2018 Vol.29 No.2
 
 
第29巻第2号(通巻367号)
2018年2月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
「徘徊」について考えてみた
北村 立
特集 認知症医療・ケアに伴うリスクとその管理
病院,施設における感染症のリスクとその管理
上田晃弘
認知症患者における長期入院の原因と考察 ―― 東京都立松沢病院認知症病棟,身体合併症病棟の現状から
菊地ひろみほか
身体拘束と身体合併症リスク
犬尾英里子
高齢者・認知症患者の身体拘束を削減するために ―― 身体拘束と転倒・転落事故のリスク
中田信枝
在宅介護者の心理的リスクとその支援
湯原悦子
病院,施設が抱える訴訟リスクとその管理
伊東亜矢子
行政政策プランに伴うリスク  ―― 若年性認知症に対する施策を中心に
干場 功
原著論文
もの忘れ外来におけるMini-Mental State Examination (MMSE)28 点以上の認知症症例の検討
渡辺誠奈ほか
基礎講座
老年精神科専門医のための臨床神経病理学J クロイツフェルト・ヤコブ病
岩崎 靖
連  載
わが国の認知症施策の未来(23) 日本老年精神医学会からの発信
新井平伊
文献抄録
數井裕光
学会NEWS
平成29 年度日本老年精神医学会指導医および認定施設決定
日本老年精神医学会認定 専門心理士・上級専門心理士申請受付開始のお知らせ
第33 回日本老年精神医学会開催のご案内
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 病院,施設における感染症のリスクとその管理
著者名 上田晃弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0125-0129,2018
抄録・すべての患者のケアにおいて標準予防策を徹底する.とくに手指衛生は感染予防策の根幹をなす.
・ 感染経路別予防策には接触予防策,飛沫予防策,空気予防策があり,対象となる感染症により,標準予防策に加えて行う.
・ 市中からの感染症の持ち込みを防ぐため,呼吸器症状や胃腸症状を有する患者や面会者,職員を速やかに発見する.
・季節性インフルエンザなど,ワクチンで予防可能な感染症に対しては予防接種を行う.
キーワード 標準予防策,感染経路別予防策,予防接種
 
論文名 認知症患者における長期入院の原因と考察
著者名 菊地ひろみ・山口雅文・濱ア 鼓・志田沙耶・木村亜希子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0130-0137,2018
抄録 認知症患者の入院は,主に身体合併症の治療が必要なために入院となる場合と認知症の行動・心理症状(BPSD)が家族や地域社会で対応しきれなくなり入院となる場合に分けられる.東京都立松沢病院は急性期病院であるため,急性期医療が終わった段階で速やかに住み慣れた地域に戻すことが病院 全体の方針であるが,そのなかでも入院が長引くケースもある.本稿では,当院認知症病棟と身体合併症病棟の入院患者を対象として,入院が長期化する要因について検討した.
キーワード 認知症,身体合併症,長期入院,精神科ソーシャルワーカー(PSW)
 
論文名 身体拘束と身体合併症リスク
著者名 犬尾英里子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0138-0146,2018
抄録認知症患者に対して行われる身体拘束は,精神的な興奮により患者自身に危険が伴うと精神保健指定医が判断して行われる精神科病床での身体拘束以外に,徘徊をしているため,歩行が不安定であるため,他の部屋へ入ってしまう等,「安全管理のため」という理由で精神科病床のみならず一般病床や施設で行われている.しかし身体拘束自体が原因となる身体合併症の発症リスクは,高齢患者の多い認知症患者では決して低くはない.身体拘束を行う際には,リスクについても十分検討したうえで,やむを得ず身体拘束をする場合には予防措置をとることが必要である.
キーワード 認知症,身体拘束,肺梗塞症,血栓症,身体合併症予防
 
論文名 高齢者・認知症患者の身体拘束を削減するために
著者名 中田信枝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0147-0157,2018
抄録精神科病院で身体拘束を受けた患者が,2014 年度に10 年前の2 倍に増えたことが厚生労働省の調査でわかり,身体拘束削減のための議論が湧き上がっている.身体拘束を削減するときに大きな壁となるのが医療安全の視点である.今回,公立精神科病院において,大幅に身体拘束数を削減することができた取組みについて紹介する.また,身体拘束数と転倒・転落事故報告数の推移より,身体拘束数と治療を必要とする転倒・転落事故件数との関連が見いだせないことが示唆された.
キーワード 身体拘束,転倒転落,リスク,高齢者,認知症
 
論文名 在宅介護者の心理的リスクとその支援
著者名 湯原悦子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0158-0163,2018
抄録在宅介護者はさまざまな危機にさらされている.介護を担うことに納得していない介護者の場合,虐待のリスクが高まる.認知症の人への介護では,介護者が現実を受け止めきれない状態だと,行動・心理症状(BPSD)に怒りの感情が湧き,うつの危険性も高まる.その他「ケアする/ ケアされる」 という関係性は,介護者の要介護者への支配につながりやすい.支援者はアセスメントを通じてこれら危機に陥っている介護者を発見し,適切に介入し,彼らの孤立を防いでいくことが求められる.
キーワード 介護者,認知症,虐待,うつ,アセスメント
 
論文名 病院,施設が抱える訴訟リスクとその管理
著者名 伊東亜矢子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0164-0170,2018
抄録病院や介護施設において高齢の患者/ 利用者に対するケアを行う際,注意を尽くしていても事故が起き,患者/ 利用者に有害事象が生じてしまうことがある.その場合に事故の責任をめぐって訴訟が提起され,敗訴となってしまうリスクをできる限り回避するためにどのような点に留意すべきかを,転倒・転落事故についての責任が問題となった裁判例の検討を通じ,考察する.
キーワード 訴訟,事故,高齢者,病院,施設
 
論文名 行政政策プランに伴うリスク
著者名 干場 功
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0171-0175,2018
抄録若年性認知症本人・家族に対する施策について,本人・家族の代弁者として,2006(平成18)年に妻の看取りを終えた立場から,いかに政策プランが現場の声を反映されないままつくられているか.また,2001 年に全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会が創立,その後2006 年に映画『明日の記 憶』が公開されたことをきっかけに,同年の厚生労働省「本人ネットワーク支援事業」推進検討委員会,2008年の東京都認知症対策推進会議(若年性認知症支援部会),2010 年の練馬区における各委員会での関わり方からみえたもの,感じたものについて考えてみた.
キーワード 若年性認知症診断,本人・家族支援,障害年金,高度障害,就労支援
 
論文名 もの忘れ外来におけるMini-Mental State Examination(MMSE)28 点以上の認知症症例の検討
著者名 渡辺誠奈・佐藤卓也・佐藤 厚・加藤 梓・今村 徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(2):0177-0187,2018
抄録 もの忘れ外来においてNIA-AA workgroups の認知症の臨床診断基準を満たし,MMSEが28点以上であった13症例と,28点未満のアルツハイマー病(AD)563 症例を回顧的に分析した.13 症例中の12 例は,近時記憶障害を中核とするAD群と前頭葉症候群を中核としさまざまな原因疾患を有する群のいずれかに分類された.13 症例の患者属性,疾患属性,認知機能属性を対照AD群と比較検討すると,症例群では@男性の比率が高く,A教育歴が高く,B発症年齢が低く,C神経精神症状の興奮が高頻度,D脱抑制が重度,高頻度であった.男性,高学歴,発症年齢が低いといった患者属性,疾患属性を有するAD症例は,発症時点の社会生活でより高い役割を担っていたことが予想され,認知機能障害がきわめて軽度の段階で認知症に該当したのではないかと考えられる.また前頭葉症候群を呈する認知症症例では,脱抑制や遂行機能障害が生活上の障害を生じさせる一方,MMSEが遂行機能障害に対して感度が低いため,認知症が明らかであるにもかかわらずMMSE が28〜30 点であるという乖離が生じたと考えられる.
キーワード 認知症,MMSE,アルツハイマー病,前頭葉症候群,もの忘れ外来