2019 Vol.30 No.1
 
 
第30巻第1号(通巻380号)
2019年1月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻頭言
発達障害と高齢者
林 博史
特集:成年後見制度と認知症高齢者の医療,福祉
成年後見制度利用促進と認知症高齢者の福祉
成年後見制度利用促進について
西村慎太郎 11
成年後見制度利用促進と認知症施策
田中規倫 16
日常生活自立支援事業と成年後見制度
高橋良太 20
障害者権利条約批准と成年後見制度
田山輝明 27
社会福祉士による成年後見制度の実践と認知症高齢者福祉に関する課題
乙幡美佐江 34
地域の社会福祉協議会における実践と課題西東京市における権利擁護システム導入に向けての取組み
関根裕恵・中澤元子 43
品川区の権利擁護における実践 ―― これから目指すべきこと
高橋 愛 49
これからの高齢者・障害者の権利擁護支援について ―― 横浜生活あんしんセンターの20年の取組みから
延命政之 54
認知症高齢者医療の現場における成年後見制度利用の現状
成年後見制度は権利擁護に寄与しているといえるか
丸勇司 58
地域の事例
井藤佳恵 64
統合失調症患者の両親に保護が必要となった事例
齋藤正彦 68
原著論文
アルツハイマー病に対する抗認知症薬の切替または追加後の症状変化について
―― ABC 認知症スケールによる評価
和田健二ほか
基礎講座 高齢者精神科診療・認知症診療における薬物療法を考えるB
高齢者における向精神薬使用のガイドライン・指針の利用法
伊賀淳一
連  載 モラルチャレンジ:実践・臨床倫理F
〈事例検討6〉幻覚妄想状態にある患者の自己決定支援
幻覚妄想状態にある統合失調症患者の終末期医療  
―― 内的世界が現実と折り合っていく過程
井藤佳恵・石川博康
文献抄録
繁田雅弘
学会NEWS

 
 
論文名 成年後見制度利用促進と認知症高齢者の福祉:成年後見制度利用促進について
著者名 西村慎太郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0011-0015,2019
抄録 成年後見制度利用促進については,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(2016〈平成28〉年5月施行),および,「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29 年3 月閣議決定)に基づき,関係省庁等,地方公共団体および関係機関が連携して,地域連携ネットワークや中核機関の整備等をはじめとする各施策の推進を図っており,その進捗状況については「成年後見制度利用促進専門家会議」において把握・評価等を行い,必要な対応を検討することとされている.
キーワード 成年後見制度の利用の促進に関する法律,成年後見制度利用促進基本計画,成年後見制度利用促進専門家会議,地域連携ネットワーク,中核機関
 
論文名 成年後見制度利用促進と認知症高齢者の福祉:成年後見制度利用促進と認知症施策
著者名 田中規倫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0016-0019,2019
抄録 認知症の人の数は,2025 年には高齢者の5 人に1 人になると見込まれている.このようなわが国においては,認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるよう,また,自らの意思に基づいた生活を送ることができるよう環境整備を行っていくことが重要である.新オレンジプランでは7 つの柱に沿って認知症施策を推進している.7 つの柱の「認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進」においては,成年後見制度の利用促進や認知症の人の意思決定支援に関する施策を推進している.今後も認知症の人が住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる体制が構築されよう支援していきたい.
キーワード 「 認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜(新オレンジプラン)」,認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進,認知症の人の意思決定支援,成年後見制度
 
論文名 日常生活自立支援事業と成年後見制度
著者名 高橋良太
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0020-0026,2019
抄録 判断能力が不十分な人たちが安心して地域で生活し続けるようにするためには,日常生活自立支援事業と成年後見制度とが柔軟で継ぎ目なく支援していくことが重要である.「意思決定支援」や「利用者に寄り添った支援」を行う日常生活自立支援事業のノウハウや専門性を,成年後見制度を活用する際にも積極的に活かしていくことが,成年後見制度における意思決定支援をより適切なものとする.
キーワード 日常生活自立支援事業,成年後見制度,意思決定支援,権利擁護,地域共生社会
 
論文名 障害者権利条約批准と成年後見制度
著者名 田山輝明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0027-0033,2019
抄録 障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)は,障害者自身の意思の尊重を前提とし,関連諸施策の実施に際しても,その意思決定と表明をサポートすべきであるとしている.この観点からは,後見人のような法定代理人による「決定」は,極力避けられるべきである.欧米諸国においても,その方向で法律の改正が行われている.「最善の利益」よりも「意思と選好の最善の解釈」が強調されている.法律行為の場合よりもさらに本人の意思が尊重されるべきであるのは,手術等の医療における同意である.
キーワード 国連の障害者権利条約,成年後見制度,医療同意,意思と選好の最善の解釈,法的能力
 
論文名 社会福祉士による成年後見制度の実践と認知症高齢者福祉に関する課題
著者名 乙幡美佐江
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0034-0042,2019
抄録 成年後見制度において専門職後見人である社会福祉士は,身上監護を軸とした活動を展開し,人々の多様化・複雑化する福祉ニーズに対応するべくソーシャルワークを日々実践している.認知症高齢者は虐待や消費者被害などの権利侵害に遭いやすく,セルフ・ネグレクト状態に陥りやすい現状にあることから,アウトリーチ機能を中心とした対策やあらゆる分野の支援者との連携協力体制の構築など,予防支援システムの構築が必要である.
キーワード 認知症高齢者,成年後見制度,社会福祉士,高齢者虐待,予防
 
論文名 地域の社会福祉協議会における実践と課題:西東京市における権利擁護システム導入に向けての取組み
著者名 関根裕恵,中澤元子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0043-0048,2019
抄録 西東京市権利擁護センターあんしん西東京は,2002(平成14)年度から西東京市が運営を開始し,平成19 年度から西東京市社会福祉協議会が担っている.このリレー方式により行政との連携が強化され,職員体制の確保,社会貢献型後見人の養成,市長申立の流れ,法人後見事業の取組みが行政,社協一体となって実施できている.今後の超高齢社会に向けて,さらに任意後見事業の実施も検討することにより,どのタイミングでも必要に応じて対応できる権利擁護システムの構築を目指していく.
キーワード 行政と社協の連携,生活支援員の常勤化,市長申立のフローチャート,社会貢献型後見人の養成プログラム,任意後見事業の取組み
 
論文名 地域の社会福祉協議会における実践と課題:品川区の権利擁護における実践―― これから目指すべきこと ――
著者名 高橋 愛
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0049-0053,2019
抄録 東京都品川区は,2002 年(平成14)年6 月に権利擁護に関する事業を専門的に担う機関として,品川区社会福祉協議会に品川成年後見センターを設置して活動を始めた.後見センターは身寄りのない人に対する法人後見人としての役割を果たしている.これまで後見センターが培ってきた経験を活かし,市民後見人や親族後見人の支援に力をいれていくとともに,後見ニーズの発見に積極的にかかわり,早い時期からの支援(任意後見,補助・保佐類型の活用)に結びつける取組みを展開していく.
キーワード 区長申立,法人後見人,ニーズ発見,市民後見人,任意後見
 
論文名 地域の社会福祉協議会における実践と課題:これからの高齢者・障害者の権利擁護支援について―― 横浜生活あんしんセンターの20 年の取組みから ――
著者名 延命政之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0054-0057,2019
抄録 これからの超高齢社会における支援を考えるため,さまざまな権利擁護支援に取り組んできた実績から,その方向性を大きく3 点に整理した.@権利擁護に関する制度理解の促進,A高齢者・障害者の権利擁護支援に係る担い手の拡充,B権利擁護支援の新たな取組みの必要性,の3 点である.本稿では,横浜生活あんしんセンターが社会福祉協議会ならではの取組みを行った20 年間を振り返りつつ,そこから得られた事例を含めて紹介した.
キーワード 権利擁護支援の理解促進,権利擁護支援者(担い手)の強化,新たなる権利擁護支援の取組み,社会福祉協議会
 
論文名 認知症高齢者医療の現場における成年後見制度利用の現状:成年後見制度は権利擁護に寄与しているといえるか
著者名 丸勇司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0058-0063,2019
抄録 "成年後見制度運用の現状を概観し,課題を抱えた2 事例を通してその問題点について論じた. @ 本人の意思を尊重するよりは周囲の人の意思が優先されている:本人の意思はむしろないがしろにされ,周囲の人の意思が優先されている.寄る辺のない単身高齢者の場合にこそ,安易に処理されがちな意思決定支援に努力を注ぐべきである. A 鑑定を行わずに横断面的な診断書の所見のみで審判が下されているケースが見いだされた:成年後見開始の決定には十分な検討が必要であり,鑑定は積極的に行われるべきである.診断書様式の簡略化によって,非専門医が安易な診断書を粗製乱造する事態を招いてはならない. B 認知症臨床においても,自己決定の尊重,意思決定支援は喫緊の重要課題である:判断能力に制限のある本人に対して可能な限り十分な説明を尽くして,本人の意思を真摯に汲み取る姿勢とスキルが求められる."
キーワード 成年後見,単身高齢者,自己決定,意思決定支援
 
論文名 認知症高齢者医療の現場における成年後見制度利用の現状:地域の事例
著者名 井藤佳恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0064-0067,2019
抄録 困難事例化する認知症高齢者の多くがキーパーソンの不在という困難事象を抱えており,そういった状況で,少なくないケースで成年後見制度の利用が検討される.成年後見制度にはいくつかの大きな課題があるが,一方で,現状では成年後見制度に代わる制度がないことも現実である.本稿では制度利用に至る過程にある課題について論じた.
キーワード 認知症高齢者,困難事例,成年後見制度
 
論文名 認知症高齢者医療の現場における成年後見制度利用の現状:統合失調症患者の両親に保護が必要となった事例
著者名 齋藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0068-0071,2019
抄録 家族は3 人,息子A は男性,統合失調症,57 歳,A の父親B は80 歳,母親C は79 歳である.B,C夫妻は,17 歳で発症したA を40 年にわたって養育してきたが,数年前からC の認知機能が低下し,家族全体の生活が危うくなった.高齢者支援の担当者によって成年後見制度利用が検討されたが,生活の実態が把握できず足踏み状態であったところ,A の精神症状の再燃,入院をきっかけに,家族全員に後見審判を申請し,ケースワークを完了した.
キーワード 成年後見制度,高齢者虐待防止法,認知症,統合失調症,核家族
 
論文名 アルツハイマー病に対する抗認知症薬の切替または追加後の症状変化について―― ABC 認知症スケールによる評価 ――
著者名 和田健二・菊池 隆・亀山祐美・森 崇洋・工藤千秋・上田 孝・植木昭紀・内門大丈・北村ゆり・西村知香・角 徳文・石津秀樹・牧 徳彦・藤田 潔・原田和佳・秋下雅弘・中村 祐
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0073-0083,2019
抄録 アルツハイマー病(AD)に対する薬物治療においては,症状を適切に評価し,抗認知症薬を適切に切替または追加することが重要である.筆者らは104 例のAD 患者を登録し,初回評価時と抗認知症薬変更(切替または追加)後12 週評価日にABC 認知症スケール,Functional AssessmentStaging(FAST),および改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を測定した.登録症例を切替グループおよび追加グループに分けてスコア変化量を評価した.さらに,担当医が初回評価日において,抗認知症薬変更によって改善を期待したABC 認知症スケール3 項目を指定し,それらのスコア変化量も解析した.ABC 認知症スケールの3 次元距離(TDD)と13 項目合計,FAST およびHDS-R は,12 週間で有意な変化を示さなかった.しかし,層別解析の結果,ABC 認知症スケールは重度AD 患者において,とくに,抗認知症薬の併用を開始した追加グループにおいて日常生活動作関連スコアの改善を検出した.ABC 認知症スケールは,少なくとも重症症状を有しているAD 患者において抗認知症薬変更後の症状変化の評価において有用な可能性あることが示唆された.
キーワード アルツハイマー病,ABC 認知症スケール,3 次元距離,症状変化,抗認知症薬
 
論文名 〈事例検討6〉幻覚妄想状態にある患者の自己決定支援幻覚妄想状態にある統合失調症患者の終末期医療―― 内的世界が現実と折り合っていく過程 ――
著者名 井藤 佳恵,石川 博康
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,30(01):0090-0099,2019
抄録 統合失調症患者にがんの診断が下されたとき,治療を引き受ける医療機関がなかったり,本人が治療を望まないなど,さまざまな理由によって標準的ながん治療を行うことができないことがある.幻覚妄想状態の統合失調症患者ががんを否認するとき,精神医療はどのようなかかわりを通して何を提供できるのだろうか.がんの告知後,幻覚妄想が活発に形成された時期を経て,やがて現実と折り合っていった事例を通じて考察した.
キーワード 統合失調症,身体科治療,がん,緩和医療,終末期医療