2016 Vol.28 No.7
 
 
第28巻第7号(通巻360号)
2017年7月20日 発行
 
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老年精神医学雑誌電子版
巻 頭 言
医介連携の朝
松本一生
特集 認知症の発症,病状進行,治療反応性に関与するさまざまな因子
アルツハイマー病の発症にかかわる因子とその治療の可能性
齊藤 聡・猪原匡史
血管性認知症の発症・進行予防,治療反応性
山ア貴史
レビー小体型認知症の疫学,予後および治療
小田陽彦
前頭側頭葉変性症のリスクファクター
本田和揮・橋本 衛
特発性正常圧水頭症の発症,病状進行,治療反応性にかかわる諸因子
松本拓也・數井裕光
進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病
寺田整司
久山町研究からみた認知症の危険因子・防御因子
清原 裕
アルツハイマー病の遺伝学的リスク
宮下哲典ほか
症例報告
強度の疼痛にパロキセチンが効果的であった重度アルツハイマー病の3症例
水野 裕
短  報
後部皮質萎縮症に合致する症状で発症し,急速に大脳皮質基底核症候群を呈するようになった若年性認知症の一例
工藤由理ほか
基礎講座
老年精神科専門医のための臨床神経病理学Cレビー小体病
藤城弘樹
連  載
わが国の認知症施策の未来O認知症の人の権利を守る
齋藤正彦
文献抄録
互 健二・品川俊一郎
学会NEWS
第33回日本老年精神医学会開催のご案内
日本老年精神医学会「生涯教育講座」開催のご案内
平成30年度日本老年精神医学会専門医認定試験実施のお知らせ
学会入会案内
投稿規定
バックナンバーのご案内
編集後記

 
 
論文名 アルツハイマー病の発症にかかわる因子とその治療の可能性
著者名 齊藤 聡・猪原匡史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0703-0707,2017
抄録 高齢者のアルツハイマー病は加齢や環境因子などの影響が大きい.近年,血圧コントロールや食事指導,認知機能訓練を併用する多因子介入が認知症予防に有用であることが示された.神経変性のみを標的とした治療には限界があり,血管病変へのアプローチも必要である.患者をライフスタイルや環境要因に基づいてサブグループ化し,最適な医療を提供するPrecision Medicineが有用であると考えられる.
キーワード アルツハイマー病,脳血管障害,精密医療,危険因子,シロスタゾール
 
論文名 血管性認知症の発症・進行予防,治療反応性
著者名 山ア貴史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0708-0714,2017
抄録 血管性認知症(VaD)では,臨床経過,臨床像,画像診断や病理所見を包括して多様な病態を理解することが重要である.とくに高齢認知症患者では血管障害の病理に他の変性疾患の病態を併存する,いわゆる「複合病理に基づく認知症」の存在が明らかとされている.脳血管障害の予防や再発防止は,認知症の発症や進行を抑制するうえできわめて有効な方策とみなすことができる.
キーワード 血管性認知症(VaD),脳血管障害を伴うアルツハイマー病(AD with CVD),AD病理を伴うVaD,複合病理に基づく認知症
 
論文名 レビー小体型認知症の疫学,予後および治療
著者名 小田陽彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0715-0720,2017
抄録 レビー小体型認知症(DLB)の疫学調査結果をレビューし,臨床診断における有病率と病理診断における有病率の格差を指摘し,早期正確診断のむずかしさを明らかにした.次いで診断の手がかりとなりうる発症危険因子をまとめた.さらに,DLBとアルツハイマー型認知症の予後を比較した.最後に,現時点におけるレビー小体病に係る抗認知症薬のエビデンスを列挙した.DLBの診断が正しくなされているかどうかが予後に関与する最も重要な因子であると考えられる.
キーワード レビー小体型認知症,疫学調査,危険因子,予後,認知症を伴うパーキンソン病
 
論文名 前頭側頭葉変性症のリスクファクター
著者名 本田和揮・橋本 衛
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0721-0729,2017
抄録 前頭側頭葉変性症は前方型認知症を代表する神経変性疾患であり,複数の神経病理からなり多様な臨床症状を呈する.最も確実なリスクファクターは遺伝子異常であり,これも多数の異常が確認されていて複雑であるが,大部分はMAPT,GRN,C9orf72のいずれかの異常である.遺伝子異常によりタウ,TDP-43などのタンパクが異常蓄積して発症するが,これらをターゲットとした治療法の開発が試みられている.ただし,欧米では遺伝による発症が多いがアジアでは少ないため,地域差を考慮したアプローチが必要である.
キーワード 前頭側頭葉変性症,タウ,TDP-43,MAPT,GRN,C9orf72,遺伝の地域差
 
論文名 特発性正常圧水頭症の発症,病状進行,治療反応性にかかわる諸因子
著者名 松本拓也・數井裕光
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0730-0735,2017
抄録 特発性正常圧水頭症(iNPH)はシャント術で症状が改善できる神経認知障害である.iNPHのリスク因子としては高血圧症,喫煙,虚血性心疾患,脂質異常症,糖尿病,肥満などが挙げられている.予後を規定する因子としては,シャント術を受けるときの症状の重症度や,アルツハイマー病(AD)病理の有無が知られている.リスク因子の減少,iNPHの前駆段階といわれているasymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI(AVIM)の発見,および,この時点からの経過観察と適時のシャント術の施行がよい経過につながる.さらに,iNPH診療ガイドラインの周知および関係者間の連携も不可欠である.
キーワード 特発性正常圧水頭症,二次性正常圧水頭症,DESH,AVIM,シャント術,アルツハイマー病,脳脊髄液バイオマーカー
 
論文名 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病
著者名 寺田整司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0736-0746,2017
抄録 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病は,すべて4リピートタウオパチーに属する疾患である.近年,老年期精神障害との強い関連を示唆する報告も相次いでおり,精神科領域においても重要な疾患となりつつある.それぞれについて,現在までにわかっている危険因子などについて詳述した.
キーワード 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病,タウオパチー,遺伝
 
論文名 久山町研究からみた認知症の危険因子・防御因子
著者名 清原 裕
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0747-0753,2017
抄録 福岡県久山町における認知症の疫学研究の成績では,認知症,とくにアルツハイマー病(AD)の有病率が人口の高齢化の速度を超えて時代とともに増加した.同町における追跡研究では,糖尿病と喫煙はADおよび血管性認知症(VaD)発症の危険因子であった.高血圧はVaDの発症リスクを上昇させたが,ADのリスクとは関連がなかった.一方,運動と野菜が豊富な日本食に牛乳・乳製品を加えた食事パターンは認知症のリスクを低減させた.
キーワード アルツハイマー病,血管性認知症,危険因子,防御因子,久山町研究
 
論文名 アルツハイマー病の遺伝学的リスク
著者名 宮下哲典,原 範和,春日健作,菊地正隆,中谷明弘,池内 健
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0754-0765,2017
抄録 アルツハイマー病(AD)は個々人の遺伝的素因を背景に環境要因が加わって潜行性に発症し,緩徐に不可逆的に進行する「ありふれた疾患」である.マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析,ジーンチップによるゲノムワイド関連解析,次世代シーケンサーを駆使した全ゲノム・エクソン解析を通じて,家族性,および孤発性ADに関与する遺伝子がこれまでに続々と見いだされた.本稿では,これらの遺伝子について概説するとともに,遺伝子によるADの発症リスク予測の可能性について言及した.
キーワード アルツハイマー病,遺伝子,コモンバリアント,レアバリアント,APOE
 
論文名 強度の疼痛にパロキセチンが効果的であった重度アルツハイマー病の3 症例
著者名 水野 裕
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0767-0775,2017
抄録 認知症の経過中に痛みの訴えをしばしば経験する.重度の認知障害を有している場合は,痛みの訴えと精神症状である興奮はしばしば鑑別が困難である.今回,重度に進行したアルツハイマー病(AD)患者の訴える強度の痛みに対して,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のひとつであるパロキセチンが効果的であった3症例を若干の考察とともに報告した.早発性ADで,重度に進行した例が多く,精神不穏を伴っていることが多かったが,パロキセチン5〜10 mg/日を2〜3週間投与するなど,比較的短期間,少量で効果を認めた例が多かった.しかし,投薬が十分でないと再発の可能性があり,また重度の認知障害を有している場合は興奮等の精神症状との鑑別が問題となった.そのため,重度のAD患者が興奮を訴えた場合は背景に痛みがある可能性があり,安易に向精神薬を投与するのではなく,SSRIの適応を慎重に見極めるべきである.
キーワード アルツハイマー病,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),パロキセチン,疼痛
 
論文名 後部皮質萎縮症に合致する症状で発症し,急速に大脳皮質基底核症候群を呈するようになった若年性認知症の一例
著者名 工藤由理・大湊佳奈子・永井博子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):0776-0784,2017
抄録 多彩な視空間認知障害から始まった若年性認知症を報告した.当初は近時記憶障害や遂行機能障害はみられなかったが,発症1年3か月ほどでこれらの障害も出現し,左半身の障害が目立った.後部皮質萎縮症(PCA)に合致するアルツハイマー病(AD)として治療した.認知症の進行は速く,1年8か月時にパーキンソニズムを発症した.レボドパは無効で,発症2年半の線条体ドパミントランスポーターの測定(DaT scan)では,明らかな左右差のある基底核の障害が示された.臨床症状,検査所見などから大脳皮質基底核症候群(CBS)と診断した.本例は,大脳皮質基底核変性症(CBD)の病型分類Armstrong基準のpossible CBSまたは前頭葉性行動・空間症候群(FBS)に相当した.一方,まれな例ではあるが,2016年にPCAの臨床像を呈したCBS孤発例がプログラニュリン(PGRN)遺伝子の特定のタイプであったと報告されており,この症例の病理診断はTDP-43の蓄積した前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP)であった.また,本例は非常に速い進行を呈したが,CBS-ADの可能性も否定できなかった.このように,本例の臨床症状から背景病理を考えることはむずかしかった.今後,このような臨床症状や経過を示す認知症について多くの症例を集積して検討していく必要がある.
キーワード 後部皮質萎縮症,視空間認知障害,大脳皮質基底核症候群,左右差,病理診断