2019 Vol.30 No.5
 
 
第30巻第5号(通巻385号)
2019年5月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻頭言
認知症疾患医療センターとして地域の課題を考えること
樫林哲雄 474
特集:高齢者の自殺・自死とその辺縁問題
T.総論的報告
 高齢者の自殺・自死の過去と現状・日本的特徴
宮本浩司・張 賢徳 477
 超高齢社会における自殺リスク
本橋 豊ほか 484
 高齢者の自殺に関する社会的要因
 ―― ソーシャルキャピタル,経済格差,地域要因・地理的要因
中村恒穂・近藤克則 492
U.各論的報告
 高齢者の災害,復興地域の自殺・自死の問題
太刀川弘和 499
 高齢者のセルフ・ネグレクトの実態と対応
岸恵美子 505
 高齢者の心中や介護殺人が生じるプロセスと事件回避に必要な支援
湯原悦子 513
 高齢孤立死の現状―― 法医学からの報告
金涌佳雅 520
V.対策への模索
 高齢者の自殺・自死予防
大塚耕太郎ほか 527
 高齢者の自殺リスクを抑制する「自殺予防因子」
 ―― 複数のアプローチによる探索
岡  檀 532
症例報告
コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用およびコリンエステラーゼ阻害薬同士の切替が
アルツハイマー型認知症の認知機能に及ぼす影響
兼田康宏・中村 祐 541
基礎講座
高齢者精神科診療・認知症診療における薬物療法を考えるF
抗精神病薬の基礎
宮田久嗣・石井洵平 551
連  載 モラルチャレンジ:実践・臨床倫理J
〈事例検討10〉
精神科長期入院患者の終末期医療
村端祐樹ほか 560
文献抄録
山本泰司 569
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編集後記

 
論文名 高齢者の自殺・自死の過去と現状・日本的特徴
著者名 宮本浩司・張 賢徳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):477-483,2019
抄録 日本は急速な人口の高齢化が進み,超高齢社会を迎えている.日本の年間自殺者総数は2017 年までで6 年連続3 万人を下回っているが,高齢者の自殺は約40%を占め高い割合である.国際的にも日本の高齢者の自殺率は高い傾向にある.このような状況のなか,警察庁が自殺統計を開始した1978年より日本の高齢者(60 歳以上)の自殺者数の推移,自殺率の推移を概観してその傾向と特色について概説した.高齢者の自殺には中年層と同様に経済動向が関与することが読み取れた.また,自然災害が自殺低下に何らかの影響を与える可能性が示唆された.
キーワード 高齢化,自殺者数,自殺率,経済,自然災害
論文名 T.総論的報告
超高齢社会における自殺リスク
著者名 本橋 豊,藤田幸司,金子善博,木津喜雅
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):484-491,2019
抄録 高齢社会の進展に伴う後期高齢者の自殺問題については,うつ病などの医学的問題のほかに高齢者を取り巻くさまざまな社会的問題に目配りをすることが必要である.医学的問題としての身体疾患や精神疾患の罹病のほか,閉じこもりや心理的孤立,ソーシャル・キャピタルの醸成などの問題を視野に入れなければならない.本論文では,高齢者の抱えるさまざまな医学的,社会的問題がどのように自殺問題とかかわってくるのかについて,特に後期高齢者の自殺リスクに焦点をあてて解説した.
キーワード 高齢者,自殺,うつ病,閉じこもり,地域自殺対策政策パッケージ
論文名 T.総論的報告
高齢者の自殺に関する社会的要因―― ソーシャルキャピタル,経済格差,地域要因・地理的要因 ――
著者名 中村恒穂,近藤克則
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(3):245-248,2019
抄録 超高齢者の認知機能低下について考える場合,加齢の影響か,認知症発症の病態であるのかの区別が困難なことが多い.そのため,本稿では健常加齢による認知機能の様態について述べ,認知症発症による認知機能低下との区別について有用な視点について述べた.
キーワード cognitive function,neuropsychological test,memory,cohort study,longitudinal,cross-sectional
論文名 超高齢期に発症する認知症と神経病理学
著者名 尾昌樹,村上知之,広瀬信義,美原 盤
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):492-498,2019
抄録 自殺の社会的要因として,「ソーシャルキャピタル」「経済格差」「地域要因・地理的要因」についてレビューした.社会参加や社会的サポートなどのソーシャルキャピタルは自殺と負の相関があり,一方,経済格差の大きさを表すジニ係数と自殺率の間には正の相関がみられた.さらに地域要因・地理的要因では,自殺と関連がみられることを示した.後2 者も,ソーシャルキャピタルを介しての側面があり,ソーシャルキャピタルの醸成による自殺対策を考えた.
キーワード ソーシャルキャピタル,ジニ係数,地域要因・地理的要因
論文名 U.各論的報告
高齢者の災害,復興地域の自殺・自死の問題
著者名 太刀川弘和
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):499-504,2019
抄録 災害後の高齢者における自殺実態について統計,支援経験,調査を紹介し,自殺予防策について検討した.高齢者では,災害による身体問題,喪失体験,二次的な生活変化から身体的健康,精神状態の悪化,社会生活の困難が生じ,自殺リスクが高まる.その心理過程は震災関連死と変わりはない.支援策として,災害急性期には自宅訪問を含むアウトリーチ活動,中長期には包括的な精神保健福祉的介入が有効と考えられる.
キーワード 自殺,高齢者,災害,復興地域
論文名 U.各論的報告
高齢者のセルフ・ネグレクトの実態と対応
著者名 岸恵美子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):505-512,2019
抄録 セルフ・ネグレクトは「健康,生命および社会生活の維持に必要な,個人衛生,住環境の衛生もしくは整備または健康行動を放任・放棄していること」と定義され,支援を拒否するなどで対応が困難な事例は多い.しかし近年の研究から,死亡リスクが高いことが指摘されていることから,「支援を求める力が低下,欠如している人」ととらえ,信頼関係を構築し,自己決定を尊重して,安全で健康な生活へと導くことが支援として重要である.
キーワード セルフ・ネグレクト,高齢者,孤立,孤立死,ごみ屋敷
論文名 U.各論的報告
高齢者の心中や介護殺人が生じるプロセスと事件回避に必要な支援
著者名 湯原悦子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):513-519,2019
抄録 警察庁の統計によれば,介護・看病疲れを動機とする殺人等は,年間40件程度検挙されている.事 件発生の背景には「老老介護で介護者も体調不良」「介護者は被介護者の認知症の症状に悩まされていた」「介護者あるいは被介護者がうつ状態」「被介護者がサービス利用を拒否していた」などの状況が確認できる.事件回避に向けて,支援者が働きかけることができるようにするためには,被介護者のみならず介護者に対してもアセスメントを行う必要がある.
キーワード 介護殺人,介護心中,介護者,うつ
論文名 U.各論的報告
高齢孤立死の現状―― 法医学からの報告 ――
著者名 金涌佳雅
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):520-526,2019
抄録 単身者が自宅で死亡し,死後発見される孤立死は,大きな社会問題として注目されている.孤立死の実数とその高齢者割合は,年々増加しており,救命や発見の観点から対策が求められる.65〜69 歳の男性孤立死例で,その発生率は高く,死後経過日数も長いことから,予防対策としてこの年代の男性を対象にすることが効果的であろう.そして,死亡前に症状があるのに医療機関へのアクセスがない事例も2 割弱おり,受診を促す施策も必要である.
キーワード 孤立死,孤独死,異状死,死後経過日数,未受診
論文名 V.対策への模索
高齢者の自殺・自死予防
著者名 大塚耕太郎, 小泉範高, 赤平美津子, 松下 祐,山岡春花,伊藤ひとみ
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):527-531,2019
抄録 日本では少子高齢化,支え手の減少など高齢者を取り巻く社会状況は厳しく,全自殺者に占める60 歳以上の高齢自殺者は4 割を占め,動機として健康問題を抱える者や,職業別では年金・雇用保険等生活者の割合が大きい.高齢者の自殺予防では,自殺リスクのアセスメント,複合的な支援と連携によりケアや介護の質を高め,地域での支え手としてのゲートキーパー対策や地域づくりとして健康づくりの推進など包括的な地域での戦略が必要となる.
キーワード 高齢者,自殺,自殺企図,自殺リスク,自殺予防
論文名 V.対策への模索
高齢者の自殺リスクを抑制する「自殺予防因子」―― 複数のアプローチによる探索 ――
著者名 岡  檀
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30:532-539,2019
抄録 本稿では,まず,自殺率の地域間格差について述べた.次に,自殺希少地域と自殺多発地域においてフィールド調査を重ね,住民アンケート調査結果から得られた5 つの「自殺予防因子」を報告した.自殺希少地域と多発地域の差異は,高齢者層において格差がいっそう広がることを示していた.それらの背景に,地形や気候,居住地の空間構造など外的要因の存在が示唆されることについて説明した.高齢者の自殺予防を考えるうえでは,成長過程で習得する思考や行動様式に着目することも重要である.
キーワード 自殺希少地域,自殺予防因子,コミュニティ特性,住民気質,自然環境,居住環境
論文名 コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用およびコリンエステラーゼ阻害薬同士の切替がアルツハイマー型認知症の認知機能に及ぼす影響
著者名 兼田康宏,中村 祐
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):541-549,2019
抄録 アルツハイマー型認知症(AD)における認知機能低下をできる限り抑制するために,疾病の早期発 見・早期治療に加えて,当初の良好な認知機能をできる限り維持させることが重要である.症例1:80 歳,女性.軽度AD.初診時,アルツハイマー病評定尺度- 認知- 日本版(ADAS-J cog)22.6 点.リバスチグミン投与開始,18 mg/ 日まで増量.その後,メマンチンを追加,20 mg/ 日まで増量.治療開始約37 か月後,ADAS-J cog 21.0 点.症例2:72 歳,女性.軽度AD.初診時,ADAS-Jcog 17.6 点.ガランタミン投与開始,24 mg/ 日まで増量.その後,メマンチンを追加,20 mg/ 日まで増量.さらにその後,ガランタミンをドネペジルにswitch,10 mg/ 日まで増量.治療開始約45 か月後,ADAS-J cog 19.4 点.認知機能悪化の抑制には,治療中の認知機能モニタリングを活用して,コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)にメマンチンを併用する,あるいはChEI 同士をswitchするなど,限られた抗認知症薬4 剤を効果的に使いこなすことが求められる.
キーワード アルツハイマー型認知症,認知機能,コリンエステラーゼ阻害薬,N-メチル-D-アスパラギン酸( NMDA) 受容体拮抗薬
論文名 〈事例検討10〉精神科長期入院患者の終末期医療
著者名 村端 祐樹,網井 智子,尾根田 真由美,井藤 佳恵,齋藤 正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(05):560-568,2019
抄録 精神科長期入院者の地域移行の取組みが盛んになされている一方で,長期間の入院患者ほど退院がむずしく病棟のなかで歳を重ねている現状がある.それに伴い長期入院者が重篤な身体合併症を抱えてそのまま死亡するケースも増えている.当院に20 年の長期にわたって入院し,大腸がんの肝転移で死亡した症例をもとに精神科長期入院者の終末期医療,看取りについて考察した.
キーワード 統合失調症,長期入院患者,終末期医療