海外施設紹介

 

2011/06/23 掲載

オランダ王国の高齢者施設調査報告
飯田貴映子(千葉大学大学院看護学研究科)
 
平成21年度厚生労働省補助金事業「海外の高齢者施設における看護職等のケア管理・提供に関する調査研究」の一環として、 平成22年3月にオランダ王国(以下オランダ)ユトレヒト市、アームスフォート市、アムステルダム市を訪れ、ナーシングホーム4か所、レジデンシャルホーム1か所、在宅ケア組織1か所の視察をおこないました。 ここでは、オランダにおける高齢者ケアの概略と調査をおこなった長期ケア施設について報告します。
 
オランダは、41.864平方km(九州とほぼ同じ面積)の国土と約1,653万人の人口をもち1)、高齢化率は14.4%(2008年)、平均寿命は80.2歳(2007年)です2)。家族形態は、配偶者以外との同居率が低く、 85歳以上の同居者のうち6%のみが配偶者以外と暮らしており、高齢となっても夫婦のみか一人暮らしが中心という特徴があり3)、施設で暮らす高齢者は80歳以上で約2割、95歳以上で約半数と、 入所者数は少ない傾向にあります4)
 
高齢者や障がい者ケアを支える制度として、特別医療費保証制度(AWBZ)があります。1968年より実施され、 1年以上の長期入院、精神科治療、高齢者や障がい者のための施設介護や在宅介護などをカバーする制度です。 給付資格に年齢制限は無く、給付を受けるためにはケア判定センター(CIZ)から認定を受ける必要があり、認定結果に応じて必要なケアの種類や時間、期間などが決められます。 また、個別ケア手当という現金給付も認められており、在宅介護・支援向けの予算を受け取り介護者への支払いに充てることもできます。 このほか、基礎健康保険はAWBZの対象とならない急性期疾患や1年以内の入院などをカバーし、さらには任意の民間保険に加入することで18歳以上の歯科治療、高度先進医療や代替医療、予防・検査などがカバーされます5)
 
オランダでは、シェルタードリビング、ホームケア、福祉サービス、メンタルサービスを利用しながら可能な限り自宅で生活をできるようにする'チェーンオブケア'が政府の方針として打ち出されており、 これらのサービスを受けながらの自宅生活が困難な状況となった場合、高齢者ホーム(verzorgingshuis)をはじめとする要介護状態の高齢者や障がい者のための入所施設である レジデンシャルホーム、さらに重度の介護を要する高齢者や障がい者、急性期病院を退院し継続して医療処置やリハビリテーションを必要とする人のための医療施設であるナーシングホーム(verpleeghuis)などがあります6)。 これらの長期ケア施設は、高齢者のための施設というよりは、自宅での生活が困難な障がいを持つ人や医療を必要とする人のための施設に要介護状態の高齢者が多く入所しているという捉え方がされているようでした。今回調査班は、在宅や施設ケアを提供するAxion Continu財団が運営する小規模ナーシングホーム、脳卒中ユニットを有するナーシングホーム、レジデンシャルホームや、この財団以外のナーシングホーム2か所を視察しました。
 
医療施設であるナーシングホームの多くは身体疾病ユニットと認知症ユニットとに分かれ、さらには脳卒中ユニットやAIDSユニットなど有する所もあり、 多様な疾患や身体状況に対応しており、また、短期から長期の入所期間、青年期から高齢期までと幅広い年齢層の人々が入所していました。 オランダでは、病院で最期を迎えたくないという意識が強く、年間約25,000人がナーシングホームで亡くなっており、ナーシングホームでの緩和ケアや終末期ケアも積極的に行われていました。 施設内は広々としており、鮮やかに描かれた壁や沢山の緑、多様な宗教的背景に合わせた設備、カフェスペースや美容院など、入所者や家族が快適に過ごせるように配慮されていることが印象的でした。
 
レジデンシャルホームでは、介護度の低い人からナーシングホーム入所者に近い状態の人まで入所者の状態は幅広く、 入所が長くなるにつれ介護度が上がっても、そのままレジデンシャルホームで過ごす人もいる、などナーシングホーム入所との境界はあいまいであるとのことでした。 隣接するよりかかり住宅(高齢者施設に併設する住宅で、食事などの施設のサービスを利用しながら自立した生活を営むという発想で建設されている7))では、55歳以上であれば入居が可能で、 介護度の制限はなく、投薬や更衣、入浴などの介助が提供されていました。
 
これら長期ケア施設では、高齢者医療専門医(旧ナーシングホーム医)をはじめとし、看護師、介護士、セラピスト、栄養士、ソーシャルワーカー、ボランティアなどの多職種によるチームでケアが提供されていました。 オランダでは、看護・介護職の資格をその教育背景により5段階のレベルで分けています。 レベル1は無資格者、レベル2と3は介護職、レベル4・5は看護職で、スタッフレベルの看護師がレベル4、管理職やスペシャリスト看護師がレベル5となります。 ナーシングホームや高齢者ホームではレベル2・3の介護職がほとんどの直接ケアを提供し、レベル4の看護師が医療的な処置やチーム内の管理などを行い、レベル5の看護師は施設全体の管理的立場に配置されていました。 施設によってはレベル2や3の介護職であっても、トレーニングを受けることで吸引が可能になるなど、看護師の管理のもと介護職が実施可能な技術は施設により柔軟に対応がされていました。
 
ワークライフバランスを推進している国として知られるオランダですが、職員の勤務体制も多様であり、パートタイムで働く人が非常に多く、 視察先の施設においてもパートタイムで働きながら他の資格取得に向け学んでいる人、自分自身のための時間や家族との時間を大切にしている人、などそれぞれの働き方があり、 それを互いに尊重する文化が根付いていることを感じました。
 
≪参考文献≫
1) 外務省ホームページ(2009):各国・地域情報オランダ.http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/netherlands/data.html 
2) OECD(2009):OECDヘルスデータ2009.
3) Boer, Alice,de(ed.) (2006), Report on the Elderly 2006, SCP, Den Haag, p15.
4) 同3),p153.
5) 廣瀬真理子(2008):オランダにおける最近の地域福祉改革の動向と課題.海外社会保障研究,162,43-52.
6) 同5)
7) 同5)
 
 
 【オランダ調査班メンバー】
 伊藤 隆子(千葉県立保健医療大学)
 佐藤和佳子(山形大学)
 西山みどり(神戸海星病院)
 堀田 聰子(労働政策研究・研修機構)
 
 
 

2011/05/09 掲載

フィンランドの高齢者施設紹介
辻村 真由子(千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科)  片岡 万里 (高知大学医学部看護学科)
 
 平成21年度厚生労働省補助金事業「海外の高齢者施設における看護職等のケア管理・提供に関する調査研究」の一環として、平成22年2月にフィンランドのHelsinki市及びその近郊の24時間ケア付き住宅、市立病院の長期療養病床、リハビリテーション病院などを視察しました。ここでは、今回私たちが4か所見学した24時間ケア付き住宅について紹介します。
 フィンランドでは、1982年頃から介護施設に代わる中心的なものとして、介護やその他のサービスが付加された、ケア付き住宅が整備されてきました。老人ホームなど多くの従来型施設がケア付き住宅に転換されてきています。このうち、24時間ケア付き住宅は、24時間専属のスタッフとサービスが付いているもので、近年、終の棲家としての位置づけもされるようになってきています。入居対象者は認知症高齢者や身体的に虚弱な高齢者で、5〜15人の小規模なユニットで構成されたグループホーム型のものも普及しています。
 視察した24時間ケア付き住宅には公立のものと私立のものがあり、デイセンター(運動、趣味活動、老人大学など)、理学療法、調理・レストランサービス、訪問看護、ホームヘルプなどの多様な機能を併設している住宅、最新のごみ処理システムや音声システムを備えた住宅、運動障害、認知症、感染症などの棟からなる住宅など、住宅ごとに特徴をもっていました。
 ほとんどがグループホーム型でしたが、日本の認知症グループホーム(1ユニット5〜9人、1事業所2ユニット以下)のようなイメージとは異なり、1施設のユニット数が9〜18ユニット、入居者が75〜196名と、大規模なものでした。
 施設のアメニティからは、日本との文化的な違いも感じられました。どの施設もサウナを備え、なかにはストレッチャーで入ることができるものもあり、日本における入浴のようにサウナにたいへん価値を置いていることが感じられました。また、様々な宗教に対応可能な聖堂が設置されている施設もありました。
 
   
 
 施設で働く職種をみると、看護職とは別の資格職としてラヒホイタヤ(Lahihoitaja)があります。この資格職は、1993年に始まったもので、ラヒ(Lahi)には「周辺の」、ホヒタヤ(hoitaja)には「世話をする人」という意味があります。これまでの保健医療部門における7つの資格(准看護師、精神障害看護助手、歯科助手、保母・保育、ペディケア士、リハビリ助手、救急救命士・救急運転手)と社会ケア部門における3つの資格(知的障害福祉士、ホームヘルパー、保育士)が統合されたものです1)。ラヒホイタヤは介護、看護、リハビリケアにおいて所定の教育を受けており、皮下注射、吸引などについては、医師や看護職への技能披露を行い、許可を受けて一部は実施できるようになっています。視察施設でも、看取りを行う場合、必要時にラヒホイタヤが吸引を実施することがあるとのことでした。
 視察施設の入居者100人あたりのおおよそのスタッフ数を割り出してみると、看護職18人 、ラヒホイタヤ42人 、医師(非常勤)、必要に応じてリハビリ職という構成で、看護職とラヒホイタヤの比率は、約3:7でした。看護職とラヒホイタヤとの連携について尋ねたところ、「看護師とラヒホイタヤのコミュニケーションはよく取れている。昔は看護師が上という考えがあったかもしれないが、連携において、職種間のずれは全く感じない」「看護師とラヒホイタヤの仕事の分担はきっちり決まっておらず、手の空いた人がする」「ラヒホイタヤの教育は非常に高度だが、それでもわからないことがあるので看護師がコンサルタントを務める場合もある」との回答があり、看護職とラヒホイタヤの業務上の区別は基本的にはなく、高齢者の心身の変調に応じて連携されたケアが提供されていることがうかがえました。
 
 引用文献
 1)森川美絵:特集 高齢者の住まいとケアの展望 介護人材の確保育成策―諸外国の経験から―.保健医療科学. 2009;58(2):129-135.
 
 【その他フィンランド調査班メンバー】
 堀内 ふき(佐久大学看護学部看護学科)
 池崎 澄江(千葉大学大学院看護学研究科)
 桑田 美代子(医療法人社団慶成会青梅慶友病院・老人看護専門看護師)
 吉岡 佐知子(松江市立病院・老人看護専門看護師)