アルツハイマー病研究 最近の知見;治療に向けて

田中稔久(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)

 

我が国の認知症性高齢者は現時点で180万人を数えるが,この数は今後も増加し続けており2020年にはほぼ300万人に達するものと予想されている.このうちの約半数はアルツハイマー病(AD)とされており,ADの早期診断法の確立および治療法の開発は社会的急務ともいえる.ADの神経病理学的特徴として,老人斑と神経原線維変化が知られており,その主要構成成分はアミロイドβと異常リン酸化タウ蛋白である.病態に密接に関与するこれらの蛋白を手がかりに,診断法と治療法に関して様々な研究が行われてきた.
アミロイドβの生成に関してはβおよびγセクレターゼが関与していることが明らかとなり,その分子基盤の理解が近年急速に進んでいる.診断への応用に関しては,脳脊髄液中のアミロイドβ1-42が有用な診断マーカーとしてよく知られている.さらに,治療への応用としてはβおよびγセクレターゼに対するモジュレーターの開発も進んでいる.また,アミロイドオリゴマーの毒性が知られるようになり,アミロイドの重合阻害剤の開発も行われている.また,アミロイドを除去する免疫療法に関しても研究が進められている.また,タウ蛋白に関しては,AD以外にもタウオパチーといった神経変性疾患群に認められ,タウ蛋白の重要性が再認識されるに至っている.診断への応用に関しては,脳脊髄液中のタウ蛋白およびリン酸化タウ蛋白は有用な診断マーカーとして知られている.治療への応用としては,リン酸化阻害剤およびタウの自己重合阻害剤の開発が進んでいる.様々な研究をふまえて,治療薬の臨床治験成績も学会および論文上の報告されるようになってきた.ここでは,アルツハイマー病研究における最近の知見について概説し,近い将来における治療戦略に関してオーバービューを行いたい.