2018 Vol.29 No.1
 
 
第29巻第1号(通巻366号)
2018年1月20日 発行
 
*会員価格でご購入の際には日本老年精神医学会会員番号が必要となります

単品購入
一般:2,057円(本体1905円+税)
会員:1,646円(本体1524円+税)

(いずれも税込)


購入数



 
 
 
老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
認知症と自損行動
新井哲明
特集 精神科の疾患と認知症との関連 Update
発達障害と認知症
渡辺 憲・竹内亜理子
うつ病と認知症との関連  ―― リスクか部分症状か
馬場 元
双極性障害の認知症発症リスク
齋藤篤之ほか
統合失調症における認知症発症のリスク
石井 敬・功刀 浩
強迫症および関連症群と認知症
中前 貴・松岡照之
老年期の不安症/ 不安障害をどうとらえるか
稲村圭亮
高齢発症てんかんと認知症の鑑別と合併
渡辺裕貴・平良直樹・渡辺雅子
原著論文
地域在住高齢者にみられる迷惑行為に関する検討 ―― 地域包括支援センターを対象としたフォーカスグループ
樫村正美ほか
基礎講座
老年精神科専門医のための臨床神経病理学I アルコール性脳障害の背景病理
池田研二
連  載
わが国の認知症施策の未来(22)認知症研究のこれからの方向性
武田雅俊
文献抄録
古井 萌・江越正敏
学会NEWS
第33回日本老年精神医学会開催のご案内
平成30年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 発達障害と認知症
著者名 渡辺 憲・竹内亜理子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0011-0019,2018
抄録発達障害と認知症の病因,病態上の関連について,多面的に検討を行った.自閉症スペクトラム障害と前頭側頭型認知症には,障害される神経ネットワークの局在が近似していることから,症候学的に多くの類似点が認められ,注意欠如・多動性障害とレビー小体型認知症との関係については,両者に共通してドーパミン神経系の脆弱性が深く関与していると推察された.幼少期に発症する発達障害と,数十年間のブラックボックスを経過して発症する初老期・老年期の認知症との関係性について4つの類型を提案し,発症の原因ならびに促進因子について考察した.発達障害を基盤として認知症を発症した場合,行動・心理症状(BPSD)により強い影響を与えると推察される.
キーワード自閉症スペクトラム障害,注意欠如・多動性障害,前頭側頭型認知症,レビー小体型認知症,偽性認知症,偽性偽性認知症
 
論文名 うつ病と認知症との関連
著者名 馬場 元
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0020-0028,2018
抄録うつ病と認知症に関連性があることは多くの疫学的調査の結果からも明らかであるが,うつ病が認知症の狭義の危険因子なのか,それとも認知症の前駆症状ないし部分症状なのかというディベートがしばしば展開されている.両疾患を結ぶ生物学的背景はいまだに明らかになってはいないが,これまでの研究結果はそのどちらの可能性も示唆しており,うつ病は認知症の危険因子でもあり,かつ一部のうつ病は認知症の前駆症状でもあると考えられる.
キーワード うつ病(depression),認知症(dementia),アルツハイマー病(Alzheimer’s disease),危険因子(risk factor),前駆(prodromal)
 
論文名 双極性障害の認知症発症リスク
著者名 齋藤篤之・多田光宏・仁王進太郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0029-0034,2018
抄録二大精神病の考え方に反し,実際のところ双極性障害には認知障害が合併しやすいようだ.しかし認 知症の発症リスクについての研究はいまだ少ない.双極性障害は統合失調症や単極性うつ病よりも認知症を発症しやすい可能性があり,それを裏づける研究は少しずつ増えてきている.また,リチウムの投与は認知症発症を抑制するかもしれない.また,双極性障害と前頭側頭型認知症には何らかの関係があるのかもしれない.
キーワードbipolar disorder,cognitive impairment,dementia,deficit status,frontotemporal dementia,lithium
 
論文名 統合失調症における認知症発症のリスク
著者名 石井 敬・功刀 浩
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0035-0040,2018
抄録統合失調症の患者は認知症を発症しにくいという意見がある一方,高齢化すると認知症類似の病像を示すという意見もある.認知機能障害は統合失調症の主要な徴候のひとつでもあるが,障害プロフィールは患者によって多様であり,その経過もアルツハイマー病(AD)のように確実に進行するの とは異なる.疫学的研究によって,統合失調症の罹患はのちの認知症発症のリスクを2.3〜16.25倍上昇させることが報告されている.一方,統合失調症死後脳の病理学的研究や,リスク遺伝子(APOE),脳脊髄液中のタウやアミロイドβに関する検討では,少なくともADのリスクを高める可能性を支持する所見は得られていない.このように,疫学的研究結果と生物学的研究結果とは乖離しているように思われ,その理由は不明である.統合失調症患者は循環器疾患による死亡率が高く,平均寿命が健常人より20%程度短いことが指摘されており,認知症の最も強いリスク因子である加齢の程度が低いことが,統合失調症の患者は認知症を発症しにくいという臨床的印象の根拠のひとつになっている可能性がある.本テーマについて明らかにするためには,高齢化した統合失調症患者についての検討を多数積み重ねていく必要があるだろう.
キーワード 認知機能障害,アルツハイマー病,リスク,疫学的研究,生物学的研究
 
論文名 強迫症および関連症群と認知症
著者名 中前 貴・松岡照之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0041-0046,2018
抄録強迫症(OCD)は,物事への執着や繰り返し行動が,一部の認知症でみられるこだわりや常同的行動と共通する.OCD は30 歳までに発症し,洗浄または確認の症状が多く,病識が保たれていることが多いが,前頭側頭葉変性症などの変性疾患の場合,ためこみの症状が30〜40歳以降に発症し,病識に欠けることが多い.現時点ではOCDが認知症の発症リスクであるとはいえないが,遅発性のOCDについては認知症の前駆症状や危険因子である可能性が考えられる.
キーワード 強迫症,強迫性障害,認知症,前頭側頭葉変性症,ためこみ症
 
論文名 老年期の不安症/ 不安障害をどうとらえるか
著者名 稲村圭亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0047-0055,2018
抄録高齢者における不安症/不安障害は,背景に若年者とは異なる基盤が存在し,また症候学的にも異なるため,その評価や疾患群の抽出が困難であるとされていた.高齢者の不安に対する介入の前提として,高齢者特有の社会-心理-生物学的基盤の十分な理解が必要となる.本稿では高齢者の不安症/不安障害の疫学・病因・診断を含めた包括的な知見を概説したうえで,さらに認知機能障害との関連や認知症患者における不安について述べた.
キーワード 高齢者,老年期,不安,不安症,不安障害
 
論文名 高齢発症てんかんと認知症の鑑別と合併
著者名 渡辺裕貴・平良直樹・渡辺雅子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0056-0062,2018
抄録てんかんの発病率は60 歳前後からしだいに増加していく.高齢者のてんかん発作はけいれんを伴わ ない意識変容のかたちをとることも多いため,認知症と誤認されることがある.てんかん性の記憶障害は,発作時のみならず発作間歇時にも生じる.認知症患者はてんかんの合併も多いため,てんかんと認知症は排他的鑑別診断を行うのではなく,合併の可能性も考えなければならない.高齢者のてんかんを正確に診断するためには,スマートフォンを含めた家庭におけるビデオ撮影を考えるのが望ましい.
キーワード 高齢発病てんかん,てんかん性健忘,認知症,脳血管障害,REM 睡眠行動障害
 
論文名 地域在住高齢者にみられる迷惑行為に関する検討
著者名 樫村正美・野村俊明・川西智也・原 祐子・北村 伸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(01):0065-0074,2018
抄録 本研究は,地域在住の高齢者にみられる迷惑行為事例を聴取し,行為の内容と当該事例に関連する要因,そして支援上困難となる要因を探ることを目的とした.首都圏2地区9か所の地域包括支援センターを対象にフォーカスグループインタビューを実施した.各センターにおいて相談を担当した事例 のうち,迷惑行為がみられた39事例(男性19人,女性20人)について迷惑行為の内容,問題歴,相談経路・関連機関,生活状況,人間関係,教育・職歴,既往歴,認知機能,支援上の困難に関する情報を聴取し,その後,質的検討を行った.その結果,主に4 つの迷惑行為カテゴリーが抽出され, 迷惑行為事例に関連するものとしては貧困や精神疾患の関与,認知機能の低下,社会的孤立といった要因がみられた.支援にあたっては,当該高齢者とのかかわりにくさや迷惑行為に対する法的抑止力の欠如,そして関係機関との連携困難が課題であることが明らかとなった.
キーワード 迷惑行為,高齢者,地域包括支援センター,フォーカスグループ