2019 Vol.30 No.4
 
 
第30巻第4号(通巻384号)
2019年4月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻頭言
白衣認知症
三村 將 346
特集:老年期における不安
老年期にみられる不安症 (不安障害) の生物学的基盤
山本円香・塩入俊樹 349
DSM における不安症(不安障害)の変遷と疫学
音羽健司 358
ライフサイクルからみた老年期の不安症(不安障害)の特徴
上村直人 366
身体疾患を有する人の不安への対応
藤澤大介 373
老年期の不安症とうつ病のcomorbidity
大坪天平 380
老年期の身体症状症および関連症群の臨床
稲村圭亮 386
軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症に伴う不安
繁田雅弘 393
老年期の不安症(不安障害)に対する精神療法
塩路理恵子 399
老年期の不安症(不安障害)に対する薬物療法  
―― 多剤併用に関する注意を含めて
高岡洋平・稲田 健 406
原著論文
日本版ポケット嗅覚識別テストを用いたアルツハイマー型認知症の早期発見/早期診断の試み
柳本寛子ほか 413
基礎講座
高齢者精神科診療・認知症診療における薬物療法を考えるE
 老年期うつ病症例に抗うつ薬使用で知っておくべきこと
堀  輝ほか 425
連  載 モラルチャレンジ:実践・臨床倫理I
〈事例検討9〉HIV 感染症をもつ患者の在宅生活支援
現代に新たに出現した高齢HIV 患者の療養に関するこれからの課題
錦織宇史ほか
文献抄録
布村明彦 442
書  評
「高齢者の心理臨床;老いゆくこころへのコミットメント」
松田 修 443
学会NEWS
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編集後記

 
論文名 老年期にみられる不安症(不安障害)の生物学的基盤
著者名 山本円香,塩入俊樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):349-357,2019
抄録 不安症(AD)は,人々のQOL に負の影響を及ぼし,死亡や障害の危険率を増加させる.なかでも高 齢者の不安は,頻度が高く,多大な悪影響を与えていることから,“silent geriatric giant”と呼ばれており,高齢者と不安は,切っても切れない重大な臨床的問題である.本稿では,AD の生物学的基盤として,神経伝達物質や内分泌系のストレス応答に対して加齢がどのような影響を与えるのかについて述べたあと,筆者らが提唱するAD の“Stress-induced fear circuitry disorder(SIFCD)”仮説について,加齢という観点を含めてまとめた.
キーワード 神経伝達物質,コルチゾール,恐怖の神経回路,Stress-induced fear circuitry disorder
論文名 DSMにおける不安症(不安障害)の変遷と疫学
著者名 音羽健司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):358-365,2019
抄録 老年期の不安症について,『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』の診断基準の変遷,疫学研 究や症状の特徴,併存疾患,今後の疫学研究上の展望などを概説した.高齢者の不安には診断基準ではとらえきれない特有の症状がみられることや,他の精神疾患,身体併存疾患の合併もあることについて述べた.さらに高齢者の不安症を考える際には,高齢者特有の症状を把握し,不安の客観的な指標を用いた実証的なデータ検証が今後必要になることについてもふれた.
キーワード 不安症,診断基準,疫学,併存症
論文名 ライフサイクルからみた老年期の不安症(不安障害)の特徴
著者名 上村直人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):366-372,2019
抄録 本稿では,高齢期における不安の本質とその背景疾患の多様性やライフサイクル的な背景の違いを踏まえた高齢期の不安症候群について述べた.さらに高齢期の不安障害を考えるうえでは見過ごせない器質性不安症候群や心因性など鑑別診断の意義についても松下(2003)や兼本(2018)の指摘も取り入れつつふれた.高齢者にみられる不安・抑うつ状態は,器質的な要因から心理的要因に加え,社会的な時代的背景や生活史に関する要因も大きく,多元的なアプローチが必要であると考えられる.そして高齢期では不安という症状を消そうとするのではなく,一人の人間として患者の不安を理解しようとする症状把握が最も重要であることを強調しておきたい.このような診察態度が患者と医師の信頼関係と,身体疾患の改善にもつながりうると思われる.
キーワード 認知症,不安,ライフサイクル,ADHD,DLB
論文名 身体疾患を有する人の不安への対応
著者名 藤澤大介
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):373-379,2019
抄録 ・ 自覚的苦痛,機能障害,ストレス・イベントからの時期などを考慮して,支持的な対応で経過をみるか,より専門的な介入を行うかを判断する.
・抗うつ薬や抗不安薬が有用であるが,身体予後が厳しい患者は少量の抗精神病薬も考慮する.
・ リラクセーション法,心理教育,支持的精神療法,認知行動療法,マインドフルネスなどさまざまな精神療法の有効性が実証されている.
キーワード 多職種ケア,認知行動療法,薬物療法,マインドフルネス,がん,メンタルヘルス・ファー ストエイド
論文名 老年期の不安症とうつ病のcomorbidity
著者名 大坪天平
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):380-385,2019
抄録 老年期には加齢に伴う心身の活力の低下,複数の慢性疾患の併存などの影響もあり,生活機能が障害され心身の脆弱性が出現しやすい状態となる.同時に,職業や家庭内の役割の喪失や,身近な人間との死別などさまざまな喪失体験を経験する時期である.したがって,老年期には不安症やうつ病が生じやすく,またその併存も多くみられる.老年期の不安症とうつ病のcomorbidity に介入する前提として,老年期特有の背景基盤の理解が必要となる.
キーワード フレイル,喪失体験,孤立,身体症状症,全般不安症
論文名 老年期の身体症状症および関連症群の臨床
著者名 稲村圭亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):386-392,2019
抄録 老年期における身体症状症および関連症群は,背景に若年者とは異なる基盤が存在する.DSM-5 診 断基準においては,病因論は排する方針がとられ,身体症状を呈する疾患群を身体症状症として一括しているが,その心理機制はさまざまである.とくに老年期では,疾病恐怖的な訴えが前景にある「心気症状」が働くことが多い.本稿では,身体症状症および関連症群について,その病因としての「心気症状」の重要性について概説し,また,臨床の補助となる疾患モデルをいくつか呈示した.これらの臨床に関する包括的な知見を概説したうえで,さらに認知機能障害との関連についても述べた.
キーワード 老年期,高齢者,身体症状症,身体表現性障害,認知機能
論文名 軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症に伴う不安
著者名 繁田雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):393-398,2019
抄録 軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症に伴う不安は,認知症に対する偏見や固定観念ないし先入観によって助長される.病気に対する周囲の偏見よりもむしろ患者自身の病気に対する偏見が不安を引き起こす要因となる.日々の生活のなかで体験するさまざまな失敗も不安を引き起こし助長するが,家族の対応も不安を軽減するどころか助長してしまうことがまれではない.こうした不安に対する支援として,医師-患者関係の確立とともに支持的精神療法や森田療法といったアプローチが有効である.
キーワード 自覚症状,偏見,先入観,自己効力感,自尊感情
論文名 老年期の不安症(不安障害)に対する精神療法
著者名 塩路理恵子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):399-405,2019
抄録 老年期の神経症性の不安を中心とした病態(不安症/不安障害/神経症性障害)に対する精神療法的アプローチについて概説した.最初に包括的な対応として近年アメリカで提唱された“Eight rules for managing anxiety disorders in older adults”を紹介し,そして各種の精神療法について概説した.老年期の不安症に対する森田療法では,現在に応じたほどよい行動を探ることが,不安,加齢による変化を受け入れることにつながると考えられる.
キーワード 不安症(不安障害),老年期,精神療法,森田療法
論文名 老年期の不安症(不安障害)に対する薬物療法 ―― 多剤併用に関する注意を含めて ――
著者名 高岡洋平,稲田 健
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):406-411,2019
抄録 不安症(不安障害)の薬物療法は精神療法・心理社会的療法と相補的に行われるものである.薬物療法として第1 選択となるのは抗うつ薬であるが,高齢者では身体合併症が多いこと,代謝能力が低下していることから,それぞれの薬物特性を知ることによって適切な薬物選択を行うことが必要となる.薬物療法の有効性を適切に判断し,副作用を生じるリスクを最小化するためには,少量・単剤から開始し,多剤併用を避けることが大切である.
キーワード 不安症,老年期,薬物療法,多剤併用
論文名 日本版ポケット嗅覚識別テストを用いたアルツハイマー型認知症の早期発見/早期診断の試み
著者名 柳本寛子,森田喜一郎,小路純央,中島洋子,久裕貴,吉本幸治,加藤雄輔,山下裕之,大川順司,内村直尚 
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):413-422,2019
抄録 【背景】認知症では,早期発見・早期治療・ケアが重要であり,しばしば発症の前段階から嗅覚障害が認められるが,わが国での報告は少ない.【目的】アルツハイマー型認知症(AD)の早期発見・早期治療を目的に,もの忘れ外来,およびもの忘れ予防検診の受診者を対象にポケット嗅覚識別テストを施行し,その有用性について検討した.【方法】嗅覚識別検査は,UPSIT-J 8-item を用い,同時に認知症評価としてHDS-R,MMSE でのスクリーニング検査およびCDR による認知症の重症度評価を行った.また被験者を認知機能検査と頭部MRI による画像検査に基づき,AD 群,中間群と健常群の3 群に分けた.【結果】UPSIT-J の正答数は,AD 群が中間群より,中間群が健常群より 有意に少なかった.また,5 個以上の正答率は,AD 群14.3%,中間群70.4%,健常群89.1%であった.正答数とHDS-R,MMSE の点数との間に有意な正の相関が,正答数とCDR および頭部MRI統計画像解析のVSRAD®のZ スコアとの間に有意な負の相関が観察された.【考察】以上より,UPSIT-J による嗅覚識別検査は,AD の早期発見と診断に有用な精神生理学的指標となると考えら れた.
キーワード アルツハイマー型認知症(AD),日本版ポケット嗅覚識別テスト(UPSIT-J),嗅覚機能,補助診断,早期発見
論文名 〈事例検討9〉HIV 感染症をもつ患者の在宅生活支援 現代に新たに出現した高齢HIV 患者の 療養に関するこれからの課題
著者名 錦織 宇史,井藤 佳恵,木村 亜希子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌30(04):433-440,2019
抄録 近年の感染症治療の進歩によりHIV 感染症に罹患した患者の予後は顕著に改善し,「HIV 感染症がコントロールされた高齢者」という新たな患者群が出現することとなった.治療が進歩し,知見が増しているにもかかわらず,依然としてHIV 感染症に対する偏見は根強い.本稿では,HIV 感染症をもつ高齢者が,身体的不調および認知機能低下の疑いによって当院に入院し,治療終了後,退院に向けた環境調整に苦慮した事例を通じて,高齢HIV 患者の療養に関するこれからの倫理的課題について考察した.
キーワード HIV 感染症,高齢者,独居,スティグマ