子が乱れ、全身の病気を引き起こします。これが糖尿病です。すなわち尿に糖がでるのは血糖値が高いことを示しますが、尿糖がでないことだけでは糖尿病でないとも糖尿病が治ったともいえません。
一般に糖尿病には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、インスリン依存型糖尿病(I型糖尿病)で若年より発症し、インスリン注射をしなければ治療できないものです。もう1つはインスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)で中高年で発症し、肥満と関係があり、食事療法や運動療法で状態をよくすることができるものです。糖尿病の人の大部分がこのII型糖尿病です。経口血糖降下薬やインスリンを使うことがあります。
インスリン非依存型の糖尿病は遺伝的要素が強いとされ、生まれつきインスリンをつくる細胞の力が弱く、糖尿病になりやすい体質をもってる人が多いです。このような人が食べすぎ、太りすぎ、運動不足、心配事、ホルモンの分泌状態の変化などの誘因があったりすると、インスリンの供給が減少し必要量を満たさず発病しやすくなります。
老人の糖尿病には2つのタイプがあります。第一は成人期に発症し老年期に至った糖尿病です。基本的にII型糖尿病と同じで、糖尿病に特徴的な網膜症、腎症、神経症などを合併していることが多いものです。もう1つは70歳前後にはじめて発症または発見された糖尿病で、自覚症状に乏しく、病識もなく合併症が少ないのが特徴です。I型糖尿病は若い人に発症し、老人ではみられません。
◆症状と特徴◆
軽度の糖尿病は、ほとんど自覚症状はありません。そのため、知らないうちに進行してしまうことが多くあります。進行すると、だるい、のどが渇く、水を多量に飲む、多食する、尿の量や回数が増える、体重が減少するなどの症状がでてきます。悪化すると、急激にやせてきます。女性では、外陰部のかゆみを訴えることがあります。さらに進行すると、糖尿病性昏睡になることもあります。
糖尿病でこわいのは、さまざまな合併症です。毛細血管障害、動脈硬化、末梢神経障害、白内障、網膜症、腎症、細菌など病原体の感染に弱くなるなど、さまざまな合併症があります。
糖尿病の診断は尿糖検査、血糖検査、ブドウ糖負荷試験などを総合して行われます。
通常、朝食前の血糖値が140ミリグラム/デシリットル以上、あるいは食後で200ミリグラム/デシリットル以上であれば糖尿病が疑わしいことになります。これだけで診断できないときにはブドウ糖経口負荷試験を行います。これはブドウ糖液(75グラム)を飲み血糖値がどのように変化するかを調べるものです。結果は正常型、境界型、糖尿病型の3つに分類されます。数値の読み方を表に示します。
正常型は空腹時、1時間後、2時間後の血糖値が全部表の基準を満たす場合です。糖尿病型は空腹時あるいは(および)2時間後の血糖値が表の値以上であった場合をいいます。糖尿病型にも正常型にも当てはまらない場合を境界型といいます。医師は以上の検査結果と症状、尿糖、尿中ケトン体、グリコヘモグロビン(HbAIc)、フルクトサミン、合併症の有無などを総合的に判断して、その人にあった治療をします。境界型であっても、合併症があったり高度の肥満の場合は糖尿病型として治療します。
緊急時の応急処置
(1)糖尿病性昏睡
糖尿病性昏睡(ケトアシドーシス昏睡)は、直接死につながる危険な状態です。これは、極端なインスリン不足で体内で糖質が利用できず、かわりにエネルギー源として脂肪が代謝されますが、血液中にケトン体がたまり、その結果血液の酸性化が起こります(アシドーシス)。それに加えて高度の脱水となると、脳の働きが低下し、そのため意識が薄れ昏睡へと進みます。
吐きけ、嘔吐、腹痛などの胃腸症状で始まることが多いので、患者さんや周囲の人は注意をしておく必要があります。老人に多く、しかも他の重症疾患の経過中に起こりやすく、死亡率が高い状態です。毎日のインスリン注射を勝手に中断した場合や、感染症にかかったり、医師の注意を守らずにコントロールが悪い場合に起こります。病気に対する理解度が不足しがちな老人では、とくに注意が必要です。
(2)非ケトン性高血糖浸透圧昏睡
非ケトン性高血糖浸透圧昏睡は重症になりやすく、しかも心筋梗塞、脳卒中、尿毒症、肺炎などの合併症の経過中に起こります。やはり、老人に多く、死亡率が高いのが特徴です。
(3)低血糖性昏睡
経口血糖降下薬やインスリンを用いた治療をしている人に起こり、注意しなければならないのが低血糖性昏睡です。注射量が多すぎたり、薬を飲みすぎたときや、食事の時間がずれたり、食事をとらなかったときなど、血糖がさがりすぎて発生します。軽度のときは、強い空腹感や脱力感や冷や汗、手足のふるえ、動悸、顔面蒼白、吐きけなどの症状がでてきます。これを低血糖症状といいます。重症になると、意識障害を引き起こし死に至ることもあります。このようなときには氷砂糖やキャンディーなど食べさせたり、糖分を含んだ飲料(砂糖水、ジュースなど)を飲ませます。インスリン治療中の人が嘔吐を繰り返すようであれば、低血糖に対する治療が必要です。ただちに医療機関を受診します。
低血糖性昏睡が長時間続くと、大脳の障害で痴呆になることがあるので、老人ではとくに気をつけなければいけません。
また、外出時は必ず甘いものと前述の「糖尿病カード」を携帯するとよいでしょう。
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